ダーク・ファンタジー小説

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【アイドンノー】
日時: 2026/01/20 14:06
名前: 森野泡沫 ◆vcRbhehpKE (ID: i0W29qfY)

ダークファンタジー・あるいはジュブナイル?でしょうか。
わかりません。プロット設定その他もろもろゼロからとりあえず手癖で書きます。



Tips:作品説明は本編がある程度進行した後で解放されるぞ!

Re: 【アイドンノー】 ( No.1 )
日時: 2026/01/20 12:40
名前: 森野泡沫 ◆vcRbhehpKE (ID: i0W29qfY)

◆#1



 オカルト研究会は素晴らしい。
 
 ここは別に進学校でもない普通の公立だ。
 けれど、なぜか全校生徒みんな何かしらの部活に所属していなければならない。

「せんぱーい。なんか面白い話してくださいよ」
「振り方が雑。急に言われてポンポン出てくるワケないだろ」

 だからと言って適当に……そう例えば野球部やらに入ったとしよう。
 朝練ランニング、ノック打ちに球拾い……ほら想像するだに面倒くさくて嫌だ。
 特に早朝ランニングの辺りが最悪だ。もし今が冬だったらどうだろう。
 ただでさえクソ寒い冬の朝に、惰眠をむさぼる権利さえ俺から奪おうというのか。冗談じゃない。

「あ、いや……そういや今朝な」
「何かあったんですか?」

 かといって美術部に入るのか。答えはノーだ。なぜなら別に絵心があるというワケでもないから。
 じゃあ吹奏楽部とかはどうだろうか。これもノーだ。なぜなら譜面を読めないから。
 軽音楽部はちょっと面白そうだなと思ったけれど、やはりこれも逡巡の果てにノーだ。
 見学しに行ったら、ちょっと苦手な先輩が部長をやっていたから。あと、やっぱり譜面が読めない。

「学校近くの駅前あるじゃん。あそこの居酒屋の裏にあるゴミ箱で」
「ふむ」
「多分オッサンが頭から突っ込んで足だけ生えてた」
「面白い話あるじゃないですか!」

 その点オカルト研究会……オカ研は素晴らしい。
 年に一度の文化祭で適当な展示をやれば良い。
 あとはご覧の通り、遠めに運動部の掛け声が聞こえてくるだけの部室で年がら年中ダベるだけ。
 別にオカルト好きってワケではないけれど、所在もやる気もない自身が時間を潰すにはうってつけだ。

「いや面白いと言えば面白いがよ、問題がある。この話には特にオチが無いって事だ」
「まあ確かに、特に話題が繋がりませんよね」

 オカルト研究会という名だけあって変な本が棚にいっぱいある。
 ソシャゲの周回に飽いた頃合いで手を出すと、意外にページを捲る手は進むものだ。
 やたら並んでいる月刊ムーは、ひょっとしてこれらも先達が部費で落としたのだろうか。

「とは言え……貴重な青春時代を、こうしてのんべんだらりと浪費していて良いモンですかねえ」
「お前が青春の何を知っているんだい青二才。これも立派な青春だと先輩は思いますヨ」
「先輩こそ青春の何を知っているんですか青二才。要するにヒマです」
「日々平穏なり。これに勝る幸福は無いぜ、あますところ無く堪能しなさいな」

 このやり取りも、いつもの事。
 しかし今日は珍しく尾入が何か言いたげにしていたので、ちょっと気にかかった。

「どうした?」
「や……ぶっちゃけ私も面倒臭いのは苦手なんで、まあ反論は無いのですけれど」
「何だよ、もったいぶるなよ」
「実は今月中に何か成果を残さないと廃部ですって、ここ」

 ちょっと一瞬だけ俺の耳が悪くなったみたいだな。

「いや、いくらウチが部員3人(※不登校含む)の弱小クラブだからって、さすがにそれは無いでしょ。マンガの読み過ぎじゃない?」
「言ってきたの、石田ですよ。柔道部の。生活指導の」
「ああ~……っ、アイツ、かぁ……校長とか説き伏せたんかなあ……」

 尾入は兼ねてよりアタマ石田(※あだ名)と折り合いが悪かった。
 髪型が青のインナーカラーを入れたツインテールであるから、さもありなんと言った所だが。
 オマケにまたピアスが増えている。あれ可愛いな、なんか三角形のやつ……。

