二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 [ しずく様リク ] ( No.52 )
日時: 2011/07/31 18:46
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 24IJJfnz)



 ねっとりと、肌を這うように伝う汗が気持ち悪かった。早くシャワーを浴びよう、そう思い自室に着替えを取りに向かう。ユニホームは明日も使うんだから。スライディングやら何やらでドロドロに汚れたユニホームの襟元を掴み、パタパタと煽ぐ。微風だが、今はそんな涼しさが心地よい。ああ、今日も疲れたな……なんて軽く溜息を吐いてから、ドアノブに手を掛けガチャリ、と回した。
 が、そこにいたのは、

「……は?」

 金髪の美少女、なーんてことはなく。

「待ってたよ、蓮くん!」

 キャラバンで日本各地を回っていたあの頃以来、音沙汰も何も無かった少年——亜風炉照美の姿だった。



 これは一体、どういうことなのだろう。僕はちゃんと、鍵を閉めたはずなのに。さっきだって鍵を開けて家に入ってきたんだ。数秒間、たっぷり嬉々とした微笑を浮かべる彼を睨みつける。そんな憤りを冷まそうとするかのように部屋を吹き抜けた涼風——あれ? どうしてこの部屋、こんなに涼しいんだろう。夏にお世話になるエアコンの涼しさではない。ぱっと反射的に顔を上げれば、全開にされた窓の前で白いレース素材のカーテンがくるくると忙しなく踊っていた。なるほど——そういうことか。
 なるべく無表情を意識し、そのままくるりと踵を返す。そしてそのまま居間を目指した。

「ちょ、蓮くん?! どこに行くんだい?」
「……警察の電話番号って何だったっけ……」
「それなら『117』だったと思うよ……って蓮くん!?」

 その番号、確か時報だったと思うけどなあ。心の中で小さく突っ込みながら、電話を手に取る。あれ、そう言えば彼、僕を「蓮くん」なんて呼んでたっけ——そう遠くない記憶を呼び起こす。が、彼と交流した時間はそう長くはなかった為、はっきりとは思い出せない。諦めて、『110』をプッシュする。

「蓮くんストッォォォプッ! 待ってよ、はるばる会いに来たのに冷たすぎないかい?」
「……不法侵入侵されて笑って許せるほど、キミと僕は仲良くないだろ」
 一度切られてしまった電話。再度手に取ろうとしたが——アフロディに必死で阻止される。冷や汗だらだらのその表情は、せっかくの整った顔を台無しにしていた。
 躍起になって僕を部屋に連れ戻すアフロディ。訳が分からないまま連行されていくとベッドにぼす、と座らされた。僕の足元で正座する彼。僕、これからどうなるんだろう。ぼんやりと頭の片隅で考える。が、アフロディのきらきら輝く瞳に負けた。そして彼の口から飛び出した言葉に——脳がフリーズする。

「蓮くん、韓国で僕たちと一緒にサッカーをする気は無いかい?」

 アフロディとサッカー? わざわざ、韓国にまで行って?
 さまざまな疑問が脳内を占めるが、すぐに考え直す。きっとアフロディは、ふざけているだけなのだ、と。雷門中の皆に会いに来たのだろう、しかし、かなり久しい為なかなか雷門に行けず。そこで僕を通して雷門でサッカーをしに来たのだろう。本当、面倒な人だなあ。その程度のことなら——僕は薄く、笑って見せる。

「いいよ、なんなら今からでも行こうか」
「本当かい蓮くん!」

 アフロディは少し変わったやつだし。そんな同情心から放った、深い意味を持たない返答だった。
 ——そのはずだったのに。

「良かった……これで南雲と涼野も、ファイアードラゴンに引き抜ける」

 晴矢と風介も一緒なの?
 そう尋ねようと息を吸い——もっと重大なことに気づく。え、ちょっと……ふぁいあーどらごんって、何?
 僕はかなり困惑した表情をしていたらしく、アフロディははしゃぐのをやめ初めて真面目な顔を見せた。いきなりの展開にごくり、と唾を飲む。アフロディは一回、大きく息を吐くとゆっくりと口を開いた。

