ダーク・ファンタジー小説
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- 怪奇灯籠譚
- 日時: 2023/08/11 19:15
- 名前: ぷれ (ID: 4NhhdgqM)
お久しぶりです
完結できるようにがんばります
- Re: 怪奇灯籠譚 ( No.1 )
- 日時: 2023/08/11 20:51
- 名前: ぷれ (ID: 4NhhdgqM)
人物紹介
古世見なつき 男 16歳
古世見家の次男であり、門ノ宮家に仕える巫女守。
門ノ宮火垂 女 16歳
門ノ宮家の79代巫女。なつきの幼なじみ。
古世見あきほ 女 15歳
なつきの双子の妹。陰陽師。
古世見ふゆか 女14歳
古世見家の末っ子。霊媒師見習い。
古世見はるた 男 22歳
古世見家次期当主。現役大学生。
- Re: 怪奇灯籠譚 ( No.2 )
- 日時: 2023/08/12 21:49
- 名前: ぷれ (ID: 4NhhdgqM)
第1話「巫女守」
「ヒッ...!」
短く悲鳴を漏らす、漆黒に近いロングヘアーに漆黒の瞳。
門ノ宮火垂は、人気のない田んぼの近くの道で謎の何かに襲われていた。
赤いマントに悪趣味な仮面。手には刃渡り50cmはありそうな刃物が握られていた。
「...」
人形をしているものの、それを人と呼ぶには憚られそうだ。
目の前の人形が、刃物を振り下ろすモーションするの入る。
「誰か、助け____」
刹那、赤いマントの人形の胸に青く輝く刀身が突き刺さっていた。
そこから黒い粘土質の液体が垂れる。
「え...?」
液体となって消える赤いマントを挟んで、180cmはありそうな巨躯に幼さを残す顔立ち、灰色の頭髪、右手には青い刀身の武骨な刀。
「なつき...?」
「ご名答~。大丈夫か?」
「ま、まあ...」
古世見なつきは、火垂に手をさしのべる。
「なんでここに...?」
「あれ、火舞さんから聞いてないのか?」
目を丸にして火垂は首を横に振る。
するとなつきはため息をつき、
「火舞さんしっかりしてくれ...」
と、完全に呆れていた。
「今日からお前の巫女守が俺なんだよ」
「え、初耳」
「そりゃ今初めてお前に言ったみたいだからな」
「っていうか、さっきの!」
竹刀袋に、先程の刀をしまいながら答える。
「赤マント。都市伝説だな。女子中学生を狙って殺害するらしい」
なつきは頭をかきながら続ける。
「もう今週で6回だぜ」
「平均どのくらいなの?」
「年に3回ぐらいだな」
どんなに怪異が起こっても、例年では3回程度だが、既にその枠を超えている。
イレギュラーと言えばイレギュラーだ。
どういうわけか、今まででもそんなことはなかったはず。例外を除いて。
「異常なんだね」
「まあ...異常と言えば異常だな」
「まあでも、家帰ってから考えよ」
怪異が異常発生する主な要因は2つ。
1つは怪異を認識する人が多くなった場合。もう1つは怪異そのものを推進剤とし、トリガーとなる実行役が存在する場合。
なつきとしては、後者が原因だとは考えにくかった。
文献によれば、後者が原因で起こっているのは約200年周期で起こっている。
去年の夏、なつきが鬼となって起こった怪異事件は正にそれだ。
そんな考え事をしていると、首に回された透き通るほど白い肌。背中に感じる重み。
「なーつき」
「どわぁぁぁぁぁ!!!???」
絶叫。恐らく近所迷惑であろう騒ぎ。
なつきが絶叫した原因。古世見あきほ。なつきの双子の妹である。
金に近いボブに、なつきと瓜二つな顔立ち。それでも二卵性の双子なのだ。
「バカっ!やめろよ人が考え事してるときに!!」
「興奮した?」
「しねえわ!まな板みたいな胸当てられてもなんも思わ____ゲボアッ!?」
言い終わる前に頬にハイキックが入る。そしてハイキックを決めたあきほは、「次はねえぞ、クソ兄貴」と満面の笑顔(怒りによる)を浮かべて部屋を出ていった。
「痛い...血の味がする...」
涙を浮かべてのたうち回る男子高校生の図は、非常に滑稽だった。
その時、ベッドの上に置いたスマホから着信音が鳴っていることに気づいた。
「もしも___」
「なつき、ちょっと家に来て」
「なんで?」
「いいから!」
古世見家と門ノ宮家は、歩いて10秒という超絶近所なのだ。
だが門ノ宮家はとにかく大きい。
「...」
インターホンを押してから7秒、玄関を開けたのは涙目になったTシャツにショートパンツという部屋着のテンプレートの、火垂が出てきた。
「だ、大丈夫かよ...」
「入って...」
自室に案内され、3階まで上がる。
火垂の部屋はぬいぐるみがベッドの上に置いてあり、テレビやパソコンがある。
「んで?どうした」
「...NNN臨時放送」
「観たのか?」
どんな顔をしてるかわからないが、力なく頷いたのがわかった。
「私の、名前が、あって...」
「大丈夫だ、俺はお前の巫女守だぞ?守るさ」
我ながらキザな台詞を吐いてしまったと思ったが、なつきには今の火垂にかける言葉を考えた結果である。
「まだ怖いか?」
「うん...できれば泊まってってほしい...」
「...」
え?