「尾入が目立ち過ぎたせいでしょ」
「いや絶対に先輩のせいでしょ。ピアス髪で隠してるつもりでもバレバレですからね」
「タトゥーはバレてるかな……?」
「それは分からないですけれど……まあバレていないんじゃないですか?」

 尾入が言わんとする事は察しが付く。たぶん石田は俺を柔道部に入れたいんだろう。
 だからオカ研を潰して無理矢理に引き込もうと……それ教師がやって良い範疇なのか?
 もういっそ上裸で部活に殴り込んで「うおらっ!」とタトゥーを見せ付ければ諦めもつくだろうか。
 いや、それはそれで面倒な事になりそうだ。

「つってもオカ研で何か成果を残せって、どうしろって言うのよ」
「何かのコンクールで賞を取るとか……?」
「何かって何よ」
「私が知る訳ないでしょう。というか、それが無理なのも織り込み済みでしょう」

 尾入は尾入で絵が上手い。おおかた美術部の顧問をやっている教頭と結託したなアタマ石田め。
 ただまあぶっちゃけ俺達は、この様にやる気が無い。
 俺にしても、ようやく高校に入ってジジイから逃れ、夢の一人暮らしを堪能しているというのに。
 古武術だかの鍛錬からようやく逃れたと思えば、今度は部活漬けの毎日など絶対に御免被りたい。

「絵は正直、趣味でだけ描いていたんですけどねえ……」
「ああ、もう。うだうだと考えるのも面倒だ。とりあえず……なんか実績を残せば良いんだな?」
「先輩?」

 自由気ままに過ごそうとしていれば、必ず「どうにかしなくちゃいけない」場面に出くわす事がある。
 持論だが、そういう時は煩悶するよりも先に行動を起こすのが最も手っ取り早い。

「尾入に話した事は無いかもしれないがな。実は俺、廃墟めぐりが趣味なんだ」
「いや何度か聞いた事ありますよ。というか、ほんのり言いたい事が分かったんですが……」



Re: 【アイドンノー】 ( No.2 )
日時: 2026/01/20 12:37
名前: 森野泡沫 ◆vcRbhehpKE (ID: i0W29qfY)

◆#2



「はい、という訳で本日は×県×市の廃墟にお邪魔しています!」
「先輩?」
「ここは、なんと知る人ぞ知る名所なんですねえ!」
「供花(くげ)先輩?」
「何の名所かって? いや私もこういった廃墟を巡るのが好きでして、そういったマニアの方々が言う名所という意味合いもあるんですが」
「ねえ供花先輩」
「なんと実は……ここ、もっぱらのウワサなんですよ……『出る』って……!」
「オイ供花」

 土曜日である。そして夜である。

「うるさいな今カメラ回してんだから余計なセリフ挟むなよ!」
「見りゃあ分かりますけれど色々とツッコみたい後輩の心情にも寄り添ってくれません?」
「なら改めて説明してやろうじゃないの。へその穴かっぽじってよく聞けよ?」
「おなか壊しますよ。普通は耳でしょ」

 俺こと供花想赤(くげそうせき)と、後輩である尾入伊緒(おいりいお)はオカ研所属だ。
 どうやらオカ研は今月中に何かの実績を残さないと廃部になってしまうらしい。
 そんなバカな。平成初期のマンガか何かか。今は令和だぞ。もうすぐ10年経つ。
 でも頑張らないと面倒な事になりそうだ。でもオカ研で実績ってどうやって?

