二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.1 )
日時: 2012/03/11 14:56
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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海姫「シンフォニー・アルト・セナ」
『700億ベリー』
(生け捕りのみ)



嘗て海の島と呼ばれた、
今は廃墟になっているこの忘れられた島。
其処にある灯台には、女が一人座っていた。
女の手には、1枚手配書が握られていた。

手配書に移るは、
深き蒼の髪、そして瞳。
まさにこの女だった。


「海、姫…か。」


鈴の様な高く、儚い声が、空に消えた。






     ONEPIECE -海姫-





麦わら帽子を被った海賊旗をつけた船が、
海に、ゆらりゆらり、と浮かんでいる。
中からは騒がしい音が聴こえてきた。


「メシーッ!」
「わーってるよ!ちったァ黙れ、クソゴム!」


麦わら帽子と目の下の傷が特徴なこの男は、
モンキー・D・ルフィ。
海賊王を夢見ている。
船長をあわせて、大きな夢を持つ9人の彼らは何時ものように騒がしくしていた。


「お、おい!何か流れて来るぞー!」


突然声を張り上げたのはウソップ。
ウソップの目線の先には、ガラスの様な透明な箱が流れて来ていた。


「ひきあげろーッ!」
「なんだコリャア!」
「よく見れば可愛いレディではねぇかー!」
「うるせぇ、ラブコック。」


その透明な箱の中には1人の女が眠っていた。
ナミもそれを覗きこむ。
顔をまじまじ見て目を見開いた。


「こ、この子!海姫じゃない!」
「「「「「海姫ェ?」」」」」



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.2 )
日時: 2012/03/11 14:57
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「お早う御座います。助けて頂いたのですね。
 それはそれは有難うございます。
 それではさようなr「待ちなさい!」…」


女をとりあえず医務室に寝かせて暫く立つと女は起きた。ナミによるとこの女はセナというらしい。何でも異例の額らしいが本当なのだろうか。
ナミは目をベリーにさせていた。
女はお礼を言い帰ろうとするがナミはそれを許さない。


「なんであんなところにいたの?」
「…貴方がたには関係ありません。
 私が何をしようと私の勝手じゃないですか。
 貴方が助けて下さった事に関しては感謝します」
「助けてあげたじゃない、それで許してあげるわ。言いなさい。」
「…礼をしろ、と仰るのですね。
 しかし私は助けてなど言っていない。
 助けたのは貴方がたが勝手にした事でしょう。
 …違いますか、泥棒猫様。」
「…!」
「それでも、と仰るのだなら、海王類を採ってきて差し上げます。何日分かの食糧にはなるでしょう。」
「……分ったわ、聞かないであげる。」
「話が分かるお方で。」


その女はにこり、と微笑んだ。
冷たい、口調と、瞳。どこか儚げで、悲しげで、放っておけない。
それが麦わら一味から女への第1印象。
女は容姿に似合わぬ、大きな蒼色の不思議な刀を持って、窓から飛び降りた。
海王類が、ちょうど頭を少しだけ出している。
それを見て船の手すりに立つと、刀を海に突き刺す。そしてひざまずいた。


「海狼変化、」


刀を海の中で回すと不思議な事に竜巻が起きる。
その周りには狼をかたどった水が暴れていて、
それは海王類に襲いかかった。


「ぐぉぉぉおおおおお!」
「…海狼・捕!」


海狼は、尻尾で波を立たせて、その波を女が空へ持ちあげる。
そして海王類を包み込んだ。
球体になった海の水(波)が海王類を包み、女は紙を球体に張り付けた。


「 捕! 」


そして刀は紙切れになった。


「お疲れ、水龍(スイリュウ)。」



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.3 )
日時: 2012/03/11 14:59
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)





一味は、魅入っていた。海の上で舞う姿に、魅了されたのだ。
アゲハのごとく飛び、狐のようにしなやかに動き、そして、舞うように刀を振り回す。
その度に揺れる、蒼。——美しい…!
誰もがそう思った。(チョッパー&ルフィ以外は)その姿はまさに…、海姫。


