二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ_永遠の記憶を、空に捧ぐ。【移転開始】 ( No.738 )
- 日時: 2013/01/23 22:20
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=24342
絶句するしかなかった。
どうしようもない、怒りのようで悲しみのようで、苦しい、表現しようのない感情。
心を貫き、身を震わせる。
「人間界でお前たちと再会し、共に果実を集めていた。だが、帰る途中にはぐれてしまった——
あいつはそう言っておった。——だが、それではおまえの話とは、一致せん。
…果たして、何があったのか——」
再び杖を両手で持ち、オムイは考え込む。
「だが確かに、その時のあいつは妙な感じがした。
…届けておきながら、そのまままた人間界へ赴いてしまったのだ。…そして、神の国へ行くのなら、
マルヴィナ、お前が戻ってきてからにしてくれと——そうも言っておった」
マルヴィナは震えていた。目を見開いた——そしてすぐに、俯いた。
—— 一致しない。話も、マルヴィナの中の師の姿も。
箱舟の中に現れた師匠、帝国の声に従っていた師匠、そして、自分に剣を向けた師匠——
けれど、天使界に戻って、果実を届けて。
自分が返ってくると言うことを信じて、待たせた神の国への出発。
…彼らしい行動だ。彼らしいからこそ——分からなかった。一致しなかった。混乱した——…。
「…マルヴィナ」
オムイの声がかかる。はい、と、無音に近い声で、マルヴィナは答えた。
「——我々は神の国へ出発しようと思う。無論、お前たちも含めてな——だが、すぐにとは言わん」
ゆっくりと、立ち上がって。立ち尽くしたままのマルヴィナの肩を叩きながら。
「…一度休んだらどうじゃ」
顔を上げられなかった。言葉が入ってこなかった。
「お前はまだ若い。こんな大役を押しつけて、苦しませてしまった。すまなかった——」
違う。マルヴィナは思った。
違う。果実を集めることだって、人間を助けることだって、苦なんかじゃなかった。
確かに苦しいこともあった。厳しいこともあった。
けれど、そのおかげで、強くなった——力じゃない、自分と言う一人の天使として。
…けれど。
けれど今は。
混乱していた。狂ったと言われてもいい、叫びたかった。師、イザヤール、貴方は一体何なのか!?
完全に信じなくなったわけじゃない、だが、どれだけ潔白を求めても、どれだけ邪を認めなくても、
真実は真実であり、変えられない。彼は確かに、ガナン帝国に手を貸していたのだ!
「すみま…せん」マルヴィナは、言った。「それでは…失礼いたします」
マルヴィナはのろのろと敬礼し、立ち去った。
チェルスが少し辛そうに、視線を落としていた。——思い出す。忘れたい記憶を、消し去りたい過去を。
………。
・・・・
一体、あいつらは、どうなったのだろう。
わたしがいなくなってから、奴らは一体。
「長老どの」チェルスは静かに言った。「天使記録書物室へ入る許可をいただきたい」
驚いたオムイは、一度固まってから頷いた。
許可をもらったのち、チェルスはあの独特な敬礼をして、立ち去った。
痛いほどに静かな空気が、あたりを支配し続けていた。
漆千音))やばいよー風邪治らないよー
咳やばい喉イタイたんうざったいあーもう風邪ヤダ((寝ろbyセリアス
- Re: ドラゴンクエストⅨ_永遠の記憶を、空に捧ぐ。【移転開始】 ( No.739 )
- 日時: 2013/01/23 23:10
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=24342
「…おかえり。マルヴィナ」
マルヴィナは、ゆっくりと頷いた。
親友のチュランは、ずれていた眼鏡を直した。
「惜しい。ラフェット様、ついさっきここを出ちゃったよ。マルヴィナのところ行ってくるって言って。
…多分バルコニーに行っちゃったんじゃないかなぁ」
すれ違いになったという事か。そう思って、はっと顔を上げる。
チュランは申し訳なさそうに肩をすくめた。
「…ごめんね。聞こえてたよ、さっきの話」
「…そっか」
マルヴィナは呟いただけだった。すとん、と椅子に腰を下ろす。
「紅茶でも飲みなよ。淹れたげるから」
ありがと、と呟いて、視線をテーブルに落とす。