「蓮くん、キミは“フットボールフロンティアインターナショナル”を知っているかい?」

 少年サッカー全国大会——通称『FF』なら知っていた。けど、インターナショナルってどういう意味だろう? 国際的な大会ってこと? ……え、まさか。
 アフロディはにっこりと微笑むと「勘の良い蓮くんならわかるはずさ」と告げる。まさか、フットボールフロンティアインターナショナルって——少年サッカーの世界大会……?!
 唖然とする僕を尻目にアフロディは、べらべらと話を続ける。厖大な量の情報が、流れていくかのように頭に滑り込んでくる。

「通称『FFI』——少年サッカー世界大会は、各国の強豪たちが集まり、己のサッカーをぶつけ戦う大会だ。僕はその大会の頂点を目指すチーム、韓国代表『ファイアードラゴン』のメンバーに選ばれていてね。それで、南雲や涼野と同格のセンスを持っているキミを——白鳥蓮くんをスカウトに来たのさ」

 世界に挑戦できる、チャンス。
 あまりにも唐突過ぎる展開に翻弄されっぱなしだが、彼の言葉はひどく魅力的だった。もっともっと、世界が広がっていく。そしてやっと——晴矢や風介と共に、同じチームメイトとしてサッカーができるのだ。それは常々願い続けてきたことであり、三人で約束したことでもある。すごい、すごすぎる。こんなチャンス、滅多にない。いや、一生に一回あるか無いかだ。スカウトされるなんて——でも。

 [ しずく様リク/その2 ] ( No.53 )
日時: 2011/07/31 18:46
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 24IJJfnz)




「……残念だけど、僕は韓国に行けない」

 意外そうに首を傾げるアフロディ。でも、焦っているようには見えなかった。

「どうしてだい? 南雲も涼野も既にスカウト済みだ。蓮くんにとっては、良い話だと思うけど」

 あくまでも冷静な彼の口調に、自分の意思が否定された気がして。
 でも、だけど——僕は、僕にだって選択する権利はある。すうっと息を吸い込み、僕の意思を、覚悟を、アフロディにぶつける。

「二人と……もちろんキミともサッカーができるのは、充分魅力的だ。——でも、雷門のサッカーは楽しい。僕はサッカー部を、日本を、離れたくないんだよ」

 韓国は確か、北の果てにあったと思う。そんな遠い所に——しかも英語じゃ生活は不便そうだし——行ける覚悟は、今の僕にはない。それに日本にいれば、晴矢と風介とはいつだって会えるしね。それにしても、アフロディはどうして韓国代表なんだろう? もし日本も参加するのなら雷門中サッカー部の半分以上は声を掛けられているだろうし、選考会なんかが開催されるはずだ。アフロディと韓国、共通点が全く見当たらない。うーんと唸りこんだその時、部屋の戸がぱたんと開けられた。

「どういう事だ、アフロディ? 私たちは“蓮と共に戦える”と聴いてスカウトに応じたのだぞ?」
「……ったく、悪い冗談はよしてくれよ、蓮」

 相変わらずのふさふさ髪にチューリップのような赤毛、かつて敵対し、そして本当の絆を取り戻した彼らがそこにいた。
 どうしてこんなところに!? 心の中で絶叫し、有り得ない展開に恐怖する。二人が雷門に遊びに来るなんて連絡、貰っていない。というか、彼らとアフロディってこんなに仲が良かったっけ……。あの日の戦いでは、相当ボコボコにされていたはずだけど。

「いや〜ち、違うんだよ二人とも。蓮くんは、冗談を言うのが好きみたいだね!」
「何言ってるんだよアフロディ! だいいち、なぜキミが韓国の代表なん——」
「そんなことも知らないで代表入りしたのか?」

 怒り任せに吐き出した言葉を、風介に鼻で軽く笑われる。そんなこと言われても、僕はアフロディとそこまで深く関わった訳じゃないし、ふぁいあーどらごんとやらに代表入りした覚えもない。
 晴矢と風介は顔を見合わせ、にやにやと意味ありげな怪しい笑みを浮かべている。また僕をからかうネタができたと喜んでいるらしい……ああ、もう! そんな事どうでも……良くは無いな、うん。くすくすと小さな笑いを抑えきれていない風介に代わって、晴矢は堂々と僕の前に仁王立ちになり、にんまりと笑って見せる。……あれ、どうして晴矢の右手には冷蔵庫にしまってあるはずの麦茶が握られているんだろう?

