二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- テニスの王子様 -夢見る僕らのお姫様- ( No.0 )
- 日時: 2010/07/06 18:03
- 名前: 彩凪 (ID: 2MYnw2hS)
『……お願いします。トウマさんにお願いがあるんです』
—きっかけは、チャットで出会った女の子からだった—
* * * *
「Hey!Touma!!」
—ここはアメリカ合衆国の某テニススクール。老若男女問わず愛されているスポーツ『テニス』。しかも技術に関してはここ、アメリカ合衆国の方が最先端を行っている。
「What`s?(何?)」
其処は施設が充実しており、休憩室や仮眠室が設けられている。その内の一室、休憩室にあるパソコンの前で一人の少女が座っていた。よく見ると彼女はアメリカ人ではなく、日本人留学生らしい。と、幾人かの金髪の少年たちが彼女に話しかけてきた。
『ようトウマ!!久し振りに賭けしねぇか?ジュース一本おごりで』
流暢な英語を聞きとった彼女は不機嫌そうな顔をし、
『えー…また賭け事〜?』
『なんだよ、別にジュース一本ぐらいいいじゃねえか』
と不機嫌そうな彼女の顔に一人の少年がぐいっと前に出る。彼のテニスバッグには‘Eric(エリック)’と記されている。
『いいけど〜。エリックこの前あたしと賭け事して負けたじゃん』
『それはそれ、これはこれ!!次はそうはいかないぜ』
と少年—エリックは少女—トウマにそう言い、ウインクする。するとトウマは観念したのか、ため息をついて椅子から立ち上がった。
『わかったわかった』
『おっ、じゃあ負けた奴は勝った奴にジュース一本な!先にテニスコート行っとくな!!逃げんじゃねえぞ!!』
とエリックはテニスバッグを背負い、さっさと休憩室から出ていった。
「…ふぅ、此処へ来て3年か…。そろそろ『あいつ』と戦いたいなぁ…」
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目次:
プロローグ >>0-9 >>11-
キャラクター: >>10
- Re: テニスの王子様 -夢見る僕らのお姫様- ( No.1 )
- 日時: 2010/06/28 23:28
- 名前: 彩凪 (ID: o6x1qd73)
『これで通算100勝0敗。まだまだね、エリック』
『Touma Etizen 6−0!Winner Touma!!』
『まじかよ〜…』
湧き上がる歓声と拍手、そして倒れ行くエリックの姿。
『約束は約束よ、エリック?』
『…ああーーっわかってるっつーの!!』
意地悪そうにエリックに向けて言うトウマ。そんな彼女にイラッとし、すぐさま立ち上がるエリック。トウマはニヤニヤしながら「アイムハッピー〜♪」と客席にいた女性たちに手を振る。もちろんそれに答える客席のアメリカ人。一人の異国人の勝利を喜ぶように雄たけびを上げるアメリカ人。
「アメリカ最高ーあたし最高ーー!!」
—こうして、トウマのいつもの一日が終わっていった…。
* * * * *
『じゃーな、トウマ』
『おー、バイバイッ♪』
テニススクールから出てきたトウマとエリック。2人はそれぞれ違う方向へ歩きだし、おもむろにトウマはポケットから携帯電話を取り出した。ストラップなどついていない、青い携帯電話だ。
ピッ 『受信メール 1件』
「……おっ、楓ちゃんからだ」
楓(カエデ)—それはトウマが唯一の息抜きとしてやっている『チャット』で知り合った同じ年の女の子である。しかも日本人で、トウマと同じくテニスが好きらしい。
トウマは彼女と実際会った事はないが、3年もアメリカで留学生活をしているトウマにとって楓はかけがえのない、数少ない日本人の友達なのだ。
『to トウマ from 楓
トウマ、朗報だよ朗報!トウマがこの頃うちのチャットに来てない間に何人かの女の子がうちのチャットに来たんだ!しかも日本人の女の子!しかもしかもどの子もテニスが好きなんだってさ!運命だと思わない〜?今日の夜、っていってもアメリカじゃあ時差とか出ると思うけど…。今日のいつものチャット板でいつもみたくチャットやってるからー(>▽<)
P,S
今日うちの兄貴が大会で優勝したんだ。うちの兄貴ちょーかっこよかったし☆
』
「…へぇ…(そういや最近チャット板行ってなかったな…)久しぶりに行ってみようかな」
