ダーク・ファンタジー小説
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- 世界死創
- 日時: 2025/09/29 15:53
- 名前: Nebula (ID: MW3WsllJ)
崩れゆく都。空は赤く染まり、空を飛ぶものはすべて落ち、大地は溶け、音も無く遠くの山脈が一つ消えた。
しかしそれは、戦争の果てではない。
一人の魔王が放った《愛の告白》に、世界が耐えられなかっただけだった。
今、人類は魔王軍に負けかけ最後の決戦が行われようとしている。
その中心に立っているのは、一人の少年と一人の少女。
少女の方はこの世界で有名な『魔王』と呼ばれる者
「何故抗うの?ケント。あなたが、私を受け入れればこの戦争は終わるのよ?」
滅びの中心で、私は微笑む。
私の足元には、いくつもの骸が転がっている。
「アスティーナ……いや、魔王。お前の愛は、世界をも壊す。見過ごせない。」
一人の少年…ケントが答える。
「ここまでして俺を手に入れる必要はないだろ!」
「俺は君の一人の友人として、世界を今背負っているものとして、ここで君を倒す。」
ケントが決意表明をすると、周りの魔力が騒ぎ出す。
もう世界はケント側についたようだ。
「私は、あなたが欲しい。」
「世界がどうなろうと、私の中には“あなた”しか存在しない。
ケントを奪うなら、世界を全て焼き尽くす。それが、私の愛。」
「今の君に話は通じないみたいだ…」
「さあ、私のケント。どちらの思いが強いか決めましょう!」
おそらく、私はこの上ないほど感情が爆発していたのだろう。
こうして、この世界の命運が掛かった聖戦が始まった…
『キィィン』
激しい衝突音が鳴り響き、火花が飛び散る。
魔法が飛び交い、大気が悲鳴を上る。
始まってかなり経つ。まだ、決着がつかない。
「いい加減、私のものになって!」
私が叫び、剣を振るう。
しかし、その剣は受け流されるだけで効果がない。
「無理だ。俺には、たった一人の友人を止める義務がある。」
ケントは、綺麗に私の剣を受け流しながら言った。
「今の君は世界の敵だ。世界の味方であろうとした俺とは相容れるはずがない」
「世界の味方なんて、それは私が世界を手に入れればそれは私の味方同然よ!」
それ以上の会話は無くなった。
ただひたすらに、
躱し、
受け流し、
反撃して、
自分を表現していく。
私は、“自分を見て”と。
ケントは、“僕以外のものを見て”と。
更に激化した戦いが、大地を軋ませながら続いていく…
変化は突然訪れた。
私の方が先に魔力が尽きたようだ。
剣も折れかけている。
ケントが話始めた。
「アスティーナ…これ以上は無理だろ。降伏しろ。そしたら、命だけは助かるかもしれない。」
「ふふっ…これ以上は無理かも。」
「でもね、これは技術のぶつけ合いではないの。」
「思いのぶつけ合いなのよ!!!」
その瞬間、魔王の魔力が暴走する。
感情の奔流。悲しみ、執着、孤独、すべてが爆発して――
「私は、あなたを愛してる。それが、どれほど強いか…証明してあげる!」
その暴発した力に、今度はケントが圧倒され始めた。
技量、魔力、全てで上回っているはずなのに、押されている。
「っ!」
私の剣筋が更に鋭く、荒々しくなる。
一振りで、大地を抉り、溶かす。
今まで以上の力で対応したはずなのに、ケントは凌ぐので精一杯。
反撃など、出来るはずもない。
それほどまでに、思いの力が隔絶していたのだ。
ついにケントが膝をつく。
声を振り絞って出す。
「終わりましたね。」
「あぁ。」
「君の想いが勝ったみたいだ…」
負けたのに清々しい。
この戦いで色々出し切ったたようだ。
「ほんとは勝ちたかった。だけど、思いの強さでは君に勝てないな。
君の勝ちだ。どうとでもするが良いさ。」
ケントが笑いながら言う。
それを見て私も微笑む。
「では、もう誰にも…邪魔はさせません。」
その瞬間、背後の空間が崩れた。世界が音を立てて死に、神の名を冠した文明が灰になる。
世界中の阿鼻叫喚の声が聞こえる。
「やっと二人きりになれましたね。」
世界が死んだというのに少女は笑っていた。
それは、最愛の人をこの手に入れたという恍惚とした表情だった。
こうして、戦争は終わった。
《魔王》の世界殺しによって。
とある繁栄した世界があった。
しかし、今は死んでいる。
これは、死んでいる世界での物語。
- Re: 世界死創 過去編#1 ( No.1 )
- 日時: 2025/09/29 15:54
- 名前: Nebula (ID: MW3WsllJ)
「――ケント、私ね。世界なんて、どうでもいいの。」
まだ魔王になる前。
世界が輝いていた頃。
一人の少女は、少年にそう囁いた。
それが、世界の終わりの始まりだった…
とある村外れ。
