二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン 異世界の危機〜波風美麗(少しだけ)登場!〜 ( No.446 )
- 日時: 2011/07/23 10:11
- 名前: 桜花火◇16jxasov7 (ID: /HyWNmZ0)
20 悪魔の呪文
「ハァ…ハァ…クッ!」
「おねーちゃん、ぜんぜんたのしくないよ〜もっとたのしませてよ〜」
(こいつ、強すぎる…)
切れた唇から流れ出る血を、左手でふき取る。それだけじゃない、足にも手にも傷があり、血が流れている。こんな情けない姿になったのは、あの石の事件後以来だろうか。それでも、この姿は後ろにいる人たちには見せなくないものだ。
(もう一発食らったら、内臓やられるかも…)
「春奈!!」
もう何度も聞かせれている、悲鳴に似た鳴き声と壁を思いっきり叩く音。もう一人の自分が泣き叫んでいる。それでも『聞こえない』。音だということまでは分かる、ただどうしてそこまでするのか分からなかった。あんなひどいことをしているのに、彼らは自分を呼んでいる、俺たちのことはいい、戻ってこい、お前が死んだらどうするんだ、と叫んでいる。自分と彼らはまだあって一か月も経っていない。少ししか会話をしていないし、少ししか町の観光しかしていない。でも、そうしてだろう。今、自分は本当に心の底から、彼らを守りたいという思いばかり溢れてくる。いつも『守られて』ばっかりの自分が、今度は『守りたい』と願っている。疑問ばかり飛び交う。彼らの声を聴けばもっと不思議に思ってしまうだろう。だから『聞こえない』。
「うるさい!集中させて…」
もう一度、手の内に魔力を込める。今度はもっと強く、そして多くの矢を飛ばせるように。
「つまんなくなってきたから、そろそろおわりにするね?ぼくはえんどーまもるとはやくあそびたいんだ」
「円堂はやらせねぇつってんだろ、クソガキ」
ついに口調まで悪くなる、悪い癖だ。ピンチになると自分が自分をコントロールできなくなり、暴れてしまう。そこが欠点だ、とよく夏未にうるさいほど言われる。しつこいが、彼女の言っていることは正しい。戦いで周りや自分が見えずに、ただやみくもに突っ走るのは大きな失敗—つまり、負けを意味する。だから、夏未は強い。どんなに怒っていても、必ず自分を把握している。今、何をしているのか、なぜ怒っているのか。すべてを知った上で、彼女は行動する。
「さようなら、おねーちゃん」
「私は死なない!!こいつらを…元の世界に戻すまでは絶対に死ねるか!!水柳(すいせん)!!」
ウォーターアローよりも大きな矢をいくつも造りだす。避けることは不可能。急所を突けばこっちのものだ。
「あれれ?こんどはちがうのぉ?」
「消えろ!!」
春奈の強い心が一つになる。
水柳はチェルタに襲い掛かる。それでもチェルタは動じることはなかった。春奈は砂煙が上がる前のほんの一瞬の隙、彼が口角を悪そうに上げたのを見逃さなかった。
「当たったか?」
円堂言った。結界内に入っているほとんどの人が勝負がついたのだろうと思い込んだ。しかし、鬼道と春奈は違った。
「いや、まだ死んでいない」
「お兄ちゃん…」
「ハハハハッ!!!正解だよォォォオオオ!!!」
煙が消え去ると、チェルタの姿は大きく変わっていた。
両腕には獅子の顔、背後には蛇のような尻尾、顔にはカメレオンを彷彿させる仮面、それに背中には蝙蝠の羽のような漆黒の翼。とても気味が悪い。この世のものとは思えない。
「よう〜ぉ!本気で行こうぜェェ!!」
「さっきと雰囲気が全く違う…」
チェルタの不気味な目線は春奈や円堂たちを睨む。
次の瞬間、チェルタが消えたかと思うと、いつの間にか春奈の目の前にいた。
(はやい…!!)
