ダーク・ファンタジー小説
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- ワンゴール
- 日時: 2024/06/23 22:46
- 名前: とろろ (ID: ZANhAUnF)
3
2
1
ピピーッ
試合終了の合図の笛の音と共に私は泣き崩れた。
結果は、63対65。
先輩の引退試合だった。
私は先輩達の中で、1人休んだ子の代理として試合に出ていた。
いつもなら出られなかったこの試合。
それなのに、その貴重な試合のラストで、私はシュートをはずしてしまった。
そして、泣いた。
先輩達も泣いていたが、それは主に悔しみの涙。
しかし、私の涙は悔しみと罪悪感と後悔で出来ていた。
もし、あの時に私がパスをしていれば。
ゴール下でパスがもらえるように構えてくれていた先輩。
しかし、その時先輩がいたことに、私は気づいていなかった。
大きな声で、「こっちノーマーク!」と言ってくれた先輩。
しかし、私はいつも憧れていた試合に出ていることへの高揚感と嬉しさによって集中出来ていなかった。
とにかく、点を入れなければ。
じゃないと、ベンチに下げられる。
そう思ってプレーしていた。
しかし、第2クウォーター、自分でボールを運んでいた時に、相手チームのエースと思われる子に、スティールされた。(スティール:相手選手からボールを奪うプレー)
そのまま止まらずに相手のエースは左レイアップを入れた。
それに比べ、私は、左レイアップが苦手だった。
右からレイアップを入れようと思うと、ディフェンスに止められる。
「もし、左利きに産まれたら」、と思ったことが何回もある。
だけど、相手エースは完璧に右からのレイアップも入れていた。
「エース」と呼ばれるほどなんだから、当たり前なのかもしれないが、私はなんだか負けている気がした。
そこからだった。
私がより焦り始めたのは。
パスコースを作っても、それがわかっているかのように平然と閉ざしてくる。
味方にパスをした時もそうだった。バウンドパスをすると、まるでそこにボールが来るのを知っていたかのようにボールを取ってシュートをした。
しかし、それを繰り返している時に気がついた。
パスをするから取られやすいんだ。
パスをせずに、自分で運べばいい。
すると、さっきよりも敵にシュートを入れられるのが減った。
ラスト1クウォーターあと15秒。
私が敵とのヘルドボール(ヘルドボール: 両方のチームの選手がボールを奪い合いのこと)を制し、こっち側ボールになった。
よし、いける。あと二点。
そして、先輩からのスローインを貰い、反対コートにボールを運んだ。
相手エースとの一対一。
ここでとられるわけには行かない勢いで、私は左レイアップを入れようとした。
エースに、「私も出来る」と言いたかったのかもしれない。
すると、ゴールの上を通ってボールは落ちた。
「え」
私の驚嘆の声を無視するかのように試合終了の笛が鳴った。