ダーク・ファンタジー小説
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- この世界で生きていくことが
- 日時: 2025/02/04 10:56
- 名前: あいく (ID: evp0hpRa)
毎日同じことの繰り返しだ。
午前五時に起床する。着替えを済ませてホールへ向かう。
そこには運動場より広いホールいっぱいに敷き詰められた机。精密な計算によって導き出されたであろう朝食。朝食を食べ終わると実験室に向かう。
ここは、能力持ちの子供を保護するという名目で建てられた非人道的な実験施設。
本来だったら、私たちはここにいないはずだった。
私たちがここに来る前までは、父上と母上と兄と一緒に暮らしていた。幸せだった。
父上は獣族の末裔の一人。王国でも有名な剣士。紅の髪。龍のようにとがった人耳と、頭に生えた猫耳に、整った顔立ち。青い目は澄んでいて、きれいだった。母上は、この人間の王国、『リアス王国』の王族。きれいな青色の髪、凛とした美し顔立ち。金色の瞳に、落ち着いた所作。そして、母上は王族との縁は切れていた。両親に結婚を反対され、駆け落ちしたらしい。そんな二人から生まれたのが私の兄、「龍葉」と私、「あいづ」だ。
龍葉は優しかった。よく笑って、私のことを大切にしてくれた。
龍葉は、母上によく似た髪色をしていて、母上と父上の両方の瞳の色をもちあわせていた。
そして、幼いころから大人も見ほれるくらい美しい顔立ちをしていた。
私はというと、父上と母上の髪色を合わせた淡い紫色で、父上とおそろいの猫耳。母上と同じ色の瞳。
充実していた。毎日が楽しかった。
でも、日常は簡単に壊れてしまう。
ある日、私たちは庭で遊んでいた。そこで、急に龍葉の手で触ったものが、凍ってしまった。私たちは混乱していた。私は、龍葉を守らなくちゃと思って、龍葉の手を握った時、私の手からは、毒があふれ出た。
そのせいで、龍葉は手に傷を負ってしまった。
この時、初めて二人とも能力に目覚めた。この世界で能力に目覚める者たちは少ない。母上や父上は能力を持っていなかった。だが、突然私たちに能力が目覚めてしまったんだ。龍葉はそれ以来両手に手袋をするようになり、能力を抑える特訓をした。
それに私も参加した。龍葉は私がしてしまったことを許してくれた。
わざとやったわけじゃないって、理解してくれたんだ。本当にやさしい。
しかし、事件はここからだった。
ある時、見知らぬ人が訪ねてきたんだ。
そいつは、急に母上に襲い掛かり、母上を刺殺し、怒り狂った父上は、その訪問者を刺殺した。父上は、私たちを守ってくれた。
しかし、母上の訃報に悲しむ時間すらなく、父上は訪問者の裏で糸を引いていた人物によって、殺人の罪を着せられてしまう。
正当防衛だといっても、聞く耳を持ってくれなかった。
そして、父上は裁判で死刑が言い渡され、即刻殺された。残された私たちは、保護施設の使者を名乗る者たちに連れていかれ、ここにきた。
ここには私たち以外の能力者の子供たちがいる。
能力の強さによってランク付けされていて、私はS。龍葉S+。
思えば、私は小さくてよくわからなかったが、龍葉は何考えていたんだろう。
復讐心とか、あるのかな?
今の私には、ちょっとばかり復讐心がある。
あの幸せを突然壊されて、怒らないわけがない。
ある日、実験の時間になり、その日は合同実験の日だった。
同じ階級の子と一緒に実験をするんだ。どんなこなんだろう。
「おい、一一〇八。こっちだ。はいれ」
『一一〇八』というのは研究所内での私の名前だ。ほかの子もこうやって番号で呼ばれている。
「もう一人の被検体が来るまで少し待ってろ」
「…はい、わかりました」
実験室内の椅子に座らされてまたされている。そして、まず疑問が浮くだろう。自分たちの持っている能力で研究者たちを倒せばいいじゃないかという。
それはできない。
研究所に入るとき、被検体たちには全員首輪がつけられる。
この首輪は、能力を研究者たちにだけ発動できないという首輪だ。
能力による反乱を防ぐためらしい。
そうこうしているうちにもう一人の子が入ってきた。
その子はとても見覚えのある子だった。
「ゆづと…!」
そう、『ゆづと』だったのだ。
ゆづとはいとこだ。小さいころ、よく遊んだ。
「…あいづ…⁉」
ゆづとは驚いた様子でこっちを見てきている。
「おい、無駄口をたたくな。さっさと実験始めるぞ」
研究者は私たちの腕を強くつかんで引っ張った。痛い…。
———実験終了後
実験室から、自室に帰る途中、ゆづととあった。
「ゆづと…なんでここにいるの」
「それはこっちのセリフだよ。なんでこの施設に…?」
「私は…」
「龍葉も、連れてこられたったの…?」
「うん…」
「俺は急に男の人たちが数名家に来て、両親を二人とも殺して、ぼくをここにつれてきたんだ」
「…ひどい…」
「あいづたちは…?」
「私たちは…」
私はここに連れてこられた経緯を話した。
「そんなことが…」
「龍葉は、私たちよりも上の階級、S+だから、ずっと話せてないの。私たちの階級の実験でこんなにきついのに…さらに上の階級の実験なんて、もとひどいだろうに…私が…龍葉を守らなきゃいけないのに…」
「そういえば、こんど集会があるみたいだから、その時会えるんじゃない?」
「…!その手があったか!」
「いつだったっけな…明後日だった気がする…」
「そのとき、龍葉に会えるか試してみよう」
「うん、そうしよう」
そして私たちは解散した。
自室に戻って、すこしかんがえた。
もし、この施設から脱出できるなら…
したいな…って。
———集会当日
ついに今日は集会当日だ。
集会では、ホールに全階級の子供たちが集められて、いろいろ検査が行われる。
そこでまずはゆづととアイコンタクトをとる。それから龍葉を探し出す。
S+は、ほんとにごく少数だからすぐ見つけられるとおもうんだけれど…。
しばらく探していると、きれいな空色の髪の毛が見えた。目立つオッドアイで、すぐに龍葉だってわかった。
———集会が終わって
私は龍葉が帰る前に急いで引き留めた。
「龍葉…!」
私が龍葉を引き留めると、龍葉は驚いて目を見開いた。
「あいづ…⁉」
「ひさしぶり…、龍葉、大丈夫?元気にしてた?」
「そっちこそ大丈夫だったのか?体調とか影響ないのか?」
「全然。ちょっと大変だけど…」
「っ…この痣は…?」
龍葉は私の腕にある痣を見て少し顔をゆがめた。これは研究員に無理やりつかまれたときにできた痣だ。
「こんなの大丈夫だよ。そんなことより、龍葉の階級の実験のほうがつらいんじゃないの?」
私がそう聞くと、龍葉は目線を少し下に落としていう。
「…そんなことない…。S+は貴重だから丁寧にあつかわれているんだ…」
「そうなんだ、よかったぁ…」
私と龍葉が話していると後ろからゆづとが来た。
「ゆづと…⁉なんでゆづとがこの施設にいるんだ…?」
「いろいろ事情があって…そんなことより、あいづ、話した?」
「あっ、そうだった」
私はゆづと秘密裏に計画していた脱出計画について話した。
「…ってことなんだけど、どうかな?」
龍葉はそれを聞いて顔を険しくした。
「そんな計画じゃだめだ。逃げるのはやめろ。俺がどうにかして二人を逃がすから…」
「なんでこの計画じゃダメなの?」
「この計画じゃあ、成功したときはいいけど、失敗したときのデメリットが大きすぎる。」
「…龍葉がそういうなら…仕方ないけど、また別の方法を考えてくるよ」
「……俺はそろそろ戻らないと…」
「うん、気を付けてね」
「ふたりともな」
そして龍葉は言ってしまった。
龍葉が言ってた『俺が逃がすから』って、どういう事なんだろう?
深く考えすぎないほうがいいかな…。
「私たちもそろそろ戻ろうか…」
「うん、そうだね。」
そして私たちも解散した。
———次の日
いつものように目が覚めて、ご飯を食べに行く。それが終わって、実験の時間になった。いつも通り実験室にむかう。
するとそこにはゆづとがいた。
おかしいな、今日は合同実験じゃないはずなのに…。
そんなことを考えつつ、ゆづとの隣に座る。
「ねぇ、ゆづと、これどういうこと?」
小声でゆづとに聞くと、ゆづとは首を振った。
しばらくそこで待っていると、実験室の扉が開いた。そこには明らかに偉い人が立っていた。白髪の顔にはしわの入った気難しそうな顔をした人だった。
私とゆづとはすぐに挨拶をした。
そのおじさんは私たちを見た。そして
「ふむ、こいつら二人か。一一〇八と〇一一四のふたり…年齢は二人とも十二を超えているのか…。おい、この二人であっているんだな?」
あってる…?何のことを話しているんだろう?
