ダーク・ファンタジー小説

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アナタ [曖]  {完}
日時: 2024/11/21 00:12
名前: 細胞くん (ID: .TBODMPV)

「お姉さん、」

今日もぼくに会いに来てくれるお姉さんがいる。
スタイルは細身で、首にはチョーカーを着け、輪っかを2つ作った蘇枋すおうの髪。軽く結ばれたリボン、僕を見つめる白と赤の三白眼。

「……定期検診ですよ、行きましょう」
「一緒に行こ。」

何を隠そう、ぼくらは名前を呼び合ったことがない。ぼくはお姉さんの名前を知らない。
お姉さんはきっとカルテか何かでぼくの名前を知ってるはずだけど、なぜか呼んでくれない。

「……わかりました、一緒に行きましょうか」

ぼくは無理やり彼女の手を握る。
すごく冷たくて壊れてしまいそうな手。
むくろかのように柔らかく骨の通った細い指。
砕け散りそうな、そんな手を。

ぼくは幼い身ながらに中々のコトを理解してしまった。知るのは容易でありながら忘れるのはとても難しいことだ。きっと、元の阿呆なぼくには戻れない。

「傷が悪化しています。……まさか自分で切っていませんか?」
「そんなまさか、彼の部屋の箪笥たんすの中の刃物は全て……」
「どう考えても切り傷です、それも何ヶ所も」
「……わかりました」

保護者のような目でぼくを見つめる。
父は健康体を産めない母に失望して女を作って出て行った、母はぼくの育児に疲れて血反吐を吐いて亡くなった。
ぼくはその晩、事件に巻き込まれた。
醜い子供が1人重傷を負ったとて個人個人として報道される訳もなく、新聞には近所の事件とまとめて書かれていた。
ぼくは腕を中心に切り傷や擦り傷、火傷跡などの沢山の傷を付けられた。

そして、ぼくはあの記憶に耐えられなくなった。
鮮血せんけつ。ぼくの血が吹き出て、ぼくの腕や身体が、徐々に削られていく痛み。
今でもその感覚は鮮明に残っていて、いつか無くなると信じる気も起きなくて、

あの感覚が怖いはずなのに、流れる血を見ると心が少し落ち着く。
ぼくは腕に何回か傷をつけた。そんな日々が続き、1番 憂鬱ゆううつなのがこの時間だ。
久しぶりに切ろうと隠し小刀のようなものを引き抜き、腕に何度も何度も傷をつけてしまった。
1度だけならまだ分からなかっままかもしれないが何度もしてしまったせいでバレてしまったようだ。

「上の空にならないでください」

その言葉ではっ、と目が覚める。

「……うん、大丈夫だよ」
「話、聞いていましたか?刃物を出してください。」
「嫌だよ」
「いいですか、出さなければいけないのです」
「だから嫌だよ」
「……私がしかるべき処罰を受けろと?」
「………そんな顔しないでよ。わかったよ、部屋にあるから、帰ったら出すよ」
「わかりました、一緒に行きましょう」

「……ここだよ」

ぼくは消しゴムのカバーを外し、その中に隠された折り畳み式の刃物を渡す。

「無駄に凝られた仕掛けですね」
「うるさいな」
「……切るのを辞めれば、今すぐにでも退院が可能なのに、何故なぜここまで切るのを辞めないのです?」
「……」

ぼくは言いよどんだ。言いたくない。言っちゃいけない。
ぼくには、居場所がない
お姉さんとたわむれている時間がいちばん楽しいくらいに。
ああ、何故こんなことを望んでしまっているのか。
傷が治っちゃそれでしまいなのに。

「言いたくない、や」
「そうですか。
誰にも言いたくないコト、ありますよね
私も言いたくないコトがあります。」

「でも、約束しませんか?」
「……約束?なんで。」

アナタ [哀] ( No.1 )
日時: 2024/11/19 03:28
名前: 細胞くん (ID: .TBODMPV)