- Re: テニスの王子様 -夢見る僕らのお姫様- ( No.2 )
- 日時: 2010/06/29 01:22
- 名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
テニプリ発見です☆
初めましてー^^ 亮と申しますb
此処でテニプリ小説書かせていただいてるものですーv
彩凪さんの、読ませていただきましたv
これからどうなるのか、わくわくです。笑
テニプリ好きさんが、カキコに少なくて寂しかったのですが、増えつつあるようで嬉しいです♪
よろしければ、お友達になってくださいな^^
- Re: テニスの王子様 -夢見る僕らのお姫様- ( No.4 )
- 日時: 2010/06/29 11:33
- 名前: 彩凪 (ID: o6x1qd73)
>>亮さんへ:
お初にお目にかかります。
テニプリが好きで、でもあまり詳しくないので初心者ぐらいです。。ちなみに好きなキャラはリョーマですw
そうですねぇ、テニプリのカキコ増えてくれるといいですね♪これからもよろしくおねがいします。
====
—テニススクールから少し歩き、踏切を渡ってすぐにある赤いペンキが目立つアパート。一階は管理人ご夫婦が住んでいて、いつも管理人のご夫婦が仲良くみずやりをしている。
『ただいま、Mr.ブラウン』
『おや、今日は早いご帰宅だねトウマ』
今日は管理人夫婦—ブラウン夫婦の旦那さんが植木鉢に水やりをしていた。ブラウン夫婦はまだ右も左もわからなかった異国人のトウマを温かく迎えてくれた、云わば『ある意味トウマの両親』である。
『今日はエリックと賭け事して疲れちゃってー。もちろん、賭けには勝ったからちゃんとジュース貰ったけどね』
とトウマは背負っていたテニスバッグをドンッと地面に置き、いつもアパートのそばに置いてある椅子に腰かけた。
『はははは、流石トウマだ。あの馬鹿息子に勝てるのはトウマぐらいだろう、なんだって俺の自慢の息子だしな。勿論、それ以上にトウマだって俺の自慢の娘だ』
豪快に笑いあげるブラウン夫。トウマもそんなブラウンさんにつられて笑う。
—エリックはトウマの住むアパートの管理人の息子。どうして息子であるエリックがこのアパートに住んでいないのかというと、少し昔エリックがテニスに専念したいといってテニススクールの寮へ引っ越したのだ。勿論、ブラウン夫婦は反対したがエリックの熱い気持ちに負けて彼の寮生活を承諾したのだ。
『でもあれから3年か…。まさかあの馬鹿息子がテニスを専念したいなんていうとはなぁ…』
『エリックは負けず嫌いだからね、しかもテニスの腕前は殆どあたしと互角。いいテニスプレイヤーになるよ』
『そうかいそうかい。トウマがそういうならそうなんだろう』
とブラウンさんはトウマの頭をなでた。するとガチャッとアパートの玄関ドアが開き、そこからブラウンさんの妻が現れた。
『あなた、食事の用意が出来ましたよ。折角だからトウマもお食べ』
『おやおや、もうそんな時間か。トウマ、うちで食べて行きなさい』
『ありがとう、ブラウンさん!!』
喜んでトウマはテニスバッグを背負い、アパートの中へ入って行った。ブラウン夫婦はそんな元気なトウマの後ろ姿を見て微笑、玄関ドアを開けてアパートの中へ入って行った——。
- Re: テニスの王子様 -夢見る僕らのお姫様- ( No.6 )
- 日時: 2010/06/29 13:40
- 名前: 彩凪 (ID: o6x1qd73)
「……あー、やっぱりブラウンおばさんのグラタンはすっげぇ美味い…」
ガチャッと洗面所から出てきたトウマ。どこまでも白い壁に淡い水色のカーテン、そしてトウマの脱衣所にはさっきまでトウマが来ていたテニスウエアが籠の中に入っていた。トウマはお風呂からあがり、バスタオルで髪の毛を拭いていた。
「さてっと…」
そしてテーブルの上にノートパソコンを設置する。慣れた手つきで電源を立ち上げ、ディスプレイから『Internet』を起動させる。その間、トウマは冷蔵庫からオレンジジュースを取り出しコップに入れずに紙パックでがぶ飲み。
「…さってと。久々のチャットだから懐かしいな」
—『トウマさんが入室しました』
トウマ:こんちわー☆
楓:わっトウマ久しぶり!
アスカ:おひさしぶりですトウマさん!!元気にしてましたか?
