ダーク・ファンタジー小説
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- その笑みを見届けたくて(1話)
- 日時: 2023/01/21 19:58
- 名前: 結花 (ID: V8df6PvY)
登場人物
清浄エミ(17才)
天界でいずれ優秀な実績を残していきたいと考えている天使の女の子。
真面目な性格だが、人間関係を構築するのは得意。
一条アミリ(15才)※今回は出番なし
人間の女の子。裕福な家庭に生まれ、何不自由なく暮らしているらしい。
少し押しの強い性格
清浄レア(17才)
エミと同じ寮で暮らす親友。人当たりが良く、おまけに幼い見た目をしているため男子からの人気も高いとか。
舞台は天界。
教授「…であるからして、あなた方清浄担当は…」
キーンコーンカーンコーン
教授「あ、チャイムが鳴りましたね。それでは今日の授業はここまで。続きは次週に行いましょう。」
教授のその言葉を最後に、生徒たちは何処かへと散らばっていく。
さて、10分という少ない休憩時間の中…皆はどう有意義な時間を過ごすのだろうか。
生徒「ねね!次の特別授業、フルー教授って人が担当なんだって!」
生徒「うっそー!マジで言ってる?!あの良家アレクトリター家の三男で、お顔も超イケメンって噂の?!」
生徒「そうそう!楽しみだよね〜!もう眠気も吹っ飛んじゃったよ笑」
周囲の他愛もない会話に聞き耳を立てるが、しょうもない話題しか聞こえてこない為、私はため息を堪えた。
しかしそんな呆れの雰囲気を察しては貰えなかった様で、次の瞬間さっそく彼女達に声をかけられてしまう。
生徒「ねー!エミはどう思う?!次の教授の話!」
エミ(……。)
エミ「イケメンかぁ。まあ確かにさっきの人はおじさんだったし、目の保養にはなるよね〜」
生徒「だよね!さすがエミも分かってるー!」
エミ「あはは」
…でもちゃんと、話は合わせなきゃならない。
こんな会話に時間を割く必要なんて普段なら無いけど、だからといって敵を作るくらいの面倒事は避けたいし。
程よく愛想を振りまいて、曖昧に笑っていれば時間なんかすぐ過ぎていくんだから。
人間達が住む地上でも、似たような処世術はあるでしょ?
基本この世界も、同じようなものなんだ。
此処は天界に位置する高校、私立清浄学園。
私達天使には生まれた時から役割が定められていて、その種類は実に多様なものばかりだ。
例えば死んだ人間の魂を天国まで導く連行担当、そして神達に仕えその一生を捧げる世話担当、天界の雑用任務をこなす軽作業担当などをはじめとした様々な役割が存在する。
私はその中でも清浄担当という役職に就いていて、まあ簡単に説明すると【地上からゴミをなくしていきましょう!】的な任務を任されているのだ。
エミ(将来立派な実績を残す為にも、今のうちから頑張らなきゃだよね)
キーンコーンカーンコーン
そんな事を考えていると、休み時間はすぐに終わってしまった。
そしてその直後、先程噂されていた教授がこの教室へと入ってくる。
フルー「天使の皆さん、こんにちは。
今日から新しく教育担当になったフルー・アレクトリターといいます。
まだ教授歴が浅いので何かと失敗があるかもしれませんが、何卒宜しくお願いします。」
教授の挨拶に、周囲でどよめきが起こる。
…まあ当然のことか。
皆彼の整った外見に興奮しているのだろう。しかしそんな彼女達に一瞥もくれず、教授はそそくさと授業を始めた。
フルー「さて。突然ですが皆さんは、明後日から夏休みに入りますね。そこでの一大イベントはきちんと覚えていますか?
