ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

女たちの死
日時: 2025/02/17 19:54
名前: カリフォルニア産 (ID: OYZ4MvwF)

彼女を初めて見かけたのは、インスタだった。

ファッションや美容に興味があって、適当にブランドの服の投稿をチェックしていた時に、たまたま関連動画で流れて来た投稿。

そこには、たいして造形の美しくない女が、ファッションについて語る動画があった。

目は化粧をしてもそれくらいかというほど細く、異様にアイラインが長くて、そこに彼女のコンプレックスがあるのかなと勘づくほどだった。

そして信じられないほど大きな鷲鼻。

でも。

「センスはいいじゃん?」

容姿には自信のあった私の上から目線な心の声が、彼女の投稿は使えそうと判断して、フォローをタップする。

選ぶブランドもちょっと個性的で、世にはびこるインフルエンサーが「シャネル」「ルイヴィトン」「ディオール」を選ぶのに対し、彼女は聞いたことのない上品路線のブランドばかりチョイスしていた。

画像に貼られていた何気ないノースリーブを調べると、まっさらな無地の服で200ドルはしたので、ビックリして目をむくものの、

画像検索で似たような服を見つけると、私のほうがお買い物上手だし、という謎の優越感に浸って彼女のことをちょっと小ばかにしたままサイトを離れた。

まぁ、なんにせよ、見た目はとても残念な人がいくら着飾ったってあんまり意味ないよねと、お金のかかるおバカなインフルエンサーとして彼女を小ばかにしていたのかもしれない。

Re: 女たちの死 ( No.1 )
日時: 2025/02/17 23:45
名前: カリフォルニア産 (ID: OYZ4MvwF)

001


「ケイティ」

またインスタ見てるの?_と柔らかな声がからかうようにかけられた。

「オリー、おはよ」

通学バスがいつの間にかオリ―、オリヴィエの最寄りのバスストップについたらしかった。

いつもの席に腰かけるケイトのすぐ横へ彼女が腰を下ろす。

当たり障りのないパーカーに、彼女の干し草色のみつあみがかわいく垂れている。

オリ―の顔はかわいいほうだと思うが、いつも口角が下がっているので、不安そうな顔に見えることが、彼女がこのハイスクール時代で一度も彼氏をゲットできなかった理由だろうなと思った。

そういうケイトもくすんだ赤毛に、工夫を凝らしたアイメイクが逆にゴスの雰囲気を強く感じさせすぎて、彼女の求める普通の彼氏ができないでいた。

前の座席のカップルが、仲よさそうにバスの中で手をつないで一つのスマホ画面を見ている。

鼻の下を伸ばして画面をのぞくと、二人で近くのレイクウッド湖で釣りをした時の記念写真らしかった。

やってられないわよと肩をすくめると、隣でお上品に腰かけていたオリ―が小声で顔を寄せてきた。

「私たちカレッジに行ったら、彼氏できるかな」

「さすがにできると思わよ。ここらへん、田舎だし、かっこいい男子とかいなかったじゃない。付き合いたいと思うレベルの人とかさ」

私の悪い癖だ、いつも上から目線で、と内心気づいてはいるものの、強気のバリアを張らないとやってられない。

オリ―にはそれを気取られているんだろうなと思いつつも、その姿勢を責めない彼女の寛大さ(もしくは日和見主義なところ)が都合がよくて大好きだった。

「たしかに、ザ・好み、な人はいなかったかも。みんな子供っぽいというか」

オリ―がちょっと気持ちを持ち直しみつあみをいじりだす。

彼女も若干人を見下す性格があるため、都合がよかった。

そこそこな容姿だと二人とも自負していたけれど、、ハイスクールのトップカーストではなかった(正直に言えばそのカーストに参加しないはぐれ枠だった)。
二人はカーストトップのお血みどろな男巡りの戦いに参加しなかったし、

