二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.21 )
- 日時: 2009/12/31 20:11
- 名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)
「あっ」
私は地面に幾つもある丸い小石につまずいて、前のめりに転んだ。けれど、めげずに起き上がると歩き始める。ルリリを助けなきゃ、と思えば思うほど焦る気持ちもどんどん溢れてくる。焦る気持ちが足の動きを早くさせ、石につまずきやすくなる。
石の隙間から咲いたどす黒い紫の花は卵の腐った臭いを放っていて、鼻がもげそうだ。おまけに雑草が足を歩くたびにくすぐってくる。
「おい、どけどけ! そこの岩場はおれの陣地だっ」
と、柄の悪いコラッタが襲ってきた。大きな二本の歯に、紫色のネズミの体をしている。けれど、私たちは相手にせずスタスタと歩く。こんなやつらに構っている時間なんてない。あんまりしつこいやつは、<でんきショック>をくらわしてやればいいのだ。
とにかく、ルリリを……ルリリを……。
「はい、ミーシャ」
急いでいたため、岩場に入ってからまったく話してこなかったミニリュウがオレンの実を差し出してきた。トレジャーバッグから出した物だ。トレジャーバッグは、ミニリュウが肩からかけている。
私はありがたく受け取ると、青く丸いオレンの実にかじりつく。 青い丸の形の中に、粒粒の模様が入っている。まるで、星が浮かんでいるかのようだ。そんなオレンの実は、体力を回復させる効果のある実。一口かじると体が楽になり、すべて食べると体の中の元気の実がはじけてパワーが飛び出た。
「おいしいね」
私は思わず笑みを漏らした。
ミニリュウも、トレジャーバッグからオレンの実を取り出して食べると真剣に言う。
「スリーパーは悪いポケモンだから、もしかしたら襲ってくるかもしれないね。心構えをしておかないと」
言い終えるとミニリュウは不意に食べていたオレンの実を投げ捨て、私をドンッと突き飛ばした。痛い、と思って文句を言おうとすると、私の真横を紫色に光る細い針が通り過ぎていく。ミニリュウが突き飛ばしてくれなかったら、私に当たっていただろう。助かった……。
「ミーシャ、後ろ!」
叫ばれて私が後ろを向くと、オレンの実の匂いに誘われてやって来たビードルがいる。ビードルは、黄色い団子を組み合わせた体をしていて、下へ行くほど団子が小さくなっていた。
ビードルはオレンの実を奪うがごとく、毒の針を何本もその尾から飛ばしてきた。
「毒の針だっ! <でんきショック>!」
私は毒の針に向かって電気を飛ばした。ところが、針は電気に当たってピンッと弾けとび、ミニリュウに向かう。ミニリュウの小さく美しい青の竜のような体に、針がトクトクッと刺さった。
毒の入った針だ。ミニリュウの綺麗な体の色がさされた所を中心に、ジワジワと紫に染みていく。
〜つづく〜
- Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.22 )
- 日時: 2009/12/31 20:11
- 名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)
「あっ、ミニリュウ!」
ミニリュウは『毒の状態異常』になった。毒が体にまわると体力が徐々に減っていき、終いには瀕死状態になる。ミニリュウは、毒が体に入って苦しそうだ。吐く息がかすかに紫色だ。
私の、私のせいで……。私が<でんきショック>で毒の針を弾いちゃったから……。考えてから技を出せばよかった。やみくもに技を出すから、こんなことに……。
私が涙ぐみながらミニリュウに駆け寄ろうとすると、ミニリュウは「いいから、ビードルを追い払って!」と怒鳴った。怒鳴るミニリュウを見るのは初めてで、私は息をのむ。しかし、その声でビードルに向き直った。
「ビ—————ドル!」
