ダーク・ファンタジー小説
- Re: 神が導く学園生活 ( No.20 )
- 日時: 2022/03/23 19:41
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: rKVc2nvw)
第五章 ダンジョン編
《コウ》
時が経つのは早いものでついついさっきまで入学式と思っていたのが嘘のようだった。俺は寮のベランダに立って月を見ていた。今は文の月。葉の月になると長期休みのためもうすぐ一学期が終わる。
「よぉ。コウ」
隣からクロが近づいてくる。ベランダは各部屋と繋がっており、自由に行き来でいるのだ。クロの部屋は分からないが、俺に声をかけたところ多分俺の部屋の近くに住んでいるのだろう。
「珍しいな。クロ単体で俺に話しかけてくるなんて。」
俺はちょっと皮肉を込めて言った。しかし、クロは華麗にスルーして、紙コップのコーヒー片手に俺の隣に立つ。
満月をバックに俺たちをくすぐるかのように吹く夜風、それにサラサラな黒髪に10歳とは思えない切れ長のクールな目。このクロは見た目だけならオール百億万点何だがな。性格が…勿体ない…
「何か失礼なこと考えてなかったか?」
「いや、何でも?」
クロは牙狼族のためか野生の勘がやけにいい。俺は余りクロに隠し事はしないようにしようと決めた。
「ふぅ…」
クロはそう言うと頭をブルンと動かす。何事かと思った俺の目の前にはしっぽと耳が生えていたクロが居た。何故急に獣化したのだろう?
「こっちの方が落ち着くんだ。いつもは抑えてるからな」
クロはズズッとコーヒーをすするとため息にも聞こえるセリフを吐き出す。それって俺の前だとリラックス出来るってことなのだろうか。そう思うとなんかこそばゆい。
数分。沈黙が続いた。所詮友人の友人の関係のため余り関わりはない。クロは自他ともに認めるHENTAIだが、残念ながら容姿は完璧でクラスの影の人気者。俺は悪魔のような見た目だからと嫌われ者になっている。
こんな真反対の俺らが話そうでなんて無理がある話だ。
「なんでクロはそんなラナが好きなんだ?」
別にずっと沈黙でも良かった。しかし、ふと思い出した疑問をクロに投げかける。クロは1口コーヒーを飲むと、ふぅと、息を着く。
「最初の授業ので、ラナがスライムを倒した時に惚れた。美しい白髪にくすんだ深く深い緋色の目。牙狼族は1度認めた相手には死ぬまで尽くす習性がある。それが関係してラナの事が好きなのかもな。」
クロは照れずに淡々と答える。コイツ本当にクロか?と思うほど落ち着いており、俺は驚きを隠せざるおえなかった。だって、今目の前にいるやつは毎日ラナラナ言ってるあのHENTAIだぜ?多分。素はこういうクールな性格だからモテるんだろうな。ラナの前も素なのだろうがあれは例外。
てかなんでこんな変態がモテるんだよちくしょう。
そんな中、俺はふと疑問が浮かんだ。
「じゃあ、牙狼族のハーフじゃなく、純血の人類だったらラナのことは好きじゃ無かったんじゃないか?」
愚問だった。その事に、今更気づいた。クロなら迷わず否定するだろう。そんなことは容易に考えられたのに、何故俺はこんな問いかけをしたんだ。
「…分からない。」
返ってきた言葉は意外にも迷いのあるように感じる言葉だった。
クロは牙狼族という特異を除いて、人類のままだったら今とは違う性格になっていたかもしれないと。そう語った。
「それに、ラナに対する気持ちも分からない…」
クロは飲み干した紙コップをグシャッと握りつぶした。これまた意外だった。ずっとラナには恋愛感情を抱いていると、勘違いをしていた。
「恋愛?寵愛?親愛?慈愛?恩愛?敬愛?」
これまたクロは難しいことを考えるな。それか俺のめんどくさい性格が出てしまっているのか… とりあえず適当に返しておこう。
「異性が好きなら恋愛で決まってるんじゃないのか?」
なんとまあ10歳らしい考え方だと自分でも思う。けど、愛に答えなんて出さなくとも『好き』というだけでいいと思うんだがな。
「分からない…もし、俺がラナを慈愛として見ているのならば俺はラナのことを格下として見ているということになる。最低だ。じゃあ敬愛か?それは牙狼族の血のせいだ。人類の方の俺はラナのことは好きじゃないってことだ。」
うっわ。めんどくせぇ。俺はそんなに頭が良くないから哲学的なことを今ひとつ考えられない。好きなら好きで異性愛で良いのに。
まあ、クロが牙狼族ってことが自体をややこしくしてるんだろうな。せめてクロが純血の牙狼族なら…いやそしたら姿、形がまんま犬のようになってしまう。なら、純血の人類か。そしたら今のクロという人格が無くなるかもしれない。クロは牙狼族と人類のハーフであるが故にクロなのだ。なんか俺カッコイイこと考えたな。まあ話がズレそうだからクロには言わないが。
それより、俺はクロの発言で引っかかったことがあった。
「クロがラナを格下と見ていることを自分が許せないんだったら、クロはラナのことを格下とは見てないんじゃないか?」
「え?」
クロは俺の言葉に反応し、耳をピンッと立てた。感情がわかりやすいな。牙狼族は。
「だって、仮にラナを格下と見ているならば、クロがラナを格下と見ていることに対して『最低だ』なんて思わねぇだろ。少なくともクロがラナに抱いてる物は慈愛とは違うものだ。」
てか慈愛ってどういう意味だっけ。愛愛愛愛言いすぎてゲシュタルト崩壊してやがる。たしか下のものに対して優しくする事…だったか?ならクロがラナに格下格下言ってるのも理解できる。
それより、頭のいいクロならこんなこと直ぐに考えつくと思うがな。きっと、自分に自信が無かったのだろう。
「じゃあ、俺がラナに抱いてるものはなんだ?」
話が振り出しに戻る。いや、だから異性愛でいいんじゃないのかよ。こういう所をきっちりと線引きしたがるクロは真面目なんだろう。不真面目で適当な俺とは真反対だ。
「答えは今じゃなくても良いんじゃないか?」
俺は何気ないことを口に出す。事実今俺たちが考える内容にしては重すぎる。第一俺の頭がキャパオーバーしてしまいそうだ。俺はどうにかこの話を終えるために四苦八苦して考えていた。
「ふっ…なんだよその百面相」
クロが笑う。今の俺に笑う要素あったか?なんだか不服だが、この話が終わるのならば万々歳だ。
「笑うなよ…」
俺は照れくささを隠しきれていない言葉を発した。
そうして話がようやく落ち着いた瞬間。
『キャーー!』
誰かの悲鳴が聞こえた。セリフと声の高さからするに女子だろうが、ここは男性寮だ。女子の声がするはずがない。俺は顔を見合わせるとベランダから身を乗り出して下の方を見た。すると男性寮と女性寮の間の道に人だかりが出来ていた。
何か起きたらしい。
「行くか?」
クロがいつの間にか耳としっぽをしまって人だかりを指さして言う。俺は首を横に振る。
「いいや、面倒くさそうだから辞めとこう」
そういった瞬間、クロの部屋であろう所からクロのファミリアのロラが飛び出してきた。
「ん?どうしたんだ?ロラ?」
その瞬間。クロの顔がとろけた。凛々しい目つきは目尻がとろけ、一の字に固めていた口は半開きになっている。クロHENTAIフォームのご登場だ。さっきまでシリアスな話してた相手だとは思えない。
本当、こういうのを残念イケメンって言うんだろうな。
「キュー!キュゥッ!」
ロラは可愛い声を出しながらクロの袖を引っ張る。その方向はクロの部屋だった。
「なんだ腹が減ったのか?」
クロなら甘やかしてロラにエサ大量に与えてそうだよな。健康面は大丈夫なのだろうか。
「けどダメだぞ。お菓子は週に1回と決まってるだろ?」
クロはロラに『めっ』と言う。意外と健康面を気にしてるんだな。それにしてもキリッとしたクロを見た後にHENTAIクロを見るとなにか、悪い方のギャップ萌えで吐き気が襲う。
「キャウッ!」
ロラは首を振りながらクロを部屋に戻そうとする。流石は竜と言ったところか。牙狼族のハーフであるクロが踏ん張っても、クロは引きずられている。
「なんだなんだー?俺と遊びたいのか?」
完全にとろけきったクロの顔を見て引いている俺。ロラもこんなんが主なんて溜まったものじゃないだろう。少し同情するぜ。
ロラはクロの袖を引っ張りながら俺に視線を向ける。
なんだ?助けて欲しいのか?残念ながらそれは出来んぞ?
俺はそう思いながら2匹の様子を横目にベランダの外に目を向ける。
…外には騒ぎが起きていて、ロラはクロの部屋に連れていこうとしている。
なんだ?この騒ぎを見せたくないのか?でもそしたら俺も部屋に連れ戻されるだろう。なら、何してるんだ?ロラは。
すると俺の頭の中に電流が走った。
「なあ。ロラはあの騒ぎに連れていきたいんじゃないか?」
俺が言うとクロとロラの動きが止まり、ロラが俺に近づくと、頭上を回りながら『キャウキャウ』と吠えている。どうやら正解のようだ。
「…なんで分かるんだよ」
クロは不服そうな表情を浮かべる。俺も分からないけど、何となく分かったんだよな。
「まあ、とりあえずあの騒ぎに行こう。」
俺がそう言うとロラは先にクロの部屋経由で騒ぎの所へ向かう。
俺達も慌ててロラの後を追った。
- Re: 神が導く学園生活 ( No.21 )
- 日時: 2022/03/26 02:28
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: te9LMWl4)
人混みをかき分けるとそこには馬車があり、黒服の大人達。その中から一際目立つ人物がいた。
「やあ、諸君。もう夜じゃないか。部屋に帰らないのかい?」
そう言い、ニッコリと笑う人物。その一言で男子も女子も、ファミリアでさえ黄色い悲鳴をあげている。
髪色が紫と茶色の半々で分かれていて、目も茶と紫のオッドアイ。制服であるコートの下にはワイシャツでなく、紫の学ランを来ている。
顔立ちもよく、整っており、目は比較的丸く、鼻筋は通っており、口元はいつでも笑みを絶やしていない。
同性から見る俺でもわかる。イケメンだ。なんでこの学園はイケメンが多いんだ?