…じゃあエミ、答えて」
私が当てられる。
エミ「パートナー体験学習だよね」
フルー「そう、正解。そこで君達は、初めて人間達と触れ合う機会があるよね。
でもちゃんと正しい行動をしないと上から罰せられるケースもありますから、何をするにも責任感というのが大事になってきますよ」
…パートナー体験学習。
将来完璧な清浄担当を務められる為の、重要な実習イベントだ。
ここでは夏休みの間だけ決まった人間の元で働き、快適な暮らしをサポートするという課題がある。
確か明日、その人間というのが公表されるらしい。
私が担当する人間は、一体どんな人なんだろうか。
ま、どんなヤツ相手でも上手く立ち回ってみせるけど。
生徒「ところでさ〜、教授ってすごいイケメンだけど彼女とかいるのぉ?」
だがそう考えていた矢先、他の生徒から授業に全く関係ない質問が飛んできた。
休憩時間でない今ですら、いちいちそんな下らない事を聞くのか。
しかし…
フルー「別に居ないよ。僕そういうのあんま興味ないからね。さ、授業の続きだけど…」
軽く返答を済ませ、すぐさま授業へと戻す彼を見て立ち回りが上手い人なんだと感じた。
エミ(私も社会に出たら、これくらい適当に生きていった方が楽なのかなぁ)
頬杖をつきながら、不意にそんな事を考える。
エミ「…。」
フルー「……という訳で地上は今、沢山の汚れに侵されつつあります。
その種類としては大気汚染だったり水質汚濁だったり…まあ様々なものがありますね。
ですがこのままでは、人間達の未来が快適であるという保証を失ってしまいます。
そんな今を変える為にも君達の存在は非常に大きいものとなってきますから、今回の実習でそれをきちんと学んでくるように。
僕からは以上です。何か質問等ありましたら、個別に声をかけて下さい。」
キーンコーンカーンコーン
エミ(…時間ぴったり)
彼が言葉を終えたその瞬間、チャイムが鳴る。
私はさっそく質問を考え、他の生徒達を押し退けて教授に話しかけた。
エミ「フルー教授」
フルー「…質問でも?」
エミ「うん。…何かこう、これから人間界で暮らしていく上でのアドバイスとかがあれば聞きたくて」
そう告げると彼は暫く悩んだ素振りを見せ、少し時間が経ってからその口を開く。
フルー「そうだね。強いて言うなら、他者への情けは捨てた方が楽だよ」
エミ「情け?」
思わずオウム返しで聞き返すと、彼は少し遠くを見ながら話し出した。
フルー「うん。君達天使はまだ、社会に出た事が無いでしょ。
だけど君達が思っている以上に世界というのは薄汚くて、腐敗しきったものなんだ。
だから何も信じず自分だけを頼りに行きていくと良い。
他人に縋ったところで得られるものなんか何一つとして無いからね。
弱肉強食を絶対とする人間界において、他人への情けは己を滅ぼす最大の敵となる。
まあそれだけ覚えていてくれれば、きっと大丈夫だよ」
エミ「ありがとう」
教授は軽く微笑み、そのあと彼を迎えに来たであろう青髪の男と共に素早く去っていった。
エミ(…。)
…そうだ。明後日いわば夏休みなんて、瞬きする間もなく訪れる事だろう。
今からしっかり、色々と考えておかないと。
一他人への情けは己を滅ぼす最大の敵となる。
彼がくれたその助言も、ちゃんと実習で生かせるように。
それから私は残りの授業を全て受け、終わってからはいつも通り寮へと入った。
そしてそのまま部屋で休んでいると、一人の友人が声をかけてくる。
レア「いや〜、やっと一日終わったね!ご苦労さん!」
…清浄レア。
クラスは違うが、寮が一緒という関係で仲良くなった少女だ。
明るく人当たりが良い為、彼女は男女問わず人気がある。
エミ「そっちこそお疲れ!レアちゃんはもう寝るの?」
レア「まさか!んな訳無いじゃん!これから見たいドラマが一挙放送なの!
見る以外の選択肢なんてないよ〜」
エミ「何だっけ…あなたが居なきゃ死んでやる!ってやつでしょ。あのいかにもR指定くらいそうな」
レア「むー…酷いよ〜!エミは相変わらず冷めてるんだから!もっと良い表現してよね!」
エミ「大人向けドラマ」
レア「その調子」
こういう気を使わない会話は自分にとって楽だし、何よりレアちゃんと話す時間はすごく楽しい。
暫く雑談を交わしながら、私達は一緒に過ごした。
エミ(それにしても…)
私は朝に弱いから明日に備えて消灯時間より早めに寝るつもりだけど、よく寝る前にテレビなんか見られるなぁと思う。
やっぱり睡眠学習は大事だし、何より翌日…眠気で授業どころじゃないなんて事になれば論外だ。
エミ「さて、それじゃあもう寝ますか」
私は寝室へと向かい、そのまま横になるのだった。
ピピピピッ!
