ダーク・ファンタジー小説
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- 一夜があけるまで
- 日時: 2023/08/03 01:56
- 名前: 鴨長明 (ID: CDmrGdY1)
この世界には、魔法が存在する。
現象を起こし、物質を生み出し、操作する。無から有を生み出す力、魔法。
しかし、この世界には、扱えば世界を大きく覆すことのできる12種の魔法が存在する。
その業はもはや神の領域。故に、人々はそれらの魔法をこう呼ぶ。
神の戯言
神の戯言はいつの時代にも現れ、世界を変えてきた。
この物語は、ある一人の少年を中心に、大きく揺れ動き変動していく世界を描く物語である。
- Re: 一夜があけるまで ( No.1 )
- 日時: 2023/08/10 23:08
- 名前: 鴨長明 (ID: CDmrGdY1)
第一話 俺は魔力 “0”
この世界は魔法で成り立っている。
俺にはその魔法を使うための魔力が、生まれつき “0” だった。
理由はわからない。ただ事実としてわかることは、俺はなんの魔法も使えない不幸な体質で、そん
な俺を親は孤児院に捨てたといいうと。
ラナン=キュロス。十二歳。あだ名は、無能。
魔法の使えない俺は、街の騎士学校で身体強化ができず、いつしか同期には無能と呼ばれるように
なった。周りに追いつくため、人の何倍も何十倍も努力した。毎日毎日剣を振った。同期に無駄だ
と嘲笑われても、毎日毎日剣を振るった。
「何故お前は剣を振るう?」
昔、誰かに聞かれた。当時なんて答えたかは覚えてないけど、今の俺は孤児院に恩返しがしたくて
騎士を目指してる。いつか騎士として大成し、孤児院に寄付をする。それが俺の夢だ。そして今日
も、俺は森の中で剣を振るう。
「おい!また無能が剣振り回してんぞ!」
「「振り回してんぞ!」」
いつも俺をいじめてくる幼馴染、カーターと、その子分の子供2人がやってきた。子分たち2人はま
だ孤児院にやってきたばかりの幼子だ。
「...。」
俺は無視して剣を振り続ける。いつものことだ。
そこによそ行きの格好をしたおばちゃんシスターが通りかかる。
「お前さんは今日も頑張ってるねぇ!」
「はい!おはようございます!」
俺は汗を拭いながら返事をする
「あんたたちも少しはこの子を見習いな!」
「「「嫌だね!」」」
対してカーターたち3人は舌を出して挑発する。
「全く!おいキュロス。あんたが一番大人だから、今夜は私達のかわりに子どもたちの面倒を見て
やってね。夜は危険だからあるき回らせるんじゃないよ!さもなきゃ魔物に取って食われちまう。
わかったかい!」
「はい!任せてください!」
そして、おばさんシスターは行ってしまった。
この街には今夜、“教皇様”が来る。“教皇様”は年に一度王への謁見をするため都に向かう。毎年そ
の道中にあるこの街に立ち寄る。その準備で大人は忙しいので、今日孤児院には大人が残れないの
だ。
「ケッ。なんで俺らがガキのおもりしなきゃいけないんだよ。」
「そうだ。ガキどもはあの無能に任せて、俺たちは森に宝さがしにいきましょうよ。」
「聞こえたか無能?そういうことだから。」
「あんまり遠く行くなよ!」
「俺らに指図すんなバーカ!」
そうしてあいつらは歩いて去っていく。
あいつらは最近いつもこんな調子だ。俺が剣を振っているときに、宝探しと称して森の奥入って遊
んでいる。何をしているんだか。
「キュロスお兄ちゃん!遊ぼ!遊ぼ!」
しかし、俺は気づけば子どもたちに囲まれている。
「いいよ。何して遊ぼっか。」
その時はあいつらが何をしているか深く考えなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうして夜になった。