ビードルは鳴き声を上げ、シューという音を立てながら口から糸を吐いた。白くねばねばした糸だ。あれにつかまったら、身動きがとれなくなってしまう。
私はひるまずに、全身に力を入れて糸に向かって<でんきショック>を繰り出した。電気はバチバチいいながら、糸に当たる。束になっていた糸は、電気に当たると引き裂かれた。粉々になった糸が地面に散る。
「いっけぇ! <たいあたり>!」
“ミニリュウごめんね”という思いだけを抱きながら、私は目をキュッと瞑ってビードルに激突した。ビードルにはかなりのダメージを与えたはずだが、激突して体をぶつけた私も体が痛い。瞑っていた目を開くと、逃げていくビードルの姿が目に入った。
周囲に敵ポケモンがいないことを確認すると、私はミニリュウに今度こそ駆け寄る。
「ミニリュウ、ミニリュウ……」
私は言いながら、ミニリュウがかけているトレジャーバッグをあさった。体力を回復させるオレンの実があるのなら、毒をとるモモンの実だってあるはず。
思ったとおり。トレジャーバッグの中から、ピンク色の桃の形をした実が出てきた。肌色の斑点がある。私はそれをミニリュウに渡した。
ミニリュウは、モモンの実を一口だけかじった。そして、次にガツガツと実をすべて食べる。よくなったのか、紫に染まっていた体は元の美しい色に戻っていた。
「はあ、ミーシャ。助けてくれてありがとう」
「そんな! ミニリュウが私を突き飛ばしてくれなかったら、私だって危なかったんだし。お互い様だよ、ねっ?」
ミニリュウが元気になったのが無性に嬉しくてならなかった。私たちは、しばらく笑いあいながらその場に立ち尽くす。岩場に笑い声が響いた。しかし、ルリリのことを思い出すと、真剣な表情になる。こんなことをしている場合ではない。ルリリだ。
「そうだ、こうしている間にもルリリが……。ミーシャ、早く行こう!」
さっきより足早で私たちは岩場を進み始めた。その気持ちを表すかのように、風はいっそう強く速く吹いた。
〜つづく〜
- Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.23 )
- 日時: 2009/12/31 20:12
- 名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)
「あっ、あそこにルリリとスリーパーが」
しばらく進んだ後、大きな川が見えてきた。その川は茶色く濁り、枝や葉などを運んでいる。流れは驚くほど急で水かさも多かった。その川の手前にルリリとスリーパーがいる。二人とも向かい合っていた。しかも、ルリリの後ろは川。数歩下がれば川に落ちてしまう。ルリリの前には川へ追い詰めるようにスリーパーが立っている。
何やら二人は話しているようだ。話し声はこちらまで聞こえる。
「スリーパーさん、お兄ちゃんはどこ?」と不安そうにルリリが聞いた。
スリーパーは首を横に振ると、「ごめんな、ここにお兄ちゃんは来ないんだよ。おれは、おまえを騙していたのさ。ほら、あの濁った川の中にキラリと光る物が見えるだろう。あれは、あるポケモンが隠したお宝じゃないかって噂されているんだ。けれど、おれは水タイプじゃないから泳げない。だから、おまえに頼みたいのさ」と、余裕そうな表情で言った。
騙されていたことがわかったルリリは目に涙を溜めて逃げ出そうとするが、スリーパーに尻尾をつかまれて動けない。
「おとなしく協力するんだ。でないと、どうなるかわかっているのか」
スリーパーが脅した。そして、一歩ルリリに近づく。ルリリも一歩後ろへ下がる。川が後ろへ迫る。スリーパーが突き落とせば、ルリリはすぐに川に落ちるだろう。
ルリリは痙攣(けいれん)を起こしたように震え、声を絞り出すように叫んだ。
「や、やめてっ! 助けて!」
同じだ。あの不思議な夢と……。何もかも。
その様子を見ていた私は胸がぎゅっと熱くなった。“助けなきゃ”という思いがみるみるこみ上げてくる。