「はい、あっております」
「なら、さっさと片付けろ」
おじさんはそういうと、部下であろう人たちに指示をした。すると、二人係で私とゆづとの腕をつかんだ。
「いたっ…」
「な、なんですか…」
「おとなしく来い。…お前らは運がよかったな。」
研究員が私たちをにらんでそういった。
運がいい…?本当に意味が分からない。
そして、とある装置の上にのせられたかとおもえばいつの間にか、『外』にいた。
———龍葉サイド———
この施設に来て、五年。
当初はあいづを守らなきゃって思っていた。しかし、来て早々階級付けというものがされて、あいづとは離れ離れになった。
それからは苦しい日々が続いた。朝ごはんは徹底的に計算しつくされた完璧な食事。
それが終わると毎度おなじみの実験。
階級ごとに実験が違うらしく、俺の振り分けられたS+は一番ひどい。
確かにそうかもしれない。
腕にできる痣、能力を限界まで使わさせられて、限界が来たら薬で無理やり起こされる。合同実験。それが実施されたときは吐き気を覚えた。
一緒に実験をする子たちは俺の能力についてこれずに、体調不良を訴え、ひどい時には気絶をして数か月目を覚まさなかった。
しかし、この合同実験を通して知り合った子たちとは少し仲良くなれた子もいた。
俺と同い年だった。名前は『さな』というらしい。
その子は他人の命を重んじることができるやさしい子だ。たまに俺の部屋を訪ねてきては、実験でできたけがなどを治療してくれた。彼女の能力は『治癒』だった。
「名前はなんていうの?」
最初は心底警戒した。
ここに来てからというもの、まともなコミュニケーションをとっていなかったものだから当たり前だろう。
警戒して、うまく返事できない俺に、さなはあきらめずに話しかけ続けてくれた。
「今日こそは名前教えて?」
毎日俺の部屋に来て頼んでもいないのに治癒をしてくる。
「…龍葉」
なぜか、その日は答える気になった。
俺が名前を言うと、さなはとてもうれしそうに笑った。
「龍葉君っていうの?いい名前だね」
うれしかった。
他人とのコミュニケーションが楽しいって少しだけだけど思い出すことができて、うれしかった。
それからは少しずつだけど俺も話せるようになっていった。
「好きな食べ物は?」「好きな色は?」「嫌いな物は何?」「得意なことは何?」常に咲奈は俺に対して質問をしてきた。
俺はぽつりぽつりと答えていくだけだったけど、さなはそれでも満足していた。
それに甘えていた。
いつまでもさなが横に勝手に来て、勝手に話しかけてくれるって。
特におれ自身は努力しないで。完全にあまえきっていた。
ある日、さながこなかった。まぁそんな日もあるだろうと次の日も待ったが、その日も来なかった。
不審に思った俺は研究員にそこはかとなく探りを入れてみた。
研究員は、「あぁ、一一一二のことか。」と、さなのことだとわかったようで、さなの担当をしている研究員に聞いてくれた。
俺の担当の研究員は、俺が貴重だからってのもあるだろうが、俺には優しかった。
その研究員が帰ってきて、俺に伝えた内容は「あー、一一一二だっけ?そいつ、ここんとこ気絶してずっと目が覚めていないらしいぞ」だった。
一瞬理解が追い付かなかった。
なんでそんな事態に陥った?
何があった?
誰にやられた?
何が原因だった?
そんな疑問ばかりが浮かんできた。
俺にとって、さなはどんな存在だったのか、あらためて認識できた。
俺が正気でいる為に、必要だった。大切な存在だった。
何か月も一緒にいて、なんで気が付かなかった…。
そして、なんで今になって…。
俺は研究員に原因を聞いた。
「原因?過度な実験が原因だったらしいぞ。一一一二の能力は治癒だったか?その治癒のできる度合いを調べようとして痛めつけすぎたらしい。まぁ、死んでないからいいんじゃね?って言ってたが、さすがにやりすぎだよなぁ~w」
腹が立った。
やりすぎた研究員にも、そしてそれを聞いて平然と笑っていられる研究員にも。気が付けば、俺は自室を抜け出していた。そして、意識がはっきりしたときには、ひどくおびえた様子で俺に命乞いをしているさなの担当の研究員の姿があった。
すぐに俺がやったことなんだって理解できた。
そのあと、その研究員は辞職を選んだ。さなは高度な治療を受けた。
俺は研究員に反乱できないようにする首輪をつけているにもかかわらず反撃できた理由を聞かれたが、何一つとしてわからなかった。
むしろこっちが聞きたかった。
それ以外には、俺には何も言われなかったし、罰も受けなかった。
俺が特別だからだろう。さなは治療を受けた後は回復していくためにリハビリをするようになった。
俺と会う事もなくなった。
そして、ある集会の時に久しぶりにあいづとゆづとと会えた。あいづの腕には少し痣があった。それを発見したとき、あいづを心配させないようにするためにとっさにうそをついてしまった。
丁寧に扱われるだなんて、そんなことありえないのに。
二人はどうやら脱出の計画を立てているようだった。二人の計画は、聞いたことがあるものだった。
俺がこの施設に来たてのとき、同室だった子がそれを計画し、失敗して、ひどいことをされていたのを見たことがある。
俺は慌ててその計画を止めるように言った。
ゆづとのうでにも同じように痣があった。
きっと、つらい思いをしているんだろうか。俺が二人を守らなきゃ。
そう決心した。
次の日、俺はこの施設の責任者に面会をした。
「…何の御用かな?S+のなかでも優秀な〇三三〇君が、この私に何か話でも?」
相変わらず、笑顔が不気味な奴だ。
普段はほかの人の前では笑顔のかけらすら見せない。
本当に嫌気がさす。
「…あいづ…一一〇八と〇一一四を、解放してください」
「…ほう?S階級のガキどもか…どうしてだ?」
「俺の大切な人たちなので」
「ほう?大切な人たちを守りたいという事か。立派なものだな…。よし、いいだろう。要求を呑んでやる。…それで、見返りは何だ?」
…やっぱりきた。
こいつにお願いごとをするときは、見返りをさしだなければならない。
「…逆に、なにがいいですか」
「そうきたか」
にやりと笑って髭に手を当てた。
「それじゃあ、前から言っていることを頼もうか。…〇三三〇…いいや、龍葉。俺の下で働け。俺の仲間になれ。そうすればいいだろう」
「…そんなことでいいなら、いくらでも。その代わり、ちゃんと解放してください」
「もちろんだ。交渉成立だな」
「…」
いいんだ。これで。
あいづとゆづとが助かるなら、俺はどうなってもかまわない。
- Re: この世界で生きていくことが ( No.1 )
- 日時: 2025/02/04 11:00
- 名前: あいく (ID: evp0hpRa)
そして俺はメシア組織の中の小組織の幹部になった。
「龍葉さん、ボスから話があるみたいですよ?」
「…いってみる。伝えてくれてありがとう」
俺は笑わなくなった。
守るべきものは、もう守り果たしたから。
あいづやゆづとのために笑顔で生きなくてもどうでもよくなった。
生きる理由がなくなった。
「失礼します。お話とは何でしょうか」
「おぉ、よく来た。まぁすわれ」
「ありがとうございます」
「…ふう、それで要件なんだが、今度新人たちが入ってくる予定なのは知っているな?」
「はい、もちろんです」
「その新人の中に首席のやつがいる。龍葉、君にはそいつの教育係を務めてもらいたい」
「…教育係、ですか」
「そうだ。どうだ?」
「…ボスの命令とあらば。よろこんで」
あぁ、腹が立つ。
俺が断れないのを知っていて言っている。
断れば、この施設の実験をより厳しくすると脅されている。
俺は、この組織の仲間になるときにある条件を提示した。
一つはあいづとゆづとを逃がし、自由にすること。
もう一つはこの実験施設で行われている実験をもう少し緩くすることだ。
他人とは言えど、俺も昔は同じ立場だったから分かる。
あの実験のつらさが。
こいつにペコペコしなきゃいけないのが、すごくむかつく。
でも、ゆづととあいづが幸せに生きてさえくれれば構わない。
そして俺は部屋を出て、新人たちの集まっているホールへ向かった。
たくさんいるんだな…。
主席はあの先頭のやつか…?
こいつも、子供たちをいたぶりに来たやつらのうちの一人だと考えると、虫唾が走る。
「…首席とは、お前か。」
「えっ、あ、はい!」
明るい茶髪に元気な声。
…こいつ、ここに来るような奴じゃないだろ。絶対性格いいだろ。
「…名前は?」
「えっと、和馬っていいます。」
「なるほど、和馬か。俺は…」
「しっています。龍葉さんでしょう?幹部の」
「なんでしっているんだ…?」
「有名ですよ、美しい幹部がいるって。うわさいじょうですね」
「…お世辞はいい。俺は首席の教育係を任された。龍葉だ。よろしく」
「よろしくお願いします」
それからは教育を毎日していった。
主な業務内容などをみっちり教えた。
そして、毎日会っていてわかる。こ
いつは本当に性格がいい。子供なんて痛めつけないタイプのやつだろう。
でもそれなら何でここに来たんだろか。
ここにいてはいけない奴だ。
「…和馬、なんでここにきたんだ。なんでここの研究員になろうと思ったんだ」
「えっ…うーん、龍葉さんの過去は聞き及んでいます。この施設の被検体だったとか。それも、最高クラスの被検体だったと。」
「そんなことを聞いているんじゃない。」
「あっ、すみません、こんな話嫌でしたよね。…龍葉さんは、この研究員や、この施設のことをどうお思いですか」
「…だいっきらいにきまっている。」
「では、なんで龍葉さんこそここで?もともとは被検体だったのに、なぜですか」
「…この施設のボス、ルージュに俺が被検体だったころから俺のもとにこいと言われていた。俺の力は逸材らしい。自分でもわかっていないが…。そこで、妹といとこを自由にする代わりにお前の要求を呑むといったんだ。そのとき条件として実験をやさしめにしてもらった。だから、俺が逆らうと子供たちがつらい目に合う。」
「そんなことが…。話してくれてありがとうございます。次は僕の番ですね。僕はこの施設を壊すために来ました。」
驚きの一言に一瞬固まってしまった。
なんだって?壊しに来たって?