「……泥棒猫様、これでよろしいですか。」
「え、ええ…」
「それでは麦わらを始め、一味の方々。御世話になりました。それでは。」


呆気にとられる一味を尻目に、女は飛び立った。
それは、もう、美しく。蝶のように鳥の様に。悲しげに儚く。

  ・・
「…また…今度。麦わらの一味!」


この言葉の意味を、分かる者は誰もいない。
——また…今度
にこり、と笑う女の目は、決して笑っていなかった。
ルフィは、女が消えるまで、ずっと空の果てを見つめ続けていた。


「すっげー…」


ルフィの目は、輝きに満ちていた。



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.4 )
日時: 2012/03/11 15:00
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「………どう、思いますか?」
≪どう、と申されても、我には分らぬ。≫

女…いや、セナは海の上をセナと共に歩く狼に何かを問う。
狼の名は「ハク」。銀色の毛並みは、神々しく、その狼の瞳はセナと同じ蒼色だった。ハクは、「神狼」と呼ばれる狼の中で、神の位に立つ種だ。
そのハクを、ふわり、と撫でて海に飛び込んだ。
ウミウミの実能力者は、海に入ると、人魚になる事が出来る。そのせいか、海に入るとセナの下半身は、美しい鰭が出来ていた。


「…あの船長様は、ロジャーと似た雰囲気を纏っていらっしゃった」
≪うむ。それには我も同意しよう。あやつは、ロジャー殿と似ておる≫


セナは、ロジャーを思い浮かべる。
——ロジャーは、今まで出会った中で、一番自由でした。
そう考えて、また海を泳いだ。






  ***






「エドワード様、具合はどうですか?」
「グラララ!最高だ!」
「そうですか。それは、何より。…手を出して下さい。」
「何時もすまねぇな。」
「いえ。………癒水(ピュアウォーター)。」


セナは、白ひげ海賊団にいた。白ひげの、治療をしているのだ。
セナの能力の一つ、癒水は、人を癒やす事が出来る海水を出す事が出来る。
セナが能力を発動すると、ぽわ、と音がして、エメラルドグリーンに染まった綺麗な水が白ひげの周りを舞いはじめた。



「………どうですか、」
「グラララ、すげぇな!」
≪…笑ってばかりだな、御主。≫
「こら、ハク無礼ですよ。」
≪すまぬな。以後気をつける。≫
「グラララ!そうだ、うちの新しい息子を紹介しよう。」
「へえ、また増えたのですか。」
「エース!」
「…ああ、火拳ですね。」
「なんだぁ?オヤジ!」
「紹介してぇ奴がいる!セナだ。」
「……!海姫!!」
「…その名はやめて頂きたいです。なにしろ嫌いなもので。
 …初めまして、エース様。セナと申します。」
「あ、ああ……ご丁寧にどうも。エースです。」


セナは、ニコリと笑う。やはり、目は笑っていないが。
エースはセナを見つめる。
その蒼い目は、吸い込まれるかと錯覚するほど、深く、潤いに満ちていた。寂しげな、人だと思った。




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.5 )
日時: 2012/03/11 15:02
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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その日、セナは白ひげ海賊団に泊まることになった。
勿論その日は宴で。
しかし、宴の中には主役はいなかった。

ゆらり、ゆらり。船は、そんな効果音でもつきそうなくらい、ゆっくりと揺れている。敵戦も来ないとは、さすが白ひげ海賊団だ。
セナは、手すりに凭れかかり、海を眺めていた。その悲しげな瞳で。海は、ザザーン、と静かに波を立てている。エースは、飲み物を片手に、セナの隣に立った。