あ、それよりも何故こんなに人が集まっているのだろう。
「あ、クロコウ!2人も来てたんだね!」
聞きなれた明るい声。そこにはラナとタミが立っていた。2人ともリラックスしていたのか寝巻きの上にカーディガンを来ている。The女子という感じだ。
「ラナ!」
そうクロが叫ぶとすぐ様ラナの後ろのポジションに立つ。いつもそこに立っており、ラナを立たせている上にボディーガードもしている。意外と頭良いんだよなあいつ…
それより、俺も3人の元へ向かった。
「イケメンだよねバルタザール様…」
タミの目がハート型になる。いや、実際はなってないのだが、このとろけた顔はハート型の目をしてると表現せざる得ない。比喩だ比喩。
クロほどでは無いがタミの表情がとろけるほどの人物って何者なんだ…
「あの人誰?」
ラナがいつもの如くオブラートに包んでない言葉を発する。ラナって、何にも興味無さそうだが一体何に興味あるんだよ…
「バルタザール様!バルタザール・クープラン様だよ?!知らないの?!」
「「知らない」」
俺とラナの声が被った。俺もオブラートに包めてない所この人物に興味無いんだな。
「あー確かフィーア(4学年)のバルタザール先輩だっけ。」
「クロも知ってるのか?!」
「そりゃもちろん。逆に知らない人は居ないぞ。」
クロが涼しい顔で答える。あぁ、俺友達…というか親友がこの3人しかいないから情報網が薄いんだわ。ラナも見たところ俺達意外と関わらない…というか関われないから知らなかったんだろうな。対して2人はクラスの人気者。情報網はそんじょそこらとは比にならない。
「バルタザール・クープラン様。この学園の数少ない天使の1人で、身分的にも国の上から数えたら早いほど高い。性格も本当に非の打ち所がない完璧天使様だよ!」
タミが興奮気味に話すとぽっけから何かの本を取り出す。これは空間魔法の応用で作られた異空間ぽっけだ。正式名称は無いため皆呼び方が異なる。これ結構作るのも大変だし、入手困難なはずなのだが…やはりエルフは身分が高いため希少な道具も持っているというのか…
それより本の中身が気になるぞ?
「ほら!これこれ!」
タミが指したページを見ると、俺達3人は軽く引いた。
そこにはバルタザール先輩の写真が集まってる。俺とラナは驚きすぎて声が出なかった。しかし、クロは口を開いた。
「なんだこれ…盗撮でもしたのか?」
「違うよ!バルタザール様公式の写真集だよ!」
そんなものがあるのか…
するとタミは他ページも見せてくれる。そこには田舎者の俺でも知ってる人気者の人物や、芸子等が居た。
「なるほど。タミはアイドルオタクって訳か…」
クロが呟く。あいどるおたく…ってなんだ?
「そうそう!私美男美女の顔面を拝めるのが好きで…ぐへへへへ」
気持ち悪い。クロといい勝負してるんじゃないか?
俺らは3人で一通り本を見てみる。確かに美男美女の写真しか載ってない。ありすぎて盗撮とかしてないよな…?と不安になる。
「それよりあいどるおたくってなんだ?」
俺が空気に飲まれて言えなかった事を聞く。
「アイドル。は歌ったり踊ったりして人を楽しませる職業のことで、オタクは特定の物が好きすぎる人のことを指す。」
ラナが俺の質問に丁寧に答えてくれる。田舎者過ぎて今まで知らなかったが、確かに俺の里にも似たような職業があったな。芸子っていう人を楽しませるものが。
しかしまあ、気持ち悪い。
「昔はオタクってだけでも非難を受けてたけど、最近はそれが一般化されてて当たり前に近い事なんだよ!」
タミが自分の名誉挽回のためか必死でそう説明する。
「いや、そうなんだがな…こんなに人に固執する人はあまり見たことがないから驚いたというか…」
「それクロが言うのか?」
俺は面白半分でクロをからかってみた。いや、でも実際その通りだろ?ラナに固執しすぎてるクロがこんなこと言うなんてブーメランこの上ない。
「あ"?」
「なんでもないです。」
クロに魔素が集まり始め獣化しかけてる事を悟り俺はすぐ口を閉じた。
クロが獣化すると俺が魔素を取り込めないようになって、敵いっこないからな。
「は、話が一区切り着いた所で話を戻そう。この人だかりは何なんだ?」
俺は逃げるように3人に聞く。クロは不服そうだが、ここで暴れてもらっては困るためここは逃げさせて貰う。
「バルタザール様を1目見ようと低学年が集まってるんだよ。バルタザール様は高学年。低学年じゃ普段お目にかかれないからね。」
タミが人差し指を空に向けながら説明する。あぁ、なるほど。人気者を人目見ようとするギャラリーの集まりだったってことか。それなのに何故ロラはここに連れてこようとしたのだろう?バルタザール先輩を見せたかったのか?俺達男だし片方はラナ・コンプレックス。訳してラナコンのHENTAIだぞ?需要は地の底に着いている。
まああんまり見かけられないならラッキー程度に思っておこう。
すると俺達の前に赤いシートが引かれた。その先は男性寮の入口がある。俺達の4人はそのシートを踏まないように道を開ける。
「さぁ!バルタザールのお通りだ!しかと目に焼き付けるのだよ子羊共!」
天使…か。初めて見たけどこんなに容姿も声もスタイルも完璧なのか?人類に重宝されてるのも頷けるが…腑に落ちない。
「キャー!バルタザール様がお通りになる道の最前列に並べた!もう死んでもいい…」
「いや、死んだらダメだろ」
タミは甲高い悲鳴に近い声をあげて両手を上げる。それに対して俺は冷静にツッコミを入れた。こんなどうでもいいことで死なれたらこまるぞ…
「おぉ。アインスの子羊共…クロとタミだね。」
最前列でタミが全力アピールをしていたことが功を奏しバルタザール先輩に声をかけられる。
「わっ、私達のこと知ってるんですか!」
「あぁ。もちろんだとも。アインスで1番人気者の上に成績もいいと、他の学年まで伝わっているよ。」
するとバルタザール先輩がウインクをする。それに対してタミが更に甲高い悲鳴を上げる。
うるさいうるさい。俺らの鼓膜を破る気か。
「そして…君達は…」
バルタザール先輩が俺とラナに声をかけられる。俺たちは逆に悪名高いからな…悪い意味で知ってるのかも…
「あぁ、人間だと思ったらただのスライムの糞では無いか。ハッハッハ!ゴミクズの分際で俺様を笑わせられるとは。予想外だったよ。」
その瞬間。辺りが静まり返る。
…え、俺ら今罵倒され…た?
なんでだ?俺は理解が追いつけずにいた。ラナ…は言うまでもない。無表情である。
すると遅れて他の生徒も笑い始める。それはまるで、俺とラナだけ別世界にいるような感覚だった。
「いや、何故スライムの糞である君たちがこの高貴で美しい学園に居るのかな?糞は糞らしく土にかえるのが君達のためだと思うよ?それに世界一の学園の生徒である私達も穢れてしまう。分かるかい?」
こいつ…天使だからって、なんで俺達を罵倒するんだよ…!
けど俺はそこら辺の陰キャ。周りの圧力に負け何も言えなかった。それに半泣きになっていた。
「おやおや、糞が水を流しているよ?汚らしいから水洗便所に自ら突っ込んでくれないか?」
なんで何もしてないのに急に先輩に罵倒されて他の生徒から笑われなきゃ何ねぇんだよ。
「ドゥ・オプスキュリテ」
一番最初に抗議したのは…クロだった。しかも実力行使で。
クロの顔はお茶の間にお見せできないような顔をしてる上に耳やしっぽまで生えている。
しかしクロの魔法はバルタザールの杖によってかき消されていた。
これは、ファミリア召喚の際にチェック先生もやっていた闇魔法?
「俺様は天使だ。光魔法、地魔法専門だが、闇魔法も中級までなら使える。黒の子羊。君の魔法は『アインスにしては』中々だが、俺様には一切効かない。」
バルタザール先輩はクロを諭すように言う。流石は高学年のフィーア。レベルが違う。
クロも魔法では対抗出来ないと踏んだのだろう。魔素を集めないようになった。
「それにしても黒の子羊よ。何故悪魔の肩なんて持つ?悪魔は滅ぶべき存在だ。高貴な牙狼族のハーフである君が肩を持つ必要なんてない。」
「うるさい」
バルタザール先輩の言葉は更にクロの怒りのボルテージを上げていく。クロは魔法は使えないと分かっているのか拳でバルタザールを殴ろうとするが軽々と受け止められる。
「おっと驚いた。筋力だけはフィーア以上の力を有してるじゃないか。天使の俺様でないと受け止められないな。」
いちいちカッコつけるのが腹立つ。けど魔法しか使えない俺ではこの人には歯が立たないだろう。物理でもクロが敵わない相手なのにひょろひょろもやしが勝てるとは到底思えない。
「クロ、タミ。2人は特別だ。高貴で美しい存在なんだ。悪魔の傍でなく、我ら生徒会に来ないかい?」
ここで生徒会のスカウトが来る。生徒会…確かシステムが複雑な学園の組織だったよな。
各学年に生徒会が10人いて、その中からリーダーを決める。そのリーダーの中から学園を運営する仕事につく人が選ばれるのだ。生徒会メンバーを選べるのは運営の仕事に着けてるトップのみ。要するにバルタザール先輩は生徒会のトップについているのだろう。そしてクロとタミは生徒会に選ばれた。
流石に一番下の学年のアインスが運営につくのは難しいが、生徒会一員として学園都市の見回りで忙しくなり、俺らと顔を合わせられなくなるだろう。
それが狙いか…?
「冗談じゃない。ラナから離れるなんて考えられないな。」
クロらしい。しかし、学園の地位を手放したことはでかい。生徒会に入ると卒業した後の職の確保や学園都市からの待遇が良くなるなどの高待遇の上に地位を得られるのだが… さすがクロ。揺るがない。
「なら、今ここで2人を殺すしかないわけだ。悪魔は見過ごせない。」
待て待て待て!俺達は世界一の学園都市にいる身だ!悪魔なわけないだろう!と言いたかったが俺は驚き過ぎて口をパクパクする他なかった。
ラナは無表情。おい、流石にここまで来たら何かリアクション取れよ!
「ま、待ってください…!2人はこの世界一の学園にいる身です!悪魔なわけ無いじゃないですか!それに…2人がもし悪魔出なかったら。バルタザール様は殺人罪で問われることになってしまいますー」
今まで黙っていたタミが焦り出す。そして俺の言いたかったことを言ってくれた。嬉しいことだが、好きな人相手にそんな対抗してもいいのか?