チアリーダーや演劇など、カーストにかかわる部活動にも参加しなかった。

実際イケてると思っているのは本人だけかもしれないという保険のため、普通の文化部に所属するだけで、何となく現実を受け止めるのは怖かったのだ。

だが、カレッジは集まる人数が莫大になるため、さすがに彼氏は自動的にできるだろうと考えていた。

「そういえば、言ってた例の人、どうなの」

抑揚のない声でオリ―がじっと見つめてくる。

「あぁ、ヘイリー・スミスね」

インスタの画面をうんざりしたように見せてあげると、彼女も眉を寄せた。

鷲鼻の女が、誰かを見つめるように横を向いて日常生活では決して取らない上品そうなポーズを決めている。

しかも場所は、有名ホテルのエントランスで、大きな花の活けてある真ん前で撮影されていた。

「なんか年々エスカレートしてきてない?」

ポーズとかさ、英国王室の人ですらしないよね、と頭の回転が速い彼女ならではの毒舌に幾分気分を慰められて、口元に笑みが浮かぶ。

なんとなくヘイリー・スミスを見ていると感じるいらだちがちょっと吹き飛び、また彼女の造形に似に合わぬそのポーズに、見下す心が復活する。

そうよこんなひと、別に気にする必要はないわよ。

私たちもうじきに割と州で名のあるカレッジに通えるんだし。

この人なんてもう25歳過ぎてるじゃないの。

「なーんか、美容家インフルエンサーとして本業で活動始めたみたい」

まぁ、あいかわらず服のセンスだけはいいので、フォローは外さないでいてあげるわ、と画面を消し、うーんと伸びをして窓の外を眺める。

9月の入学式が楽しみだ。

Re: 女たちの死 ( No.2 )
日時: 2025/02/17 21:40
名前: カリフォルニア産 (ID: OYZ4MvwF)

002

カレッジを卒業したころ、私たちは一緒に住んでいた寮の荷物を片付けながら、就職先の話をしていた。

写真立ての中の写真を抜き取って、お互いのアルバムに収納しながらてきぱきと話し合う。

残念ながら、そこに男の写真はない。

オリ―には意地を張ってワンナイトしかけた男がいたと言ったけれど、それは彼女がナンパされた(ものすごくさえない男にだったけれど)ことに腹を立てて付いたでたらめだった。

