ダーク・ファンタジー小説

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村人Bは忘れない
日時: 2024/10/31 14:28
名前: 透 (ID: Q8dIWKcE)

物語の主人公には主人公なりの思惑があって、ヒロインにはヒロインの思惑がある。
もちろん悪役にも悪役なりの思惑があるわけで、それは誰にも変えられない事実だ。
そして当たり前のように、小さな集落の村人たちにもそれぞれの思惑がある。
それは物語の中ではまったく注目されず、いわゆる「モブキャラ」と呼ばれている者たちだ。
これは、そんなモブキャラの村人Bに生まれた小さな英雄の物語。

Re: 村人Bは忘れない ( No.2 )
日時: 2024/10/31 16:12
名前: 透 (ID: Q8dIWKcE)

先に言っておくが、もちろん僕は物語の主人公タイプではない。
今もこんなふうに、平凡な村人Bとして生きているのだから。
物語では決して注目されない、現実でも名声をあびるわけでもない。
そう、僕はいわゆるモブキャラなのだ。
決して目立ってはいけないし、目立とうとも思わない。
地味に貴族さまを支えている、ただの農民にすぎないのだ。

Re: 村人Bは忘れない ( No.3 )
日時: 2024/11/01 22:14
名前: 透 (ID: Q8dIWKcE)

「おぉーい、ミラール!そろそろ終わりだって!」
遠くからほがらかな声。
「ムールん!」
彼は村いちばんののんびり屋、ウィーク·ムール。
僕と同じで村長に拾われてこの村に来たんだ。
「ミラール?」
「え、あぁ、すぐ行くよ!」
太陽が沈む。
西の空はまだ少し明るいけど、東の空はもう真っ暗だ。
この夕陽が沈んだあと、この太陽はまたどこかの国の朝陽になるのだろう。
今日もまた、村に夜という闇が降る。

Re: 村人Bは忘れない ( No.4 )
日時: 2024/11/01 13:12
名前: 透 (ID: Q8dIWKcE)

この村にはルールがある。
その一、拾われて来た者は働くべし。
その二、村長の許可なく街へ行ってはならない。
その三、晩餐は村人全員で食すべし。
たったのこの三つのルールをひとつでも破ると、あやかしたちへの捧げ物になってしまうのだ。
肩書きは大自然に囲まれた平和な村。
だが、ルールをひとつでも破ってしまうと、途端に死んでしまうかもしれない、危険な集落なのである。
今回はその三にあてはまる。
夏はとりの刻、冬はさるの刻に集会場の小屋に集まらなければいけない。
毎日緊張感の走る気まずい中、黙々と食べすすめるのは相当な労力だ。
はっきり言って、僕は村人たちと仲が良くない。
どちらかというと邪魔者扱じゃまものあつかいされているのだ。

Re: 村人Bは忘れない ( No.5 )
日時: 2024/11/10 09:22
名前: 透 (ID: Q8dIWKcE)

その一、拾われて来た者は働くべし。
働かなければ死んでしまう。
その二、村長の許可なく街へ行ってはならない。
村全体に防護結界がはってある。
それに触れれば死んでしまう。
その三、晩餐は村人全員で食すべし。
1秒でも時間に遅れると死んでしまう。
すべて、この村を支配するためのルールだ。
そんな簡単なことにも気づいていないヤツは、この村にはいないだろう。
村長たちによって洗脳されてしまった大人たちに、妖の森・サクロファイズへ引きずられて行ったヤツを何人も見てきた。
そう、この村は狂っている。
村人たちを恐怖で支配し、どこにも逃げ出さないようにしているのだ。
実際に、どこにも逃げ出せないし。
この村は世界の地図に載っていない。
だから誰も助けに来ないし、そもそもこの村の存在自体を認知していない。
僕もみんなと同じように、この生涯を強制的に村に捧げなくてはいけないのだ。
僕はムールんのように明るくなれない。
この村での生活を楽しもうとも思わない。
朝昼晩、すべての時間に食事を食べられることをありがたいと思わなくてはいけない。
そう思わないとやっていけないのだ。
僕は貧民の村人Bだから。
物語のように、この村を救えない。
主人公にはなれないのだ。

Re: 村人Bは忘れない ( No.6 )
日時: 2024/11/20 17:07
名前: 透 (ID: Q8dIWKcE)

今日もまた1日が終わる。
月が沈んで、太陽がのぼる。
そしてまた太陽が沈み、月が顔を出す。
当たり前のことだ。
時間だけがこの世の平等。
僕はそうやって何年も過ごしてきた。
きっと今生きている人はみんなそうなんだと思う。
今生きているということは、昨日生きたということ。
今日もよくやった。
この恐ろしい村での1日を生ききった。
だから僕は、今日と同じように明日も生きる。
僕はまだ、そう思い込んでいた。


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