ダーク・ファンタジー小説

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自爆霊
日時: 2024/08/26 00:31
名前: ー (ID: jkQDRlZU)

どこかで聞いたことがある。自殺をした人は、自殺という罪の重さがわかるようになるまで、何度も自殺する瞬間をループするらしい。
まさか本当だとは思わなかった。


忘れもしない、ある秋の夕暮れ。
僕は、マンションの屋上からとびおりた。

ーーードパン!
おかしい。とびおりたはずなのに、今、自分は屋上に立っている。落としたはずの靴もはいているし、着ていた服もきれいだ。
困惑していると、体は勝手に動き出した。
あの時と同じように、靴をゆっくりと脱ぎ、下に落とす。スマホをそこら辺に投げ、下を見下ろす。そして上を向いて飛ぶ。ああ、空はきれいだ。

ーーードパン!
またもや気づくと屋上に立っていた。体は勝手に動き出す。何度も痛みを味わうのは嫌だが、今まで通り生きていく方が嫌だ。けれども、体は正直だ。今まで耐えてきた苦しみよりマシだと思っていても、地面に落ちる前には目をつぶってしまう。
ーーードパン!
ーーードパン!
ーーードパン!
ーーードパン!
ーーードパン!
あれから何度とびおりたのだろうか。さすがに終わりが見えない中落ち続けるのは精神がおかしくなりそうだ。そう思ったが、すぐに馬鹿らしくて笑いがこみ上げてくる。
…………もうとっくのとうにおかしくなっていたんだった。
ーーードパン!
折角暇ができたので、今までの人生でも振り返ってみることにする。そうだ、まだ子供だった頃には、僕は死にたいなんて思っていなかったはずだ。いつからだろうか。死にたいなんて思うようになったのは。
ーーードパン!
思い返してみると、最初に死にたいと思ったのは小学生の頃だったかもしれない。あの頃は、みんなと違う性格で、少し忘れっぽくて、ちょっと風変わりな家で育っただけだったはずだ。それがどうしてか、みんなから軽蔑と非難の対象にされてしまったのだ。僕は未だに納得がいかない。
ーーードパン!
しかし、そんな奴らも成長すれば大きく変わった。中学生になった時には、もうあからさまに軽蔑してくる奴はいなくなった。幸いなことに、僕は頭は良い方だったので、勉強ができるという強みは僕を救ってくれた。勉強ができるという一点では僕に勝る者はいなかったし、頭が良いという暗黙の了解によって、地位は高まった。
ーーードパン!
それにより、僕には今までにない変化が訪れた。友達になりたいといってくる奴がでてきたのだ。僕は少しだけ嬉しかった気がしないでもない。しかし、あいつらはどうせ本質的には、昔、僕を軽蔑してきた奴と変わらないのだ。そう思うと、吐き気さえわき上がってきた。当然そんな奴らと一緒にいるなど耐えきれるはずもない。だから全部の申し出は断ってきた。
ーーードパン!
そこらの奴らと違って、友達と遊びにいかなかった僕は、その分勉強ができるようになった。そして親と先生の勧めるがままに少し良い高校に進学した。そこには色々な奴がいたが、一人、気になる人がいた。初めての登校日だというのに、周りの奴らが楽しそうに話しているなか、物憂げに机を眺めている。気づけばその人に声をかけていた。その人は思った通り、僕と同じような考え方をしていた。類は友を呼ぶ、ってやつだ。彼に何があったのかはあえて聞かなかったし、聞きたくもなかったが、もしかしたら僕と同じような体験をしたのかもしれない。だが、そんなことよりも当時の僕は同族とあえた喜びに溢れていて、日々の苦しさを紛らわせていた。このことが僕にとっては何よりも重要で、僕はそれだけを頼りに生きていた。
ーーードパン!
しかし、あるとき事件は起きた。知らない奴が僕たちの話に入り込んでくるようになったのだ。彼は僕と違って、そういった奴らとも一応話すという文化を持っていたので、それを邪魔したくなくて、表面上はナカヨクしていた。でも、そんな奴が話しかけてくるという事が、僕の癪にさわったのかもしれない。深く考えずに、そいつに対してひどいことをいってしまった。いじめた方はすぐ忘れるとかいうが、僕は忘れていない。いくら奴とはいえ、僕はそんなに傷つけるほどの理由を持っていなかったので、謝ったが、本心ではそんなことで許されるとは思っていなかった。
ーーードパン!
その後も、そいつとは表面上はナカヨクしていたが、きっと今も恨んでいるのだろう。願わくば、僕の死体でもみて、ほくそ笑んでいてほしい。それが贖罪になるのならば。
ーーードパン!
ーーードパン!
ーーードパン!
少し経って落ち着いてきたが、これだと僕があいつの為に死んだようではないか。そうではない。そうではないのだ。もっと他の理由があるはずだ。
ーーードパン!
そういえば同じ高校生の頃は、部活もやっていたんだった。他の奴らと話さなければならないのは苦痛だが、彼のようにこの環境にも適応しなければいけないとの危機感のもと入ったのである。
その部活では、我ながら大いに努力したと思う。しかしながら、僕にはそういった才能はなかったようで、対した成績も出せなかった。またいつかのように他の奴らから見下され、しょっちゅう非難された。良い成績を残せていれば、少なくとも見下されることはなかったと思うのだが。
ーーードパン!
あいつらは俺より努力してきたのだろうか。もちろん表には出さないが、俺は生活時間の全てを勉強と部活につぎ込んできた。それに対して、友達と遊び呆けていたあいつらが俺より努力してきたとは到底思えない。なぜ努力してきた俺を当然のように「努力が足りない」とでも言いたげな目で見つめてくるのだろうか。なぜそんなことを俺より努力していない奴らに言われなきゃならないのだろうか。
ーーードパン!
ある日、僕は気づいた。努力をしてもどうしようもないこともあるのである。足がない奴らがどれだけ頑張っても決して速くは走れないのと同じように、努力をしてもどうにもならないのである。ある奴は言った。「努力の方向性が間違っている」と。しかし、どうしろというのだ。その方向性とやらを決めるのには、紛れもない才能がいる。努力の方向性を決めるためにできることが努力することしかないのに、どうして方向性とやらが決まるというのか。努力を活かすには方向性をきめなければならない、しかし方向性をきめるのには努力を活かす必要がある。堂々巡りではないか。
ーーードパン!
しかし、本当は解決法があるのを、僕は知っている。一人の力で出来なくても、他のやつの力を借りれば良いのだ。最初は他のやつらに方向性をきいて、それにあわせて努力すればループを抜けられる。あんなやつらに僕のことを任せるのは怖くて仕方がなかったが、一度試してみることにした。
ーーードパン!
確かに多少良くなったかもしれない。”あのときは“良かったのかもしれない。そのまま試している中で、ある日、「やめてしまえ」と言われた。確かに才能がないのだからやめてしまうのも良い選択のようにみえた。しかし、この時、僕が僕から知らず知らずの内に隠していた事実を見つけてしまったのだ。そう、僕は生きるのに向いていないのだ。
ーーードパン!
気づいてからは早かった。何年か考えて、否定できないか確認してみたが、無駄だった。思えば最初からもうどうしようもなかった。あのときには既に、僕がどうにかできない、育て方と周りの奴らという環境の面で駄目だった。あんな環境にいて、あんな奴らとわざわざ関わろうとなるやつはいない。そういった面で、既にどうしようもなかったのである。
ーーードパン!
今日は見事な月だ。そういえば今日は七夕だという。もし短冊があれば書くことは一つだったなあ。

「いきたい」

ーーードパン!


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