ダーク・ファンタジー小説

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至高の終りを、貴方へ。
日時: 2024/02/13 00:23
名前: えす (ID: JGdWnGzk)

“異能者”。生まれながらにして特殊な力を持つ者。その力の種類は多種多様で、戦うための力を持つ者、傷を癒すための力を持つ者、周囲を索敵するための力を持つ者__。
そんな特異な力を持つ者を総称して人々はそう呼んだ。彼らに対する人々の反応は多様なものだった。素晴らしい力だと賞賛する者や恐ろしいと危惧する者、時には差別し、迫害する者までいた。

__遡ること10年前。異能者たちが世界政府に宣戦布告し、無差別に人々を殺した。そのテロでは人だけでなく国までも甚大な被害を受けた。その中でも大国である『マリアミーグ』の被害は、孤児や捨て子の増加や治安の悪化など、壊滅的なものだった。
世界の平和と秩序を保つため、各国の代表者は『フリーデン財団』を設立。そして、それ以降は異能者を保護・取り締まりをする組織ができた。
10年前から現在まで、テロを経験したことによって得た情報や異能者の能力の管理は、異能者たちによる、異能者を取り締まる組織__『異能保安機関ニトル』に委ねられている。

ドロシー__異能者である彼女は、その組織の一員……ではなく、異能を正しく使用するための学舎の生徒である。




これは、彼女の物語。不思議な才能に溢れた者たちの、美しくも歪んだ物語だ。







・・・・・・・・・・

初めまして、えすと申します!初めての作品となります。荒削りなところもありますが、何卒よろしくお願いします!


※「ノベルアップ+」でも更新させていだたいてます。よろしければそちらもご覧ください!

Re: 至高の終りを、貴方へ。 ( No.1 )
日時: 2024/02/13 00:54
名前: えす (ID: JGdWnGzk)

【プロローグ -あの日、あの時-】

時々、夢を見る。
 目の前で、激しく炎が燃え上がっている。全てを焼き尽くしていくそれは、恐ろしいくらいに綺麗で。
 子供の泣き声、大人の怒号、建物が崩れる音。
 見ていられなくて、聞いてもいられなくて、私は崩れ落ち、目を瞑り、耳を塞ぐ。
 __夢の終わりには、いつも決まって聞こえてくる。耳を塞ぐ手を通り抜けて、あの子の声がこだまする。







「わらって、ドロシー!」


Re: 至高の終りを、貴方へ。 ( No.2 )
日時: 2024/02/26 23:02
名前: えす (ID: JGdWnGzk)

【第一章 -門出-】

「ッ……!!」


 悪夢から抜け出すように、私は飛び起きた。嫌な汗が額を伝うのを感じる。心臓の鼓動が激しく、うるさい。息が苦しい。
 また、あの夢を見た。
 今日はアカデミー入校日だというのに、朝から最悪な目覚めだ。
 深呼吸をし、重い腰を上げてベッドから出て、カーテンを開く。明るい日差しが部屋に差し込む。眩しい。


「ドロシー?起きてるー?」


 窓から空を眺めていると、彼女が階段を上がってくる音が聞こえた。その後、そっと扉が開き、髪を一つに結った女性が顔を覗かせる。


「おはよう。ちゃんと起きられて偉いわね!」

「っ……もう、子供扱いはやめてください」

「良いじゃないの!それより、体調はどう?顔色が良くないように見えるけれど……」


 この人はユキ=カルミアという。世界的な組織『フリーデン財団』の副代表で、私の親代わりだ。明るくて優しい人なのだが……少し心配しすぎるところがある。


「平気です。ただ、少し汗をかいてしまったので、気持ちが悪くて」

「そう?……それじゃ、早く着替えて降りてらっしゃい。朝食できてるわよ!」


 ユキさんはそれ以上は訊かず、にっこり笑って部屋を後にする。本当は詳しい状態を聞きたいだろうに、それを私に訊かないのも、彼女なりの優しさで配慮なのだろう。
 ユキさんに苦労をかけさせないためにも、私がしっかりしなくてはいけない。まして、これしきのことで気分を悪くしているようでは、この先やっていけない。
 息を吐いて、素早く支度を済ませる。真新しい制服に袖を通し、私は一階へ降りていった。


・・・・・・・・・・・・


 朝食をとっている最中のユキさんは、いつもより口数が多かった。おしゃべりなのはいつものことなのだが、今日は一段と多かった。私の勘違いでなければ、多分、私がアカデミーで上手くやれるか心配してくれているのだと思う。

