ダーク・ファンタジー小説
- Re: 知らぬ合間に異世界転生 ( No.3 )
- 日時: 2022/07/31 21:36
- 名前: 襲い夜行進 (ID: hDVRZYXV)
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目の前に広がるのは真っ白な異世界。
全身に冷気が伝わり、吐く息一つ一つから白い霧が生まれる。辺りに吹く荒風は、雪をよりいっそう激しく散らせ、少年の視界を遮っていた。
さすがに今、外を歩くのは危険だ。少年はさっきまで自分がいた暗闇に戻ろうと後ろを振り向く。だが……。
「おいおいまじかよ」
そこには小さなほら穴が存在した。比較的整った岩と岩の壁に囲まれており、中は暗く、静けさを漂わせている。ただ、そのほら穴は一粒の雪もかぶらずに、銀世界に黒の存在感を知らしめていた。それはあまりにも異質であったが、同時に気高い神秘を感じることもできた。
だが、少年がほら穴を目視した今、岩の壁は次々と亀裂を走らせ、白い大地に砕け散った。白と黒の世界の繋がりが断たれた瞬間である。
目覚めてから、何もかもが突然のことで思考がうまく回らないが、これだけははっきりと分かる。
「もしかして俺、死ぬ?」
雪原の上を全裸でたたずむこの状況。間違いなく危険だ。
少年は己の死を実感するやいなや、迷わず前方に駆け出す。
「はぁ、はぁ、はあ……!」
雪の霧のせいで何も見えない。人にも会えない。
どんどん呼吸は荒くなり、冷気が何度も身体中を蝕んでいく。足の裏は真っ赤に腫れ、地を足で踏みしめるたびに脳天まで激痛が走る。
走れど走れど希望は無い。まさにそこは白の地獄。
風は少年を無理矢理に押しては掴み、罵倒をするかのように両耳を貫いていった。
「やだ、やだやだやだ。やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだヤダヤダヤダやだやだやだヤだやダヤダヤダ」
少年の瞳孔は大きく開かれ、凍りかけた涙が溢れ出る。そのまま彼の後ろへと流れていき、少年の背中にはきらめく涙の尾がたなびいていた。
「うわ!」
疲労や視界の歪みのせいか、少年は顔から派手に転ぶ。同時にきらめく尾も雪の彼方へ消えていく。
「もう、だ……め……」
少年は前に伸ばした手をゆっくりと下ろすと、そのまま深い雪の中で眠りにつく。
「……*!」
幻聴だろうか。消え行く意識の中で、男の声が聞こえた気がした。
……。
「──◎&**★!?」