「ふむ。そうだな。赤の子羊の見た目が悪魔のように醜いからと言って悪魔と決めつけるのは良くない。考えを改めよう。赤の子羊。すまなかった。」
すまなかったと言いながら頭は下げないんだな。無駄にプライドが高いことで。俺はムスッとした顔でバルタザール先輩を見上げる。
「しかし、そこの異様な物は別だ。白髪に毛先が水色。緋色の目をしている。その物だ。明らかに人類でない。そしてガーデスという最恐の悪魔に酷似している。ここで処すべきだ。」
「っ…!」
標的が俺からラナに変わる。ラナは無表情のままだが、声にならない声を出した。もちろんそれをクロが許すわけがなく…
「ラナを殺すなら俺を殺せ。」
「それは出来ない。黒の子羊を生徒会に入れるために異端物を排除するのだから。黒の子羊を殺したら意味が無いじゃないか?」
バルタザール先輩は考えを曲げない。このままでは冗談抜きでラナが殺されてしまう…!仮にラナが悪魔でなくても『天使だから』という理由で許されるだろう。要するにバルタザール先輩がラナを殺すデメリットは無いということだ。
「すまないが異端物。君が生まれたのは間違いだ。嬲り殺してやろう。安心しろ、天使の攻撃の精度は伊達じゃない。異端物が苦しみながら消えされる程の力加減はできる。」
こいつ…!ラナを殺す上に拷問もするつもりか?!なんで…なんでこんな悪魔には悪待遇なんだよ…!それにラナが悪魔とは決まったわけじゃない!
「待て!悪魔ガーデスは白髪に『髪先は赤色』の筈だろ!ラナの『髪先は水色』じゃないか!」
ようやく声が出た。喉に詰まってた何かが一気に溢れ出てきた。ラナは少ない時間だったが、箒の件だったり、クロが獣化した件だったり、俺たちを助けてくれた。悪いやつのはずがない!
「そうだね。確かに異端物の髪先は赤色でない。しかし、異端物なのは、ガーデスに似ているのは変わりないだろう。」
その通りだが…そんな偏見だけで消える命って…ラナが可哀想じゃないか…!俺も感情が高ぶり体から僅かに炎が溢れだしてくる。しかし、魔法は彼には効かない。だから打てないのだ。残念ながら今の俺にはラナを助けられる程の力がない。それが感情を更に高ぶらせた。
クロはさっきの言葉で感情のリミッターが外れたのか、完全に獣化する。
こんな大勢の中獣化するのは危なくないか?!
クロが獣化した瞬間。俺から溢れ出た炎が一気に引っ込んだ。
「グァァァァッ!」
完全に獣化し、理性を失ったクロはバルタザール先輩に襲いかかる。身体中から毛が生え、制服は破れ、クロの雄叫びが辺りを襲う。アインスである俺らは足がすくみ、腰を抜かすものもいた。それで俺ら5人の周りには半径数十メートルもの空間ができる。
しかし、バルタザール先輩は落ち着いている。先輩はくるりと杖を回すと黒色のボールがクロを襲った。
あれはドゥ・オプスキュリテじゃないか?いや、俺らが見慣れてるオプスキュリテと全く違う…!速さ、精度、魔素濃度何もかもが。
「グアッ!ガァァッ!」
クロはバルタザール先輩の魔法一撃で見事ノックダウンし、獣化も溶ける。
嘘だろ…?あのクロ完全獣化体が一撃で…しかも無口頭魔法でやられた…?
「ラ…ナ…」
しかしクロも執念深い。ノックアウトされてもなお、ラナを守ろうとする。
「少し黒の子羊には静かにしてもらおう。」
するとまたバルタザール先輩が杖を回す。すると次は地面から鋭利な岩が出てきて、クロを拘束する。
「あ…あっ…あぁ…」
最初はクロも抵抗しようとするが全く動けないことを悟ると次は絶望する。ノックダウンされたはずのクロから魔素が溢れ出ており、かなり感情的になってるのが分かる。
「赤いのと黄色い子羊。止めなくていいのか?」
バルタザール先輩がラナに近づく途中。俺らに声をかける。
「…俺らじゃ…敵わない…」
俺は涙を流し、溢れ出そうな声を押し殺しながらそういう。
「…ラナは親友です。守りたい。守ってあげたい…けど。私じゃ到底バルタザール様には敵いません。」
タミは下を向いてそう言った。けど俺には分かった。タミはバルタザール先輩に敵わないと思うと同時にラナが悪魔であることを恐れているのだ。悪魔なら殺さなければならない。それが外の世界の常識のようで、タミはなかなかそれが拭いきれないのだろう。ラナコンのクロでさえ、ファミリア召喚の時、チェック先生に攻撃するのを躊躇っていたからな。
「そうか。素直でよろしい。さて異端物。最期の言葉ぐらい聞き届けてやろう。」
バルタザール先輩は情けをかけているのかラナにそう言った。悪魔と思われるラナに情けをかける辺り、いい人ではあるのだろうが…今やろうとしていることが残酷極まりないが。
「…」
ラナはまだ黙りこくっている。恐怖で言葉が出ないのだろうか…俺はただ、ラナが死んだ後幸せになれるよう願うしか無かった。
- Re: 神が導く学園生活 ( No.22 )
- 日時: 2022/03/26 17:13
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: 9/mZECQN)
「さて、始めようか。」
バルタザール先輩は杖を軽く振るう。するとおどろおどろしい闇の塊がゆっくりとラナの方へ向かう。俺はこれが何だかは分からない。しかし、その魔法がクロをおかしくした。
「ああ…あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!」
その叫び声はその場にいた全員を恐怖させた。バルタザール先輩をもだ。唯の叫び声だ。しかし、その声で、俺らもいかれてしまう程感情がこもっていた。だが、魔法に感情は伝わらない。無慈悲にも魔法はじりじりとラナに近づく。ここでラナが動いた。何かをその魔法の中にいれたのだ。その何かは…スライムだった。
「縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ょ勧縺代※蜉ゥ縺代※縺薙m縺励※縺医∴!!!!」
スライムは本来声などださない。しかしこの瞬間金属音のようなスライムの叫び声が響いた。俺はそこでようやく気づいた。この魔法は唯死を与えるだけの魔法ではない。これは…
「おっと。アインスだからと油断してしまった。しかしこれは魂の死を与える魔法。深淵魔法だ。次あたったらもう明日は無い。魂は砕け散り異端物そのものが無くなる。」
背筋が氷魔法並に冷たくなった。そんな残酷な魔法を、何の罪もないラナにつかうのか?残虐非道この上ない。
またバルタザール先輩は杖を振るう。しかしこの魔法の速度は遅い。ラナも同じことを思ったようでかわそうと動き出す。
「おっと、させないよ?」
バルタザールがまた杖を振るう。するとラナの体にクロにかけた魔法と似たような拘束魔法がまとまりつき、ラナの自由を奪う。これでラナはもう動けない。それはラナが殺されずに済むかもしれないという俺の希望も奪った。
なにもやれなかった。ラナ…ラ…ナ…
バキッ
なにかが折れる音がした。ラナが拘束を解いたのだ。
「先輩には悪いけど。ここで消える訳にはいきません。」
ラナがようやく口を開いた。するとラナの手に魔素がたまっていく。そして、その魔素をバルタザール先輩にぶつけた。バルタザール先輩は杖で先ほどのように魔法をかき消そうとする。しかし…
バチっ
「なっ!」
ラナとバルタザール先輩の間で魔素が暴発した。
「参・氷塊」
その隙をラナは見逃さなかった。ラナが呟く。氷魔法はラナの得意分野だ。そのため普段口頭魔法を使わない。しかし今回は口頭魔術を使った。要するにいつもより本気度が上がっているということだ。
バルタザール先輩は一瞬怯むが、俺達を黙らせてきた闇魔法でラナの攻撃を消そう…とするが。
バチンッ!
「なっ!んで…!」
バルタザール先輩が驚く。無理もない。クロの攻撃でさえ防いだ魔法は、爆発して使えない。その魔法を無視して氷塊はバルタザール先輩を襲う。
「ストーンエッジ!」
バルタザール先輩が叫ぶと無数の尖った岩が地面から生えて、バルタザール先輩の身を守る。
「ほう。このバルタザール様を本気にさせるとは。異端物も中々やるようだが殺すことには変わりない。」
バルタザール先輩はそう言うと果物ナイフを取り出した。何を…する気だ?
「悔しいが俺様は異端物に魔法では敵わないようだが、力業だと話は違うだろ?これで目をひん剥いて皮を剥いで無様な姿を晒させてやる。」
果物ナイフを持ったバルタザール先輩は、ラナに近づくと…ついた。が、ラナは間一髪で避ける。しかし、バルタザール先輩もつくのを辞めない。何回も何回もつくが、ラナは躱すか受け流すかで全然当たらない。更にラナは魔法をちょいちょい発動させバルタザール先輩の動きを鈍らせる。
アインスとは思えない動きだ…ラナってこんな強かったのか?
いや…
「捕まえました…」
「っ〜!」
筋量ではバルタザール先輩が圧倒的に多かった。更に魔法防御も硬い。それは制服のコートが関係していると思うのだが。
ラナは一瞬怯み、最後に諦めたような雰囲気を出す。
諦めるなよ…お前は…強いんだから…!
「さあ、ショータイムだ。」
バルタザール先輩のナイフがラナの目に刺さる…
「参・雷撃!」
女子の中では甲高い声の方の聞きなれた声がきこえる。
すると空から雷撃がふり、バルタザール先輩に直撃した。バルタザール先輩は学校製の魔法防御特化の制服のコートを着ていたため助かってるが、アインスの生徒に打ったら死んでる威力だぞ?!