子どもたちは疲れて、用意された布団で寝てしまった。
しかし、問題があった。あいつらが帰ってきていない。
そのとき、バンっと扉が開いた。青ざめたカーターだけが帰ってきた。
「おい、子供たちはどうした?」
「森の奥に...おいてきた。」
一瞬訳が分からなかった。
「は?嘘だろ?この闇の中?どういうことだよ!」
「魔物に襲われたんだ!俺じゃ相手になんねぇ。仕方なかったんだ!」
「それでお前だけ逃げ帰ってきたのか!?夜の森であの子達だけなんて死ぬぞ!」
「朝になったら助けに行く。」
「バカ!朝になった頃には魔物に食い殺されてるよ!」
「大人たちは?」
「今呼びに行っても助ける頃には朝になるよ!」
このままでは本当に子供二人が食い殺される。
「俺が、森に行く。」
俺は口を開いてそういった。一瞬、カーターが黙った。
「正気か!?夜の森だぞ!?」
「お前こそ正気か!?子供を見殺しにしようとしてんだぞ!」
カーターは口を開かなくなった。
「聞きたいことは色々あるが、とりあえず2人とどこではぐれた。」
「わからない...。」
何をやってんだこいつは。
「もういい。俺が探してくる。ここにいる子どもたちを頼んだ。」
それだけ行って俺は剣を持って走り出す。
カーターの足跡を頼りに森を駆けていくと、どこからか子供の鳴き声がする。そちらに走っていく
と洞窟らしきものがあった。こんな洞窟は今まで見たことがない。なんだか嫌な予感がする。しか
し、子供がこの中にいるのは間違いない。俺は迷わず洞窟の中に入った。
洞窟内では蜘蛛の魔物がうじゃうじゃいたが、それでも俺は的確に対処しながら一匹ずつ潰してい
く。今日まで鍛えた剣技が役に立った。そして子どもたちの鳴き声が近くなった。無事だ。
「おい!大丈夫か!助けに来た!」
大声を出して駆け寄ると、開けた場所に出て、子どもたちがいた。しかし、幼い子どもは気絶して
いて、もう片方の子どもは糸で絡まって動けないようだ。その子どもたちの目の前には大型の馬よ
り大きな蜘蛛がいた。そして、子どもたちを捕食しようとしていた。
「危ない!」
俺は子どもたちの前に駆け出して蜘蛛の足に斬りかかる。蜘蛛が足を切
られて怯んでいる間に子どもたちに絡まっている糸を切ってあげる。強
靭な糸だ。なかなか切れない。
「うえぇ〜ん」
「もう大丈夫。助けにきたよ!」
「ほんと?」
「ああ。ここから皆のとこまで帰れる?」
「うん。」
「よかった。じゃあちょっとお兄ちゃんはすることがあるから先にお家に
帰っといてくれる?その兄弟を連れて。」
「わかった。」
子供は弟を起こして一緒に逃げていく。
そして、俺は化け物蜘蛛に向き合う。道中の蜘蛛は確実に殺したから、洞窟を出るのはあの子達で
もできるだろう。俺の仕事はこの化け物の足止めだ。
「なんだよ。足持ってかれて怖くて攻撃できねえのか?」
バキィッ
つぎの瞬間俺は壁まで弾き飛ばされてれていた。痛い。恐らく骨が何本かイった。攻撃が、見えな
い。
「アァ"ー!」
それでも俺は蜘蛛に立ち向かった。少しでも時間を稼ぐため。今度は地面に叩きつけられていた。
その衝撃で地面が崩れた。
俺は落ちていった。落ちながら、一つ考え事をする。あぁ、俺がもし、魔法を使えたなら、蜘蛛の
攻撃で骨は折れなかったかもしれないのに。俺がもし、魔法を使えたなら、あの子どもたちは蜘蛛
から逃げれたろうに。俺がもし、魔法を使えたなら...。
気づくと俺は地面の瓦礫とともに冷たい地底湖に沈んでいった。
『...ぃ』
なにか聞こえる。
『ぉ...』
『おーい!』
ハッとして目を開ける。
ここはどこだ?周りを見渡す。明るい。教会のようなところだ。眩しい。死後の世界か?息ができ
る。
『おーい!』
驚いて声のした方向を見るとそこには丸い水晶玉が台の上においてある。
『そう。君。』
「石ころ、が喋ってるのか?」