トウマ:うん!外国のテニススクールは厳しすぎてチャットもする時間がなかったから〜泣
楓:すごいねぇ…。ってか今日はチャット入るのはやくね?
トウマ:今日は友達と賭け事して帰ってきた、勿論テニスでねwしかもあたしの勝ちー☆
アスカ:すごいすごい!!さすがトウマさんですね!!
「うわ〜アスカも懐かしいな…。そういえばアスカも楓もあたしと同じ年なんだよね…」
その時、ピロンと新しい文章が出てきた。
—『リコさんが入室しました』
リコ:こんにちわ。
楓:こんーwリコちゃん今日は早いね!
「…リコ…って、もしかして初めての子かな」
トウマ:リコさんはじめましてー!トウマといいます。よろしくおねがいします(^^)
リコ:あ…いえ、こちらこそ。よろしくおねがいします。
楓:かたっ苦しいことはなしなし!ここはチャットなんだからお互いため口でいこう☆
アスカ:そうですね!せっかくテニスで知り合ったんですもの、仲良くしましょ!!
「…へぇ……、あたしがチャット来てなかった間にリコちゃんって子が新しく来てたんだ。……ん?」
チャットをしながらトウマは昨日のチャットの履歴を見ていた。そこには、チャットのメンバーが一通り記されている。
「トウマ、楓、アスカ、リコ……それから……ユキ?もしかしてこの子も新しい子かな。今日は来てないみたいだけど…」
不思議に思いながらもトウマはなれた手つきでチャットでかのじょたちと盛り上がっていた。
—エリックとの試合、異国とのふれあい、優しい管理人。。。せめて同じ国の籍を持つ者同士、楽しかったことや悩み事などたくさん語り合った。
トウマ:へぇ…。じゃあリコちゃんは中学生なんだー。
リコ:はい。もっとも、今は体が弱くて家で療養中なんですけどね(笑)
トウマ:療養!?どっか悪いの!?
楓:神経性のものらしいよ。でも、今は回復の兆しありなんだって。ねっリコ。
リコ:はい(^^)
トウマ:それはよかったね!!…じゃあ、療養中ってことはあんまり学校にも行けてないんじゃ……。
リコ:……。
アスカ:…トウマさん。
楓:トウマ。
トウマ:あっ!!あ、あのその…ごめん!!やっぱさっきの訂正!早く学校行けるといいねぇ〜〜!!
楓:言ってること同じだし。
トウマ:ギクッ!!
アスカ:トウマさんらしいですね。
リコ:ふふっ、ありがとうございます。トウマさんみたいな明るい人と実際お話してみたいです。
「…話か……。そういや、こうやってじっくり考えてみたら楓とも会ったことないんだよね…。まああたしがアメリカにいるからなんだけど…」
トウマ:そうだねー。あたしも会ってみたいな、みんなに。
楓:うちもー。会ってご飯食べたいよな!!
アスカ:ショッピングとかもしたいです!!
トウマ:でもなんといっても、テニスやりたいよねみんなで!!
リコ:あ、わ、私もそれ思いました!!私まだテニス初心者で…みなさんに教えてもらいたいです!!
「……皆…思うことは一緒か…。」
—トウマがふと窓から外を見ると、そこはもう眩しいくらいの光が降り注いでいた。すでに太陽の光は真上に上がっており、もう少しでテニススクールに行かなければならない。
トウマ:あ!じゃああたしはテニスあるからここでドロンします!!