こいつのそんなことができるのか?
いや、そんなことどうでもいい。
壊すっていっているなら、散弾があるという事だ。そして、壊せる自信があるという事だ。
それができるなら、どんなに…
「どうしたんですか?龍葉さん」
「…いや、なんでもない。壊しに来たっていうと…?」
「…ボスのルージュを暗殺し、この施設を破壊します。もちろん子供たちは保護します。」
「なるほどな…」
「龍葉さんは、初めから僕が別の目的で来たって、わかってたんじゃないですか?」
「…正直なことを言うと、こいつはこんなところに好んでくるような奴じゃないなとは思ってた。」
「あはは…かなわないや…」
「…暗殺と言っても、一筋縄でいくのか?」
「…僕は、頑張って努力し、主席に上り詰めました。この理由がわかりますか。」
「…俺か。」
「はい、そうです。」
確かに、俺の過去を知っていた点は少し気になった。
まるで、俺に会うのを図っていたように。
「…策士だな。お前も、お前の後ろで糸を引いているやつも。」
「あはは、そこまでばれてましたか…。首席ではいることで、教育係はルージュのお気に入りの優秀な方が務めるだろうと考えました。そこで、噂になっていた龍葉さんを知ったんです。」
「なるほどな。俺に協力してほしいってことか。」
「はい、そうです。」
「もし俺がだめだって言ったら、どうするつもりだったんだ?」
「自分でどうにかするつもりでした。」
「…仕方ない、手を貸さない理由がないから、その計画に乗ろう。」
「ほんとですか!ありがとうございます!」
「計画は…」
ビーーッビーーッ
「な、なんでしょうか」
「これは侵入者のアラートだ。」
「し、侵入者ですか⁉」
「いくぞ」
「は、はい」
このタイミングで侵入者?
和馬の仲間か?
いや、和馬の驚き方を見る感じ、それはない。
じゃあなんだ?
人がたくさん集まっているところへむかう。
「あっ!!龍葉さん!」
「幹部の龍葉さんが来たぞ!」
「何があった?」
「そ、それが…モニターを見てください。」
モニターを見るとそこには研究所各所につけられていた監視カメラの映像が映っていた。通路カメラに写っていたのはまぎれもなくあいづとゆづとだった。
「あいづ…ゆづと…⁉」
俺は驚いてそこへ向かった。
「あっ、龍葉っ…」
「龍葉!!」
「な、なんでここにきたッ‼せっかく…逃げられたのに、なんで戻ってきたんだ…ッ」
「私たちだけで逃げるなんてできないよ」
「龍葉はまだ施設にとらわれたままだったから、たすけにきたんだ」
「だめだ…俺が逃げると…子供たちが…」
どうすればいいんだ。
いや、することは決まっている。
ほかの研究員が来る前にゆづととあいづを送り返す。
これしかないだろう
本当は一緒にいたい。幸せに暮らしたい。
でも、むりなんだ。
あきらめて、送りかえそうとしていると、俺の肩を誰かがつかんだ。
「龍葉さん…なにしてるんですか」
「…なにも、送り返そうとしているだけだ。」
「なっ…龍葉!」
「逃げようよ、一緒に!!」
「無理なんだ…俺は幹部になった。お前らの敵だ。もうかかわるな」
「ッ…龍葉さん‼ダメです、やめてください。」
「でも…」
「ダメです、このお二人を送り返さないでください。」
「俺はここからは逃げられないんだって…」
「僕にいい案があります。」
「案…?」
「いいから、その手を下ろしてください」
俺はゆっくりと術を発動しようとしていた腕を下ろした。
そして隠れながら和馬の案というものを聞いた。
「まず僕はここをつぶそうと考えているんです。龍葉さんに手伝ってもらう予定でしたが、あいづさんとゆづとさんでしたっけ、お二人にもお手伝いをお願いしたいんです。」
「え、えっと…つまり、龍葉も、和馬さんも敵じゃないってこと?」
「…そうだ」
「龍葉が無事でよかった…」
「怒ってるんだからね。自分を犠牲にして俺たちを逃がしたこと」
「ご、ごめん…」
「アハハッ、なんか謝ってる龍葉さんって新鮮でいいなぁ」
「…おい」
「まぁまぁ、冗談はこのくらいにして、早速やりますか。反乱」
「毒を散布して研究員たちを眠らせる。」
「俺は子供たちを外に逃がす。」
「僕と龍葉さんはルージュを叩きましょう」
「わかった。」
そして俺たちは計画通りに動いた。
あいづの毒の散布で研究員たちは倒れていった。
ゆづとは自前の羽をつかって子供たちをどんどん救出していった。
俺と和馬は急いでルージュの部屋へ向かう。
バンッ
「ルージュ‼」
ルージュは机に座ってにやにやしながらこっちを見ている。
「ようやくきたか。龍葉、そしてスパイくん」
「…その様子だと、なんとなく察していたところでしょうか。」
「終わりだ。ルージュ。」
「はぁ…まさか一一〇八と〇一一四がもどってくるとはな…予想外だ。あいつらが来なければ勝算があったが、あいつらが来たのならもう勝てないな。」
「…ルージュ。」
「なんだ、龍葉」
「くそやろうが。」
「はっ、なんとでもいえ。」
「…受け入れているのか?殺されるのを」
「受け入れている?…そうともいうのだろうか。」
「龍葉さんは、手を汚さないで下さい。」
「…すまない、和馬」
「大丈夫ですよ。僕はこういう任務を何回もこなしてきましたから。…こいつと同じく、僕の手は汚れています。でも、僕は正義によって汚れたものだと考えています。誰がなんて言おうと、汚れているのに変わりはないのに…かっこわるいですよね」
「いいや、かっこいいよ」
そして、和馬は何とも言えない表情で、ルージュの首をはねた。
「…お疲れ様です。施設を燃やしましょう」
「…あぁ」
あっさり終わった。
逃げ出せるのに胸はすっきりとしなかった。
せいせいしているはずなのに…。
わからない。でもいい。
おれはこれであいづとゆづと幸せに暮らせるんだから。
俺は施設に向かって稲妻を放った。
みるみる燃えていく施設。
「…龍葉さん、本当にありがとうございました。」
「…べつに。俺のためにやったことでもある…。」
「…そうですか。…提案なのですが、僕の組織に来ませんか?」
「和馬のいる組織…?」
「はい、龍葉さんの実力は、規格外です。組織に加わっていただければありがたいです。」
「…それだけか?」
「…龍葉さんに本当に何でもお見通しなんですね」
「なんでもってわけじゃない。俺が勘づいたのはもう一つの目的があるってことだけだ。その目的まではわからない。」
「それでも、勘づいただけすごいですよ」
和馬は、はにかんで笑った。
「目的は、教えてくれるのか?」
「…僕がどんな目的で誘ったとしても、僕のことを嫌わないでくれますか。」
「約束する。」
「…では初めに、龍葉さんは僕がこんな汚れ仕事をしていることに関してどう思いますか?いくら正義のためといえど、人殺しに変わりはないです。僕に気を遣わずに、正直にお答えください。」
「…」
正直、あまりいいものとは思えないのが本当なところだが、不思議と、嫌な感じはしなかった。
「自分の正義を信じてその仕事をしているのがうらやましい。」
俺には、できないことだった。
これは本音だ。
自分の正義…力を信じてあいづとゆづとを助けることができなかった。
結果、自分を犠牲にする道を選んで、一人で無様に苦しんでいた。
結局、一人では何もできないことを思い知らされた。
いい経験になった。
だから和馬には感謝している。どれだけ俺が子供だったかを。
見た目だけ無駄に育った、ガキだという事をわからせてくれた。
俺の答えを聞いて、和馬はうれしそうに笑った。
「やっぱり、龍葉さんはいい人です。」
「…そうか」
「……好きだからです。」
和馬はそう言った。
「好き、?」
「はい、先ほどの答えを聞いて確信しました。ルージュを殺した時の言葉、ものすごくうれしかったんです。自分のやっていることを否定しないでくれた。理解して、うらやましいとまで言ってくれた。そんな龍葉さんが好きだからです。」
「…そうか、ありがとう。俺は恵まれてるな。…その気持ちはうれしい。受け取る。でも、組織には行けない。俺には守らなきゃいけないものがあるから、代わりにお願いを聞いてくれないか?」
「…何でも聞きましょう。龍葉さんの頼みなら」
「ありがとう。この子供たちを和馬のいる組織で保護してくれないか?」
「それは、もちろんします。」
「それと、子供たちが能力を誤った使い方をしないように教育してやってくれ。」
「そんなことでいいんですか…。そんなこといくらでもします。龍葉さんの頼みならば、さらに高度な教育を施しましょう。」
「和馬、本当にありがとう。」
「…いいえ。」
不思議なもんだ。和馬と一緒にいた時間は、ほんの数か月なのに和馬はこれ以上ないくらいに俺のことを信頼してくれているし、慕ってくれてもいる。
「これからは、どうしていくんですか。」
「…俺は俺たちの両親をはめ、俺たちをあの施設送りにし、幸せを壊した奴らを探し出して、一矢報いようと思う。」
「…そうですか。何かあったら連絡をください。その時はいつでもお力になります。」
「…そうしてくれると助かる」
「では、僕はここで失礼します。子供たちを組織に送らないといけないですし、組織に報告をしなければなので。」
「…そうか、じゃあ、また今度どこかで会えたらそん時は話そう。」
「そちらからそう言ってくれてうれしいです。がんばってください」
「そっちもな」
俺がそういうと、和馬は少し名残をしそうに笑った。そして、ゆづとが助け出した子供たちのいるほうへ歩き出した。
そこでふと思い出した。
助け出した子供たちってことは、そのなかにさながいるんじゃないか?俺は急いでゆづとのところへ向かった。和馬よりも先に。
「ゆづと…!」
「あ、龍葉。どうしたの?」
「さな…さなはいないか?俺と同い年の…」
「さな…?おーい、さなちゃんー?いる?」
ゆづとは子供たちの列に問いかけたが返事は帰ってこなかった。
俺は慌てて子供たちをかき分けて探した。
俺と同じくらいの年だからすぐにわかるはずだ。薄いクリーム色のかみに、頭の少し上のほうでゆんだ短いポニーテール。緑の瞳に、明るく笑う子。
いくら探してもいなかった。
ゆづとに特徴を伝えて、子供たちを救出するときにいなかったか聞いた。しかし、何回聞いてもそんな子はいなかった。しか返ってこなかった。
そんな…それならどこにいたんだ?