声の主を見ると…辺りにバチバチっと電流が走っている。かなり感情が高ぶっているのだろう。半泣きになってこちらを見ている。
「ラナは…悪魔かもしれない。けどっ、何もしてないラナが死ぬ事なんてない!」
タミがようやく戦闘態勢になる。3対1。としても、相手には魔法を消し去る魔法が使える。勝てるかどうか…
「ははっ!これだけの攻撃で俺様が止められると…」
「よくやった。カタバミ・エルフ・ガベーラ。」
すると静かで俺達を諭すようなそれでも嫌じゃない声が聞こえる。この声は…
「「「チェック先生…!」」」
俺とタミとクロの声が重なった。チェック先生は悪魔の象徴であるコッコ(コウモリ)のような羽を背中からだし、ラナとバルタザール先輩の間に立っている。
「チェック・トイフェル…いつもいつも俺様の邪魔をしやがって。」
「邪魔じゃない。教師として生徒を平等に接しているだけだ。」
「ぬかせっ…【ホワイトホール!】」
聞いたことの無い魔法だ。バルタザール先輩が叫ぶと杖を中心に白い光が渦巻いた何かが大きくなり、中から尋常でない魔素が溢れ出てくる。俺達はそれに吹き飛ばされそうになりながらも必死で踏ん張っていた。
「【ブラックホール】」
チェック先生は軽く、そう言った。その瞬間。一瞬でホワイトホールはチェック先生のブラックホールに飲まれてしまった。チェック先生はホワイトホールを小さくすると片手でしまってしまった。
「俺とお前の歴然の差。諦めろ。あと、お前後で生徒指導室来いよ。あと、悪魔虐めも程々にな。こいつらは悪魔である俺が保証する。『人類』だ。」
チェック先生はそう言うと、去ってしまった。嵐のような人だったが、俺達を助けてくれた。さすが悪魔。人類の常識なんて通用しない。いい意味でも悪い意味でも。
「…今回はチェック・トイフェルに免じて目を瞑ってやる。」
バルタザール先輩はそう言うとレッドカーペットの上を歩いていってしまった。
その瞬間、クロの拘束も溶けた。
「ラナっ、ラナ!」
クロはバルタザール先輩にボコボコにされたと思えないほどの速さでラナに駆け寄ると、頬をつねった。
「あぁ、生きてる。よかった。よかった!」
するとクロは次にラナを抱きしめる。流石にこんなことがあった後だろ。ラナだって何か感情が…無いな。全くない無表情だ。
「ラナ。怖くなかったの?」
タミが心底不思議な顔で言う。当事者でない俺らでさえ腰抜けるほど怖い出来事だったのにな。
「怖い?なんで。」
ラナは何も感じていなかったようだ。まあ、ラナらしいというかなんというか…まあ、そこがラナのいい所でもあるか。悪くいうと危機感がないって事になるがな。
「ラナ…良かった…良かった…」
さっきから良かったしか連呼してない奴が1名いる。もちろんクロである。一体ラナの何がクロをこんな事にさせるんだ?確かにラナは人類離れしてるけれど…そこを好きになるとかどれほど命知らず何だよ。
「…クロは何で私が好きなの。」
ラナがクロに問いかける。そりゃそうだよな。こんな親が死にかけたような反応されたら誰でもそうなるわ。
「…答えは今じゃなくても良いんじゃないか?」
クロは闇属性とは思えない程の満面の笑みをラナに向ける。こいつ…俺のセリフパクリやがった…
- Re: 神が導く学園生活 ( No.23 )
- 日時: 2022/04/01 22:57
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: 5obRN13V)
《ラナ》
と、バルタザール事件が収まり数週間経ってから。いよいよ明日ダンジョン探索が始まる。私とコウは席の端っこでぼーっとしていた。
「カタバミさん!私のチームに... 」
「いやいや、俺の所に...」
「クロさん!私の所に来ませんか?」
「私達の所の方がいいって!」
ダンジョン探索にはグループを5人で作らなければならない。そこでだ。クラスで...いや、学年で2人しか居ない黄梅であるクロとタミが大人気だ。皆死に物狂いでクロとタミに迫っている。因みに余った人はその人だけで探索することになる。例え1人であろうと。私は1人の方が楽だし、クロが人混みに飲まれて私に近づけないから嬉しいことこの他無い。平和だ。
「チームか...私。チームはクロとコウとラナと組むから!」
否、ここに平和をぶち壊す奴1名。なぜあんな人が囲まれていた中で私の元へ来ることが出来るのだろう。タミを囲んでいた人たちも驚いて私達のことを見てるよ。まあ近づく人は居ないけど。
「ラナ!グループ組も!もちろんコウもね!」
相変わらずのムードブレイカーな事で。コウはビクッと体を震えさせる。
「また、俺達か。」
コウも流石に慣れてきたようで呆れている。
「何何?私達じゃ不満な訳?」
「いや、そういう訳じゃ...」
タミは頬をプクッと膨らませるがコウは頭を抑えている。嫌ではあるけど無くなってしまうのもなにか心につっかえるものがある。要するに慣れてしまったのだ。このメンバーに。
「もちろんクロも参加するよね!」
また出たムードブレイカー。クロの周りにいた人達はたちまち黙ってしまった。しかし、それはクロにとっては好都合だったようで...
「あぁ。勿論だ。」
クロは爽やかな笑顔を向けると私達の元へやってくる。何だかんだで4人が揃ったところで...
「もう1人はどうするの。」
ダンジョン探索で盛り上がっているところに水を差す形になってしまったが、グループは5人でないといけない。あと一人。足りてないのだ。
「「「...」」」
3人は黙りこくってしまった。コウは人脈が全くない。そのためもう1人のメンバー確保できるわけが無い。そしてタミとクロ。2人は学年1人脈がある2人だが、私達への偏見が全くない人が居ないのだろう。かくいうタミとクロも私たちへの偏見が0とは言い難い。
「なら、私が入ってあげなくもないわよ?」
そこに居たのは赤髪にお団子ツインテールの、前に私を虐げていたアリス・スカーレットが居たのだ。
ーーーーーーーーーーーー
というわけで私達アインスは学園裏の森の奥の奥、ダンジョンへと向かっていた。そこまで3日もかかるため馬車で向かっていた。そこまでの食料は学園から支給される。
「ねぇ、アンタ達知ってる?ダンジョン探索の噂」
私達は丁度昼ご飯のサンドイッチを食べていた。そこでアリスが口に物を含みながら言う。
「え、何その噂?!聞いたことないんだけど?!」
食いつくのはもちろんタミである。私は特に反応もせず馬車の外を見ている。
「ふふん。大貴族の噂から聞いたのよ!ここ数年。学園からの生徒の対応が疎かになっててさ。元々数人死亡だったのが、数百単位で死者が出てきてるらしいの。だから最高学年は最高学年のゼクス(6年生)は数十人しか居ないんだって。」
アリスはふふんと鼻を鳴らしているが、衝撃的な事実を目の前にした私達はあんぐりと口を開けることしか出来なかった。
「死者が出るって...噂だよ...な?」
コウは恐る恐るアリスに聞く。
「何言ってんの?フゥンフ(2年生)は去年ダンジョン探索で250人死者が出たらしいわよ。」
アリスはますます自慢げに話していく。もしかして、この学園って結構危険なのか...?同じ馬車に乗っていた生徒の達もガヤガヤと話し始める。
「ちょっと、スカーレットさん!それ言わない約束なんですよ?!」
すると外の窓を開けて馬を操縦してるヘル先生が慌てて修正する。...ということは...
「この噂って本当なんですね?」
クロが確信をつく。ヘル先生は何も言い返せずに窓を閉じてしまった。それが肯定と分かってしまい、馬車の中は淀んだ雰囲気が漂い始める。
「...私達...死ぬの?」
なんかデスゲームに連れていかれるバスの途中のようだ。まあ、私自身は死なないためそんなに慌てることは無い。しかし、タミもクロもコウもドヨンとした雰囲気を纏っていた。
「...アリスはなんでそんなに慌てないの」
私はアリスに聞く。それにアリスは当然というように答える。
「だって、学園よ?弱肉強食。強い物が将来を掴めて弱いものが死ぬ。ここの学園のスローガンにあったじゃない?」
...多分。スカーレット家は大貴族だから情報量の差が生まれたんだろうな。庶民や中級貴族(ほとんど)が見ている学園は表向き。健全で安全で生徒を自由に育てる素晴らしい学園。大貴族などの上級貴族は命を何回かけても足りない危ないハードな学園。けど、卒業できたら地位と名誉そして、実績が残る。
情報格差って酷いものね。私も今知ったんだけど。
「ラナ。お前は俺が死んでも守るから。」
クロが神妙な顔で私の方を見る。私は呆れてしまう。
「私はやられない。」
- Re: 神が導く学園生活 ( No.24 )
- 日時: 2022/04/05 00:10
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: rLG6AwA2)
こんにちは( *・ω・)ノ
皆様ベリーでございます!
この度私が投稿してる3作品のオリジナルMVをYouTubeに投稿しようと思っております。
そこで、皆様ベリーの作品を見てくださってる方には3作品の中からどれをMV化して欲しいか教えてください。(曲もあればお願いします)
予告編のムービー作成してるため、雑談掲示板の「雑談致しましょう」にて、確認お願いします。
投票はYouTubeで予告編が出た際にコメント欄に書いてください!お願いします。
- Re: 神が導く学園生活 ( No.25 )
- 日時: 2022/04/06 23:24
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: Re8SsDCb)
そこはなんというか、おどろおどろしい場所だった。そこら中ツタで絡まっている上に、ダンジョンの入口は草木で溢れかえっていた。先生達は先にダンジョンに入って生徒が死なないように安全確認と難易度調整をさるようだ。そして、私達はいよいよダンジョンに入ることになった。
「持ち物は大丈夫?」
タミが私達に声をかける。まず箒と、大量回復薬、食料に干した果物...うん。大丈夫そうだ。いくら私でもこの体だと流石に食べる物を食べないと死んでしまう。
「大丈夫だ。行くぞ」
クロがそういう。そうして私達は草木をかき分けてダンジョン内へと入っていった。
ダンジョン。それは簡単に言うと特殊な空間である。そこら辺の洞窟とはまたちがい、魔素に包まれた空間で、そこには魔素を求めて魔物や妖精が群がるのだ。時には特殊で強い魔物、妖精がおり、それらを『ボス』と呼んでいる。そして、ダンジョンの階層や出口は入る度に変化する摩訶不思議な空間なのだ。一説では闇魔法の空間魔法が使用してるとか…
まあ、今回は先生達がいるから安全だろう。
ダンジョン内は薄暗く、ギリギリ見えるか見えないかである。そして、ダンジョン内は複数の道に別れたり上下の道にわかれてるため全て自己判断で行かなければならない。
歩く。歩く。ひたすら歩く。ここはアインスレベルが入れるようなFランクダンジョンだ。そこら辺の魔物は私達から溢れる魔素に怯えて近づくことは無い。そのためひたすらに歩くしかない。
「死ぬ危険があるかもとか言ってたが、拍子抜けだな。」
コウが落ち着いたように言う。
「まあ、Fランクダンジョンだろうからな。」
「慌てて損したぜ...」
コウがほっと息を着く。けど、私は少し怪しんでいる。大貴族であるアリスの情報が間違ってるとも思えないのだ。「大貴族」それは貴族の上位約2%になる希少な貴族であり、権力もそれ相応の高さがある。そして、情報網も伊達ではない。そのため、この情報が間違いと思えない。
「ディアペイズ大迷宮と繋がってたりして...」
私がボソッと言うと他のみんながギョッとする。ディアペイズ大迷宮。全世界の地下にあると言われる世界最大のダンジョンである。先程も言った通りダンジョンは特殊な空間であるため、他のダンジョンと繋がってる可能性があるのだ。
「ははは...そんな訳ないじゃん...冗談キツいよラナ...」
タミが必死で笑顔を作る。あれ、これ言ったら行けないやつだったかな。まあディアペイズ大迷宮に行っても私だけでも生き残れるから別に良いんだけど。
そうして私達は何の苦もなく進んで行った。
「そろそろ夜だな。ここらで野宿するか。」
コウが持参してきた懐中時計を持って言う。
「え、もう夜...?てっきり2日ぐらい経ってると思ったわ。」
2日経ってたら体力的に歩けないでしょ。私はアリスの言葉に心の中で突っ込む。それより、テラテラ様の光が無いから体内時計が狂ってしまってる。私も数日経ってるんじゃないかと錯覚する程だ。洞窟の危険は魔物以外に精神的な面にもあるのだ。
私達は急いでそこら辺の枝や石を集め、テントを立てる。
「ねぇ...ラナ。このダンジョン、ラナの事好きなの?」
準備中。タミが私に聞いてくる。私ははぁとため息をつき呆れる。
「ダンジョンが私の事好きなわけないじゃない。何言ってるの。」
「...だよね...!なんか、ラナがダンジョンに入ったらさ、『気』が高揚したというか...なんというか...ごめんね!勘違いかも知れない!」
そう言うとタミは集めた小枝をコウの所へ持って言った。全く...これだから『気』使いは...