「アフロディは、こんな容姿してるけど……——韓国人、なんだぜ! つまり、母国に帰ってサッカーをするってことだ」
 へえ、キミ韓国人だったんだ、金髪なのに。韓国人なんだね、韓国——う、そ。
「蓮くん、少し驚き過ぎじゃないかい? いくら僕が美しいヨーロッパの神のような姿をしているからって、そこまで驚かなくても良いじゃないか」
「……」

 [ しずく様リク完成/その3 ] ( No.54 )
日時: 2011/08/05 10:52
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: /qKJNsUt)




 しれっとどぎつい一言を放ち、ふわっと前髪を払うアフロディ。あ、なんかシャンプーのテレビCMとかに出演してそうだなー。目の前の状況をうまく呑込めない僕は、頭の片隅でぼんやりと考えた。そっか、この少年は、美少女って言っても誰も疑わないであろう亜風炉照美は、韓国人だったのかー。……怪しいでしょ、うん。

「……れ、蓮? どこに行くんだ?」
「いや、ちょっと警察に電話かけてくるから待——」
「蓮くん!?」

  やめてくれー離してよーと部屋の入り口で二人、取っ組み合いになり、じたばたともがいているうちに、ぼふっとベッドに押し倒されてしまった。(断じて、いやらしい意味じゃない……本当だよ!)ぐるりと反転した視界に、背中に広がる鈍い痛み。いまいち現状が理解できず、数回瞬きを繰り返す。しばらくして、ようやく正常な世界を臨めるようになった時——目の前には、二人がいた。覗きこまれているらしい。こんな状況になったわけも思い出せなくて、二人の柔らかい微笑を眺めながら記憶を捜索していた。

「蓮、オレは……オレたちはまた、アンタとサッカーできるって聴いて、すっげぇ嬉しかったんだ。蓮は違うのか?」

 あどけない幼児のように、首を傾げる晴矢。そうだったんだ。二人も、僕とサッカーできることを望んでくれていたんだ。同じ気持ちでいてくれたことに、ほっこりと胸が暖まる。

「さあ——私たちと共に目指そうではないか、世界の頂上を」

 どや顔で言い放ってくれた風介は、満足そうだった。……若干、顔が近すぎる気もするけど。そっか、そうなんだ。僕には素敵な仲間がついてる。せっかく世界一を目指すのなら……その時はキミたちとも勝負してみたいな、日本代表さん。
足を上げ、反動で起き上がると少し不安そうな二人に、にっこりと微笑んだ。

「わかった……三人でまた、サッカーやろう」

 ぱあっと晴れ渡る笑顔。釣られてまた、僕も笑み崩れる。二人の奥ではアフロディが、僕たちとはまた違った意味であろう安堵の笑みを浮かべていた。が、カチャカチャというガラスのぶつかる音が耳に届き、晴矢の手元を見遣る。……どうやら麦茶を注いでくれているらしいけど、その手つきが妙に慣れ過ぎていて違和感を覚えた。白鳥家をまるで我が家だとも言うように行動するなよ、晴矢。似合いすぎててなんか嫌だから。
 四つの透明なガラスコップには麦茶がなみなみと注がれた。全員が手に取ったところで、同時に四つの笑顔も揃う。