もちろんオリ―もこの4年で彼氏はできなかった。

「オリ―のオフィスは南ブロックだったよね。ってことは」

そう、とオリ―がくしゃくしゃの髪をかき上げながら笑みを浮かべる。

「たぶん同じ通勤ルートかも。ランチももしかしたら一緒にとれちゃうかもよ」

それいいね!と久しぶりに興奮してルートを検索しようとスマホに手を伸ばすと、はっと思い出がフラッシュバックして一瞬動作が鈍くなる。

「ねぇ、最悪、ヘイリー・スミスのこと思い出しちゃったんだけど」

笑いながらスマホを取り上げ、とりあえずルートを検索する。

来週引っ越すその街の通勤ルートは、幸いなことに大の親友と被らせることが可能だった。

ふたりのオフィスはちょっと離れているため、残念ながらランチは無理そうだがアフターファイブなら楽しめそうだった。

「おっけー!朝の通勤と、夜遊びは決まりね」

にこにこしたオリーに一瞬気が持ち直すものの、ヘイリー・スミスの思い出が脳裏に張り付く。

ヘイリー・スミスは、ケイトたちが彼氏なしの4年を過ごす間に、お金持ちの男と婚約し、ますます鼻につく投稿が増えていた。

最初はにおわせる程度の旅行やディナーの画像がアップされたと思ったら、急にでかでかと婚約指輪のアップ画像を張り付けてきたのだ。

しかも送られた指輪は11800ドルもする高級ジュエリーのもので、細い目をさらに細めて歯を見せずに微笑むその画像に猛烈に女としての怒りがわいたのを覚えている。

「私あれから見なくなったんだよね。なんか見下してた人が玉の輿とかさぁ…わかるでしょ?」

それがさ、と勢いよく一冊の本を彼女らしからぬ投げやりさで段ボールに投げ込むオリーに驚いて彼女を見つめると、

珍しくいじわるそうな顔をしたオリ―は、私もあれから気に障っちゃってさ、逆にその周辺人物を検索するようになったのよ、とスマホを掲げて見せた。

「でもなんか半年足らずで離婚したらしいよ」

驚いて受け取ったスマホに、見覚えのある目の細い鷲鼻女がソファに腰かけて遠くを見る画像が張られている。

「彼女の散財が原因で離婚したらしくてさ、さずがにこんな額の服とか靴とかエステとか、容認する男なんていないよね。だって検索したらバックとか8500ドルだよ?!」

靴も1900ドルだし、私たちの月給どころじゃないわよ、とひきつった顔をしている。

「いくら好きだとしても、ありえない金額よね」

生返事になるが、それはケイトも検索したことがあるので同じ意見だった。どうかしていると思う。

それにしても、離婚したとは。

画像の下にえんえんと彼女の気持ちがつづられているが、どれも言い訳にしか見えない。

たいそうなブランディングしておきながら、せっかく手にした大物をみすみす逃すなんて本当に馬鹿だなぁと、いじわるな気持ちが優越感として鎌首をもたげる。

なんだ、この女もやっぱり大したことがないのね、と謎の安心感が慰めになり、ケイトは肩から力が抜けた。

「ヘイリーの周辺の人も結構おんなじタイプで集まってるみたいなのよね。嫌な集団を見つけちゃったわ」

返されたスマホを受け取って、オリーが顔をしかめていくつかの画像を見せてくる。

「ちょっと鼻につくのは、散財で離婚しておきながらしばらくして投稿された画像にフェンディのドレス着てるところなんだよね。ちょっと呆れちゃうかも」

まぁまぁ、オリー、ほっときましょうよ、と余裕の笑みを浮かべたケイトは、写真をアルバムに入れる作業に戻った。

「それより、お互いのオフィスでよさそうな人がいたら紹介しあいましょうよ」

そんな30歳で離婚した散財女なんて放っておきましょうよ。

それにしても、あんなに自慢していた指輪が彼女の指にはまっていないのを見るのは、こんなに気分がいいものだとは思いもしなかった。

見せつけてくるように貼り付けて、勝手にこちらの情緒を狂わせるそういう存在は改めて嫌な性格の女だな、と不幸に安堵した自分のことを気にしながら言い訳をした。

Re: 女たちの死 ( No.3 )
日時: 2025/02/17 23:55
名前: カリフォルニア産 (ID: OYZ4MvwF)

003

ついにやったよね、あの女たち。

アフターファイブで疲れ切った体を引きずって、ケイトとオリヴィエはお気に入りのお店のソファーに並んで腰かけていた。

コスパの良い大衆食堂で、お店の雰囲気も少ししゃれている。

オフィスに勤めて3年が過ぎると、二人を慰めるのは日常のちょっとした贅沢だった。

「美容サロンだって。しかも一回700ドル!」

いらだったようにケイトが吐き捨てると、オリーも苦々しい顔でワイングラスをテーブルに置いた。

「ビューティチェンジとかいうサロンもひらいて、そっちは3000ドルとかとるみたい」

二人の間に置かれたスマホの画面には、細い目に鷲鼻の女と同じく蛇のように細い目の女がにっこり笑みを浮かべて、マックスマーラーの高級コートに身を包んでいる。

蛇顔の女はヘイリー・スミスと最近コンビを組んだ、ラビ・マルーンというインド出身の女で、カースト制度が苦しすぎて逃げるようにインドを脱出し、たまたまインドでやっていたマッサージの技術をアメリカに持ち込んだところ、たちまち人気が出ていまでは3000ドル近い高級コートを身にまとえる程度になっている。

自分たちよりも低月収だった身分の低い女が、自分たちの生活レベルを超えたコートを身にまとっていることに、イライラとしていた。

しかも、なんだかそのサロンが軌道に乗りそうで、この3年間でほぼ給与が変わらないケイトとオリヴィエの心を強く刺激していた。

実際、二人以外にも苦々しく思う人はいて、粘着質な人物がインスタのコメント欄に辛辣な苦言を呈していたり、削除された文面さえ見かけることがあった。

そんなときでもヘイリー・スミスとラビ・マルーンは、ときには丸く、ときにはまるで煽るかのようにいなしていく、そんな態度もますます神経を逆なでしていた。

とくに、ラビ・マルーンなんかはインドのカースト制度出身だというのに、宗教を変えて自身の欲望を解き放ったのか、複数人の男性を侍らせていることを公言していた。

その恩恵に授かり、再びヘイリー・スミスがあやしいにおわせ投稿を繰り返し始めたので、二人は他人事なのに、そのインスタグラムを追い続けてしまったがゆえに…彼女たちの実生活が疲弊しているがゆえに、著しく精神的に傷ついていた。


Re: 女たちの死 ( No.4 )
日時: 2025/02/17 23:56
名前: カリフォルニア産 (ID: OYZ4MvwF)