楓:おっ、もうそんな時間か。じゃあがんばってこいー。
アスカ:がんばってくださいねー、またチャットで。
リコ:…また、お話しましょうね。
—『トウマさんが退室しました』
- Re: テニスの王子様 -夢見る僕らのお姫様- ( No.7 )
- 日時: 2010/06/29 17:16
- 名前: 彩凪 (ID: o6x1qd73)
* * * *
—大きな屋敷の二階に【彼女】は座っていた。真っ白な丸型の机と椅子に腰かけ、カチカチと鳴らしているパソコンの横には可愛らしいティーセット。時折コホコホとせき込みながら、パソコンのディスプレイに自分の言葉を打ち込んでいる。
淡い栗色のウェーブがかかった長髪、丸い大きな瞳がより一層彼女の可愛さを引き立てる。服装はパジャマ姿の上に桃色のカーディガン。彼女のいる部屋の内装からいって、どうやらかなりのお金持ちらしい。
「…ふぅ」
一通り打ち込んだ彼女は一息つき、残っていた紅茶を飲みほしてパソコンの電源を切った。と、それと同時に扉からノック音が二回。彼女は小さく「はぃ」と返事してから、ドアノブを回す。そして彼女は【いつも】通り相手に語りかける。
「…おはようございます……お兄様…」
—相手はそれを聞くと不気味に口元を歪め、彼女の細く折れそうな腕を自分の方へと引っ張った。
* * * * *
『ふぅ〜ん、チャットねぇ…』
『結構面白いよ〜、皆女の子だし何といっても皆テニスが好きだし!!』
—翌朝、トウマはテニススクールの休憩所でエリックと共に休憩ついでに昨日のチャットの話をしていた。
『でもさぁ、そいつ本当に女かわからねぇじゃん』
『正真正銘女の子、あたしが保障するっての』
『だとしても………。。。』
すると突然黙ってしまったエリック。中々話し出さないエリックの顔を見ると、少しだけ頬が赤くなっている。それに気付いたトウマは、
『ははん…、さてはエリックはあたしのことが好きなんだな!!』
『なっ////!!』
『だから心配してくれてるんだろ!?優しいんだなお前!!』
バンバンとエリックの背中を叩くトウマ。するといつもかかっている休憩所内のBGMに途中一瞬だけザザッとノイズが入り、ピンポンパンポンと綺麗な音が混入してきた。
『越前 トウマ、越前 トウマさん。至急Aコートまでお願いします』
『うぇっ!?あ、もうこんな時間か…。じゃああたし行ってくるね、また後で』
『おぅ、がんばってこいよ』
テニスバッグを背負い、ブンブン手を振るトウマ。やがてエリックに背中を向けて、さっさと走って行った。一人残されたエリックは少しさみしそうな顔をしながら呟いていた。
『…そうだもんな……。あいつは日本人だ…しょうがねぇよ…』
- Re: テニスの王子様 -夢見る僕らのお姫様- ( No.8 )
- 日時: 2010/06/30 16:17
- 名前: 彩凪 (ID: o6x1qd73)
「んふふ〜〜♪やっぱりテニス終わりのファンタは格別だ〜♪♪」
とペットボトルに入っていたファンタを一気に飲み干すトウマ。ベンチに座り、他のコートを見ている。
(…ここへきてからもう3年……。そろそろ日本であたしの力を発揮させてみたい、…だけど)
すると足元にテニスボールが転がってきた。それに気付いたトウマはテニスボールを手に取り、どこからともなく誰かが走ってきた。
「悩み事かい?トウマ」
「あっ、氷室コーチ…」
—氷室 雄作、このテニススクールで唯一の日本人コーチ。同じ日本人とあって、トウマとはよく喋ったり悩み相談などもしたりする。トウマにとっては、年の離れたお兄さん的存在である。
「お前らしくないなぁ、どうした?今なら時間あるし、よければ話聞くぞ」
「……うん…」
氷室はトウマの横に座あった。そしてトウマはゆっくりと自分の気持ちを話し出した……。
「あたしね、小さいころからアメリカに来たの。その理由が、ある女の子から言われた言葉」
「女の子?」
「アマチュア女子テニス大会で、決勝まで行ってそこでたたかった女の子。それまで、あたしの中ではテニスっていうのがあんまりわからなかった。ただ楽しくて、ただ面白いからやってるだけだったの」
「…」
「でもあの日、あの女の子はあたしに言ったの」
『あなたの力じゃ、世界制覇なんて無理でしょうね』
「ほほぅ…、それをよく言ったなぁその子」
「でしょ?それにその時の試合、あたしが勝ったの。だから正直、その時あの子に言われて…かなりムカついた。でもそれと同時に…なんか凄いななんて思った」
「?」
「だってさ、その子『世界制覇』なんて言ったんだよ!?あたしの中で、世界制覇なんて考えつかなくてさ、遊びでやってたのに…。あの子は本気で、世界制覇なんて口にした。…夢が、あの子にはあったんだよ」