ふと、嫌なことが頭によぎった。
この子供たちの中にはS+の階級の子たちはいても、俺と同い年の子はいないんだ。
俺は途中で組織の幹部になったからS+クラスを抜け出せたが、普通ならまだいる子はいるはずだった。
でも、どこにもいない。
例えば、S+はある一定の年齢に達したら組織の人間になるってことがあったらどうだろう。組織側からしたら俺は貴重だったから、反乱を起こされる前に組織に取り入れたいところだろう。結果、俺は予定よりも早く組織の人間になった。俺が組織の人間になったのは十三歳のときだ。
S+クラスだけが、異様に実験内容が過酷な理由、S+クラスが優遇される理由。
S+クラスは優秀だ。
それが、ある一定の年齢になったら組織の人間にするから。だったらどうだ?
全部納得がいくじゃないか…。
その一定の年齢というのが十五歳だった場合、俺が今十六歳。という事は、俺と同い年だったS+クラスの子たちは、この組織の人間になっている…。そして俺たちは今、その組織の人間たちを全員眠らせて、ルージュを殺した後、その施設に炎を放った。急いで施設を見ると、跡形もなく燃え尽きてた。
俺は全身に冷や汗をかいた。
もし俺の仮説が正しいなら…さなは、あの中にいたってことだ。
俺は、さなを
殺したってことだ。
「ゔッ…ゴホッ…‼」
「りゅ、龍葉?」
「ちょっと…ごめん…」
「あー、龍葉にゆづとじゃん!」
「あいづ…」
「どうしたの?龍葉、顔色悪いよ?」
「…なんでもない…」
「…私たちをあの時逃がしてくれたのは感謝してる。でも、今後自分を犠牲にするような真似したら、許さないから。わかった?」
あいづは、少しおこっているような口調で俺にそう言った。
「え…う、うん…」
「それと、何か悩みがあるならすぐに言って。心配なの。今度は、私が龍葉を守りたい。お願いだから一人で抱え込まないで」
「…そうか…ありがとう…ありがとう、あいづ…っ」
「ちょっと?俺忘れられちゃ困るんだけど」
「あぁ、ゆづともな」
「龍葉、これからどうするの?」
「もちろん、俺たち家族の幸せを奪った奴らを探し出して、倒すなり捕まえるなりしてやる」
「…わかった。三人で、頑張ろう」
「うん!」
- Re: この世界で生きていくことが ( No.2 )
- 日時: 2025/02/04 11:02
- 名前: あいく (ID: evp0hpRa)
———二か月——
「龍葉―!」
「なんだよ…朝から元気だな…」
俺たちは和馬からもらった資金でアパートに住んでいた。俺たちがもともと暮らしていた家は組織のやつらによって取り壊されていた。
「アパートの前に、変な人がいるの。ゆづとは今ベランダで見張ってる」
「…わかった。ゆづととあいづはこの部屋で待ってろ。俺がいってくる」
「でも…」
「俺のことをなめんな。大丈夫だから」
俺はそう言ってあいづの頭を撫でた。
そして玄関を出て、階段を下りて、その『怪しい奴』のところまで向かった。
サングラスに、黒いスーツを着た男が三人。一番後ろには白いフードをかぶった怪しい奴もいた。
「すみません、ここに何か用でも?」
「…その瞳と髪色…龍葉さんですね」
「…なんで俺の名前を知っている?」
「そんなことはどうでもいいでしょう。とりあえず、こちらの要件をお話しします」
「…なんだ」
「単刀直入に言います。龍葉さん、我々の組織に戻ってきてください。」
「…戻るも何も、俺はもともとあんたらの組織の仲間だった覚えはない。…断ったら、どうする?」
「断ったらですか…残念ですが、その選択肢はないと思いますよ」
男はにやりと笑った。
嫌な予感がしてあたりを見渡すと、さっきまでいた白いフードのやつがいなくなっていることに気が付いた。
そしてアパートのほうから悲鳴が聞こえてきた。
俺は慌ててアパートに戻る。
部屋に戻ると、フードのやつがあいづとゆづとの首根っこを持って二人にナイフを突きつけていた。
「なにをしている…お前…」
俺がそいつをにらむと一瞬びくっと肩を震わせたがナイフは降ろさなかった。
普段だったらこんなやつ一瞬で片付く。
が、あいづとゆづとは人質に取られている以上、うかつには動けない。
「くっそ…悪趣味な奴らめ」
「今までの傾向で、あなたの弱点はこの二人だという事がわかりました。どうしますか?我々の仲間になるか、この二人に死んでもらうか。」
「…俺が仲間になったら、二人は解放するか?」
「どうしましょうか…お二人も一応優秀ですし、ついでに二人も仲間になっていただくことも可能ですが…そうなると、龍葉さんに何をされるかわからなので、手を引きます。」
「…くそ…約束は守れ。もし、約束を破ったことがわかったら、お前らの組織をつぶす。」
「…もちろんでございます。ご理解いただけて幸いです」
「…おい、おろせ。解放していいぞ」
もう一人の男が白フードのやつに命令すると、あいづとゆづとに突きつけていたナイフを下ろして、気絶している二人を優しく寝かせた。
少し違和感を覚えたが、敵なことに変わりはない。
また二人だけにしてしまうが…今回は俺の警戒が足りていなかった…。
悔しいが、こいつらの罠にはめられた。
組織の施設につく。
研究所とは違って、しっかりしているが、ここには俺たちの幸せを壊した奴らはいないだろう。
まず、そいつらを『殺そう』としている俺を射る場所には連れてこないだろうし。
部屋に入ると、組織できる服が渡された。
そしてしばらくすると、部屋にさっきのやつらと少し偉そうなやつが入ってきた。
中にはさっきの白フードもいた。
そして偉そうなやつが話し始めた。
「いやぁ、研究所では弟がお世話になった」
「…弟?ルージュのことか?」
「はい、そうです。私はあいつの姉。レイラだ。あの愚弟がしくじったため、私がしりぬぐいをせねばならないなんて…侮辱も甚だしい。」
仲が良くないんだろうか…。
「まぁ、この度は仲間になっていただき光栄だ。それから、今後そこのものが龍葉さんに付くものになっている。監視ではないから安心しろ。召使みたいなものだと思ってくれればいい」
「召使…」
レイラはそう言って白いフードのやつを指さした。
白いフードのやつは前に出て俺に向かって礼をした。
「よろしくお願いします…」
「…まぁ、二人で仲良くやれ。」
「…まて。俺は何をすればいいんだ?組織に連れてくるだけ連れてこられて。」
「何、お前は貴重な存在。我々の組織にいるというだけで、圧倒的に勢力が上がる。他組織に負けることはないというだけだ」
そうしてレイラたちは下っ端と一緒に出ていった。
「…お前、名前は」
俺はフードのやつに聞いた。
声からして女だろうか。俺におびえている。
さっきにらんだからか?でも、それだけでこんな悪逆っ非道な組織にいるやつがびびるか?まぁいい。
「…一一一二…」
ぼそっと言った。
聞きにくかった。
嘘だと思った。
「…もう一回…」
「…一一一二、です」
聞き間違いじゃなかった。
「さな…?」
俺はそう聞いた。
フードのやつがはっと顔を上げた。
「な、ひとちがいじゃ…」
「…番号、さなの番号は一一一二だ。」
「…龍葉、くん…ッ、私、ずっとお礼を言いたかったの…たすけてくれてありがとう。ありがとう…ッ」
さなはフードを下ろして俺に飛びついてきた。
殺してしまったと後悔していた。
でも実際は生きていた。
さなはリハビリ後、こっちの組織の仲間になっていたのか…。
よかった、殺してなくて…よかった…。
心底安心した。
「無事だったのか…」
「…なんか、不思議な感じだなぁ。大人になった龍葉君、あの時とは別人で、話しかけても返してくれるし、心配もしてくれるし、優しいし…かっこよくなったし…」
「そ、そうか…?とりあえず、無事でよかった…」
「隠すつもりだったんだけどな…こんな組織の仲間になって、最低なことをしている私なんて、知られたくなかったよ…」
「大丈夫だ。俺が助け出す。だから、大丈夫だ」
「り、龍葉君…?なんでそんなに私のこと…?」
「そ、それは…俺にもわからない…なんなんだろう…さなのことになると、あたまがまっしろになって…」
「…アハハ、私と同じだ。それって、恋っていうんだよ。私は、龍葉君が好きだよ?私がベットで起きたとき、助けてくれたのが龍葉君だって知って、すごくうれしくて、その時からかな」
さなはくすっと笑って見せた。
言っている意味が分からなかった。
恋?