ー勘が良いから憎たらしいー
私は再び食料集めに着手した。
- Re: 神が導く学園生活 ( No.26 )
- 日時: 2022/04/09 17:13
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: rKVc2nvw)
小説MV化予告PVをYouTubeに投稿致しました!是非確認よろしくお願いします!
URLは雑談掲示板にて!
- Re: 神が導く学園生活 ( No.27 )
- 日時: 2022/04/13 22:17
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: DYDcOtQz)
《クロ》
ー危険だー
夜になり、ダンジョンの隅っこで野宿し、床に着いていた俺はそう感じた。何かを見たとか、何か聞いたとかではなく、ただの勘で。そして、俺の体は勝手に動いていた。
ガキンッ!
そこで金属音が鳴り響いた。
ラナの寝床に冒険者と思われる数名がラナに刃物を向けていたのだ。俺は爪を伸ばし、その刃物に対抗する。
「お前ら…ラナに何するつもりだッ!」
俺は高まった感情をそのまま冒険者達にぶつけた。冒険者達は顔を見合わせる。ラナを殺そうとしていた奴はガタイが良い斧を持ったスキンヘッドの男性。あとはシスターの服を着ているおそらく神言教の奴だろう。もう1人は鎧を着て腰に剣をさしている女性。そしてこっちも鎧を着て大きな盾を持っている男性だ。明らかに年齢的な差が大きく、俺たちよりも大きい。20はゆうに超えているだろう。
「…その制服だと正道光魔法学園の生徒ですね。すみませんが、悪魔は排除しなくては行けません。この子には罪はありませんがここで死んでもらいます。」
シスターらしき人が祈りを捧げながら俺たちに言う。ー悪魔ーラナのことだろう。というか、かなり強そうなパーティの人達だ。なぜこんなFランクダンジョンにいるのだろうか?多分、他のランクのダンジョンに行ってた所、このFランクダンジョンに繋がった所だろう。
取り敢えず戦うか?いや、俺に勝ち目はあるのだろうか…
そんなことを考えていると、斧が俺に向かってくるその瞬間。俺はコイツらを排除することにした。
「ガルルルッ!」
もうその後のことは覚えていない。微かに覚えていることは案外その冒険者は強くないこと。暴れながらラナ達の所から無意識に離れていたことだった。
気がつくと、俺は小川のふもとで倒れていた。別に起き上がれない程疲れてるわけではなかったため、軽々と起き上がった。そこは、まさに阿鼻叫喚であった。周りは血だらけで、鉄の匂いが充満しており、鼻をもぎたいと思うほどの悪臭であった。さらにパーティメンバー出会っただろう「物体」が転がっていた。
「これ…俺がやったのか?」
俺は信じられなかった。周りには骨が、鮮血に染まった骨が転がっていた。頭蓋骨は砕け、たまに目玉が転がっていた。シスターの服を着た何かは上半身は砕かれた骨の姿になり、下半身は所々肉が着いていた。
何故ほとんど骨しか転がっていない?
そう思った瞬間。自分の口に手を当てた。そこには明らかに鉄の味が広がっており…直接的に表現すると生肉を食べたあとの感触だった。もしかしたら…もしかしなくても… 最悪の状況が俺の頭を過ぎる。「こいつらを食べた?」そう思った瞬間。俺は吐いた。吐けば吐くほどこいつらパーティ達の肉の味がし、余計気持ち悪くなり吐くという負の連鎖が続いた。
粗方吐き終わると小川で口をすすいだ。肉体的には無事のようだが、精神的に大ダメージを負った。
「牙狼族は人を襲うこともあり、捕食する」
最悪のタイミングで本に書いてある内容を思い出した。頭が黒く染まっていく。狂いそうだ。何もかも投げ出して感情に身を任せそうになる。獣化の時と同じだ。しかし、魔素量と体力がなく、耳としっぽがはえるだけだった。
「クロ」
後ろから声が聞こえた。「見られてた?」その言葉が脳裏をよぎり、警戒体制に入る。がしかし、獣化しかけていたため、四つん這いで「グルルル」と唸っていた。
人を殺すことは犯罪である。数名殺したら死刑にあたる大罪である。そしてこの状況を見たら直ぐに通報しかねない。どうする?声掛けてきたやつも殺すしかないか?
俺の頭はもうイカれていた。
「クロ。」
もう一度名前を呼ばれる。声の主は…ラナだった。今1番見られたくない相手だ。軽蔑されるか?いや、恐怖?とにかく、俺がラナに嫌われるのは確実であった。絶望。ただ絶望でしか無かった。
「……」
ラナはこんな状況でも無表情である。そして、何か考え込んでいる。逃げるか?逃げようか。俺はもう逃走体制に入っていた。
グシャッ
すると、目の前にありえない光景が広がった。ラナが…唯一肉が残っていたシスターを食べ始めたのだ。しかも豪快に。口周りは血だらけで骨まで食い尽くしていた。
「ラ…ラナ…?」
意味が分からなかった。空腹だったのか?そんな呑気なことは考えられない。俺に敵意を示している?そのようには見えない。
分からない分からない分からない分からない
「…これで…仲間。」
ラナがシスターを食い尽くす。そして発した第一声は「仲間」であった。ラナは…俺を安心させたかったのだろうか。しかし、安心させる方法がぶっ飛んでいる。すると、ラナが俺を抱き寄せてきた。
「ごめんなさい。私のせいでしょ」
ラナが謝った。何故謝る?ラナが襲った奴らを殺しただけだぞ?ラナは何も悪くない。俺が、全部悪いんだ。
「いや、俺が、悪いんだ。ダンジョンから出たら罪に問われるだろ。」
俺は半泣きになりながらラナに言う。ラナはコクンと首を横に傾ける。
「罪には問われない。罪に問われるのは国の大都市内だけ。ダンジョンや小さい街は無法地帯だから法律は通用しないの。」
…知らなかった。俺は都市でしか育たなかった所謂温室育ちだ。法律という常識が身に染みており、パニックになってしまった。
「あぁ…そうか。」
俺はラナを見た。いつも通りラナを見た。霞んだ緋色の目、サラサラな白髪に綺麗な青い髪先。そして、やはり無表情である。しかし、ラナは何か、俺達人間に…いや、生物にはない何かがあると思った。なんの根拠もなく、ただ、勘でそう思ったんだ。
「好きだ…」
俺は無意識にそう呟いた。恋愛なのか敬愛なのか慈愛なのかそんなことはどうでもいい。ただ、今目の前に居るラナが。ラナンキュー・ローズが好きで好きで仕方ないのだ。ラナは表情筋ピクリとも動かさない。
「知ってる」
ラナが言う。付き合いたいとか、愛を育みたい訳では無い。今は、気持ちを伝えられただけで十分だ。
「戻ろ」
ラナはそういうと、先に皆がいる場所へと戻って行った。俺もそれにつづいた。
『都市外は人を…生物を殺しても良いんだ。ラナを守れるんだ。』
そして俺の頭の中は狂気で満ち溢れて行ったことを俺は気づいていなかった。
- Re: 神が導く学園生活 ( No.28 )
- 日時: 2022/04/21 21:25
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: fhP2fUVm)
「あれ、クロ、ラナ、どこ行ってたの?心配したんだよ!居なくなってたから!」
俺らは血を洗い流した後、皆の所へ戻っていた。
「あぁ、ごめん。ちょっと…な?」
俺は苦笑いをすると自分の寝床に戻った。すると、コウが寝床からヒョコッと出てきた。
「悪いが、もう朝だ。出発するぞ。」
コウが懐中時計を手に荷造りを始めた。もう朝なのか、暗いからやはり体内時計が狂ってしまっている。
皆もそれを聞き荷造りを始めた。
「なぁ、クロ。少しいいか?」
するとコウが俺に話しかけてきた。俺は何だろうか、ダンジョンの調査についてだろうかと思い、コウの方へ向かった。いや、ダンジョンの調査についてなら俺だけを呼ぶ必要は無いんじゃないんだろうか?
「お前。血なまぐさいぞ。ラナもな」
その瞬間。俺の全身の毛が逆だった。耳も出ていたが、フードを被っていたため見られてはないだろう。
それにしても、俺は牙狼族のハーフだ。鼻は人間の数百倍敏感である。その俺が匂わなくなるまで血を洗ったのだ。もちろんラナのも。なのに何故血なまぐさいと分かるのか?
俺は一瞬動揺しながらも落ち着いた表情で答えた。
「そりゃ、そこら辺の魔物狩ってれば血生臭くもなるだろ。」
「そうじゃねぇ。」
コウはもっと深刻な顔になり俺の話を途中で遮った。俺は最悪な場合を思い浮かべたが、そんな訳は無いと頭を降った。
「お前。人類殺しただろ。」
その瞬間。こいつはこの世にいてはならないと本能的にそう思った。そして、獣化した手をコウに振るっていた。
「ちょ、無理無理無理やめろってクロ!」
クロは軟弱だ。今は辛うじて俺の腕を止められているが、時間の問題。すぐ倒れるだろう。
「ちょっと!何してるの!」
すると俺の腕にピリピリと何かが走った。これは…電魔法?後ろを見た先にはタミが居た。
「ちょっと!ダンジョンのせいで精神すり減ってるのは分かるけど、喧嘩はダメでしょ!」
タミが頬をプクッと膨らませる。しまった。第三者が居たらコウを始末出来ない…
ん?第三者……?ということは今はスカーレットとラナの2人っきりということになる。
ラナが虐められる!