- Re: 怪奇灯籠譚 ( No.3 )
- 日時: 2023/08/13 21:27
- 名前: ぷれ (ID: 4NhhdgqM)
第2話「異変と桜と冬と」
美南桜子は、スマホのディスプレイに映る記事に目を通す。
ひとりかくれんぼ。降霊術の一種であり、数年前とある掲示板でスレッドが立ち、人々を恐怖のどん底へと落とした。
「桜子っ」
「ひゃぁぁぁ!!」
背中に重みと衝撃を受け、思わず絶叫してしまう。
その重みの正体は、同級生で親友の古世見ふゆかである。栗色の後ろでまとめたロングヘアーに、モデル顔負けのスタイル。
なつきの妹で、古世見家の末っ子だ。
「ふゆかか...驚かせないでよ...」
「にへへ、ごめんごめん」
「反省してないでしょ」
「もっちろん」
呆れながら、桜子はスマホをスカートのポケットにしまおうとしたとき、ふゆかが顔をしかめる。
「...桜子、もしかしてそれやるつもりじゃないよね?」
「え?あー、うん」
「ならいいけど...」
突然の真剣な声音に、思わず動揺してしまった。
「やばっ。桜子、次理科だから急がなきゃ!」
「えっ!?」
長野県立時和総合中学校は、教室棟から理科室などがある特別棟までかなりの距離があり、その上複雑な造りなので新入生は迷子になるのが恒例なのだ。
「____で、遺伝は」
(ひとりかくれんぼ...)
「美南さーん?おーい」
「はっはい!」
「大丈夫?かなり上の空だったけど...」
先程から桜子は様子がおかしかった。それは本人も自覚している。
ひとりかくれんぼという単語が脳裏をよぎっては消える。
やりたい。やってみたいという衝動に駆られている。
「あれ?ふゆかに桜子ちゃん、どうして」
「なつき兄ちゃん、今日は水曜だからだよ」
なつきは納得し、ふゆかの隣に座る。
駅の構内には、なつき達以外人がおらず、一人でいれば耳が痛くなるほどの静寂が訪れるであろうと予想ができる。
「あっちぃ...」
「ちょっと桜子も居るんだからそんなだらしないことしない!あと竹刀袋邪魔!」
どちらが上かわからない。
「竹刀袋?剣道でもやってるんですか?なつきさんって」
「ん?あー、そういう仕事っていうか...」
「ふゆかん家って複雑だよね...そういうお祓い系だっけ?」
「まあねー...って、竹刀袋重いぃぃ...」
なつきの刀、『雲禪星華』は重量9kgと、とても重たい。
理由としては、かなり希少な金属を使用しているとのことだが、文献など一切存在しない謎の刀なのだ。
「おっす、おらあきほ」
「...」
「ふんっ!!」
「ゲボアッ!!??」
なぜかなつきに右ストレートを食らわす。
一応あきほは陰陽師なのだが、もはや霊能力ではなく暴力で祓えそうである。
「な、なんで...」
「黙りやがったのが悪い」
「...」
鈍色の空。
桜子はその手に持ったぬいぐるみに、カッターを突き立てた。
ひとりかくれんぼ。
- Re: 怪奇灯籠譚 ( No.4 )
- 日時: 2023/08/14 20:18
- 名前: ぷれ (ID: 4NhhdgqM)
第3話「親友」
外は生憎の曇天で、今にも降りだしそうだった。
検索エンジンの雨雲レーダーは、10分後に降りだすと予報していた。
「なつき、私ちょっと委員長ん家行ってくる。帰り遅くなるかもしれないから、お母さんに言っといて」