恋をしているのか?俺が?さなに?
そう分かった瞬間、顔に熱がこもるのがわかった。
「…と、とりあえず、絶対ここから逃げ出そう。」
「…ありがとう、龍葉君。また助けられちゃうや。」
———数週間後——
そろそろ帰らないと、あいづとゆづとが心配する。さらには二人ならここに乗り込んでくるかもしれない。
そんな危ないことはさせられない。
「…ちょっといいか」
俺は通りすがりの組員に話しかけた。
「はい、何でしょう」
「…レイラに会うには、どうしたらいい」
「レイラ様…ですか?面会の時間を撮れるよう、伝えましょうか」
「…たのんだ」
「龍葉様、お待たせしました。一一一二、準備完了です。」
「…わかった。レイラとの面会ができるかもしれない。」
「そうですか…ついにですか…」
さなは少し緊張交じりのため息をついた。
「大丈夫、俺が守る。」
「ありがとう…龍葉君」
「龍葉様、レイラ様との面会が可能ですが、いたしますか?」
「もちろんだ。感謝する。」
俺たちはレイラのいる部屋に向かった。
部屋に入るとレイラは椅子に座っていた。
「何用か」
「…俺たちそろそろ帰ろうと思うんですが、どうでしょうか。だめですか」
「…そんなことを考えていたのか?」
「もちろんですよ。このままではあいづとゆづとは俺を取り返しに乗り込んできます。そんな危ないことはさせられません」
「…おとなしく返すと思うかい?」
「返してくれたらうれしいですね。」
「返さないって知ってるくせに、面白い。龍葉、あんたの実力を測らせてもらうよ。これでも一応、S+に匹敵する能力者なんでね。私も」
「そうですか、かてるかな」
「龍葉君、援護なら任せて」
「へぇ?寝返ったか、一一一二」
「…あなたのやり方にはうんざりしていた所ですので」
「なるほど…ではこっちを先につぶすとするか…」
そういうと、レイラは自分の能力である炎をさなに向かって放った。
その炎は見る見るうちに空気中の酸素を取り込んで大きくなり、龍の形にへと変化した。
「ッ…」
さなには戦闘系の能力がない。
俺が守らないとやばい。
「さな‼」
「アハハッ、お荷物抱えてちゃぁ、さすがの最強さんも難しいかしら!」
「くっそ…」
「龍葉君‼うしろっ…」
「っえ…」
気が付くと、後ろには炎でできた大剣を持って迫ってきているレイラの姿があった。
よけられない…さなにきをとられててきづかなかった…。
いくら能力がつよくても、俺とレイラじゃ、実戦の経験の差がありすぎる…。
やばい…っ
血は出なかった。
いたくなかった。
俺に攻撃は当たっていなかった。
後ろを向いた時には、薄いクリーム色の髪が目に入った。
俺は一瞬で理解した。
さながおれをかばった。
さなは、おれを……
さなの胸には大剣が刺さっていた。突き抜けていた。
「うわぁぁぁぁぁッッ…‼」
俺は我を忘れて能力を連発した。
レイラがぼろぼろになって、朽ち果てるまで。何度も何度も。
「ッ…はぁはぁ…」
気が付いた時には、あたり一面も得ていて、ぼろぼろになっていた。
レイラは息絶え、俺の腕の中には、かすかに息をしているさな。
「さな…さな…なんで…自分の身だけ守ってればよかったのに…」
「…ッ…はぁ…龍葉君?けが、してない?わたしが、なおすから…大丈夫…だよ…」
「そんなこと言ってる場合か、自分の治療をしろ‼」
「…もうこれは…手遅れだよ…」
さなはそういって苦しそうに笑った。
「なんで俺を…」
「だって、好きなんだもん。大切なんだもん。死んでほしくなかったんだもん…」
「…大丈夫、深呼吸すれば…きっと助かるから、あきらめるな…ッ」
俺は傷口を氷で冷やし続けた。
死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな。
死なないでくれ。
「俺を一人にしないで…」
「龍葉君は…一人じゃないでしょう?あいづちゃん…ゆづとくん…守らなきゃいけない人がいるじゃん…私なんて、心配しなくていいんだよ…」
「そんなことない…さなは…おれにとってあいづやゆづとと同じくらい大切なんだ…。たのむ…」
「あはは…うれしいなぁ…両思いだったんだ…」
さなは少しうれしそうに笑った。
「…ねぇ、龍葉君、…すきだよ。生まれ変わったら、また見つけて…」
「…ッ、俺も、俺も好きだ…だから…だから、死ぬな……そんなこと言うな…大丈夫だ、いきれる。さな…お前は助かるから…………」
俺は絶望した。
もうさなはうごかなかった。
脈も止まっていた。
手も、ピクリとも動かない。
結局俺は、いつだって奪われるのか?
幸せも、好きな人も。
俺はさなを床に寝かせた。
俺の来ていた上着を上からかけて、俺は施設を出た。
そして、まだ人がいる組織の施設に、火を放った。
この景色、知っている。
胸糞が悪い。
吐きそうだ。
俺はおぼつかない足取りで自分の家へ向かった。こんな簡単に人は死ぬんだとわからされた。
こんなにも、あっけなく…。
俺は決めた。裏で糸を引いている組織を絶対に許さない。
あいづやゆづとのためにも、絶対に倒す。
家に帰ると、あいづとゆづとがなきながら出迎えてくれた。やはり、俺の救出作戦を練っていた所だったらしい。
おれはさなのことは言わなかった。
俺の心の中だけにとどめておこう。
「龍葉ぁッ‼ごめんなさい…私に力がなかったから…ごめんなさい…」
「あいづ…大丈夫だよ。そんなことない」
「俺も…力不足だった…」
「二人ともそんなに落ち込まないで。俺は、なかなかくたばらないから。あと、二人は仏の人に比べたらかなり優秀で強いんだ。自信を持て。」
俺はそう言って二人の頭を撫でた。
二人ともうれしそうに顔を輝かせた。
「だけど、能力が優秀で強いのは本当だが、それはあくまでも『能力』だ。これは、使い方次第では強力な武器になる。俺は二人よりも高度な実験を受け、組織の人間になってからも特訓をしていた。だからいまこうして使いこなすことができている」
「な、なるほど…」
「私たちも頑張れば、おにっ……龍葉みたいになれるってこと?」
「…俺みたいには、ならないほうがいい。あとに戻れなくなる…。それと、お兄ちゃんって呼んでもいいんだぞ?」
「で、でも…わたしは、龍葉を守ることができなかった…。お兄ちゃんだなんて、呼ぶ資格ないよ…」
「はぁ…そんなことかんがえてたのか…」
「ごめんなさ…」
「いや、謝らなくていい。むしろこっちが謝らなきゃ。」
「なんで…」
「そんな風に思わせてしまってたことに気が付かなくってごめん。お兄ちゃんなのに、妹の気遣いができてなかった。それに、妹なんだから、お兄ちゃんを守るんじゃなくて、守られてもいいんだぞ?」
「ッ……おにい、ちゃんッ…ごめんなさい、ありがとう…」
「ちょっと、二人とも。俺の存在忘れないでくれる?」
「ゆ、ゆづと…ごめん」
「仕方ないなぁ、二人のイチャイチャは昔からだったもんね。もう慣れたもんだよ」
ゆづとはやれやれと笑って見せた。
自分より年下の…しかも弟のような存在のやつにこんな風に笑われる時が来るとは…。
「い、いちゃいちゃって…」
あいづは恥ずかしそうにほほを赤らめている。そうだよな、年頃の女の子って、兄のこととか嫌いだもんな。仕方ないか。
「そうだぞ、ゆづと。俺たちは今までもそんなことをしてきたことはなかった。」
俺がそういうとゆづとはため息をついた。
「龍葉って、天然なところあるよね。」
「え…そんなところないぞ…?」
「天然たらしに無自覚に乙女心を傷つけマシーン…」
「さっきから何のことを言ってるんだ…」
「お兄ちゃんのバカ」
「え⁉あいづまで⁉」
「これは龍葉が悪いな」
二人はあきれたような顔で俺のことを見ていた。俺が何をしたっていうんだ…。
まぁでも、こんなやり取りはいつぶりだろう。なつかしいな。
「ッ…あれ?」
急に視界が揺らぎ始めた。
今までになかった感覚。
胸が苦しくなって、頭が割れるように痛い。のどが渇き、焦点が合わなくなる。
徐々に視界の幅が狭まっていく。
だめかもしれない…、これ。
「なんだ、これ…」
視界が横に傾いたとたん、何も見えなくなった。遠くで俺の名前を呼んでいる。
誰だ。
誰が俺の名前を呼んでる?
