ダーク・ファンタジー小説
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- 虜になりたい
- 日時: 2025/06/27 21:17
- 名前: 千佐田うらら (ID: 1AyWh4oQ)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14140
プロローグ
「ねえ、呪いの紋章ーCursed Emblemーって知ってる?」
「…さあ、知らないな。」
「やった!勝ったぁ!ちょうだい、そのお花」
「まったく、次はマジックで勝負だぞ!負けねえからな」
「楽しみ!」
そこは、花屋だった。「花屋 田中」という名前の。
こじんまりとしていて、日に焼けた肌と、短くて白い髪の毛のおじいさんがやっていた。
その花屋には、毎週火曜日にだけ来る、少女がいた。
いつも明るい性格で、誰にでも話しかけるひまわりのような子だったが、彼女の家庭環境は決して明るいものではなかった。
そんな少女をかわいそうだと思い、店主は毎週来るたびに勝負をしかけ、少女が勝つと花をあげることにしていた。
幸せで、美しい花屋だった。
- Re: 虜になりたい ( No.1 )
- 日時: 2025/06/28 18:25
- 名前: 千佐田うらら (ID: 1AyWh4oQ)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第一話
何年も前、ある舞台が話題となった。
あくまで新人女優「遊垣きらら」をお披露目するための舞台だった。けれども、奥深いストーリーと、それにぴったりと寄り添った演技が観客の心を打ち、たちまち全国での公演が決まった。きららは瞬く間に引く手あまたとなり、最高の舞台と称された。
それと同時に、「きららが演出家と結婚した」というニュースが報じられた。
世間は騒然となり、週刊誌は毎日のようにきららを追った。
「なんで」「おかしい」「彼女はまだ22歳だぞ!」「ひどい」
きららは、毎日のように浴びせられる言葉に、次第に笑顔を忘れ、舞台に立つことを恐れるようになった。 1年後、きららは芸能界を引退した。
「国民の身勝手で悪質な意見は、一人の大女優の心に深い傷をつけ、きららは精神的に不安定になった。
きららは離婚し、映画 声 に出演中の××と結婚した。」
と週刊誌で報じられた。
けれども、誰も気づいていなかった。きららの心は、壊れてなどいなかったことに。
そして今、きららには一人の子供と、愛する男がいた。
- Re: 虜になりたい ( No.2 )
- 日時: 2025/06/29 11:34
- 名前: 千佐田うらら (ID: 1AyWh4oQ)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14140
第2話 再来
きららは俳優の××と結婚したと報じられた。けれどもそれは、ほぼ「書類上」の話だった。
本当は、離婚した演出家の家に通い、何年か前に演出家の子供も産んでいた。
そんなきららは、ある日考えてしまった。昔の自分のこと。芸能界のこと。売れていた時のこと。あの眩しい光の中に、もう一度立ってみたいーーそんな思いが、ふと胸をよぎった。
だんだんとその考えは膨らんでいき、演出家に相談することにした。
「ねえ…また、ステージに上がりたい」
抑えようとした声は、気づけば部屋の空気を震わせていた。
演出家は、少し考えてから言った。
「君が、悲しい思いをしないならね、君が、行きたいならね。
俺に、止める権利もないだろうし、行かせる権利もないから。」
そう言っただけだった。演出家にも行かせたくない気持ちがあった。その気持ちが大半を占めていた。
けれども、彼は分かっていた。きららが舞台に上がったとしても、どうせ同じことを繰り返すだけだということを。大昔の女優を出させてくれるような舞台もないだろうし、彼女はきっと、それをすべて分かった上で、なお、夢を口にしたのだ。
演出家の腕に、タトゥーのような模様が浮かび上がった。
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