一人の少女が、森へ入っていく。
まだ幼さの残る顔立ち。けれど、その瞳には底知れない感情の色が灯っていた。
少女の名は――アスティーナ。
彼女は両手で花を抱えていた。名も知らぬ、青い花。
ただ、その色が彼の瞳に似ていたから…
すると、突然捕まった。
「何してるんだ?」
それを言ったのは、一人の少年。
何か危険事をしているのを見つけてしまったかの様な問いかけだった。
「ケント!」
アスティーナの顔がぱっと明るくなり、抱えていた花の一輪が指の間から滑り落ちる。
ケントはそれを拾い、茎をやさしく整えた。
「森に一人で入るなよ。魔物がいるかもしれないだろ。」
「良いじゃない。その時は、君が助けてくれるんでしょ?」
ケントは言いかけて黙る。真っ直ぐなその瞳に、彼女の気持ちが映っていると気づかないふりはできなかった。
「それよりもこの花を見て!君の目の色に似ていると思わない?」
そう言って、アスティーナは花束をケントに差し出す。
その顔はどこか誇らしげで、そして少し照れている。
差し出された花を、ケントは肩をすくめながらも受け取った。
「ありがとうな。けど、あまり危険なことはするなよ?俺だっていつでも助けられるわけじゃないから。」
「確かに。君に会えなくなるのは嫌。」
あっけらかんと、けれど心の底から出たような声音だった。
彼は気づいている。アスティーナの好意がただの“友情”ではないことを。
「俺もだよ。だから危険なことはしないでくれよ。」
「分かったわ。」
すると、風が吹き、彼女の長い髪をそっと揺らした。
「ねえ、ケント。」
「ん?なに?」
「ずっと隣にいてね。私がどんなふうになっても。」
ケントは冗談だと思って、笑った。
「変な言い方すんなよ。お前はお前だろ。」
「……ふふ。そうだね。」
でも、その瞬間――
アスティーナの瞳には、“誰にも渡さない”という強い意志――いや、執着のようなものが確かにあった。
ケントは、それにまだ気づいていない。
彼はただ、彼女を“守りたい”と思っていた。
その優しさが、いつかこの世界を焼く刃となることなど知らずに…
その日から、アスティーナの行動は少しずつ変わっていった。
村に来る旅人に近づこうとすると、ケントに無言で抱きついて離れなかった。
女の子がケントに手を振るだけで、翌日には彼女の持ち物がなぜか燃えていた。
ケントと誰かが長く話していると、かならずアスティーナが現れて、にこやかに手を引いていった。
周囲の人間は、何となく彼女を「怖い」と思い始めていた。
しかし、ケントだけは変わらなかった。
「あいつは、優しい奴だからさ。」
アスティーナは、その言葉を噛み締める。
優しいって言ってくれた!
もっと優しくならなくちゃ。
そうじゃないと…ケントは、私を好きになってくれない。
心の底では、理解していた。
彼女が、優しいだけではなくなっていたことに。
ある日、村の酒場でちょっとした騒ぎがあった。
魔族の血を引く子供が一人、酒場の前で男たちに絡まれていた。
「化け物が村に住んでるから、神の加護が薄れるんだ!」
「出てけ!この化け物が!」
その場に居合わせたケントがすぐに止めに入った。
「やめろよ。この子は何もしてないだろ!」
「はあ?お前がなんで口出し…」
男たちは、殴りかかろうとしたが、ケントの腰の剣を見て黙った。
「今日はもうやめてやるよ。けどな、あの魔族の女も同じ目に遭うぞ。」
去り際にそう吐き捨てて男たちは去っていく。
しかし、それを陰から見ているものがいた。
アスティーナだ。
ただ一言――
「ふうん…そう。」
そう呟いたきり、微笑んでその場を離れた。
その夜、男たちの家が焼けた。
誰がやったのかは分からない。
ただ、そこには森にしかない花びらが落ちていた。
ケントは、何も言わなかった。
薄々勘付いていた。
アスティーナの裏に潜む、もう一つの“顔”に…
そして、その翌日の夜。
ケントは、アスティーナと星を見ていた。
「…ケント」
アスティーナが呟く。
「私ね、世界なんてどうでも良いの。」
「いきなりどうしたんだよ?」
「だって、私にとっては君が世界だから。それを伝えておこうと思って。」
「……」
突然の話に、理解が追いつかないケント。
さらにアスティーナが追い打ちをかける。
「この世界を、私が壊そうとしたら…君はどうする?」
ケントは、これだけははっきり答えた。
「そりゃあ、止めるしかないだろ。一人の友人として。そして、この世界を守りたい者として。」
その言葉に、アスティーナは納得と、悲しみの表情で言った。
「そっか…ケントらしいね。」
「でも、止められるかな?私の思いを。」
空で月が揺れたように見えた瞬間、二人の間に見えない嵐の気配が生まれた。
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