どうでもいい。
今は、疲れた。
「…あれ…」
気が付いた時には、ベットの上だった。
- Re: この世界で生きていくことが ( No.3 )
- 日時: 2025/02/04 11:05
- 名前: あいく (ID: evp0hpRa)
横には、俺の寝ていたベットに座りながら寝落ちしているゆづととあいづがいた。
「あぁ…あの時、俺倒れて…」
まだ頭が少し痛む。目もちかちかする。
あいづとゆづとで運んできてくれたんだろうか…。
申し訳ないな…。
でもなんで急にこんな……。
…あぁ、そういうことか。
「…はぁ…」
俺はあいづとゆづとを起こさないようにベットから降りる。
キッチンで料理を作る。
お湯を沸かしている間、椅子に座ってぼーっとした。
さっきのめまいが少し残っている。
ふと写真が目に入った。
俺と、あいづと、ゆづとの幼いころに撮った、三人のピクニックの写真だ。
俺はそれを手に取った。
「…。ゆづと、あいづ……さな…」
その写真盾を元に戻し、俺は再び料理をする。
料理を温めて、まだ時間がかかる。
ベランダに出て、ひんやりとした空気に一瞬身を震わせる。
でもすぐに慣れて、口からこぼれる白い息も、自分の目に見えるくらいなった。
見えるのは、ほのかに光のともる街並み。人通りの多い商店街。宝石店に入っていくカップル。ご飯屋さんから飛び切りの笑顔で出てくる子供とその家族。友達とカラオケに入ってく高校生。
本来だったら、俺もあそこに入れたのかな。なんて。
己の性にあらがおうとするほど、俺はおろかじゃない。
でも、こういう時くらい、妄想してもいいんじゃないか。
もし、俺の生まれる環境が少しでも違かったら。さなの生まれる環境が少しでも違かったのなら、もっと違う形で出会って、違う生き方をできていたんじゃないか。
もっと、幸せに過ごせたんじゃないかって。いつ、どこで何を考えても、さなの最後の顔が目に焼き付いて離れない。
いかないで、きえないで。
施設内で、どんどん人間の心をなくしていっていた俺に、少しでも明かりをともして、俺に「好き」を教えてくれた。引き留めた。わかってた。
俺にかかわる人は、こうなるのが運命なのか?母さんも、父さんも。
ゆづとの家族も、ゆづともあいづも。
さなも。
和馬とは、あそこで別れて正解だった。
誘いを断って正解だった。
正直、好きって自覚したのは最後の一瞬だった。でも、それ以前からこの気持ちがあったのは確かだ。
それが何かわからなかっただけで。
だから、逝かないでほしかった。
もし俺に能力がなかったら。
さなに能力がなかったら。
涙を流させてよ。
「ゴホッ……」
肺が重い。
指先から凍っていく感覚。
多分、俺が何を言っても聞いてくれなかったんだろうな。
俺を置いて行っちゃったんだろうな。
今みたいに。
「…何が復讐だよ…なにが一矢報いるだよ…。こんなんで…どうやってやるんだよ…」
人を殺した。
もう、もどれないってのはわかってる。
火を放って、大切な人を殺された恨みで人を刺殺した。
「ここにいたんだ、お兄ちゃん」
「…あいづ…ごめん、ありがとう。」
「ううん、疲れてたんだよね。」
あいづはベランダに出てきて、俺の横に立った。
「おにいちゃん」
「…大きくなったな。」
「そうでしょ?すぐにお兄ちゃんも追い越すからね」
「それはどうかな。」
「意地悪だなぁ。」
くすっと笑う。母さんによく似ている。
「…あいづ」
「何?」
「復讐したいか?」
「…どうでもいいかな。もちろん、むかつくよ。幸せを壊されて、私たちの幸せを脅かしてきて。でも、私は幸せに暮らせたらそれでいいの。」
「…そうか。ゆづとも、同じ意見かな」
「それはわからない。けど、私はお兄ちゃんについていく」
「ごめんな、俺はろくに二人を守れていない」
「十分守られてるよ。ありがとう、お兄ちゃん。一人にして、ごめん」
「なんで、あいづが謝るんだよ」
「…なんとなく、かな」
「なんとなくか…。なんだかんだ言って、そうなのかもな」
「お兄ちゃん、さなさんのことが好きだったの?」
「なんで知ってるんだ…⁉」
「…やっぱり、そうなんだね…。お兄ちゃんが寝てるとき、寝言で苦しそうに、ずっとそのひとの名前を呼んでたの。聞いちゃったんだよね。そっか…そのひとがお兄ちゃんの好きな人か…。」
「…でも、その人は…」
「言わなくていいよ。お兄ちゃん。」
「…」
「…ほら、体冷えちゃうよ?中に入ろ?」
「あ…あぁ、うん」
俺は部屋に入ろうとした。
「…?あいづは?」
「ちょっと待ってて、すぐ行くから。」
「あぁ、わかった」
俺はキッチンに向かった。料理を温めに。
「さなさん…なんで、なんでお兄ちゃんを一人にしちゃったの?…私が、なりたくても、なれない立場を、あなたは獲得したのに。せっかく……、お兄ちゃんの……。私は、できないことも、あなたならできるのに…お兄ちゃんを支えることが…できたのに…」
「学校?」
「うん、そう。私たち、本当は学校に行っていた年なんだよ?」
「それもそうか…いったほうが、今の社会についても知れるだろうし、いってみる価値はあるか」
「でも、どうやって?」
「ふふん、実は、私たちは高校に在籍していることになっていたの。」
「…?」
「母上と父上が残しておいてくれたみたいなの。」
「父さんと母さんが…」
「もちろん、ゆづとの分もだよ」
「…そうか…なら、いかないとね…」
「そうだね。」
「高校の名前はあい龍高校。連絡は入れてある。明日からはもう行くんだから、買い物に行くよ!必需品の買い物に!」
「げんきだなぁ…」
「まぁ、いくかぁ…」
俺たちは高校へ行くために必要な物を買いに出かけた。
出かけなんて本当にいつぶりだろうか。
「それぞれ持ってるお金で必要なものをそろえるんだよ」
「ういー」
ゆづとは少しだるそうに返事をした。ここからは別行動か。
時間までに買い物を終えて、集合場所に戻る…。
あいづらしい日程だ。
「んー、まずは文房具か…」
「あ、あのッ…」
「?」
急に声をかけられたかと思えば、女性の二人組だった。やたら距離が近いな…。
「どうしたんです?」
「実はぁ…道に迷ってしまてぇ…」
「道…ですか?店員さんにお聞きになればいいのでは?」
「うッ…ちょっと話しかけにくくってぇ・・・」
「なるほど、じゃあ俺が店員差に聞きましょう」
「ま、待ってくださ…」
どうしようか…買い物したいんだけどな…。
そう思っていた時、誰かが俺の腕を握って走っていった。俺は何が何だかわからずにその人に引っ張られるがままに走った。少し行ったところで、その人は止まった。
腰あたりまであるさらっとした髪。
灰色のパーカーを着ていて、少しまくっている腕には腕時計が光っていた。
「はぁ…はぁ…ここならもうばれないかな」
「え、えっと…」
俺が不思議そうにしているとその人は慌てて腕から手を離した。
「あっ…ごめんなさい、急に。なんか…大変そうだったので…」
女の人はこっちを向いて慌てて謝ってきた。
「あ、謝らないでください…。助けていただいてありがとうございました…。買い物に来ていて…」
「そうなんですか!何を買いに来たんですか?」
「えっと、文房具を少々」
「文房具ですか!いいですね。私、かきやすいシャーペン知ってるんで、よければ教えましょうか?」
「いいんですか?ぜひ」
「あっ…ごめんなさい、迷惑ですよね」
女の人はハッとしたようにして言ってきた。
「いえ、正直、あまり文房具はわからないので、教えていただけると幸いです。」
「…!任せてください!必要なものは何ですか?」
「えっと、学校に持っていくのに必要な文房具一式ですかね…」
「学校に持っていく…?すみません、いくつなんですか?」
「俺は十七ですね。」
「あれ…?高校生ですよね?今までどうして来たんですか?」
「えっと、今までは学校に行ってなかったので…今度から行くので…」
「あ、なるほど、そうなんですね!あ、ちなみにわたしも十七です。同じですね」
女の人はくすりと笑った。
明るい人だ。優しいし。
女の人たちに絡まれていた俺を助けてくれて、おすすめの文房具まで教えてくれるなんて…。
ありがたいな。
「こっちです。シャーペンはこれとこれがお勧めで…」
「なるほど…」
「あ、ペンケースも必要ですよね。」
「たしかに、そうですね」
「ペンケースは、収納がしやすいほうがいいですか?」
「そうですね、きれいに仕分けできるものがいいですかね…」
「任せてください!それならいいのがあります。」
「ありがとうございます」
そして必要なものがほとんどそろった。
「すごい…こんな短時間で一気にあつまった…」
「一応現役学生ですからね」
「そういえば、お名前は?」
「あ?私?莉子っていいます。そちらは?」
「俺は龍葉です。」
「龍葉さん、珍しいお名前ですね…」
「あの…なにかお礼をしたいんですが…助けていただいた上に買い物の手伝いまでさせてしまって…」
「あぁ、いいんですいいんです。私が勝手にやったことなので…」
「…なんで見ず知らずの俺をこんなに気にかけてくれるんですか?」
「…なんででしょうね…。なんか、引っかかるんですよ。わからないんですが、助けなきゃって思ったんです。龍葉さんを。なんででしょう…」
「うーん…正義感というやうですか?」
「なんか、それに似ているけど違う感じなんです…。まぁ、そんなとこでしょうか」
「そうだとしても俺が申し訳ないですし…」
「うーん…そこまで言うなら、連絡先交換しません?」
「スマホなら持ってますが…これですか?」