「ミニリュウ、行こうっ」
ミニリュウも私と同じ思いを抱いていたのか、私が言うと唇をかみ締めて強く頷いた。私たちは決心をすると、スリーパーの前へ出る。私はルリリが川へ落ちないように、川から離れた所まで背に乗せて運んだ。
「おいっ、スリーパー! 私たちは、探検隊だ。あんたがお尋ね者ってことを知っているんだからね! おとなしく観念しなさい!」
私はスリーパーをひるませようと大声で怒鳴り、後ろで震えているルリリを撫でた。スリーパーは一瞬慌てた表情をしたが、すぐにニヤリと不気味に笑う。
「ほおう? それで、おまえたちはおれをどうするんだ? 倒して捕まえるのか?」
「あっ、当たり前じゃないか!」
ミニリュウが言い返した。怖がりのミニリュウがたくましくなったなーっと思って、ミニリュウを見るとかすかに震えている。あれ、やっぱり怖いんだ……。私はミニリュウの目を見た。体は震えているけれど、目には燃えるような強い意志が宿っている。きっと心の中では“助けなきゃ”と思っているのだろう。スリーパーの眼差しにひるんでいるだけだ。
——ミニリュウなら大丈夫。私も大丈夫。きっと勝てるよね。
ミニリュウが震えているのに気づくと、スリーパーはお腹を押さえてクククッと笑い出した。かなり余裕だ。
「怖いのか? そうか、おまえたち、お尋ね者を捕まえるのは初めてなんだな。新米か。フフフッ、そんなおまえたちにおれが倒せるのか?」
〜つづく〜
- Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.24 )
- 日時: 2009/12/31 20:12
- 名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)
スリーパーはミニリュウをさらにひるませようと、睨みながら言った。冷たい瞳が不気味に光る。
ミニリュウは目を瞑り、悔しそうに下を見た。
「私、弱虫だけど……。でも、おまえを倒す! だって、私たちは新米でも立派な探検隊だもの! みんなに認められたんだっ! いっけえ、<たつまき>!」
瞑っていた目を開くと、ミニリュウはその尾を円を描(えが)くようにグルグル回しだした。だんだん尾を中心に小さな風が起こった。それが小さな竜巻となり、他の風を巻き込んでみるみる大きくなった。心なしか、竜巻は砂を吸い込んで薄く黄土色に見える。その竜巻がスリーパーに向かった。
「フフッ、そんな<たつまき>の技などどうってことない! <サイコキネシス>!」
スリーパーは含み笑いをすると、鋭い目を青く光らせた。すると、竜巻も青く光る。スリーパーが人差し指を空へ向けると、竜巻は天高く飛んでしまった。スリーパーが竜巻の動きを操ったのだ。空に消えた竜巻は戻ってくる気配すらない。
ミニリュウは悔しそうにスリーパーをキッと睨んで、激しく威嚇(いかく)した。
「<たつまき>がダメなら、これはどうだっ。<まきつく>!」
だっと駆け出したと思いきや、ミニリュウはスリーパーの腕に自分の体をギュッと巻きつけた。失礼だけど、蛇が腕に巻き付いているように見えなくもない。ミニリュウが可愛いから、そう見えないけれど。
そしてミニリュウは、尾だけをスリーパーに巻きつけそのままスリーパーを持ち上げると、地面に叩き付けた。地面の尖った岩の上に背をぶつけたスリーパーは痛そうだ。
「どんなもんだい、<たたきつける>は」
「うぐっ、おのれえ……」
憎悪に満ちた顔でスリーパーがミニリュウを見る。その瞬間、スリーパーの目が赤く不気味に光った。目の光が消えると、なぜかスリーパーは満足そうに笑みを浮かべた。そして、<ずつき>攻撃をするために頭をミニリュウに向けながら走り寄る。
危険を感じたミニリュウはその場から逃げようとするはずだが、なぜか動かない。逃げないと危ないっ。……まさか、逃げないんじゃなくて逃げれないんじゃ。あのスリーパーの赤く光った目。あれは<かなしばり>だ!