エミ「んー…もう朝?」
鳥の綺麗なさえずりとは対称的に、けたたましいだけの目覚まし時計の音が響き渡ったせいで意識が引き戻される。
まだ夢の中にいたかったのに。
…まあ、でも起きてしまったからには仕方がない。
まだ眠っていたいと訴えてくる体を無視しながら緩慢な動作で上体を起こし、そのまま制服へと着替える。
エミ(あ、でも今日はあれか。担当する人間の公表がある日だよね)
だけど不意にその事を思い出し、気だるい気持ちは少しだけ期待へと変わっていった。
本当に自分はどんな人間の元で働けるのだろう。
ま、出来るなら楽しい人の所が良いなぁ。
レア「エミ〜!学校行くよ!」
エミ(!)
暫くそんな妄想の中に閉じ籠もっていたが、やがて窓の外からレアちゃんの声が響く。
もうこんな時間か。
エミ「あ、うん!ちょっと待ってて〜」
素早く準備を済ませ、私は彼女の元へと駆けて行った。
エミ「…それにしてもレアちゃん。
私より遅くに寝たクセに、準備は誰よりも早かったね。
他の寮は知らないけど、私達の寮…まだみんなぐっすりだよ」
登校の道中、教科書を開きながらそんな会話を膨らませていた。
レア「まあレアってば優秀だからね。これからはレア様と呼んで下さる?」
エミ「レアチーズケーキ」
レア「よしぶっとばす」
こんな調子で軽く笑い飛ばしながら学園までの道のりを辿っていると、やがて校門へと着く。
しかし…。
エミ(何だろう、凄く騒がしいな)
生徒達の話し声がいつもに増してうるさくて、私は首を傾げる事となる。
エミ「皆何してんの?」
レア「ね!レア達も行ってみよ」
気になった私達もその輪の中に入り、彼らの様子を伺う。
するとクラスメートの男子が話しかけてきた。
生徒「あ、お前らもう見たか!
彼処に俺達がそれぞれ担当する人間の顔写真が掲示されてるぜ!
俺ちょー美人な子だったんだけどマジでこれどうすれば良い?笑」
驚いた。どうやらもう公表されたらしい。
気になるな。さっそく見に行かないと。
生徒「お前は確か、、ああ!可愛い女の子だった気がするぜ」
エミ(ハイ終了)
しかし早くも軽いネタバレをくらったおかげで、がっくりと肩を落とす羽目になる。
エミ「もう、私が自分で確認したかったのに」
生徒「あはは、ごめんごめん笑」
私達はそのまま掲示板の元へ向かい、自分が担当する人間の顔を確かめに行く。
ということで一度レアちゃんとは解散し、お互いそれぞれその相手を探した。
すると…。
エミ「…一条アミリ?同い年くらいの女の子か」
茶髪碧眼の少女。
赤いカチューシャが特徴的で、肩までの髪を伸ばし…両サイドの髪を三つ編みにしている子だった。
その顔立ちからはどことなく大人びているというか…ミステリアスな雰囲気を感じる。
レア「エミ!どうだった?レアはめっちゃカッコいい男の子が担当だったよ!嬉しい〜!」
隣から、レアちゃんの元気な声が聞こえた。
でもそれを聞くまでもなく、何というかその様子だけでもう当たりを引いたんだなと察してしまう。
そういう分かりやすいところも、私個人としては好ましい。
エミ「そう、おめでとう。私は女の子みたい。
でも身なりが凄くオシャレだったから、多分金持ちのご令嬢さんかも」
レア「えっ!それも最高じゃん!お嬢様が相手かぁ〜。
じゃあ夏休みの間、お互いに頑張ろうね!帰ってきたらお土産話、いっぱい用意しておくから!」
エミ「うん」
…実習は明日から。
今日はその準備を行う日だ。
このアミリという人間について、色々と調べなければ。
エミ「…よし、情報は一通り集め終わったな」
ようやく調査を終え、私はその場に寝っ転がった。
そして彼女について纏めた紙に、再び目を通す。
エミ「…。」
【私が担当する人間の名前は、掲示されていた通りで一条アミリ。