004

その日ケイティは体調がすぐれず、なけなしの有休を一つ使用し、休みを取ることにした。

ごめんね、今日は体調が悪くてお休みするわ、とオリーにラインを打てば、

すぐに、了解!帰りに何か買っていくわ!暖かくして休んでね、と優しい追伸がきた。

根はやはりお互い優しいのだと思うのだ。

そのラインに涙ぐみそうになりながら、その体調不良の原因が、昨夜明け方近くまでインスタグラムやフェイスブック、TIKTOKを検索していたからだとは言えなかった。


昨夜、シャワーからあがり、ドライヤーで髪を乾かすまでの間、インスタをいじっていた時だった。

夜中のライブ配信を例の二人が始めたのだった。

あとから彼女たちの配信を見たことはあったけれども、生放送というのは初めてだった。

べつにケイト自身は彼女たちを苦々しくは思いつつも、いやがらせコメントなどをしたことがないため、とくに参加者としてアイコンと名前を見られても問題はなったため、

ドキドキしつつも、不安な面持ちで彼女たちのインスタライブを開いた。

たちまち現れたのはどこかのバーを背景に、胸元を大きくあけたブラックドレスを着る二人の女の顔で、どちらも目元にコンプレックスがあるのがはっきりわかるほど、目元へのアイラインが凝っていた。

とくにヘイリー・スミスはカメラの画角を非常に気にしていて、顔の角度を動かさないまま不自然なほどの目力を披露している。

パーティにでも参加してきたのかと思う二人のドレスアップ姿にイライラとしていたケイトの心に、その目をむいた姿が落ち着きを与えた。

こんな顔の女、侍らせている男の質も低いに違いないわ。

思わず洗面台のほうへ行き、自身の顔を見る。

顔は彼女たちよりも格段に整っていると思う。

ただ、ファンデーションをオフした素肌はクマが目立ったため、さっと目をそらしてみなかったことにした。

そんなことをしている間に、ヘイリー・スミスとラビ・マルーンが手を振りながらいつもの常連客にお礼とあいさつを済ませて、会話をし始めた。


Re: 女たちの死 ( No.5 )
日時: 2025/02/18 12:21
名前: カリフォルニア産 (ID: OYZ4MvwF)



ヘイリーは地方の州の生まれだった。
普通の家庭に生まれて何不自由なく育ち、幼いころから身内に溺愛されながら育った。

キンダーガーデンでディズニー映画のシンデレラを見てからプリンセスにあこがれて、ふわふわリボンの髪飾りやラメ入りのクリアゴム製ガラスの靴だったりを買い与えてもらって、

5歳の誕生日パーティには家中を舞踏会のように飾り付けてもらってお友達を招いたこともあった。
ただ、その時にこそっと言われた言葉が心の中に残っている。

『ヘイリーって、シンデレラって顔じゃないけどね。どちらかというと…』

あまりに申し分なく両親たちが張り切って用意したからだろうか、
それとも事実祖父が有名企業のいいポストだったからか、
それともヘイリー自身の顔に似合わないしぐさまで完璧にシンデレラを装うところが気に障ったのか

その言葉が誕生日を境にはかれていることを知った。

ショックだった。
今でもそれを思い出すと、眉をひそめてしまう。
「でも、ヘイリーのすごいところはそこで泣き出しちゃわないで、勝手にしなさいよって気持ちを切り替えるところだよね」

昔の思い出話をしながら、ラビがシャンパンを口に運ぶ。
彼女も美しくなりたいという思いを胸に暮らしているため、何気ないしぐさも何度も優美に見えるように練習し、インスタでも隠しアカウントでいくつものレッスンの動画をフォローしている。

ラビの肌はカーストの低さを示すように浅黒いけれども、今はヘイリーの美容講座を受けてオイルを塗り、ハリウッド女優さながらに光沢を放っている。

「そういう不屈の精神が、シンデレラを彷彿とさせるわよね。だって彼女も、下女のように扱われても、よい意味で高貴さを保ったまま困った継母たちをさばいていたじゃない?」

「ありがとうラビ。シンデレラ大好きだからそう言っていただけるととてもうれしい」

見せつけるようにインスタのカメラに向かってほほ笑むと、ヘイリーもシャンパンを背筋を保ったまま引き寄せ、カメラに対して横を向き、イヤリングとあごのラインを見せつけながら時間をかけてそっと飲む。

インスタでさんざん勉強したしぐさだ。
目を伏せながらグラスを置き、コメントを見れば、雇ったサクラのかわいいという誉め言葉につられて、欲しい言葉を吐く受講生たちが賛同の声を上げていく。

こういう雰囲気にしてあげれば、たまたまこの動画を見たり、受講を迷っている存在が、私たちをすさまじい美の伝道師だと勘違いしてくれてとても有利なのだ。

それにくわえて、私たち自身の脳に対しても同じように、私たちがすさまじい美の伝道師なのだと錯覚させ、そう思い込ませることで、あふれる自信をつけさせてくれる狙いのためにやっている。
彼女たちも高い金を払って、コンサルタントに教わった技であった。



Page:1



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。