俺は急いでラナ達の元へ向かう……前に、俺は『このことは言うなよ』という意を込めてコウを睨みつけた。
ーーーーーーーーーーー
俺の名前は佐藤 樹 どこにでもいる普通の男子高校生だ。なのに…なのになんで……
「なんだよ!この姿!」
俺はアリス・スカーレットとして、生まれ変わっていた。それに気づいたのは2歳程の歳で、宮廷に住んでいた時。朝起きた時に、突然前世の記憶が流れ込んできたのだ。
落ち着け、落ち着け俺。まずは整理しよう。俺の住んでた星は空地という星に生まれた。そこは昔大戦争があり、結果1つの国となった平和な星であった。文明はかなり発達しており、どれぐらいかと言うと田舎でもビルの一つや二つあり、食料は培養肉、人工畑の野菜などである。俺はその国のとあるちょっとした大きい都市に生まれた。俺は生まれつき体が弱く、病院で、ずっとすごしていた。そこで暇つぶしとなっていたのがゲームである。勉強なんてとっくの昔に諦めていた。RPG、シューティングゲーム、アクションゲーム等々メジャーからマイナーまでやり込んでいた。
もちろん、乙女ゲームもだ。男が乙女ゲーム?笑われるのも仕方ない。しかしだ。やってみると意外と楽しいもので、女子みたいにキュンキュンとはしないが、結構楽しんでいた。そこに表れたのが、全ての元凶…だと思う。
「何のゲームやってるのー?」
「あ?これ?これは……ってお前誰だよ!」
ここは病室。ドアが空いた音なんてしてないし、足跡すら聞こえなかった。それより…こいつは浮いているのだ。白髪の長髪に髪先は黄色。琥珀色の目をした少女が浮いているのだ。
「私?私はねーなんと!神でございます!驚いた?ねぇ?驚いた?」
その少女…7、8歳ぐらいの少女は空中でクルクルと回りながらクスクスと笑いながらそう言った。
「神?ふざけるな。そんなもの居ない。」
俺は今日一どす黒い声でその少女に言い放った。最近の技術は進んでいるのだろう。空中に浮かぶぐらいの装置、開発してそうである。と言っても、ゲームばっかりして世間に疎いため憶測でしかないが。
「あれ?ニュース見てない?」
少女は首をカクンと傾げると俺のスマホを勝手に取りやがった。
「お、おい!」
そんな声は聞こえず、少女は機嫌よくスマホをいじっている。まあ、見られたくないものは全部PCにあるため何を見られても大丈夫だがな。
「ほら、これ!」
少女は俺にスマホ画面を突きつけてきた。そこにはYuhooのネットニュースの記事が書いてあった。
『ついに神降臨か?化学が自然に勝った瞬間。』
そんな記事が俺の目に飛び込んできた。俺は訳が分からずその記事を読み進めていく。
『神。私達はそんな単語を文明が栄えた頃から使い始めていた。その神が、ついに発見されたのである。世界最大のアルフォルナ大学が私達生命のツールを研究した結果。空地という生命にとって都合のいい環境を整えたのは「神」という存在のお陰だと言うことがわかった。それが分かった瞬間。その神が姿を表したのだ。』
「は?」
全く知らない上に、意味がわからない記事であった。しかもこの記事は3ヶ月前の記事である。それより、神が空地の環境を作っただぁ?信じられないが、化学で証明されている限り何も言えない。と言うか、その神は、なぜ俺の前に表れて居るんだ?!
俺は更に記事を読み進めた。まとめるとこうだ。
神は自分自身の正体に気づいた人類に興味を示し、分身を数万体作り上げ、人類の生活を見ていくと言うことだった。本体は実験施設で様々な実験を繰り返されていた。というか、その実験をすることに、神は承諾したのだ。
そして、研究結果、「魔法」という御伽噺のような事が可能だということが分かったらしい。
その先も記事は進んでいるが、現状の状況では十分な情報である。
「……つーことは、お前は人類の生活を視察してる神…の分身ってことか?」
「そうそう大正解!今回は病院に来てみたんだけど、君全然青春してないねープークスクス」
神とやらは口に手を当て、俺をバカにするように笑った。俺はカチンときて、そこら辺にあった本を神にぶつけた。が、神はその本を軽々と受け止める。
「あー怒った怒ったー!キャハハハッ!」
神はクルクルと回りながら俺をからかう。まあ、すぐ居なくなると思い、俺はゲームを続けた。が、その思惑が間違いであった。神は俺を気に入り、ずっと俺の所に入り浸るようになったのだ。毎日ウザったらしい発言をされてイライラしたことである。しかし、
「へー、今回手術するんだ。」
「あぁ、成功率は3割だとよ。」
「大丈夫!神である私の加護さえあれば成功間違いなしよ!」
「でも万が一ってことがあるだろ。」
「大丈夫大丈夫。万が一失敗しても、イツキのあーんな画像やこーんな動画はPCから削除してあげるから!」
「お、おい待て?!そのことをいつ知った!」
「キャー!イツキが怒ったー!」
とまあ、これぐらいの軽口を叩ける程仲は良くなっていたのだ。そして、病院も、神が居着く神聖な場所として大繁盛したそうだと。
そして、神の名前は「ガーデス」と人類から付けられ、ガーデスと関わっていくうちに自然とネットニュースを見始め、「魔法」というものに興味を持ち、その「魔法」の発展のためいつの間にか勉強を始めていた。ガーデスのお陰かも知れんが、体調も良くなっていき、学校にもちょくちょく顔を出せていた。そこで学年1の学力を持った人として「博士」って呼ばれたりしたっけ。魔法についてどんどん知って行くようになり、ついに、病室からであるが、「魔法」の研究者として少しだが活躍出来たりもした。それもこれも不本意だがこの小生意気なガーデスのお陰であった。
がしかし、そんな楽しかった日常は永遠に続くわけがなかった。20歳過ぎになると、俺の体調は悪化し初め、魔法にも関われなくなって言った。
ガーデス曰く、俺の体調不良は元々の病気によって縮められた寿命のせいであるそうで、ガーデスは寿命なんてちょいちょいっと変えれるらしいが、人類の文明は発展し過ぎては行けないようで、延ばしては貰えなかった。
「あー、俺、もう死ぬんだな。」
ある日、そう悟った。呼吸器を付けられ、点滴の線は絡まり放題、1人ベットの上でそう呟いた。
「何言ってんの?イツキらしくなーい」
否、もう1人居た。ガーデスだ。ガーデスは神だから寿命なんて無いらしく、まず生物でもないらしい。そのため、出会った時から変わらずそのままであった。
「…ねぇ。イツキ。もし生まれ変わるなら何になりたい?」
ガーデスらしくない、そんな質問をされた。生まれ変わったら…か…
「そうだな。お前と出会った時にやってた乙女ゲームの世界に転生してぇわ。お前なら出来そうだしな。」
転生後も神の加護を与えられたりして、昔の風情ある魔法が溢れるファンタジーな世界で無双出来たら最高だ。まあ、俺の世界も魔法が発展してきて、現代ファンタジーの世界になりかけているが…
「残念。出来ないや。他の星の干渉は許されないの。他の星にも神がいるからね、喧嘩になっちゃう。」
だそうで、無理らしい。じゃあ、できるなら……
「次はお前と……めいいっぱい遊びてぇな。バカみたいに。」
俺はその言葉を最期にガーデスに看取られ、死んだ。
それが俺の前世であった。
そして、なんと、なんと…俺はその乙女ゲームの世界に転生していた!しかし、転生先は女!しかも乙女ゲームの悪役令嬢、「アリス・スカーレット」である!
ふざけんな!というか、他の星には干渉出来ないんじゃねぇのかよ!しかも女!女だぞ!俺性転換されたんだ!こんなことなら転生なんてあんなダメ神に頼むんじゃなかった!
最初はそんなことを思っていた。しかし、アリス・スカーレットの生活も悪くなく、第1、魔法が転生前より発展していた。仕組みも何も変わらずに。俺は熱心に魔法を研究した。現在進行形だが、そんな中、俺はその研究熱心な上、身分も良く、頭脳もいいため、世界一の学園に招待された。俺はもちろん行ったさ。魔法が更に研究できるんだがら。
しかし、そこは乙女ゲームの舞台の学校であった。最初は驚いた。だってゲーム内では学園の名前なんて書かれていなかったのだから。そして、入学すると、色んな人が俺に詰め寄ってきた。身分が高けりゃそりゃこうなるわな。そして、1人の少女を見つけた。
ガーデスにそっくりな少女を。髪色、髪型、目の色は違うが、顔立ちが明らかあのガーデスだった。俺はもちろん話しかけた。
「おい!お前!ガーデスだろ!なんちゅー所に転生させてんだ!」
開口一番こうだった。いつもなら『えー、注文したのはそっちじゃん。』とかなんとか屁理屈をこねるアイツだったが……
「え…何。」
そう言われた。その周りはガーデスという言葉に敏感で、コソコソと話し始めた。それから何回も話しかけたさ、けれど、こいつはあの時のガーデスじゃないってことが分かった。なら、たまたま同じ顔のヤツが生まれたのか?謎は深まるばかりである。
それより、俺は悪役令嬢だ。このまま行くとまあテンプレ通り破滅する。けれど、それは乙女ゲーム通りに行ったらの話だ。俺は俺らしく過ごし、普通に成功を遂げようと思い、学園生活を送った。
しかし、ゲームの強制力というのが働いたのか、皆はガーデスと乙女ゲームの主人公を目の敵にし始めた。皆は俺の取り巻き状態となっている。ここで「いじめなんてやめよう!」とか言った暁には俺もいじめの対象である。しかし、幸か不幸か、ゲームでは出てこなかったガーデスに似た少女が登場した上に、俺が最初突っかかってたおかげで、いじめの対象者となっていた。
なら、することは1つ。ガーデス出ないならガーデスに似た少女よ。俺の安泰の為に犠牲になってくれ。
そして、俺も本格的にガーデス……いや、ラナンキュー・ローズを虐め始めた。
- Re: 神が導く学園生活 ( No.29 )
- 日時: 2022/05/05 18:10
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: RGE11PHh)
「疲……れた」
俺ははぁとため息をついた。今は学校行事のダンジョン探索をしている所である。そしてメンバーは件のガーデス…じゃなかった、ラナンキュー・ローズだったか。それと、カタバミ・エルフ・ガベーラ。金髪の少女でエルフである。こいつは乙女ゲームでは情報をくれる友達枠の1人であった。エルフのため、力、魔力共に高く人気者である。
そして、黒髪に何故かフードを被っている少年。なんか目付きが怖い。ダンジョン二入るまではキラッキラだったのに…何かあったのか?