東京都在住である15才の少女。年齢は自分の二個下。
日本人である母親と、フランス人である父親の間に生まれた日仏ハーフ。
父親が大企業の社長であり、裕福な暮らしをしている】
エミ「…これは、とんでもない人の担当を任されちゃったな」
実はあの後すぐ、この人間だと自分には荷が重いと上の階級の人達に相談した。
しかし…。
【君は学年トップの成績優秀者なんだから、そりゃあ仕方ないよ。まあ頑張れ!】
などと相手にして貰えず…。
成績が良い事と要領よく立ち回れる事は全然違うのに。
そうして不安を抱えつつも、自分は結局このアミリという人間に仕える事となってしまった。
エミ「……まあ上手く立ち回るって決めたしね。今更弱音を吐いても無駄か。
どうせ夏休みが終わるまでの付き合いだろうし、気合い入れて頑張ろ」
側に置いてあったコーヒーを一気飲みし、私は自分に活を入れる。
大丈夫、きっと何事もなくこなせるハズだから。
校長「…であるからして、皆さん気をつけて行ってくる様に!」
エミ(……。)
何というか、その…本当にあっという間だった。
さっきまで情報整理をしていた気分なのに、もう実習初日を迎えてしまうとは。
レア「エミ、今日からだよ〜!楽しみ!てかそれにしても、担当する人間がまさかお互いお隣さんだったなんてね!!」
エミ「ね〜。じゃあレアちゃんとはいつでも会いに行ける訳か」
レア「そうだよ〜お金持ちの家で息が詰まる事があったら、迷わずレアのとこおいで!なんてったってお隣さんなんで!笑」
夏休みの間レアちゃんがお隣さんになると聞いた時は、とてつもない安心感を覚えた。
見知らぬ土地に一人というのはきっと心細かったと思うけど、彼女が近くで働いてくれるなら安心だ。
私達を離さないでくれた訳だし…こればかりは上層部の人達に感謝しないと。
ま、いつか困ったらお邪魔させてもらおう。
レア「早く行こっ」
エミ「うん!」
やがて校長の話が終わり、私達は一緒に地上行きのエレベーターに乗る。
実感は無いけどこれが一階まで降りたら、其処はもう人間界なのだ。
私達は向かう場所を指定し、その場に佇む。
…一体どんな所なんだろう。
少しの不安と大きな期待を胸に秘め、私達は狭い空間の中で息を呑んだ。
アナウンス【一階です。】
レア「あっ!着いた!」
そうしてアナウンスの声が響いた直後、エレベーターの扉が開く。
すると…。
エミ「…!!」
澄み渡った青い空の下、沢山の人間達が太陽に照らされながら歩く姿を見た。
所々生い茂る深緑の葉っぱには、先程まで雨が降っていたのかキラキラと光る水滴が沢山ついている。
そして水たまりやビルの窓にも美しい青空が映し出されていて、声すら出せないほど幻想的で綺麗な場所だった。
エミ「すごい…」
レア「わあ〜!!人間ってレア達と見た目全然変わんないじゃん!!もっと奇妙な形してるのかなって思ったけど!」
彼女からその言葉が発された直後、周囲からまるで異物扱いされているかの様な視線を感じる。めっちゃ痛い。
エミ「レアちゃん。
私達天使の存在は人間達の中で普及し始めてはいるけど、それでもまだ物珍しいことに変わりないんだよ。
騒ぎすぎると通報されるらしいから気をつけてね」
レア「ハイ、気をつけます!」
びしっと敬礼をしながら微笑む私の友達。
…こういうのが一番目立つんだけどな(汗)
エミ「分かって頂けたならよろしい」
レア「へへっ!じゃあ今のお詫びも兼ねて、これから彼処のケーキ屋さんに寄りたいです!」
エミ「まったく…自分が食べたいだけでしょ。別に良いけどさ」
レア「やったー!!エミ愛してる♡」
エミ「ほんと調子良いんだから」
エミ(まあ…これはこれでありか)
仕える予定の人間と対面する前に、私達は初めて降り立ったこの世界をもう少しだけ満喫していこうと思う。