「ミーシャ、ミーシャ! 動けないよぅ!」
半べそをかきながらミニリュウは必死に尾を動かすが、動くのは尾だけで逃げれない。ミニリュウはただただ、私に向かって悲鳴を上げる。
ミニリュウに叫ばれて、私ははっとした。そうだ、私はまだ何も技を出してない。ミニリュウが頑張ったんだから、私も。いったん息を吸ってから、ミニリュウに走りながら近寄るスリーパーの目の前に、私はおどり出た。
驚いたスリーパーは足に急ブレーキをかける。砂埃が立った。
「いくよ、<でんきショック>!」
「そうはいかないぞっ」
私が電気を放射すると、スリーパーはそのことを予想していたかのように体をひねってスルリとかわした。そして、驚いてすきが出来た私の後ろにまわりこむ。気づいた時には遅かった。全身に痺れるようなぴりぴりした激痛が走る。
「うっ!」
スリーパーの<ずつき>をまともに受け、私はミニリュウの足元へうつ伏せに倒れた。もっとも、メリープの姿だからうつ伏せか横向きにしか倒れることはできないが。
〜つづく〜
- Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.25 )
- 日時: 2009/12/31 20:13
- 名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)
「ミーシャ、ミーシャ」
と、ミニリュウの涙声が聞こえる。そうか。私はミニリュウの足元に倒れたんだ。だから声が聞こえるんだ。うっすらと目を開けると、ミニリュウが目に涙を浮かべて私を見下ろしている。ミニリュウは、頑張って動こうとするが<かなしばり>のせいで、いくらふんばってもダメだ。
ごめん、やっぱり私はなにもできないダメなやつなんだ。ミニリュウは、<かなしばり>で動けないからわかるけど、私はまだ動けるのにダメージを受けてなんにもできないなんて。
面白そうにスリーパーが足元の石を蹴った。その石が転がってきて、私の顔にコチンと当たる。少々痛かったが、その事を気にするほど私の体力は残っていなかった。
ミニリュウが、歯をくいしばる。悔しいのだ。
「動けないなら、動けないなら……! ここからスリーパーまで届く技で戦えばいいんだっ。<りゅうのいぶき>」
……苦しいはずなのに、ミニリュウは薔薇よりも血よりも赤い光線を口から出した。一直線に、光線はスリーパーへ向かう。しかし、それもスリーパーはスルリンとかわす。光線は、大岩に当たると薔薇の花びらが散るようにしてスカッと消えた。
「わ、私だって……」
私はミニリュウの頑張りを見て、ふらつきながらようやく立ち上がった。足がブルブル震えている。体力が大幅に減少し、もう立つこともできないの? 戦うって、こんなにも苦しいんだ。人間の頃はポケモンが戦う姿を見て、「うわ、痛そう」とか思っていただけだった。しかし、やってみるとこんなにも苦しいなんて……。
でも、私だって、私だって……! 負けないんだから!
「ど、どうして全部の技をかわせるの? どうして全部、予測できるの……」
「フフフフ……。ポケモンに“特性”と呼ばれる特殊能力があるのは知っているよな? おれの特性は“よちむ”だ。未来に起こることが予測できる。ハハハハッ、おまえたちにおれは倒せない。絶対にな」
スリーパーは相変わらず余裕で、お腹を抱えて笑った。いつまでもいつまでも笑っている。
どうしようどうしよう。ミニリュウは<かなしばり>のせいで動けない。私も、もうそんなに体力は残っていない。キセキを起こす探検隊なのに。
「みんな……」
頭の中にギルドの仲間の顔が浮かんだ。キマワリは強かったな。ヘイガニも嫌なやつだけど、強い。ぺラップだって、プクリンだって。みんな、こんな試練を乗り越えてきたのかな。私たちには無理なのかな。突破口はないのかな。どうして……!
「もうっ!」
私は苦し紛れにあちこちへ電気を飛ばした。電気はスリーパーへも飛んだが、それもスリーパーはひょっこりとかわす。……が、地面の岩につまずいて前のめりに転んだ。
チャンス……!