こいつは乙女ゲーの攻略対象の1人で暗狼 牙(クロ)である。だから余り関わりたくないのだが…
ラナンキューに依存しすぎている。そのためラナンキューから離れないのだ。俺はラナンキューがガーデスに似ている理由を探すためラナンキューになるべく一緒に居たい。それが例え倫理に反することでも。やりすぎはしないがな。そのため、ラナンキューと関わろうとするとクロが一緒についてくるのだ。そのためクロと関わってしまうのは仕方ない。
そして最後の…1番問題な奴。赤魔 光 コイツは、学校一の魔力を秘めている。ガーデスの実力は不明だが、多分この中で1番の魔力量を秘めている。なぜなら…
「着いたぞ」
おっと、着いたようだ。目の前には大きな、ビル3階建て程のトビラがあった。ここがきっと、ダンジョンのボスがいる場所だろう。ダンジョンから脱出するためには、何かしらの道具を使うか、上級の闇魔法を使うか、ボスを倒さなければならない。しかし、俺達は道具は持ってないし、闇魔法の使い手はいるも、上級なんて使えない。そのため、ボスを倒すしかないのだ。
「死者が出るとか言ってたけど、全然そんなことないじゃーん。」
俺はラナを虐めている。そのため他3人からの風当たりがキツイ。事実。今カタバミに皮肉たっぷりな言葉をかけられた。心が痛い。嫌、虐めている俺が悪いのだ。
……出来れば辞めたいんだがな。できるだけラナンキューに近づきたい。それより、上級貴族の噂話は大体当たる。俺が茶会で手に入れた情報も百発百中なのだが…今回はデマだったのか?いや、そんなわけあるはずがない。
するとカタバミが扉を開けようとする。
「ふぎぎぎぎ……!」
カタバミが唸りながらトビラを押しているが、全然開かない。コウも一緒に扉を開けようとするが、全く開かない。そりゃこんなどデカい扉がそう簡単に開くわけないわな。さぁ、どうしたものか……
カタバミとコウは疲れて、壁に寄りかかっている。
するとクロが手の1部を獣化させ扉を押した。すると先程の苦労が嘘のように開いた。
「えっ、クロっ凄?!」
カタバミが口に手を当てて言う。クロは少し頬を染めた。照れてるのだろうな。
「それじゃあ……中…に…」
カタバミが中に入ろうとすると絶句する。
どうやらここは草木のダンジョンの様でボスがいるであろう部屋も草木で生い茂っている。奥に大樹があり、そこからツヤや、根が円状に広がっている。
が、緑で生い茂っているはずの部屋は鮮血で染まっていた。
そして、その血の上には学校の制服である紺と白のストライプのコートが破れて何枚も散らばっていた。肉片は…所々ある。俺ら以外の生徒全員が殺された…のか?
いや、生徒は1000人ぐらいいるはずだ。少し少ない気もする。
血の匂いに慣れてないカタバミ、クロは鼻を摘む。特にクロなんて牙狼族のハーフのため、鼻は人間の数倍敏感のため、他より余程キツイだろう。俺もその状況、臭いに鼻をつまみもどしそうになることを必死で止めた。中身は男でも今まで、10年間淑女としての振る舞いを教育されてきたため、ここで汚いことをする訳にはいかない。
それより、ラナンキューは動じていない。これもガーデスとの関連があるのか?いや、考えすぎか…単純に血に慣れた環境で育ったのかもしれない。
それにしてもこの景色は無い。今すぐ視界から消えて欲しいが……ここボス戦場何だよな。こんな環境で戦うのか。
「あらあら、次の方がいらっしゃったわ」
すると大樹の奥から誰かが出てきた。緑に輝く美しい髪を片方の肩に掛け、優しそうなタレ目に緑の瞳だ。服は布1枚で終わっている。しかし、この女性は明らかに人間じゃない。なぜなら、片腕、片足など所々に木の根っこが生えているからである。多分。この大樹に宿った精霊か何かだろう。
「この……この惨状はなんなの…」
カタバミが震えた声で女性に問いかける。女性はキョトンとするとすぐフフフと笑った。
「私の寝床を奪われそうになったので、少しこネズミを退治した次第ですわ。あら、心配しないで。小汚いこネズミでも私…この大樹の栄養となりますから。」
全く安心できないな。こネズミ…って事は俺らもそういう認識何だろう。木の肥料になるなんてゴメンだね。
「……ここは、Fランクダンジョンの筈だろ…?」
クロも震えた声でそう言う。あぁ。確かに先生はFランクダンジョンと言っていた。…ん?言ってたか?いや、言ってないぞ!Fランクダンジョンというのは俺らアインス生徒が「勝手にそう認識していた」だけだ!先生は誰もこのダンジョンについて言及なんてしてねぇ!
はめられたな… 何故かは分からないがこの学園の近年の生徒の死亡率は異常である。現代育ち(前世)の俺にとっては人1人死ぬだけで大事だが。学園は生徒を死にいたらしめる程厳しい訓練を行っている…と聞いた。理由は分からない。これもガーデスが原因か?いや、ガーデスから思考を離そう。なんでもガーデス関連な訳が無い。
「Fランクダンジョン?他の皆も同じこと言ってたわ。でも残念。ここはCランクダンジョンよ。見たところあなた達もFランクの実力のようね。ふふ。また肥料が来てくれて嬉しいわ。」
嘘だろ…Cランクダンジョンって、騎士レベルじゃねぇか。少なくとも俺らが生き残る条件としては厳しすぎる。この女性。溢れ出る魔素がそんじょそこらの魔物と違う。Cランクに相当するだろう。要するに騎士級の魔物をFランク5人で倒さなければならないのだ。明らかに無理だ。戦略としてはまだこのボスの間に来ていない生徒と手を組んで数の暴力でボスを倒すしかない。しかし、今の俺らはボスの間に入ってしまった。後ろを向くとあんなに大きかった扉が無くなっている。他の生徒が来るまで持ちこたえるしかないか。
「少なくとも肥料になる訳には行かないわ。貴方には死んでもらいます。」
俺はアリスバージョンの言葉でそう言い放った。
それを合図にカタバミ、クロ、ラナンキュー、コウ、俺は魔物に向かった。
「ふふふっ。いい暇つぶしになって頂戴ね。肥料さん。」
魔物は心底楽しそうに、かつ不気味にそう言った。
- Re: 神が導く学園生活 ( No.30 )
- 日時: 2022/05/09 16:16
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: ET0e/DSO)
「では、始めましょうか。」
すると魔物は両手を広げつむじ風を放ち始めた。するとステージの中点を中心に風が起こり始めた。すごい強い風で思わず体が飛びそうであった。
「なっ、なんですの…このっ風!」
俺は一応上級貴族の淑女だ。一応スカートを抑えるが、流石に体が浮きそうになったため、諦めて、浮かないことに専念した。俺は今女子だが、精神的は完全な女子ではない!命が危なくなったら女なんて捨ててやる!
しかし、ついに限界を迎えて俺を含む4人は宙に浮いてしまった。それはまるで洗濯機の中のようだった。辺りの肉片や血液まで浮き始めた。
「うわぁぁぁぁ!」
俺、クロ、コウは叫んだ。そりゃそうだ、宙に浮いて体位が定まらない。上下に周り過ぎてどっちが地面かなんて分からなかった。多分これは嵐魔法の応用だろうな。強い嵐を起こし俺たちをなれない状態に晒すのだ。円の中心には微動だにしない魔物が宙に浮いている。魔物は嵐系統の使い手のようだ。
俺は徐々にコツを掴んでいき、不安定だが、魔物のように安定して浮けるようになった。
すると魔物が何か空の刃を投げてくる。俺は今宙に浮いてるだけで移動することは出来ない。常にステージを中心に洗濯機のように回っているからである。俺は何も考えずに炎魔法を放った。勢いよく俺の魔法は放たれ、風の刃と相殺される。その際の火の粉が風に流れて行った。あれ、これ不味い。俺とコウが魔法を使えば使うほど火の粉が舞、最終的にはここは火の海になってしまう。
すると風完全に読んで立てているラナンキューが霜魔法を放ち、その火の粉を消してくれた。
これなら安心して戦えるな。俺は体内の魔素に集中した。
「ドゥ・オプスキュリテ!」
「アン・ブレイズッ!」
クロは闇魔法、コウは炎魔法を放つ。クロの魔法は風の刃と相殺されるが、コウは軽々とその風の刃を貫通し、魔物にヒットさせた。
流石この中で1番の魔素使いだ。
「……私、魔法使えない!」
するとカタバミが大声でそう言った。
「なんでだよ!」
コウも叫んだ。お互いある程度の距離があるため叫ばないと聞こえないのである。カタバミは少し悩むと…
「私の雷魔法は放つと風に乗って雷付きの嵐になっちゃう!炎ならラナが消せるけど雷は地系統じゃないと消せないか!」
「なら気魔法を使えば良いのでは無いですの!」
俺はそう叫んだ。気魔法は嵐、雷、天系統の基礎である魔法である。そのおかげが、カタバミは風を完全に読んで体制が整っている。
「気魔法だと相手の風魔法を相殺しか出来ないのっ!」
「十分だタミ!俺らが攻撃をするから俺達に向かう攻撃を相殺してくれ!」
コウが叫ぶ。カタバミは頷くと風の刃を相殺し始めた。さてと…俺は使える魔法の中で1番威力がある魔法。「参・業火」を放ち始めた。コウも魔法を放ち始める。そして生まれた火の粉をラナンキューが消すというサイクルが生まれた。しかし、クロの魔法は全く届かない。
「…コウ。獣化してもいいか。」
「ざけんなっ!クロが獣化したら俺魔法使えなくなるんだよ!」
確かに、クロが獣化したらとても頼りがいがあるだろう。前にボコボコにされたから身に染みてわかる。しかし、クロが獣化すると、コウが外部の魔素を取り込めず魔法が使えない。その変わり、クロの能力が底上げされるが実力はコウの方が上だ。
「獣化はしないでくださいまし!」
俺はそう言うと攻撃を始めた。クロは不満な顔をしたが、魔物の攻撃を相殺することに徹っした。
それが数十分続くが、俺とコウの攻撃しか当たらない。当たったとしてもダメージはあまり無いように見えた。このままだと平行線だぞ、どうするか…
「はぁ、もう飽きたわ。貴方たち弱すぎる。」
魔物がそう言うとパチンと指を鳴らした。すると嵐が激しくなり、再び体位を崩され、グルグルと360°回り始めた。
うっぷ、気持ち悪い。この魔物…最初から手を抜いてたな。本気を出せば俺達なんてすぐ殺せるってか。しかし、俺らには対抗する手段がない。
すると、上に、上に飛ばされる感覚を覚える。すると嵐がパタリとやむ。そこでようやく体位が整った。しかし、嵐がやんだということは俺らはそのまま重力に身を任され落ちるということだ。しかも、嵐によってビル3階建ての高さに飛ばされていた。
「うわっ!うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
カタバミが1番大きな叫び声を上げる。クロもコウもだ。ラナンキューは何も言わない。俺も何も言わない。というか、これからどうすればいいかを頭の中で巡らせていた。
「カタバミっ!お前気魔法で何とか出来ませんの!」
焦って前世の言葉と今世の言葉が混ざって変になってしまった。しかし、カタバミも焦っていたのだろう。そんなことは気づいていなかった。
「気魔法を使えば死なないかもしれないけど、衝撃はかなり来るよ!」