「…師匠。なんか、言っていた?」
マルヴィナは視線を変わらず落としたまま、そう言った。
師匠、の言葉に、チュランは驚いて振り返った。
…名を呼べぬほど、落ち込んでいると言うことに、改めて気づかされる。
「………」チュランは少しだけ迷って、言った。「…ラフェット様へなら、ね。…当たり前だけどさ」
紅茶の種類を選びながら、言う。
「よく、分からなかったけど——『マルヴィナのことを頼む』って…
さすがにラフェット様もおかしいって思ったみたいでさ、どうしたのか聞いたんだ。
…でも、あんまり話してくれなかったみたいで…でも、最後に、言ってたんだよね——」
“自分はもう、マルヴィナの師匠でいる資格はない”
マルヴィナは顔を上げた。立ち上がっていた。ラズベリーの甘酸っぱい匂いにようやく気付いた。
…自分の好きな紅茶の種類を、覚えていてくれたのか。そう思いながら。
「…すっごい、辛そうでさ。何があったのかは、教えてくれなかったけど。
喧嘩とか、そういうのじゃなくて…もっと辛いことがあったんだって、そういう事くらいしかわかんなくて。
…今、ようやく分かったんだ…何であんなこと言っていたのかってことを、さ」
「……………………………っ」
マルヴィナはテーブルの上で拳を固めていたが、だんだんとその込めた力を緩めていき、
最終的にまたすとんと腰を下ろしてしまった。
ますます分からなかった。聞くべきじゃなかったかもしれない、とまで思ってしまう。
「はい。…たぶんまだすごく熱いから、ちょっと冷ました方がいいかも」
チュランはゆっくりとマルヴィナの前に紅茶を置いた。
テーブルとカップがぶつかり、コン、と小さく音が鳴った。
「…一致しないんだ」
マルヴィナはカップの取っ手を握りながら、言った。
「みんなが見た師匠と、わたしが見た師匠——全然、違う天使に見えてならないんだ」
「でも、つながるよ」チュランは言った。
「マルヴィナを裏切ったこと——後悔しているのなら、あの言動だっておかしくない」
「でも」マルヴィナは吐き出すように続けた。
「それでも、認められないんだ。あんなことがあって——
それをいまさら後悔しているなんて言われたって、認められるはずがない!!」
食いしばられた歯、握られたままの右手、壊れそうな眸。苦しい。辛い。痛い。怖い。寂しい。
伝わってくる思い。声にならなくとも聞こえる叫び。
けれど、このままでいいはずがない。
「…じゃあさ」
チュランはマルヴィナの前に座った。顔を上げない彼女の前で、問う。
「マルヴィナは、どうしたいの?」
質問の意味が分からなくて、マルヴィナはのろのろと顔を上げた。
チュランは眼鏡越しに、しっかりとマルヴィナを見た。
「イザヤールさんのこと。信じたいの、信じたくないの」
…どうなのだろう。信じたいのだろうか。信じたく、ないのだろうか。
感情なんか入れるな。彼の行動を思い出せ。言動の意図を、探り出せ——…。
そこに、二人の思いの、真実がある。
「…わたしは」
マルヴィナは歯を歯に何度もぶつけながら、呟いた。
「わたしは———…」
紅茶の湯気が薄れてくる。マルヴィナは一口、喉に通す。
紅茶と共に言葉は飲み込まれてしまった。けれど、思いは流されない。
——信じたい。
たった一人の、弟子として。
「…答えは見えたみたいだね」
「………」マルヴィナは、後片付けを始めたチュランの背中を見た。
「…その。…ありがと」
「はいはい。紅茶くらい淹れ慣れてるんだから。ラフェット様の酔い覚ましには意外と効くんだよねーこれが」
マルヴィナは笑った。マルヴィナが紅茶のお礼を言ったわけじゃないと知っていながら
チュランはそう言ったのだ。
ラフェットが戻ってきた。心配そうにマルヴィナを見て——そして、きょとんと目をしばたたかせる。
「あ、ラフェット様。飲みます? いつもの」
笑う二人を見て、ラフェットは戸惑いながらもマルヴィナの様子に安心した。
- Re: ドラゴンクエストⅨ_永遠の記憶を、空に捧ぐ。【移転開始】 ( No.740 )
- 日時: 2013/01/24 22:13
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=24342
「正体?」
マイレナは問い返した。
シェナは頷いた。「貴女なら知っているのでしょう?」
「いやまぁ、知ってるっちゃあ知ってるけど。