「では——ファイアードラゴン(仮)結成を祝って、乾杯!」

 どうしてお前が仕切るんだ、アフロディ。
 思いっきり突っ込みたかったものの、すでに喉には麦茶が注がれていて。ヒンヤリとした麦茶が喉を滑っていく、その心地よさと言ったら! ぷはぁ、と一気飲み。隣を見れば晴矢もがたん、と空になったコップを机に置いたところだった。さて、これからどうしようかな。両親に許可を貰わなきゃだし、今日は三人に帰って貰って、しばらくしてから韓国に旅経つことにしよう。韓国は何が有名だったかなーとグルメを次々と思い出しては、脳裏に鮮明に映し出す。
 まあ、三人もすぐには帰らないだろうから、久しぶりにサッカーやりたいなぁ——なんて暢気に考えられていたのも束の間、三人は一斉に立ち上がった。そして何故か、僕も立ち上がっていて。あれ、と両腕を見遣れば二人にがっちり挟まれていた。なるべく笑顔を保ったまま、「どういうこと?」と尋ねる。

「さあ、皆、蓮くんの到着を待ち侘びているんだ! 行くよ、韓国へ!」
「え……えぇぇ!?」

 ちょっと待ってよ! 北の果てに行くんだからコートとかマフラーとか防寒具の準備もあるし、雷門にも別れを告げなきゃなんだから、別に今日じゃなくても良いじゃないかーっ!
 確か、こう叫んでいたと思う。思う、って言うのもおかしな表現だけど実際、記憶が曖昧なのだから仕方がない。気づけば家を飛び出ていて、車に乗せられて、そのまま走り続けて——ふと周りを見渡せば、日本とは明らかに違う町並み。そして三人の満面の笑み。

「「「蓮(くん)、ようこそ韓国へ!」」」

 その時、本気で泣きたくなったことだけは覚えている。



 はあ、と大きなため息を吐き出せば、柔らかい笑みを返された。

「白鳥も大変だったんですね」
「まあ……ファイアードラゴンに来れたことは、後悔してないけど」

 むしろ感謝してるくらいさ。
 そう付け足せば、チャンスウは嬉しそうに微笑んだ。新しい仲間に出会えて、大親友とのサッカーも取り戻せて、本当に、心の底から感謝してる。けど、さ。たまに思うんだ。練習中とかふと、空を見上げた時とかにね。雷門の皆は元気かな、とか。両親、何してるんだろう、とか。そんな時、ちょっぴり寂しくなるんだけど、でも振り返るとファイアードラゴンの皆が馬鹿笑いしてて、楽しいなって思っちゃって。だから結局、彼らのことは恨めない。

「でも白鳥は、炎の龍を大空へ飛び立たせるための重要な一人なんです。今更、帰りたいなんて言わせませんよ」

 わかってる、そう返す気力さえ失せて静かに頷いた。嗚呼、チャンスウの視線に憐れみが含まれているのはきっと、気のせいだ。うん、そうだ。私は練習に戻ります、そんな声が頭上から降ってきて顔を上げれば、チャンスウの背中が見えた。うるっと、視界が潤む。ファイアードラゴンにチャンスウがいてくれて良かった——心の底からそう思い、ほっと溜息を吐いた時、チャンスウは「そうそう」と呟き振り返ると、

「これからも彼らの被害者になり続けるでしょうが……忘れないで下さいね、白鳥には私がついています」

 それだけです。
 ぽつりと呟き、立ち去るチャンスウの背中がやけに大きく見えた。そして、

「蓮! 必殺技の練習をしようぜ!」
「何を言い出すんだ、馬鹿チューリップ。蓮と練習するのは私が先だ」
「じゃあ、間を取って僕が——」
「「割り込むなこのナルシストめ!」」

 揺れる三つの影にまた、涙腺が緩んだ。


 何 こ の 長 っ た ら し さ !

お待たせしたうえにこのgdgd加減……本当に申し訳ないです、はい。
とりあえず3TOPには暴走して頂きましたが、個人的には蓮くんを振り回したりないです(こら

いつも語らせて頂いてありがとうございます!感謝の気持ちも込めて頑張りました!だから責めないで!←
リク有難う御座いました^^ 何かご指導頂ければ幸いですw