「はい、そうです!またなにか文房具とか学校生活に必要な物を買うときとかに連絡していただければいつでもいけますので。相談も受け付けてますし。」
「それって、また俺が助けられてませんか?」
「あははwそうかもしれないけど、私が龍葉さんと仲良くなりたいんで、ウィンウィンってことでいいじゃないですか」
「そうなんですか?俺でいなら…」
「よろしく、龍葉さん」
莉子さんはニコッと笑った。
その笑顔が、胸のどこかに引っかかった。
そして時間になったので、莉子さんとはさよならをして集合場所に向かう。
するとそこにはもうすでに買い物を終えてまっっていたゆづととあいづがいた。
「あ、龍葉!」
「お兄ちゃんおっそーい」
「いいだろ、時間に間に合ったんだから」
「それでも遅いよぉ」
「ごめんごめん。ちょっといろいろあって」
「いろいろって?」
「うーん…内緒」
「なんでぇ?きになる~」
「はいはい、買い物も終わったし、帰るぞ」
「はーい…」
なんで内緒にしたのかは俺でもなんでかあんまりよくわかっていない。
なんで二人には言いたくなかったんだろう。
俺の心の中にしまっておきたかった事…ってわけでもないだろうし…。
まぁ、深くかんがえなくてもいいか。
———次の日
「うわぁ、ついに学校だぁ」
「緊張する…」
「俺はあいづとゆづととは学年が違うから、ここでばいばいだな」
「急に学校に今まで来てなかった奴が来て、変な目で見られないかな…?怖いんだけど…」
ゆづととあいづは心配そうにしている。
まぁたしかに今まで来てなかった奴が何の前触れもなく級に登校してくるんだあら、注目の的にはなるだろうけど…。
がんばる以外にないよな…。
「よし、俺も頑張るか」
俺は恐る恐る自分のクラスの教室のドアを開けた。
開けた瞬間、クラスにいた全員の視線が俺に注がれた。
みるな。俺を見るな。やめろ。
緊張してずっと床を見ていた。
人と目を合わせることもできない。
ひそひそ話始めるクラス。
やっぱり、非難されているのだろうか。
「誰?あの人。」
「クラス間違えたんじゃない?」
「あの人このクラスにいたっけ?」
「あんなイケメンがいたらだれでも気づいてるって」
「イケメン過ぎない?」
「こんなひとまず学校にいたっけ?」
「クラスにいたいなかった以前にこんなイケメンいたら学校中で噂になってるはずだよ」
なんて話しているのか聞き取りにくい。
どうしよう、先生がホームルームで俺が今日からこのクラスに来るっていうこと話してくれるらしいけど、まだ先生も来ていないし、俺の席もわからない。
どこに座ればいいんだろうか。
どうしよう。
何もできない。
俺は何をすればいいんだ。
不安に駆られ、何もできずにいると、誰かが生を立った音がした。
誰が立ったのか見ることができない。
ずっと床を見て、人と目を合わせる子ができない。コミュ障かよ。
その人は俺の目の前まで歩いてきて、俺の目の前で止まった。
俺、何かしたかな。
「ねぇ、」
話しかけてきた…。女の人かな。
「は、はい。何でしょう」
「龍葉さん、でしょう?席、こっち。」
女の人は俺の名前を言い当てて、俺の席まで案内してくれた。
どうやら、その人の隣の席だったらしい。
「ありがとうございます…。」
「いいんだよ。あと、私の顔、ちゃんと見てくれないかな?大丈夫、何もしないよ。」
恐る恐る視線を上げる。
「あれ……莉子…さん?」
そこには昨日会った莉子さんがいたのだ。
- Re: この世界で生きていくことが ( No.4 )
- 日時: 2025/02/04 14:56
- 名前: あいく (ID: evp0hpRa)
「やぁ、まさか同じ学校で、同じクラスだったとはね」
莉子さんはニコッと笑った。昨日のように。
「いやぁ、龍葉って名前だって昨日聞いた時、聞いたことあんなぁとは思ってたんだけど、今日学校きて思い出したんだよ。不登校の子じゃんって。もしかしたら今日学校来るかもなぁって思ってたら、やっぱり来た。」
昨日は敬語を使っていたからか、今の莉子さんのほうが距離が近い気がする。
不思議と嫌じゃなかった。
なんか、莉子さんの笑顔が、さなと重なる気がしたから。
「まさか、莉子さんが同じクラスだったとは…。安心します、している人がいて…」
「あはは、敬語使わなくいていいよ。私も使わないし、龍葉君って呼ぶね。」
「ありがとう…そうさせてもらうよ」
莉子さんと話していると、周りからの視線なんて気にならなくなっていった。
不思議だ。
ホームルームが始まり、先生が今日から俺が登校することを伝えてくれて、休み時間になると、俺に興味を持った人たちがたくさん話しかけてきて大変だった。
「好きなものは?」
「今までなんで来なかったの?」
「イケメンだね、彼女は?」
「オッドアイ、素敵だね。生まれつき?」
「髪の毛さらさらじゃん。なんのトリートメント使ってるの?」
「スポーツ得意?」
「え、ええと…」
俺が困っていると、莉子さんが来て、助けてくれた。
質問を順を追って聞いてくれて、俺の答えやすいように整理してくれたりして、ありがたかった。
「ふぅ…全員の質問、答えられてよかった」
「あはは、ゆるしてあげて。物珍しかったんだろうよ。それに、龍葉君かっこいいからぁ~w」
莉子さんは少しあおるようにしてわらってきた。
こういう一面もあるんだな、と思いながら話をした。
授業とかでもわからないところは優しく教えてくれえるし、俺にはもったいないくらい良い人だ。
それを言うと、そんなことないよと否定する。謙虚でもあるんだな…。
喜んでいるときは手をもじもじさせる癖があったり、怒っていると口をむっとさせる癖があったり。恥ずかしい時は少し足が内またになったり、人と関わるようになって観察しているといろいろわかるようになるもんなんだな。
…あれ?なんで俺、莉子さんの癖、たくさん見てるんだろう…?
家に帰ってもぼーっとしていた。
どうしても、あのはにかんだ笑顔が忘れられないでいた。
ううん、だめだ。
こんなことを考えている暇ではない。
いつ組織のやつらが俺たちのことをまた襲ってくるかわからないのに、こんな状態ではよくない。
「龍葉、大丈夫?」
ゆづとが心配そうな顔をして俺の部屋のドアをノックして開けてきた。
「何が?」
「なんか、憂鬱そうな顔…してた」
ゆづとはそういうと、手に持っていたお茶を俺の机のうえにそっと置いた。
俺、そんな顔してたのか…。
「心配かけてごめんな。ゆづと。もう大丈夫だ。」
俺はそっとゆづとの頭を撫でた。
ゆづとは少しうれしそうに笑って受け入れた。
「それにしても…組織のやつらから仕掛けられてばっかで、俺達からは何もできないよね。」
「うーん、まぁ、あいつらの居所がつかめていないのも事実だけど、そのほうがいいのかもしれない。人並みの幸せを感じれる時間ってのは、少ないから、戦っている合間合間でも、感じておいたほうが…」
俺はそこで言葉が切れた。
でも、言う通りなんだ。
俺に残された時間は少ない。
この前確信した。
俺が倒れたときに、嫌でも確信した。
あの体調不良は、疲れによるものなんかじゃなかった。今までの実験施設での料理の中には、何か…ううん、何かではない。
ルージュは結構年が言っていた。
五十幾つだったか。
多分あいつは、自分が死んだときに俺が別のやつの手に渡ることを警戒したんだろう。
自分が死ぬ時と同じくらいの年で俺が死ぬように薬を混入させていたんだろう。
幸い、俺は全部飲み切る前にルージュを殺し、逃げ出したため、まだ少しは生きられるだろうが、何歳まで生きられるかまではわかっていないのが現状だ。
これをあいづとゆづとに言うわけにもいかない。かえって二人を余計心配させてしまうだろうし、俺が頼りにならないと思われてしまうだろう。
こんな、いつ死ぬかもわからないような奴に背中を預けられるほど二人はバカじゃないはずだ。
多分。
「…どうしたの?龍葉?」
ゆづとは首をかしげてこちらを見ている。
俺はハッとした。
寿命なんて関係ない。
今はただ二人を守ることだけ考えるんだ。
「なんでもないよ、ごめん。なんかここんとこ、ぼーっとしちゃうことが多くて」
「…龍葉、たまには休んだほうがいいよ。毎日毎日考え事してるじゃん…。この前だって、倒れちゃったじゃん…ッ。俺、何も力になれなくて悔しいよ…。弱いから、いっつも幸せを奪われるんだ…。」
ゆづとは悔しそうに視線を下に落としていった。
俺はそんなゆづとの頭を撫でた。
ゆづとは少し驚いた表情でこっちを見てきた。
「そんなことない。俺は奪われていい幸せなんてこの世には一つもないと思うんだ。だから、弱いから奪われるなんてことは、絶対にあっちゃいけない。」
「…ッ!そう、だよね…!ありがとう、龍葉。少し元気出た気がする。…あ、でも、龍葉、ちゃんと休んでね?」
気が付いて付け足すゆづと。
「あはは、わかったよ。ありがとう、ゆづと」
「俺もそうだけど、あいづ、今は勉強しながら寝落ちしちゃってるけど、龍葉のこと心配してたよ。あいづは僕よりも心が強いけど、やっぱり兄の龍葉に頼っちゃうところもあると思う。だから、その兄がちゃんとしてないとね」
くすりと笑うゆづと。
「あぁ、そうだな」
俺もつられて笑ってしまった。
久しぶりに笑った気がする。
…ゆづとのおかげだな…。
ゆづとはしばらくすると「おやすみ」といって自分の部屋へ戻っていった。
俺は少ししてからベットに横になった。
「ゴホッ…」
口元を手で押さえて、咳をする。
手を拭こうと、手のひらを広げてみるとそこには少量ながらも、血が付いていた。
それを見て俺は肩を落とす。
…なんで落ち込んでいるんだ?