こりゃウチが喋っちゃあいけないことだと思うんだよねーてか喋っちゃいけない。さすがのウチでもわかる」
「………………」シェナは黙りこんだ。「…気になるの。なんか…知っている気がするのよ。あの人のこと」
「何、それ? …もしかしてシェナってチェスの関係者の“記憶の子孫”?」
「…さすがにそこまでは分かんないわよ」
「てか、ずっと思ってたんスけど」セリアスだ。「その『チェス』っての、チェルスのことっスよね?」
「え? あぁ。そだよ。ウチらの愛称。——あれシェナどこ行くの?」
シェナは立ち上がった。真っ直ぐ、外に向かう。
「チェルスに会いに行くの」きっぱりと、言い切った。
「これから彼女に協力してもらうことは多いはず。だから——その上で、彼女のことを知っておきたいの。
彼女は何かを隠しているはず…何か、とてつもない何かを」
「……………………」マイレナは黙った。一度目を閉じて——「待った」それを止めた。
「…あんたの勘は正しいよ。アイツは簡単には言えない秘密を持っている。
けど、それを探るなら——あんた自身のことについて、知っておかなきゃなんないことがある」
間違いなく、本人は気づいていない、自分のこと。
先に、それを言わねばならない——…。
「…よく聞いときな。あんたは————————」
キルガとセリアスは、長老オムイに帰郷を報告した。
マルヴィナの行方を尋ねると、オムイは首を横に振った。
「今は、そっとしておいてあげなさい」
そう言って、マルヴィナに与えた情報と同じそれを彼らに話した。確かに平静でいられる話ではなかった。
彼のたった一人の弟子であるマルヴィナにとっては、特に。
彼らはオムイの言うことに従った。そして、チェルスを捜しに回った。
見つかるまでに時間はかからなかった。彼女は一階の外で、分厚い雲に覆われた空を見ていた。
三人が声をかける前に、チェルスは振り返り、何だ、と言ってまた背を向けた。
こちらは無意識に気配を消していたのに、バレバレだったらしい。相手は隙だらけだったと言うのに。
「…チェルス」
シェナは小さな声で、彼女を呼んだ。返事はない。
「聞いたよ…マルヴィナのこと」
「———」
「そして…私自身のことも」
“未世界”の霊であること。自分は、かつて捕まっていたガナン帝国で、死んでしまっていたということ。
「…貴女のことを知りたいの」シェナは続けた。
「貴女は何かとてつもないことを隠している。マルヴィナのためにも…それが知りたいの」
チェルスは応えなかった。何の表情もなかった。怒っても、焦ってもいなかった。
「マルヴィナが言っていたわ。貴女は強い、強いけれど、貴女の中には闇がある。
天使に対して、人間に対して、何か見えない闇を持っているって」
時々見せる、強い憎悪の眸。それを見るたびに、不安になる。
彼女は、共に戦ってくれる人なのだろうかと。
「貴女は隠しているんじゃない。話そうとしないんだわ」
それでもチェルスは、黙ったままだった。——先程より少しだけ、手に込める力は強くなっていたけれど。
そんなチェルスに、ついシェナは叫んだ。
「私は全部話したわ。ちゃんと、自分で覚悟を決めて!
みんなに隠し事なんか通用しないって、もともと必要ないって——」
シェナは拳を握りしめた。「ちゃんと、信じてくれるから」
しゅっ、と。風を鋭く切り裂く音がした。
「ッ!!」
シェナがはっとした時には、その腕に生じた痛みに蹲ることとなっていた。
切り裂かれた腕、大きな傷。短刀がシェナの後ろで音を立てて落ちた。
——チェルスがいつも持っている、シーブスナイフだった。
驚いてキルガが、チェルスに何かを叫ぼうとした。できなかった。
先ほどまで何の感情も抱いていなかっただろうその眸には、爛々と燃える怒りの焔が宿っていた。
「…随分お綺麗な言葉を言ってくれるな。だが生憎だ!
わたしはあんたらに話す気もないし、信じてもいない!」
「シェナっ」セリアスがシェナの肩に触れる。「シェナ、大丈夫か!?」
「…えぇ。何とか…」シェナは呟いて、キッと前を見た。
ゆっくりと、立ち上がりながら。しっかりと、対峙しながら。
「…そう。そうよね」呟いて。「だったら、こっちから言うしかない」
チェルスの眉が寄った。キルガとセリアスが、怪訝そうに見る——
目を閉じて。
静かに落ち着きながら。
シェナは、言った。
「貴女は、創造神グランゼニスが放った——
・・・・
人間を滅ぼすために存在した特別な天使のひとりでしょう」