 全ての支度を終え、ユキさんに外まで見送ってもらう。彼女はこの日のために財団の仕事を休んでくれたのだ。


「着替えは持った?今日から寮生活なんだから……あ、それと情報登録のための書類とか……」

「……心配しすぎですよ」

「し、仕方ないじゃないの!心配なんだから!」

「大丈夫ですよ、きちんと確認しましたから」

「本当?」


 そう言って、いつまでも続きそうな会話を終わらせる。心配性で世話焼き、お人好し……そこが彼女の良いところでもあるのだけれど。


「……あら、そろそろ時間ね」

「……はい」

「もう、そんな怖い顔しないの。貴方なら大丈夫。なんてったって、私の“娘”なんだから!」


 ユキさんはそう言って、屈託なく笑う。私は彼女のように上手く笑えないけれど、代わりに彼女の目をしっかりと見る。


「はい。いってきます」


 その時、トラックのタイヤの音が聞こえた。振り返ると、白い大きなトラックが道路脇に停まっている。ニトルのトラックで、アカデミー生を教習学校まで乗せるためのものだ。


「いってらっしゃい、ドロシー」


 ユキさんに向かって頷き、トラックへ乗り込む。私が席に座ると、トラックが動き出した。小窓から見えるユキさんの姿がどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。
 __これから先、色々なことが起こるだろう。だが、私は絶対に挫けてはいけないのだ。ユキさんの望む、「平和な世界」を実現する為にも。


・・・・・・・・・・・・


『異能教習学校』、通常“アカデミー”。異能を持つ人間は16歳になると、異能の発現が認められ次第、アカデミーでの3年間の講習、及び“情報登録”が義務付けられている。
 情報登録とは、全ての異能者に義務付けられたもので、それを行うことで人物、位置、異能までもが、財団や本部であるニトルに登録される。未登録や登録拒否は規律に反し、罰則を受けることになるのだ。

 トラックが止まった。


「さあ、着きましたよ。新入生の皆さんは降りてください」


 同乗していた女性教員に促され、皆荷物を持って席を立つ。私もトランクを握りしめ、トラックを降りた。
 アカデミーは、山奥の森の中という、かなり閉鎖的な場所にあった。しかし敷地は広大で、校舎だけでなく、グラウンドに寮、売店……さらには射撃訓練場のようなものも確認できる。


「皆さん、こちらですよ。はぐれないように着いてきてください」


 彼女の案内に従って、私たちは校舎内へ入る。入ってすぐに大広間があり、そこで教官たちが待っていた。


「エドガー本部司令官。新入生たちを連れて参りました」


 女性は中央に立つ老紳士にそう声をかけると、校舎の扉を閉めた。その瞬間、生徒たちが水を打ったように静かになる。
 ユキさんから聞いた話では、アカデミーで指導を行う教官たちは、皆ニトルからやってきた人たちで、相当腕の立つ人間ばかりらしい。


「新入生諸君、荷物は足元に。楽にしなさい」


 エドガーと呼ばれた老紳士は、穏やかな声でそう言った。見た目は70代後半くらいで、杖をついている。


「道中ご苦労だったね。私は『異能保安機関ニトル』の本部司令官を務めている、エドガー=エストゥロイだ。アカデミーの理事長も務めているが、今日は挨拶のために来たので、顔を合わせる機会は少ないと思うがね」


 そう言ってエドガー司令は微笑む。丁寧な物腰だが、さすがトップの人間と言うべきか、かなりの威圧感だ。彼は軽く咳払いをして話し始める。


「ここは『異能教習学校』。その名の通り、君たちの能力を管理し、正しく育てるための施設だ。そして普通の学校と同じように、数学や語学などの一般授業も行う」


 穏やかな口調で話すエドガー司令の目は、鋭く光っている。まだ入校して日が浅い私にも分かるほどにだ。


「……だがしかし、君たちは『異能者』なのだ。人智を超えた能力があるということを忘れてはいけないよ。“特別な人間”であるという謙虚さと、それに伴う責任感を忘れてはいけないよ」

「ッ……は、はい!」


 厳しい言葉に新入生たちは緊張している。司令の後ろ控える教官たちも、一様に険しい顔をしていた。私は背筋を伸ばして話に耳を傾ける。


「ここは『異能者』としての社会生活を学ぶ場所なのだ」


 最後にそう言うと、エドガー司令官は微かに微笑む。それを合図に彼の後ろにいた若い男性が、エドガー司令の隣に出る。


「この先の詳しい説明は、彼、イリヤ教官に任せる。よろしく頼んだよ」

「はい」


 エドガー司令は杖を使いながら広間から出ていき、入れ替わるような形でイリヤ教官と呼ばれた若い男性が前に立った。


「……エドガー司令より紹介に与った、イリヤ=カランコエだ。貴様ら一年生の担任を務める」


 エドガー司令とはまったく違う、冷たい声だ。


「貴様らは、10年前のテロを知っているな?」

「……!」


 その言葉に、一部の生徒の顔が青ざめる。無論、私もだ。あの日は一日だって忘れたことはない。国中の人間の人生が、一瞬にして狂った最悪の出来事だ。


「異能者たちが、この国マリアミーグで起こした無差別テロだ。そして、このアカデミーを設立することになった要因でもある。
 そのせいで、無関係の異能者は差別・迫害の対象となった。無論、貴様らの中にもそういった経験をした者がいるだろう」