大丈夫。
もともとわかっていたことじゃないか。
それに、俺は人を殺している。
生きる価値なんてないにふさわしい。
それが、いくら復讐のためだったとしても、殺したことに変わりはないんだから。
「はぁ…むしろありがたいってか…」
俺はあおむけになってため息をついた。
そしていつの間にか眠りについていた。
———次の日
「おはよー」
「おはよ!」
朝から昇降口ではいろんな言葉が飛び交っている。
俺は人込みをすり抜けて自分のクラスへ向かう。
クラスの人たちはみんな優しくて、俺にも明るく接してくれる。
「あ!龍葉君、おはよう」
「おはようございます」
莉子さんが笑顔で俺に挨拶をしてきた。
俺もそれにこたえると、莉子さんはむっとした表情で俺に近づいてくる。
「な、なんですか…?」
俺が聞くと、莉子さんはそのまま話し出す。
「…敬語に戻ってる…」
莉子さんに言われて俺は気が付く。
そういえば、ため口でって言われたんだったか?
「ご、ごめん…慣れてなくて…。」
「これからはきをつけてよねっ」
莉子さんは「もー」と言って笑った。
「あぁ、そうえいば、一限目から理科だよ。教室わからないだろうから、一緒に行こ?」
「え、うん。たすかるよ」
「いいえ~」
莉子さんはルンルンと周りに陽気な空気を漂わせながら先についた。
何かうれしいことでもあったのだろうか?
昼休み。
理科室を教えてもらった時に、昼休みにほかのところも案内するよと言ってくれたので、俺は清掃の時間が終わると、言われていた体育館倉庫の前で待っていた。
するとそこに、莉子さんではなく、体育委員会であろう女子二人組が歩いてきた。
「あ、龍葉君だぁ。ここでなにしてるの?」
「えっと、莉子さんが学校を案内してくれるらしいので、莉子さんを待っているんです。」
「あぁ、なるほど!」
「あ、ごめん、頼み事してもいい?」
「頼み事ですか?少しなら構いませんよ」
「ありがとう!私たち、体育委員で、体育館倉庫の掃除をしなきゃいけないんだけど、高くて届かないところがあるんだ。手伝ってほしいの」
「そんなことでいいなら」
「たすかる~!」
そう言って二人は体育館倉庫に入った。
「どこですか?高いところは」
「あ、こっちこっち」
奥のほうの棚のほうへ案内される。
跳び箱があったり、フラフープやマットが何十二も重なっていて、サッカーボールなどもある。
けれど、一向に目的地にはたどり着かない。すると、女子二人の足がぴたりと止まった。ゆっくりこっちを向いたと思うと、急に俺にとびかかってきた。
「うわぁッ⁉」
俺は女子相手に暴力をふるうことができずに、そのまま倒されてしまった。
幸い、そこにはマットがあって、俺はケガしなかった。
「きゅ、急にどうしたんですか?」
俺が聞いた時、女子二人は豹変していた。
ほほを赤らめて息を荒くして、鋭い目つきでこっちを見てきていた。
「実はね、私、能力者なの…」
能力者…⁉
一人の女子が俺に覆いかぶさるように四つん這いになって話した。
俺は腕をつかまれていて、反抗して立ち上がることができないでいた。
まさか、組織のやつか?だとしたら、この状況はまずい…。
しかし、なぜか体が火照って、うまく体が動かせない。
むずむずする…。
なんだ、これ…。
「はぁッ…なに、をした…?」
俺が聞くと、二人はニヤッと笑った。
「私の能力は相手に自分の状態をコピーすること…。龍葉君は、今の私の状態と同じになってもらったんだよ…。今、私と同じように…龍葉君も体が火照ってきたころじゃないかな?」
何をされたかわからない…。
でも確かに、体が火照っているのは本当だ。
「どうしてこんな…ことを…ッ」
「もちろん、龍葉君がかっこよすぎて、私たちで襲っちゃいたくなっちゃったから…。」
そして一人が俺の首元に顔を近づけてくる。なぜかぞくぞくして気持ちが悪い。
「や…めてくれ…ッ」
「それはできいなぁ」
俺は怖くて目をつぶった。
すると、体育館倉庫の扉が勢いよく開かれた。
「龍葉君‼」
この声は…莉子さんか?
よかった、来てくれた…!
「り…こ、さん…ッ」
「!龍葉君?いるの⁉」
「チッ…いいところに来やがって…」
女子たちは舌打ちをしながら去ってく。
莉子さんは倒れている俺に手を差し伸べた。
マットに倒れていた俺は、あの女子たちにかけられた能力によってまだ少し動けなかった。それを言うわけにもいかずに、どうしようか迷っていると、莉子さんは不思議そうに俺を見つめた後に、少しほほを赤らめた。
「え、えっと…」
「ご、ごめん…今は、莉子さんはここにはいないほうがいいと思う…。」
俺は差し伸べられた手を取らなかった。
莉子さんは俺の横に座った。
「なんで…だめだって…」
「だめじゃない…。」
「…ダメだよ。こんな感覚、初めてで…ッわからない…から、危ないよ…。」
俺は必死に自分を抑えて言う。
莉子さんはほほを少し赤らめながらも俺のほうをまっすぐ見ている。
「余計、一人にできないじゃん…。私は、別にいいよ。龍葉君に、何されても」
言った後に恥ずかしそうに視線をずらした。
言っていることがわからないでいた俺は、理解するまでに数秒の時間を要した。
そして、莉子さんの言っていることが理解できたとたん、顔に熱がこもるのがわかった。
「だッ…だめだめ‼こういうことは、ちゃんと好きな人とやらないといけないと思うし…ッ」
俺が慌ててそういうと、莉子さんは少し眉をひそめた。
「…私のことは…好きじゃないの?」
「えっ…」
「な、なんでもないッ…ごめん、そうだよね。ちょっと外出てるから、おちついたらよんで…?」
莉子さんはそう言って倉庫を出ていった。
俺が何かしちゃったんだろうか…?
しばらくして、能力が切れた俺は倉庫の外に出た。そこでは莉子さんがずっと待っていてくれた。
「り、莉子さん、待っててくれたの?寒いのに…」
「い、いいのっ、私が待っていたかったし。」
「すみません…学校を案内してもらう予定だったのに…」
「気にしなくていいんだよ。あの二人が悪いんだし。あの二人のことは先生に伝えておいたから。処分が下されると思うよ」
「…そうか。正直、驚いたな…。能力者がいるなんて…」
「意外と身近にいるもんだよ?ちなみに私も能力持ってるし。」
「…!もって…るの?」
「…?どうしたの?龍葉君?」
おれはつい能力者と聞いて警戒してしまった。不思議そうにこっちを見ている莉子さん。
すると何か察したようにして
「…あんまり能力者にいい思いでない感じ?」
と苦笑いしながら聞いてきた。
正直言ってそうだ。
でも、莉子さんは関係ないんだ。
「正直、トラウマはある…。でも、莉子さんはそれには無関係だし、何なら、俺も能力者だから…」
俺がそういうと、莉子さんは目を輝かせた。
「え!龍葉君も能力者なのっ⁉全然わからなかった。何の能力なの?ちなみに私はどこら辺にいるようなAランクの治癒だよ。」
『治癒』という言葉についつい反応してしまう。
もう、さなはいないのに。
「Aランクって、結構高くない?」
「ありがたいよね、私なんかが」
そう言って莉子さんは笑った。
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