ダーク・ファンタジー小説

Re: ヴァンパイアハンターに愛しさを。 ( No.1 )
日時: 2021/01/10 14:33
名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: w1UoqX1L)

序章【雪夜を駆け抜ける】

 ほぉーほぉーと母喰鳥ふくろうが鳴いて不気味な霧が掛かるそんな墨のような闇の中を彷徨う影が一つ。

 「血ガ足リナイ……モット、モット……ッッ」

終わることのない喉の渇きに吸血鬼は苦しそうに喚き欲望を溢した。
 腐敗した継ぎ接ぎの手をよろよろと動かし、獲物を探すもそれらしい声も匂いもせず。
ただ吸血鬼は垂れてきた唾を呑んだ。
 

 ふと、若い女の甘い香りが吸血鬼の鼻孔をくすぐった。吸血鬼は獲物が近くに居ると高ぶった感情を隠しきれず一心不乱に手を動かし足を動かし、涎を垂らす。

 掴んだ細い手首に興奮しながら吸血鬼は醜く鋭い牙のある口を開いた。
 「血ッッ!! コレダ、オマエノ血!!」
奇声を上げながら首に噛みつこうとするも腹部から焼けるような痛みが走る。
 痛イ痛イと醜く五月蠅く泣き叫ぶ吸血鬼が見た最期の光景は女ではなく男が笑って銀製のナイフを懐にしまう所だった。

 吸血鬼は朝日が昇るまで考え続けた。何故自分は男を女だと勘違いして襲おうとしたのだろうか、どんなに空腹でも男と女は間違えないのにと。


 醜い吸血鬼は雪と一緒に地面に降り積もった。



 
 その影が自分を殺そうとしていることには気づいていて、親を信じベッド下にずっと隠れていた少女は後悔する。
 あの時、ドアを開けなければ。あの時、親を姉を、止めていればと。

 「出ておいで~此処に居るって分かってるんだよ!! お母さんもお父さんもお姉ちゃんもきみのこと、待ってるよ~」
愉快愉快とまるでかくれんぼをしているように飄々とそう告げる未知の生態、そう吸血鬼に少女は込み上がってきた恐怖、焦燥、涙、固唾、何もかもを呑み込んだ。
ぎゅっと瞼を閉じ、口元に両手を押し当てる。

 暫く声がしなくなり居なくなったのかと安心しきり、瞼を開いた瞬間、少女は言葉を失い「あぁ……ッ!!」と声を上げてしまう。
両親、それからたった一人のかけがえのない姉の死体が此方を見つめるように転がっていたのだ。

    「みぃつけた」

くす、そう小さく微笑する声が聞こえた。
少女はがたがたと小刻みに震えあがる。手から滲み出る汗が、止まらない嗚咽、殺されるという恐怖が少女を襲い狂う。
 

 家族は自分を護る為に此奴に殺された。死にたくない、殺される。


 生きたい、と願い祈って視界の端に見えた銀製のナイフを見つければ手を伸ばし取ったその時、自分を隠すように護っていてくれた影がベッドが取り払われる、風が自分の前髪にぶわっと触れるのが感じた。

 初めて家族を殺した者の顔を見た少女は唾を呑み、「おや僕を待たせていたのはこんなにカワイ子ちゃんだったのか!! ならゆーるそ!」そう言いころころと楽し気に喉を鳴らす得体の知れない人間のようでそうじゃない者。

 夜に煌めく銀髪に目が冴え渡る真っ赤な瞳。白い肌、口元に見える先の尖がった牙。所々と服にある赤い跡。

 「怯えちゃって、可愛いね……その表情、凄く美味しそうだよ……! 今、べてあげるから。直ぐに家族のところに逝けるよ」
音を立てて舌舐めずりをし噛み締めるように呟いた一言とにたぁっと猫のような微笑に少女は粟立った。
 「いやぁあッッ!! 死にたくない死にたくない死にたくない!!!」
嫌だと叫ぶ少女を楽しむように見ていた吸血鬼は向けられた銀製のナイフに目を見開かせた。
そしてまた神経を逆なでする微笑を浮かべ「ふふ、可愛い。僕、立ち向かう子ってだぁいすき」と怖がりもせず軽やかに近付いてくる吸血鬼に少女は後退った。


 己を強い力で抱き締めてきた吸血鬼は向けられたナイフに自ら刺され、積み木のように崩れ落ちた。






 また遊ぶように。ほら楽し気に。弄ぶように、恐怖を煽るんだ。



 「嗚呼、ほら……はやく、逃げな……大人に、なって……僕を、ころしてみなよ……」
あははと力なく笑った吸血鬼に呆気を取られた少女は眉を顰め、金魚のように口を開閉させた。
 「迎えに行くよ、きみのこと、見てるから………十八歳になったら……きみを、……喰らいに行く、から」
宣告された殺しに少女は居ても立っても居られず愛した家族と育んだ思いである大好きな家を飛び出した。




 外は、雪が花弁のようにちらちらと舞っていた。雪が降り積もった地面を少女はただ必死に走って走って、頬を掠める風の冷たさにも感じなくなるぐらいに。