「やったあ! くらえ、<でんきショック>!」
力を振り絞って放った電気は、いつもの<でんきショック>と色も音も違った。いつもは、黄色くバチバチッと音を立てるが、今回のは青白くピリッピリッと音を立てるのだ。
「うわあ!」
転んで立ち上がろうとしていたスリーパーはまともに電気をくらい、悲痛な叫びを上げた。しかし、今まですべての技をかわし続けてきたスリーパーはこんな電気などなんともないらしい。ちょっと痛そうにスクッと立ち上がる。
「ふんっ、こんなちっぽけな技などどうってことな……い……」
言っている最中に、スリーパーは急にドシンと仰向けに倒れた。見ると、スリーパーの体がピリッピリッと音を立てている。さらによく見ると、青白い電気が体にまとわり付いている。『麻痺(まひ)の状態異常』になったらしい。
「く、くそおっ。体が痺れて動けない。あれは<でんじは>の技だったのか」
<でんじは>……? もしかしてさっきの技? <でんきショック>ではなく? 確か、<でんじは>は相手を麻痺状態にさせる技だ。そんな技を、私はいつの間に覚えたのだろうか。そういえば、ポケモンはピンチになると進化したり新しい技を覚えたりすることがよくある。私もそれかな?
「ミーシャ! 今ならあいつは動けないよ! こんな作戦はどう……?」
〜つづく〜
- Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.26 )
- 日時: 2009/12/31 20:13
- 名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)
ミニリュウはごにょごにょと私の耳元で作戦を話した。これなら、いくら“よちむ”の特性を持つスリーパーでも太刀打ちできないに違いない。キセキの探検隊へ与えられた最後のチャンス、逃がすものか! 運よく、この作戦は麻痺しているスリーパーには聞こえていないらしい。
「ふふっ、麻痺が治ったぞ……。覚悟しろ!」
麻痺がはやくも完治すると、スリーパーは私を睨みつけた。驚くほどはやい回復力。やはりスリーパーはランクの高いお尋ね者だった。レベルも違いすぎる。五つ星評価でいうなら、星三つくらいだろうか。私たちにとっては。
それでも私は負けじと睨み返した。スリーパーは、フッと鼻で笑う。
「さっきの麻痺のお礼をしなくてはな。まずはそのフワフワした電気羊(でんきひつじ)からつぶしてやるわいっ!」
スリーパーは私を指差すと、攻撃体勢に入った。フワフワした電気羊!? 失敬な。まあ、この借りは後で返すとして、そうだ、そうこなくっちゃ。スリーパーは完全にはめられた。作戦はきっと成功する。
ザアアアアァァァ—————!!
川の水の流れる音が、私たちの戦いのBGMのように聞こえる。まるで、私たちが負けることを……いや、勝つことを表しているかのようだ。もう怖くない。二人でなら大丈夫。
ミニリュウと私は、目を合わせて頷く。
「待って! やるなら私をさきにやれ!」
怖さを押し殺してミニリュウが言った。もう体は震えていない。それどころか、溢れるパワーを感じる。スリーパーはミニリュウの言葉を聞いて、私からミニリュウへ目線を変えた。
「ほう、ずいぶんと強気だな。あんなに怖がっていたのに。まあいい。望みどおりにしてやるっ」
「行け、<たつまき>!」
動けないミニリュウは尻尾だけを動かして大きな竜巻を作った。竜巻はゴオゴオと音を立てながらあらゆる物を吸い込んでいく。まるで陸のブラックホールだ。その勢いは空まで吸い込んでしまいそうなほどだ。
私はその竜巻のてっぺんに、ミニリュウが起こした風を利用して飛び乗った。てっぺんなら、上昇気流がクッションになって竜巻の中に取り込まれない。柔らかな真綿の上にいるような感じだ。
「そんなもの、<サイコキネシス>で吹き飛ばしてやるっ」