「とりあえず心霊現象っぽい何かしらを撮ってバズるか何かすれば一応は実績でしょ」
「うーわっRTA実況でもこんなガバチャート見た事ない」
「RTAやってる方々はガバとか言いながらメチャクチャ詰めてるだろうが」
「あと、しれっとバイクの後ろに乗せられて来ましたけれど。先輩って免許……」

 尾入が何か訝し気な視線を向けて来たので、取り出した免許証を目の前に突き付ける。

「あっ……ちゃんと持ってたんですね……」
「普通二輪なら免許は16歳から取れるんだぞ。俺の事を何だと思っていやがるんだ……」
「きまぐれ破壊神」

 最近の若い奴は先達に対して敬意ってモンが無いと思う。

「全く失礼な……ちゃんと役所に電話してみたり色々と手間暇かけて準備してきたのに……」
「ご、ごめんなさい……意外とそういう所はしっかりしているんですね先輩」
「まあ役所も結局ここの地主に連絡取れなかったらしいけど」
「供花先輩?」
「そういえば自慢だけどさ、免許一発だったんだよね。いや中1くらいから乗ってて助かった。やっぱり経験値って強いな」
「オイ供花」

 閑話休題。
 廃墟の探索は、実は結構ある程度の装備が要る。手袋を尾入に渡す。
 彼女がそれを着けている間に、俺は赤い刺繍糸を取り出して手ごろな柱に結び付ける。

「それは何ですか?」
「夜の廃墟って迷いやすいからな。明かりも懐中電灯しか無いし。これを道標にしておくって寸法だ」
「スマホのライトは使わないんですね」
「予備の充電器は一応、持って来てるけれど……こっちのが雰囲気が出るじゃん」

 刺繍糸を使うのは我流だが、まあ毛糸とかよりは切れにくいし、かさばらないだろうという判断だ。
 実際は俺だけなら迷ってもまあ戻れる自信はあるのだが、もし尾入とはぐれた時、彼女が目印に出来るだろうという心づもりで居た。
 今回の廃墟は、かなり大き目だ。山奥に流れる川沿いの廃ホテル。いわゆるラブホテルではなく、歴とした、かつての観光名所である。
 今は海岸沿いの灯台近くに、より大きなホテルが幾つかある。それらとの経営戦争に負け今や人知れず打ち捨てられているワケだが、これだけの規模だ。思いつく準備は出来るだけしておこうと考えた。

「何より、こういうのって準備している時ノリノリになるよな……」
「何ですか急に……ところで、この手は何ですか?」

 俺と尾入は手を繋いで奥へと進んでいく。
 開けっ放しの入り口からロビーを通り、当然エレベーターは使えないので階段を探し、電灯の明かりで足元を照らしつつ闇を踏んでゆく。

「これが確実だろ。あ……すまん嫌だったら言ってくれ」
「いや、まあ……べつに嫌と言うワケでは……」

 デリカシーに欠けていたかもしれない。反省しよう。
 ただ現状では、こうして手を繋いだまま自分が少し先を歩く。床が抜けそうだったり危なそうなところは一旦、自分が先に確認する。これが安全なハズだ。
 俺ひとり自由に探索するだけなら無茶をしても構わないが、もし尾入に何かあったら親御さんが悲しむだろう。ここは先輩として、ちゃんと後輩の安全確保はしなければ。

「ところで先輩、本気で都合よく何かしらが出てくると思っているんですか?」
「ンなワケないだろ。こういう廃墟って、なんとなく雰囲気が好きで色々と行っているけれど……一度もそういうのに遭遇した事は無いなあ」
「え、じゃあ、これって無駄じゃ……」
「要はそれっぽい映像が撮れりゃあ良いのよ。あとは映像編集とか詳しい友達が居るから、ソイツに頼んでイイ感じに何かやってもらうつもり」
「うーわっ供花」

 些末な事に拘るな後輩よ。これも俺達の居場所を守る為なのだ。

「というか、それで今の目の肥えたネット民が騙せるワケ……」
「まあダメで元々、何もしないままで部室に籠っているよりは……って」

 ところで廃墟を探索する時、恐ろしいモノは幾つかある。
 抜ける足場に窓ガラスの切っ先などなど枚挙に暇は無いのだが、もっとも恐ろしいのは。
 その廃墟に誰かが居た時だ。
 そして静かに、しかし確かに、ぼそぼそと人の声が聞こえ、廊下の先にある部屋のひとつ、扉が開いていて。部屋の中から、あわい光が漏れているのが見えた。



Re: 【アイドンノー】 ( No.3 )
日時: 2026/01/20 14:01
名前: 森野泡沫 ◆vcRbhehpKE (ID: i0W29qfY)