「…なるほど……」
「だからあたしは、自分の力をもっと強くしたくてアメリカに来た。ここへきて、あたしはたくさんのことを学んだ。まだまだあたしなんて弱い奴かもしんないけど、…でも試したい。あたしの力が、どこまで日本で通用するか!」
「…お前の気持ちはよくわかった、ほれ」
と氷室コーチはポケットから紙きれを出し、それをトウマに渡した。受け取ったトウマは「は?」と首をかしげる。
「学長には俺から言っておく。お前がそこまで考えてたとは、俺もまだまだガキなんだな」
「え??…」
「試してこい!!お前がどこで負けようと知ったことじゃねえ!!アメリカで鍛えた力、日本で見せつけてこい!!」
そう言うと氷室はふらふらとどこかへ行ってしまった。トウマが受け取ったその紙切れは——『日本行きのチケット』だったのだ…。
- Re: テニスの王子様 -夢見る僕らのお姫様- ( No.9 )
- 日時: 2010/07/05 20:08
- 名前: 彩凪 (ID: o6x1qd73)
——…なんだか懐かしい…。暖かくて、気持ちよくて…。
ふと瞼を開けると、目の前に広がるのは青く澄み渡る真っ青な空。時折視界の中に桃色の花びらが舞っている姿が写る。
『おいトウマ。トウマ、起きろよ』
ふと視界だけ上の方を向くと、そこには自分と同じ顔—基自分の従兄が自分の顔を覗き込んでいた。しかも従兄の顔が幼い、ってか幼すぎる。
『…んぅー…〜』
『ほら、手ェ貸してみろよ』
『ふわぁ〜い…』
ぎゅっと従兄が私の手を握ってくれた。ぐっと従兄は私を無理やり起こし、欠伸をしながら私はゆっくりと辺りを見渡す。
其処は、昔従兄と来たことがある海沿いの花畑だった。綺麗な桃色の花が印象的で、よく従兄が私のために花冠を作ってくれた。今思うと、とても懐かしい。
日本にいたときは、私のお母さんの仕事が忙しくてよく従兄と遊んでもらっていた。従兄とは同じ年でテニスも好きだから、ラリーも一緒にしていた。
『ほら』
カサッと私の頭に何かが飾られる。ふっと従兄の手が私の頭から離れ、ニコッと従兄は優しげに微笑んだ。私は反射的に『何?』と自分の手で頭をさわさわと触る。
『何々?また花冠?』
『だーめ、教えてやんない』
『えーっ何それ。教えてよー!』
『いやだよーっ』
と従兄が言ったので私は勢いをつけて従兄にタックルをする。すると従兄はうわっと言いながら私を受け止める。まるで子犬がじゃれあうように微笑みあう私と従兄。
—あの時は楽しかったな…。でもあれからすぐ、あたしは彼に何も言わずにアメリカへ…—
—…あたし、このまま日本へ帰って…いいのかな…?—
* * * * *
—バキッドカッ
人と人が殴りあう音が響き渡る、河川敷のとある場所。そこは橋の下の薄暗い場所で、昼間は誰も居ない。だが夕方頃になると、時折不良のたまり場となりここで喧嘩が始まるのだ。
「オルァアアアァアアアアアアアアアア!!!」
「ひぃっ!!」
「逃げるぞ…」
するとそこで殴られた生徒二人がその場から逃げるようにどこかへ走って行った。夕方なので顔がよく見えないが、白い制服を着ていることから逃げた二人とまだ残っている一人は山吹中の生徒らしい。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
一人残った少年はコンクリートの壁に立てかけてあったテニスラケットを手に取る。するとすぐさまどこからともなく一人の背の低い少女が少年の近くへやってきた。それに気づいた少年は少女の方を見ずに、
「…テメェか」
「俺で悪かったな。返せ」
そう言うと少年は持っていたラケットを後ろへ投げる。それを少年の背後にいた少女は受け止める。
「おぉっと。…悪かったな」
「別に。テメェの為にやったわけじゃねえ」
と少年は汚れた上着の汚れを手で払い、少女と向き合う。少女のオレンジ色のショートカットがさらさらと靡いている。少女はラケットを受け取ると、自分の持っていたテニスバッグに入れる。
「わかっている。あんたが誰かのために何かやるなんてありえないし、俺の兄貴みたいな女好きじゃない限りありえねぇ」
「…ほぅ、なら話は早ぇ。もう余計なもんに首突っ込むなよ」
とだけ言い、少年はどこかへと去って行った。彼の後姿を見ながら少女はふぅとため息をつく。彼女は彼の後姿を見終わると、ポケットに手を突っ込んで形態を取り出す。
「……。あ、もしもし兄貴?今から帰るわー。んじゃあな、あ?あぁ、わかってるわかってる。帰りにスポーツ雑誌買って帰ればいいんだろ。わかってるっつーの」