「それでもいい!頼む!タミ!」
「う、うん!」
カタバミが不安そうに言うと、クロが必死でフォローする。するとカタバミはちょっとした風を生み出し、俺らの落下速度を下げる。しかし、風魔法でなく、その下位互換の気魔法である、少し落下速度が下がっただけで、死にはしないだろうがかなりの負傷を負いそうである。
これは万事休す…か、目の前に地面が迫ってきて、俺は、強い衝撃と共に
意 識 を 失 っ た
ーーーーーーーーーー
「気魔法使い…しかもかなりの手練。他の気魔法使いとは違ったわね。それでも衝撃は免れなかったようね。死んではないけど皆気絶してるようだし、トドメぐらい刺してあげようかしら。」
そう言うと魔物は腕の根っこの先端を鋭くさせ、カタバミを刺そうとした。すると、魔物に寒気が走る。
「だっ、誰だ!」
魔物が振り返ると、そこには緋色の目に白髪短髪の少女が立っていた。外傷は全くなく、堂々と立っていた。
「へぇ、これぐらいの殺気は感知出来るのね。」
その少女は魔物を嘲笑った。それに魔物はカチンと来たため、風魔法を織り交ぜた鋭い根をその少女に攻撃した。しかし、その少女は、パチンと指を鳴らすと一瞬でその攻撃が爆発した。
「なっ、なんだお前…!もしかして、悪魔かっ!」
魔物は焦った。本気で放った魔法を一瞬ではじけ飛ばされたことに嫉妬と苛立ち、焦りがあった。
「悪魔…ねぇ。」
そう少女は笑うと魔物を浮かせた。風魔法である。魔物の得意分野である風魔法のため、魔物は直ぐにこんな魔法の拘束から脱出できると思っていたをしかし、全く歯が立たない。身動きが取れないのだ。
「私の事を知らないってことは、若い魔物ね?」
「ふざけるな!私は100年も生きている年季がある魔物だぞ!」
魔物は自分より明らかに若い少女に見透かされたことに苛立ちを覚え、そう叫んだ。
「だから若いのよ。」
少女はそう言うと髪色が変わった。髪先が水色だったのが、鮮やかな赤色に変わったのだ。すると、少女の後ろからいくつもの魔法陣が展開された。
「な、なんだ…そのヘンテコな模様は!」
「魔法陣ですら無くなったのね。私がいない間。文明はこんなに退化してたの。」
「おい、質問に答え…」
その瞬間。幾つもの魔法陣から炎が放たれた。数十もの魔法が放たれ、魔物に命中した。魔物は半分木で出来ていた。そのため火には弱かった。
「あぁぁぁ!お前は…お前ははぁぁぁ!」
魔物の断末魔を聞きながら少女は薄ら笑いを浮かべた。
「私の名前はGoddess(ガーデス)皆から恐れられた。神よ。」
「カ…ミ?なんだ……それ…は!悪魔じゃ……」
途切れ途切れの言葉が消え、魔物は灰になり消えてしまった。それと同時に大樹も、張り巡らされた根も、灰になってしまった。
「神すらも人々に忘れられたのね。」
少女ははぁとため息をつくと髪先が水色に変わった。すると、ステージのど真ん中に簡単な魔法陣が現れた。ワープができる魔法陣である。ここから脱出出来る。
「さてと…何狸寝入りをしてたの?赤魔 光」
少女は振り向いた。そこにはもう寝たフリは出来ないと悟ったコウが立っていた。
「さて、皆目が覚めるまで、2人でお話しましょ?」
いつも無表情である少女とは思えない薄ら笑いを浮かべた。
- Re: 神が導く学園生活 ( No.31 )
- 日時: 2022/06/28 17:41
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: nZxsmZ3d)
《コウ》
俺らは宙を数回転して、地面に落ちた。タミの気魔法のおかげか、衝撃はあまり強くなかったものの、気絶はしそうであった。しかし、俺は気絶しなかった。なぜなら...
「あなた。悪魔でしょ?」
目の前の...ラナと思われる人物がニヤリと笑いながらそう言う。初めから会った時、この白髪の少女は『人類では無い』と分かっていた。何か理由があるのかと、あまり詮索するのは辞めていたが、ラナがいつもの口調とは思えない態度で俺たちより格上に強かった魔物を瞬殺していたため、俺は、気絶しないように頑張って意識を保っていたのだ。
「質問に答えなさい。光」
ラナ...いや、ガーデスが高圧的な質問を俺にする。目の前にいるラナンキュー・ローズが、本当にガーデスであるならば…隠し通せるはずはない。俺は口ごもる。
数秒の沈黙が俺らを包み込む。
ラナは「はぁ」とため息を着く。俺が何も言わないことに苛立ちを覚えたのだろうか。少量の魔素がラナに集まるのを感じる。
「俺は悪魔。名前は無い。強いて言うなら回復師と呼ばれてる。」
自然と俺の口がまわった。あれ、俺は何を言ってるんだ?待ってくれ、何かを言おうとしたつもりはないし、ずっと黙り込むつもりであったのに。
「回復師…光魔法の使い手か。珍しい。」
ガーデスは心底楽しそうに俺を見る。多分、魔法の一種で俺は発言をしてしまったのだろう。相手の心を暴露させる魔法…嵐系統か?いや、闇魔法?少なくとも光魔法ではない。
それよりも目の前の『ガーデス』についての方が重要だ。ガーデスと名乗る少女は恐らく俺らがさっきまで一緒にいた「ラナンキュー・ローズ」と同一人物だろう。
『ガーデス』それは昔から恐れられてる悪魔……というのが一般的な認識だ。けれど、悪魔から見たら違う。悪魔は昔迫害された身のため、権力者に歴史は汚されてない、正しい歴史が記されている。
神『ガーデス』。神とは、1つの星に1つ生まれる星そのもの、星のエネルギー源である。それが生き物の形をしてる星もあれば無機物の形、熱だったりもする。俺達の星の神は人の形をしている。いや、好き好んで人の形をしているかもしれない。そして、神は昔人類側に"何かがあり"神という存在、概念事消されてしまい、今や伝説上の悪魔として恐れられている。
だが、重要なのはそこじゃない。今目の前に居るガーデス。俺ら悪魔の言い伝えでは1000年前に封印された筈なのだ。何故封印されたのか、神という概念が消えたのと理由があるのかは分からない。しかし、そう伝えられていたのだ。
ガーデスの肉体と精神とコア。3つに分けて、この星の世界の果ての果てに別々に封印されていたはずなのだが、そのガーデスが今目の前にいる。
「次は俺の番だ。本当にガーデスであるなら……何故ここにいる。封印されたはずだろ。」
ガーデスは俺の言葉を聞くと『そんな事でいいのか』という顔をする。
確かに神は宇宙の生まれやこの星の1からの歴史全て知っている。しかし、今はそんな事聞いても何も得しない。
「えぇ。私は封印された。1000年前にね。けど、最近その封印の要が緩くなって1部封印が解けたのよ。」
ガーデスはクルクルと周り笑いながら俺に言う。しかし、その様子は恐ろしかった。恐ろしく綺麗で、どこからどう見ても黄金比になるような、それほど恐ろしく美しい様子であった。これも神だからだろうか、生きてるものとは振る舞いが桁違いだ。
しかし、その様子に恐怖してる場合ではない。封印されたということはガーデスは昔なにかやらかしてるってことだ。それが世に解き放たれている。1部。それはかなり不味いのではないのだろうか。それに、多分解かれた1部の封印というのは精神の部分だと俺は思う。精神は神の人格、潜在能力……まあ生き物で例えると脳みそを丸々封印されてる感じだ。
今目の前に居るガーデスは体力は確かにエルフのタミを退けるほどの力があったが、クロ程でも無ければ人外さはない。俺らアインスで少し頭が抜けるほど力があるだけだ。それに対して魔法は様々な系統魔法が使え、威力も半端ではない。
─魔素は精神に宿る─
─魔法は知識がないと発動出来ない─
つまりそういうことである。
「そのカミサマが学園に来て、何が目的だ。」
俺は警戒しながらガーデスに聞いた。何か凶悪な事を企てよう物ならヒソヒソと行動し、肉体とコアの封印を解いて一気にやる方が得策だろう。しかし、コイツは世界一入試が難しい、学園に軽々と来て、呑気に学園生活を楽しんでいる。何が目的なのか全く分からない。
「うーん……そうだなぁ。そこまでは言えないかな。けど、神が着いてる学園生活よ? ありがたいと思わない? 」
ガーデスは不気味に、それでも可憐に微笑みながら俺に言った。俺は冷や汗をかきながらもラナを見る。この人外離れした動作なら、人類も恐れおののき、クロが惚れるのも満足いくよ。
「"神が導く学園生活"ってか? 」
俺が皮肉をたっぷり込めて言ってやった。ガーデスはハハハと笑いながら周囲に放っていた魔素を体内に戻し、ストレートだった髪もウェーブボブに戻し、髪色も白髪に髪先が水色に変わる。
俺も大概だが、今年度のアインスはヤバいやつばかりだ。
ガーデスの目的は?
学園がこれほどまでアインスに厳しくする理由は?
"悪魔"といじめられる俺らの行方は?
不安だらけで1周回って笑えてくる。
「安心しなさい。何故なら、"神が導く学園生活"何でしょう?」
ガーデスはいつものラナに戻るも、饒舌なのは変わらなかった。神がついている学園生活……か。不安しかねぇぜ。
「所で赤魔 光。1つ契約をしない? 」
「悪魔と契約するって、意味わかってるのか。」
「あぁ。そうだったわね。なら"お約束"をしましょう。」
「どっちも変わんねぇだろ。」
俺ら悪魔は受け継がれた能力がある。光、闇魔法は勿論だが、『契約』という家系魔法が使えるのだ。契約はお互いの利益になることを約束した後、それを破ろうとするとペナルティが課せられる。これは任意で発動できる魔法で、それは多分……神にも通用するであろう。
「お互いにお互いの秘密を守ること。」
ラナが小指を差し出してくる。これは古来から伝わる契約の一つである。小指と小指を繋いで数振り腕を振る。俺も小指を差し出す。
「それなら問題ない。逆に俺から頼みたいぐらいだ。」
そして、お互いの指を絡ませ腕を数回振るう。
『1IS90aym2rKu1LCH1Lim07G+17C/0r
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1re10rKq2rid27Or27a0OzPUhbXfpa
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y5itq0u9ywudK4nNSNoNq1ldqwm9qy
tNq2otq5m9q0o9yojNq3qdq2utC0vt
ezsg==』
自分でもどう発音してるか分からない呪文をブツブツと唱えた。するとお互いの小指がどす黒く光った。これで契約成立である。
「さぁ、楽しみましょう!
"神が導く学園生活"を! 」
そうラナらケラケラと高笑いを始めた。これからどうなるのか分からない。もしかしたら、下手したら、この世界が滅ぶかもしれない。けれどやるしかない。俺がやらなければならないのだから。
『"赤き再生の魔。黒き力の獣。輝きし術の天"
この3人が世界を救うと予言されておる。その1人はお主だ。』
おばば様に言われた言葉が胸にずっと響いている。俺は笑えずにただ、ケラケラと笑うラナを見つめていた。空はもう見えない。俺の歩先も真っ黒であった。
第一幕─神が導く学園生活─