◆#3



 廃墟探索とは、とても褒められた趣味とは言えない。
 他人様の土地に踏み込む事が、あまり良くないからか。いや、それは許可を事前に得れば良い。
 生産性が無いからだろうか。いやいや、もとより趣味とは生産性など度外視。浪漫さえあれば良い。

 では、なぜ良くない?
 答えは単純明快。危険だからだ。

 それは不安定な足場か。むき出しのガラス片か。あるいは不衛生な環境であるからか。
 何かしらの家具や設備が倒れてくるかも。なにかの不意で火災や倒壊が起きるかも。
 まったく安全性が確保されていない場所である事そのものは、たしかに良くない。
 しかし、けれど、それらは合っているが、まだ幾つかの危険性に言及していない。

『出来るだけ音を立てずに糸を辿って出口まで戻れ』

 スマホのメモ帳に文章を打ち込み、尾入の口を手で塞いだまま、画面を見せる。
 画面の明かりに照らされた尾入は、戸惑った表情を浮かべる。
 息をひそめながらスマホに次の文字を打つ。

『イエスだけだ。わかったらうなずけ』

 尾入は困惑しながらも首肯する。俺も小さく首を縦に振る。
 ゆっくりと赤い糸を手繰りながら来た道を戻る尾入。
 彼女を横目で見つつ、前方の明かりが漏れる部屋に警戒を注ぐ。

 通路越しにボソボソと聞こえてくる声。漏れている青白い光。
 当然ながら、まず俺は、これが心霊現象ではない事を警戒した。

 大きな廃墟なら、よくある話だ。
 たとえばホームレスが住み着いているとか、どこぞのバカが溜まり場にしているとか。
 俺ひとりなら、たとえば、そういうバカが何人か居たとして殴り倒せば良いけれど……尾入を巻き込む可能性がある。それは頂けない。
 幸い、ここまでの道中に人気は無かった。糸を辿れば問題なくホテルの外へ辿り着けるハズだ。
 そして俺も当然ここから逃げるつもりだ。ただし尾入の安全を確保しながら。
 そして出来るだけ密やかに。

 チンピラ程度なら問題は無い。でも、もしも先の部屋に居るのが本職だとしたら。
 例えばヤクザか、それに近い奴らの取引場所だったなら。
 見つかってしまえば、きっとどこまでも追及して来る。
 それこそ俺の高校も、そして親しい人間関係……例えば尾入の事も調べ上げるだろう。

 迂闊だった。こんな事もあろうかと事前に何度か下見は済ませておいたのに。
 有名なスポットだから、そうそう薬物だのの取引場所には選ばれないだろうと踏んでいたのに。
 だが、きっとまだ俺達の存在がバレてはいない。そう、このまま音を立てずにひっそりと。
 焦らず、確かに、気配を殺して、すみやかに逃げ切る事さえ、出来れば……。

「きゃあッ!」

 突然の轟音。
 ひびく悲鳴。
 ……尾入の悲鳴。
 背後に振り返る。尻餅をついて倒れた尾入。眼前には抜けた天井。
 それから上階から瓦礫と共に落ちて来た石像。しゃがんだ悪魔の造形をしている。

「せ、せんぱ……ごめ、んなさっ……」

 尾入が目尻に涙を浮かべ、小さく掠れた声を上げる。倒れたまま、俺を見上げながら。
 上から崩落した通路に、逃げ道は無かった。
 ……ンなタイミング悪い事が、よりによって今あるか!?
 舌打ちを呑み込む。それよりも先に警戒するべき事があるからだ。

 間違いなく今の物音で、部屋の中の奴が出てくる。1人か、複数か!?
 石像と瓦礫で退路は断たれた。
 最悪、何人か居たとしたら大立ち回りを繰り広げなきゃなワケだが……!