「ヒャッハハッ!」
春奈の腹をめがけて足で蹴とばし、飛ばされ壁にぶつかる前に、また背後にまわり蹴とばす。これを何度も何度も繰り返す。
- Re: イナズマイレブン 異世界の危機〜波風美麗(少しだけ)登場!〜 ( No.447 )
- 日時: 2011/07/23 10:11
- 名前: 桜花火◇16jxasov7 (ID: /HyWNmZ0)
「お〜ぃ、もう声も出ねぇってか?」
(だめだ…強すぎる…)
壁にへばりつき、意識が薄れていく中、もう戦う意志などなかった。あるのは諦めだけ。
その時だった、脳裏に不思議な声が響いた。それは人間のものではない、もっと神秘的なものの声。
《我に全てを預けろ、楽になれるぞ》
(全てを…預ける…?)
《そうだ、あの者たちを守りたいのだろう?今の貴様では倒すのは無理だ》
(でも…そうしたら…)
《あの者たちが死んでもいいのか?『あの時』のように貴様の弱さのせいで》
(い…やだ…)
「もう終わりだな〜向こうの世界で自分の兄貴にでも謝罪するんだな。弱くてごめんなさい、ってな!」
あのはさみの様な剣で春奈の首の横すれすれを狙った。コンクリートの壁に突き刺さり、ひびが入った。このまま、刃を一つに合わせれば、春奈の首は簡単に床に落とすことができる。だが、あえてすぐには死なせない。じっくりと恐怖と絶望の渦に巻き込まれながら、苦しく足掻き死んでいくその姿が、チェルタにとっては一番美しく感じる。その後、自分が同じ目に合うとは知らずに、未だに始末しようとはしない。
「そうか…怖いよな。死ぬってのは。テメェの兄貴だってそうだったんだぜ?それでも、血の繋がっていない馬鹿な妹のために自分の命を投げ出した。あいつも本当に馬鹿だよな〜殺したのは俺じゃねぇけど」
「……」
春奈のうなだれている顔に近づき、耳元でささやくように言った。彼女の目じりから、一粒一粒、涙が流れているのがわかる。
「何だつまんね〜もっと叫んだりとかしないのか?今なら、土下座して、許してください、って叫んだら、お前の命だけは保証してやる。あいつ等に関しては、重要人物以外は全員殺していくつもりだけどな」
何もしゃべらない。さっきからずっと黙ったままで、動こうともしない。その様子にチェルタもだんだん飽きを感じ、次の行動へと移った。いよいよ春奈の抹殺だ。
「じゃあな、水女。円堂守はもらっていくぜぇ?」
二つに分かれた刃を一つにした時だった。確かに何かを切った感触はあった。しかし。それは『何か』であって『人間』ではない、別のものだ。
目の前にあるのは春奈、それは変わらない。だが、おかしすぎる。切ったはずなのに、首は体と離れずそのまま。血も飛び散っていない、刃にも赤い痕跡はない。
「お前は一体…」
すると、春奈の体はだんだんその姿を変え、水の塊となって地面に落ちた。本物の春奈は後ろ。
「テメェいつの間に!?」
「ハハハッ…アッハハハッ」
春奈は空中で腹を抱えながら笑っている。チェルトと同じ、雰囲気がガラリと変わっている。その表情は怖くて冷たいものだ。見ているだけで身震いがする。見上げている音無は何か嫌な予感を感じていた。そう、とても怖いものを。
「もう終わり?弱くてごめんなさい?誰のことを言ってるの?私?だったら見せてあげるよ…私は強いんだ…」
「!?」
言い終わった瞬間、春奈は目にも止まらない速さでまずはチェルタの首元を狙った。蝙蝠の翼で避けようとするが、間に合わない。
「グェッ!!」
「ハハハッ!!お兄ちゃんに会うのはお前だ!!死ねっ!!」
高笑いが全面を覆い尽くす。今、手の中にはあの水の弓矢ではなく、水の剣。それも、濁っている色に変色している。それは春奈の心の表れでもあった。
絶望的な光景に円堂たちは驚愕と恐怖に目を丸くし、息をのんで見ていた。