「片方が心を開いたら、もう片方も心を開きませんか?」

少し無茶な願いに思わず固まってしまう。
曖昧な返答しか思いつかず、思わず出た言葉は

「……できたらね、できる限りはするよ」

くだらない……つまらない答えだった。
それでもお姉さんは、

「ありがとうございます。約束、ですからね
……では、私はこれで」

「…まって!!」
「……,!…どうか、しましたか!?体の不調か何かが……!?」

孤独が嫌で、呼び止めてしまっただけなのに、かなり過剰に反応されてしまって、申し訳なくなってしまった。

「いや、違うっ……ごめん、忙しいのに引き止めて」
「……ひとりが怖くなりましたか?」
「そんなのじゃ…、ないよ。」

咄嗟に出てきた嘘。
ぼくの嘘つき。
でもその嘘は簡単に見破られてしまった。

「……ひとりになりたい時も、誰かと一緒にいたいときもありますよね、しょうがないです。」
「違うって、言ってるのに……」
「嘘はダメです。と言いたいけれど、私も嘘ばかりついています。お互い様ですね。」

すこし弾んだ口調で言う。
そんな声のトーンで言うことじゃないと思うが、その通りだ。人間誰でも嘘ばかりついている。

「ほら、今日だけは、夜通しお話でもしましょう。」
「ん……わかった、よ」

お姉さんは先生と自分以外ほとんど座らないサイドの椅子に腰かける。

「なんだか、怖くなっちゃってさ
ぼく、両親いないし……」
「……私じゃダメでしょうか?そんな、両親の代わり……」

哀しそうな表情を浮かべるお姉さんに「ダメ」とか「難しい」とか言う気には到底なれなくて、

「……いいよ
これで、ぼく、寂しくないね」
「2人は揃いませんけどね」
「……でも、お姉さんはお姉さんのままがいいな。
ぼく、お母さんにどんなことすればいいかわからないんだ。
……それにお姉さんがお姉さんじゃないなら、ぼくはぼくじゃないよ」

「……お姉さん、か…………
なんでもないですよ、それで大丈夫ですから。」

アナタ [相] ( No.2 )
日時: 2024/11/19 03:52
名前: 細胞くん (ID: .TBODMPV)

いつもより、朝目覚めるのが億劫じゃない。
お姉さんが、そばにいてくれる。

「お姉さん……おはよう」
「おはようございます。」

いつもの冷たい返事が、今日はすごく暖かく感じる。

「夜まで一緒にいてくれてありがとう。
お礼をあげたいけど、あげられるものがないや」
「いいんですよ、私もひとりは怖いですから。」

「……ねえ、いつか、ヒミツ、言わなきゃいけないのかな?」

怖い。言わなくちゃいけない義務感から、逃げたくなってしまう。

「……」
「お姉さん……?」

『ひとりだけ逃げるつもり?』

図星の反応に吐き気が込上げる。
困惑と、疑問と、自己嫌悪と……
さっきまでのお姉さんは、どこにいったの?

「……お姉さん!お姉さん!?」
『どうして?私は言わなくちゃいけないのに』
「…お姉さん…」

「……あの!!あの!!」
「おねえ,さ,ごめん,なさ」

お姉さんがぼくの肩を揺さぶる。

「……何を聞いたかわかりませんが、それは私じゃありません」

「……へ?」
「ごめんなさい、困惑させてしまいましたね。
……それは、きっと、内に眠るなにかです」

「…………こわかった、よ、おねえ、さん……」

ぼくの目から思わず水が数滴零れる。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

ただ僕の頭を撫で、謝ってくる。

「私は、どうしても言いたくなければ、言わなくてもいいと思っていますよ。ごめんなさい……不安にさせてしまって……」

「私が相手なんかでごめんなさい、ごめんなさい……」

「……お姉さんは、悪くないの…、だから、謝らないで。」
「…大人気ない姿を見せてしまいましたね、ひとりが怖くなったら私を呼んでください…、とても忙しい場合以外は、すぐに行きますから。」
「……うん、わかったよ」


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