 ……ごおん、と。
 まるで大きな鐘、例えるならそんな音が響いた。

 俺が想定する内の最悪は、ヤクザかマフィアの連中だった。
 廊下の先。光が漏れている、開きっぱなしの扉の奥から出て来たソイツは、どれでもなかった。
 単独だ。ただ存在感が異質だ。まず足が無い。

 擦り切れた襤褸切れにまみれている。足が無いという事しか分からない。
 懐中電灯を真っ直ぐかざして照らす。
 やっと、そいつの腕は骨だけしかなくて、ローブを被っているという事が分かる。
 ローブの下からは骨……髑髏、しゃれこうべ。ふたつの眼窩から青い火が覗いている。

「……せんぱ、い」

 背後から消え入りそうな細い声が聞こえた──……。

 それから。
 俺は。
 考えるより。
 先に。

「どっせいッ!!」

 ……──ローブを被ったドクロの人影に飛び蹴りを見舞う。

 意外にも手応えが足から伝わる。ドクロの何某かは素直に廊下の向こうへ吹っ飛ぶ。

「あれ、いや……この場合、足応えって言うべき……?」
「……せん、ぱい?」
「おう、ごめんな尾入。流石にこういうのは予想してなかった。先輩失格かもな」

 横たわりながら涙を浮かべている尾入に向かって、ハンディカメラを投げ渡す。
 それから再び前方、廊下の先へと視線をやる。
 まるで死神の見た目だ、と思った。そいつは懲りずに、のろりと緩慢に起き上がる。
 どうやら、まだ「まいった」とは言わないようだ。
 だからといって逃げ道は無いし、なにより背後に可愛い後輩が居る。

「なあ尾入」
「ひゃいっ!?」
「何だ今の声、どっから出たんだ……まあ良いや。しっかり撮っときなよ」

 髑髏から覗くふたつの黒い闇。爛々と蒼い焔が俺を睥睨する。
 俺は常々、面倒事は御免だと思っている。できれば平穏無事、無事故無病気の人生が最上だ。
 ただし物事は、なんにしても例外ってヤツがあって──。

「学校の問題児バーサス死神ちゃん。これは大バズり間違いナシだろ、なあ!」

 ──オモシロそうなケンカは、大歓迎だ。



Re: 【アイドンノー】 ( No.4 )
日時: 2026/01/20 16:11
名前: 森野泡沫 ◆vcRbhehpKE (ID: i0W29qfY)

◆#4



〇とある市の市立高校生徒による証言〇

生徒Aの証言。

「オカ研ですか。いや正直、関わりたくないッスね」

生徒Bの証言。

「ほ、本当は……えっと、その……妖怪とか……好きなんで、入りたかったんですけれど……」

生徒Cの証言。

「いや、あーしら別に、そういうの詳しくないけど、だってヤバい先輩いるらしいし」

生徒Dの証言。

「だってオカ研に居るんでしょ。何でか知らないけど。二中の『きまぐれ破壊神』が」







 不良は中学卒業といっしょに、やめた。

 中学の時、一年から二年の半分くらいまでは楽しかった。
 授業はクソ退屈だった。それよりも夜の方が楽しくてたまらない。
 周りは酒にタバコにパチスロに、それからエロい事にクスリとか、まあ楽しそうだなと思ったけれど。
 酒とタバコとクスリは脳ミソがアレになるらしいし。
 エロい事は、これ言うと毎回めっちゃ笑われるんだけど、やっぱ初めては好きな人とヤるのが良い。
 とどのつまりケンカとバイクが楽しかった。

「うおっ……っらァい!」

 仮称死神のドタマをローブごと掴んでブン投げる。
 こういう時は先手必勝。先ずは相手をボロ雑巾にする。とりあえずそれで間違いない。

「先輩!」
「なんだ尾入、コッチは結構アレっていうか切羽つまってるんだけど!」
「いや、アレがなんか足とか無いしドクロだしヤバそうっていうのは分かりますけれど……今のところ、あれじゃないですか!?」
「あれって何だ、もう簡潔に言ってよお願いマジで!」
「いや、あの、ああもう、アレはアレです……だって!」

 ローブを纏ったドクロが三度ゆらりと立ち上がる。
 俺は構えて備えつつ、尾入の言葉を聞く。
 そして、その尾入の言葉で俺は打ちひしがれる。

「だって……あのローブさん、べつに、まだ私らに何もしてなくないですか?」
「あっ……」

 いわれて、みれば。

 まずは現状から整理しよう。
 俺と尾入はオカ研の廃部を免れる為に廃墟探索へと繰り出した。
 探索へと繰り出した廃ホテルの一室から怪しげな気配が出ており、偶然に退路を断たれた所で、正体が不明なローブを纏ったドクロの何某かにエンカウントした。これが現状だ。
 だからつまり、そもそも蹴り飛ばす必要もブン投げる必然性も無かったワケで。