「んー」
あきほが家を出ていくと、今度は慌てた様子でふゆかがリビングに下りてきた。
「なつき兄ちゃん!桜子が____」
____ひとりかくれんぼを。
「ふゆか、手伝え!」
「____次はソラが鬼だから」
ひとりかくれんぼはここからが本番なのだ。
桜子は和室の押し入れに隠れ、スマホを取り出す。
すると、床を鋭い何かで引っ掻く音がする。それも室内を探索するような、いかにも探しているような。
桜子は咄嗟に出てしまいそうになった声を抑え、急いでふゆかにメッセージを送る。
震える指先でキーボードで入力をするが、まともに指が動かないためいつもより倍の時間がかかる。
「やった...!」
メッセージが送信できたことに思わず声を上げてしまい、音が近づく。
跳ね上がる心拍数、加速する呼吸。
「っ!?」
押し入れの襖が開けられ、思わず目を見開く。
「ミィィツケタァァ」
そこには先程浴槽に入れた、クマのぬいぐるみ。手には出刃包丁が握られていた。
「雨かよクソッタレ!」
家を出るときにはすでに、横殴りの雨が降っていた。その上視界も不鮮明。
桜子の家までは1kmもないが、徒歩ではそれなりの距離がある。
「なつき兄ちゃん、桜子見つかって別の場所に隠れてるみたい」
「走れ、ふゆか!」
内心苛立ちながらもなつきは、桜子の無事を祈っていた。
5分ほどで、桜子の家に辿り着いた。
「桜子!」
ふゆかの呼び掛けに応答はなく、照明が点いている様子はない。
「クソッ、鍵が開いてねえ...!」
勝手口すらも開いておらず、さらに時間もない。
「ふゆか、下がってろ!」
距離を取り、右肩を前に突きだして全力疾走。
なつきの体とドアが衝突すると、轟音とともにドアが吹き飛んだ。
「急げ!」
桜子のメンタル状況を考えれば、急がなければ桜子は憑かれてしまう。
そのとき、勢いよく障子が開けられる音がすると、キャミソールのはだけた桜子がこちらに泣きながら走ってくる。
「っ!」
「桜子!」
「ふゆか行くな!」
桜子の背後には、出刃包丁を持ったぬいぐるみが桜子に向けた刺突を繰り出してくるのが見えた。
ふゆかがなつきの制止に振り返った刹那、背中に生暖かい液体がかかった感触がした。
生臭さと、足元に広がる真っ赤な毒々しい花。
「え...?」
口から血を吐いた虚ろな目をした桜子だったものが、そこに倒れていた。
ぬいぐるみは、ふゆかを見ると出刃包丁を向け刺突を繰り出す。
「ミィィツケタァァ」
「ふゆか避けろ!」
ふゆかはただそこに倒れた肉塊を見ているだけ、動こうとしない。
咄嗟になつきはふゆかの肩を掴み後ろに飛ばす。左腕を突きだすと、出刃包丁の切っ先が刺さる。
焼けるような激痛で、思わず意識を手放しそうになるが、右手でぬいぐるみに刀を突き立てた。
「はぁ、はぁ...」
「私が、私が死ねばよかったんだ」
桜子の死体を見つめたまま、ふゆかは震えた声で言った。
「お前が死ねば悲しむ人がいる。後追いもやめろ。桜子ちゃんはそんなこと、してほしいだなんて思っていない。お前は、桜子ちゃんの分も生きる義務があるんだ」
自分の弱さゆえに、誰かの受け売りの言葉を吐く。
弔う以外、できることはないのだ。
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