スリーパーの目が最初と同じように青く光った。そしてスリーパーの指が上を向くと、竜巻はあっけなく空へ舞い上がる。そして消えた。スリーパーの目が、冷たいナイフのようにキラリと光る。私は竜巻が空高く消えてしまう前に竜巻をジャンプ台にして、スリーパーの後方に飛び込んだ。幸いスリーパーは、私の事に気づいていないらしい。
「これで終わりだ、ちっこい竜め! <サイケこうせん>!」
〜つづく〜
- Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.27 )
- 日時: 2009/12/31 20:14
- 名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)
スリーパーは手を円を描くように動かした。何かすごい技を出しそうな仕草だ。……思ったとおり。スリーパーの指から、七色の光がドーナツのようにリング状になって幾つも発射された。光のリングは、輝きながらまっすぐにミニリュウへ向かう。リングが、動けないミニリュウに直撃した。光が溢れ、一瞬景色が見えなくなった。光が消えると、ミニリュウが「うっ」とうめき声を上げて吹き飛ばされ、岩に体をぶつけた瞬間が目に入る。ミニリュウはそのままぐったりと岩にもたれかかった。
み、ミニリュウが……。でも、今叫んだらスリーパーにばれてしまう。私はこっそりとスリーパーの後ろにいるんだから。作戦を成功させるため犠牲になってくれたミニリュウのためにも作戦を、作戦を成功させるんだっ。
「ふっ、これで一匹は片付けたな。そういえば、あの電気羊はどこだ?」
「ここだぁ!」
ようやくスリーパーが私の事を思い出したみたいで、私は大声で言った。なんだろう。怒りが熱となって体からこみ上げてくる。自分が、噴火直前の火山になったかのようだ。
「何!? おまえ、いつの間におれの後ろへ……?」
青ざめた顔でスリーパーが振り返った。やはり、いくら“よちむ”があるとしても竜巻とミニリュウに夢中になって、私の事は気づいていなかったらしい。
ミニリュウ、待っていてね。今すぐにかたきをとるから。ついでに、電気羊の分も。
「よくもミニリュウをっ。くらえ、<でんきショック>!」
私は全神経を集中させて目を瞑った。私のモコモコした綿花のような体から、電気が放出された。まるで、私が花火の中心にいるかのようだ。これでは電気羊ではなく、電気綿花だ。電気技を出す時は、いつも体が痒いような感覚に襲われるが、今回はそれがいっそう激しかった。<でんきショック>とは明らかに威力が違う。これは<十まんボルト>だ! 新しく覚えたんだ。
私から放出された電気は生きているかのようにくねくねとスリーパーに向かう。
「うわあ——! た、助けてくれっ!!」
さっきまで余裕だったスリーパーが、情けない声を上げた。驚きと恐怖で行動に出れないらしい。電気はスリーパーに直撃した。
バチバチバチバチ————!!!
すさまじい音が、川の流れの音を掻き消すくらい大きく響いた。火花がパチパチと飛ぶ。そして、電気がおさまるとそこに現れたのは体のあちこちが黒ずみ、ばったりと倒れているスリーパーだった。倒れてからも帯電しているのか、時々体がばちりっと光る。スリーパーの周辺の地面は黒くこげ、雷が落ちた後のように煙がもくもくと出ていた。
「や、やった……」
私は地面にぺたんと座り込んだ。緊張していたため、息が切れている。そうだ、ミニリュウを助けなくては。
「ミニリュウ、平気?」
私は急いで岩に寄りかかっているミニリュウのそばへ駆け寄った。ミニリュウは、額に脂汗を浮かべて荒い息を吐いている。早くオレンの実を渡さなくてはいけない。
しかし、ミニリュウのかけているトレジャーバッグをあさってもオレンの実は出てこない。そう、スリーパーやビードルと戦う前に食べた実が最後だったのだ。私は頭が真っ白になった。ミニリュウを助けれないだけでなく、自分だってもう限界なのに。
〜つづく〜