「いやっ……だってアレもう、どう見たって死神でしょ見た目!?」
「先輩はルッキズムって言葉を存じていますか、いいからほら遅くないから対話をですね!」

 尾入とギャースカ吠え合い、それからローブを纏ったドクロの方へと二人で視線を向ける。

「えっと……すんませんでした。やっぱ怒ってます?」

 ローブを纏ったドクロは何も言わない。
 代わりに空洞である漆黒の眼窩から、いっそう青い火を燃え盛らせ。
 そのローブの下から、おもむろに黒い大鎌を骨の手で取り出す。

「やっぱ怒ってるゥ!!」
「どうすんですかコレ先輩もう100%アンタの責任でしょ!」
「ああもう、わかってるようるせえなぁ!」

 どこからだ。どこから間違っていた?
 廃墟を巡るのは元から趣味で。
 きっと今回だって大して変な事は怒らないだろうとタカを括っていたからか?
 俺ひとりなら、そういう軽率な行動のツケは納得がいくけれど。

 眼前の死神は、おおきく黒い鎌を振り被る。
 わざわざ考えなくても分かった。そこから俺だけじゃなく尾入までも両断しようとしている、と。

「……うおっ、らあァいッ!!」

 振り下ろすより前に。
 ローブの死神の、胴体へ思い切り組み付いてタックルをかます。
 ──自由気ままに過ごそうとしていれば。
 ──必ず「どうにかしなくちゃいけない」場面に出くわす事がある。
 ──持論だが、そういう時は煩悶するよりも先に行動を起こすのが最も手っ取り早い。

「先輩っ!」
「尾入ィ! どうにか逃げろッ!」

 俺ひとりなら、どういうツケだって受け入れるけれど。
 尾入まで巻き込むのは、きっと絶対にダメだ。

「死神野郎っ! いきなりブッ飛ばしたのはゴメンだけど、俺の後輩に手ぇ出したらなぁ……っ!」

 叫びながら組み伏せる。骨しかない関節を極めようとした、のに。

「先輩っ!」

 死神が俺の腹へと突き出していたのは、骨だけの左手。
 そこに握られているのは、真っ白な、まるで人骨のような剣。

「……おっ? あ……やべ」

 脳裏に過ぎったのは、いつか一回り以上も年上のチンピラにナイフで刺された時の事だ。
 確かあの時は、どっかの臓器に傷がつくだけで済んだんだっけ?
 だけど、これ、なんか、こう感触的に、あれか……?

「あ、これ貫通して……る……?」
「供花先輩ッ!!」

 痛みより先に視界がぐらりと揺らぐ。視界だけでなく、地面に足を突いている感覚さえ。
 意識がひっくり返されそうになる。つぎに瞬きをすれば、たぶん全部が真っ暗になるな、と。
 そんな予感が脳裏をかすめた。

「……っ、フギィーッ!」

 だから。
 まばたきなんて、してやるものか。
 尾入が逃げ切るまで。
 俺を貫いている、白い剣と腕を全力で掴む。この死神が逃れられないように。

「尾入、バカヤロオッ! はよ……逃げろって、言ってんだろが!」
「だけど先輩、逃げ場ありません! マジで!」
「そうだった!」

 え、マジでか?
 結構、頑張ってカッコつけたつもりだったんだけど?
 こんな締まらないラストのアレなの俺?
 え、あ、まって、ちょいちょいちょい、ほんとに待って、あっ……やば、こう意識が……──。

「供花先輩ッ……!」



「──……ガーゴイルの像が反応したからと、こうして来てみれば」



 すとん、と。
 どこからともなく。
 俺の頭の先で、黒い靴の足音がした。

「バカのガキが、なにか茶番をやっている」

 朦朧とする意識のまま、かろうじて視線を上げる。
 まず目に入ったのは、黒くたゆたう広いマントコートの裾。
 それがインバネスコートの裾だと気付き。

「やっぱり無知は罪だと思います。お陰で時間外労働をする羽目になった」
「……と、鳥……?」

 突如として現れた男の仮面を見て、俺はそれしか言えずに。
 そのまま意識は闇の底へと落ちていった。




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