 イリヤ教官はそう言って、周囲を見渡した。


「……だが、だからと言って“被害者”でいればいいと思ってはいけない。自分たちが道を踏み外す訳がないと過信するな」

「……っ」


 その重い言葉に、生徒たちは皆息を呑む。教官はさらに続ける。


「良いか。貴様らはアカデミー生であると同時に、『異能保安機関ニトル』の一員なんだ。そう認識した上で発言し、行動しろ」

「「ッ……はい!!」」


 教官は一切表情を変えることなく頷くと、次の説明に入る。


「……では次に、アカデミーの規律についてだが。アカデミーは全寮制。そして卒業するまでの間、無許可での外出及び異能の使用は禁止だ。破った者は懲罰房行きに処す」


 生徒たちは少しざわめく。幸い、学校側に申請さえしていれば外出はできるらしいが……その時は、発信機能と制御機能の付いた腕章をしなければならないようだ。


「……いいな?では、書類を提出した後、校内の施設について説明する。書類を前へ回せ」


 __その後は敷地内の案内や食堂の場所の説明など、様々なことを教えられていった。全てが終わったころには、夕陽が山間に隠れて暗くなり始めていた。説明の後は食堂で夕食をとり、各自寮に戻って休息をとる運びになった。


Re: 至高の終りを、貴方へ。 ( No.3 )
日時: 2024/02/13 01:47
名前: えす (ID: JGdWnGzk)

【-「太陽のような人」-】 

 食堂に着くと、既に先輩たちがいてがやがやしていた。と言っても一学年の人数が10数名程なので、あまり場所を占領するほどではない。


「ねえ、一緒に食べてもいい?」


 一人で食事をしていると、長い三つ編みの少女が来てそう言った。私と目が合うと、見開かれんばかりの大きな目をきらきらさせる。


「ええ。構いませんよ」

「ほんと?ありがとう!」


 お礼を言うなり彼女は目の前の席に腰を下ろす。そして私の顔をまじまじと見つめ、ほんの少し、瞳を揺らした。


「あれ、君……」

「なんでしょう」

「君、広間で私の隣に並んでた人でしょ!」

「……そうでしたっけ」

「絶対そうだよ!堂々とした子だなぁって思ったもん、覚えてるよー。ね、私と同じ新入生でしょ?名前は?」

「……ドロシー=カルミア=ブルースターです」

「へぇ……ドロシーって言うんだ!私はフィオレ=トラシオ。よろしくね!」


 フィオレと名乗る少女は、目を細めて笑う。太陽みたいな人だ。何となくユキさんに近いものを感じる。


「ね、ドロシーって呼んでもいい?」

「構いません」


 そう返すと、彼女はぱーっと笑って「ありがとう!」とお礼を言う。そして思い出したように食事をとり始めた。良く喋る人だ。それに、ユキさんと似ているからだろうか、不思議と落ち着く。
 その後、私たちは夕食が終わった後もしばらく談笑していた。といっても、彼女がした質問に私が言葉少なに答えるだけだった。それでも彼女は楽しそうにしていた……と良いのだが。


・・・・・・・・・・


 __入浴を終えて女子寮へ戻ると、消灯時間の10分前だった。
 寮は女子も男子も3階建てで、3階が一年生のフロアになっている。


「おやすみ、ドロシー」

「はい。おやすみなさい」


 フィオレさんがあくびをしながら隣の部屋へ入っていく。先程言った通り一学年の人数はそれほど多くないので、贅沢にも部屋は一人一部屋だ。
 部屋にはベッド、机と椅子、収納棚があるだけの簡素な部屋だった。


「……疲れた」


 ベッドに寝転がり、そう呟く。無意識の内に緊張して体が強張っていたようで、一気に疲労感に襲われた。肩の力を抜くと、すぐに体が重くなるのがわかる。こんなに疲れたのはいつぶりだろう?


「……早く眠ろう」


 電気を消し、目を閉じる。明日からは本格的に授業が始まる。今日は初めてのことばかりで戸惑うばかりだったが、フィオレさんのおかげで少し自信がついた。
 この調子でいくことができれば、きっとこの先上手くやっていける__そう思いながら、私は眠りに落ちた。



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