『そうだね。訳あって今僕は石ころになってるだけだけど。」
「ここはどこなんだ?」
『ここは特別な場所だよ。僕に選ばれた人間だけが入ることを許され
る。』
「へえ。つまり死後の世界か。」
『違うよ!ここはどっち側の世界でもなくて...』
「なんで俺は選ばれたんだ?お前は誰だ?」
『もう!質問が多いね君は。全部は答えないよ。けどそうだね、君が選
ばれた理由は素質があると感じたからだ。』
「なんの?」
『この世界を変える素質。僕に足りなかったものだ。』
「いらないよ。そんな素質。俺が欲しかったのは魔法だけだ。」
『そう。それだよ。僕は君に魔法をプレゼントすることができる。』
「そんな事ができるのか?」
『できるよ。名前くらい聞いたことあるだろ。“神の戯言”。』
知っている。しかしそんなのおとぎ話でしか聞いたことのない魔法だ。
『この魔法はね、譲渡できるんだ。欲しいかい?』
「そんな事唐突に言われても...。」
『残念だけど君には時間がない。君は魔法を受け取って元の世界に戻るか、魔法を拒んで新しい世
界に行くかの二択なんだ。』
「そんなすぐに決められないって!」
『グズグズしてると、君が助けようとしてた子供たちが死んじゃうよ?』
その言葉に俺はハッとした。そうだ。俺は帰らなきゃいけないんだ。神と契約しても、悪魔と契約
してでも、醜く生き残らなければいけないんだ。
俺は決心する。
「じゃあその力、俺にくれ。」
『おっ、いいねぇ。顔が変わった。』
「どうすればくれるんだ、その力。」
『別にただであげるよ。さあ、ほしいならその剣で僕を壊して。」
俺は腰にある剣でこの水晶玉を殴る。水晶玉はじわじわとヒビが入り割れていく。それと同時にこ
の神殿も壊れていく。
『長かったなぁ。ここまで。』
「何いってんだ。」
『いや、こっちの話。あっ、そうそう、伝え忘れてた。」
「ん?」
『その神の戯言は、名前があってね、』
壊れゆく世界の中で、最後にその声が響いた。
『神の悪戯・時空操魔法。使い方は、魔力が教えてくれるよ。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目が覚めると、そこは地底湖の底だった。体から血が抜けていく。しかし、体に巡る新しい“ナニ
カ”が、その傷を癒やしてくれる。いや、何もなかった状態に“戻してくれる”。これが、魔力か。全
身に魔力が巡る。それが、理解る。足に力を入れてただ思いっきりに飛んで見る。すると、一気に
水面を超え、蜘蛛と戦った場所まで戻ってこれた。なんだろう、世界が遅く見える。水しぶきも、
壁が崩れるのも、とてもゆっくりだ。蜘蛛はもういない。けれど、子どもたちの悲鳴が聞こえる。
そちらの方に走っていく。
蜘蛛を見つけた。ちょうど子供が足で串刺しにされそうなところだ。け
ど何か、遅いな。さっきまで目で捉えられなかった蜘蛛の足が、今や動いてもいないように見え
る。間に合う。余裕で。先に蜘蛛を刻もうか。そう思い、蜘蛛に剣を振るう。刹那、蜘蛛の体は一
刀両断された。子どもたちはゆっくり表情を変える。絶望から、驚きへ。剣をふるった際に生まれ
た風圧が、洞窟に大きな溝を作る。ああ、そうか。俺が速くなっているんだ。理解した次の瞬間、
世界の速さがもとに戻った。俺は子どもたちの方を向いて言った。
「大丈夫だった?遅くなってごめ...」
そこまで行って俺は血を吐いた。鼻血が出た。血涙を流した。なんだ?
子どもたちが何か言って...。
「もう大丈夫だよ。君たち。私が助けに来たから。」
ゆっくり目を開ける。そこで一番に目にはいったのは、20くらいだろう
か。美しい金髪の女性がいた。
「私はエマ。教会の勇者Ⅰ(アインス)だよ。」
そこで、俺の意識は途絶えた。
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