「……どうしたんですか?エース様。」
「、あんなァ。エース〝様〟ってのやめねぇ?」
「…それでは、何と呼べばよろしいのですか?」
「エース。」
「…え?」
「エースって、呼べよ。」
「…それは、無理です。」
「ッなんでだよ?」
「私は、これ以上、愛する人を作るのが、恐いのです。人はいずれ死んでしまうのに、私はそれを、ただ見守るだけ。私は、死ねないんです。
ずっと人は死んでいくのに、私だけ、何も変わらない。つまり、エースさんとこれ以上仲を深めていきたくないのです」


セナは絞り出すように声を出して、夜空を眺めた。
それを聞いて、エースは、黙った。
夜空には、流れ星。
エースは問う。


「……願い事は?」
「……………叶わない事は知っています。でも、この願い事だけは実を食べた後からずっと変わりません。






 ——願わくば、この身など、消えてしまいたい。」


涙が、セナの頬を流れた気がした。
エースは、セナと自分は似ていると思った。



生まれて来てよかったか、
そんな問いとは裏腹に、心の隅で生きたいと願う自分。

生きていたくなくて、
心の隅どころか、全力で死にたいと願う彼女。

逆。
自分と、彼女は逆。
でも、何処か、何故か似ていると思った。



「……私が、生まれてきた中で一番自由だと思う海賊がいました。」
「…それは、誰なんだ?」
「…君が一番、憎む海賊です。」
「!!……海、賊王……」
「…ゴール・D・エース。
 貴方の本当の名は、これですね?」
「…ああ。でもおれはアイツを父親だとは…」
「エースさん。惑わされては、駄目です。周りの人は、ロジャーの、君の、何を知っている?何も知らない彼らが言う非難の言葉等気にする必要が無いのです。貴方は、愛してくれている人々より、何も知らない彼らの言葉に惑わされるのですか?……生まれて来てはいけない人等、いないのです」


エースの目から、涙が零れた。
あの問いの答えを、聞けた気がした。
それと同時に、エースは、セナは自分より辛いものを背負っていると悟った。



「…有難う。」
「……こちらこそ、生まれて来てくれて有難う御座います。」
「!!!!…ああ!」


セナはニコリと笑って、用意された部屋に入っていった。




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.6 )
日時: 2012/03/11 15:03
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「…グラララ。相変わらず核心をつく女だ…!!」
「…オヤジ。聞いてたのか?」
「ああ。すまねぇな。」
「いや。……アイツ。…っおれに生まれて来て、有難うって………!」
「…そりゃあ、誰もがそう思ってらァ。てめえ等の中に生まれて来て悪い奴なんか一人もいねえ!」
「………ッ」


エースは静かに涙を拭う。
辺りは、もう、明るくなり始めていた。







***







「それでは、御世話になりました。」
「もう、行っちまうのか…!どうさ。おれの娘にならねェか!?」


白ひげがそう言った途端、他のクルーも、「そうだそうだ」といってセナを誘う。
しかしセナはペコリ、と頭を下げた。


「………すみません。私は、貴方の娘になれません。…それでは、また来ます。」
「グラララ!残念だ…!また来いよ!」


セナは指を、ぱちん、と鳴らす。
その途端、海水でかたどったイルカが現れ、セナを背中に乗せた。イルカはセナをのせて、遥か彼方へ消えていった。
エースは、ずっとそれを見ていた。




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.7 )
日時: 2012/03/11 15:04
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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今は、699年目。
700年目まで、あと約1年。


シーザ王国の西にある、名も無い村。
あの、嘗ては海の島と言われた廃墟がある国。
そこにある、海を見渡す事の出来る岬には言い伝えがある。


〝海の姫が700年目の夏を迎え、此の岬に立った時
 海は荒れ始め、高波が海の姫を攫ってゆく。〟


まさしく、ウミウミの実能力者の話。
7000年前から、伝わってきた。
という事は、ウミウミの実能力者が今までで約10名も死んだということだ。
セナは、11人目になるのだ。


「……あと1年だ。此の時をどれだけ待ちわびていました?海の姫でもなんでもいいから…早く、早く死にたくてたまらないです…!!」


セナは、もう1つの言い伝えを知らないのだ。
—〝海に攫われた姫は、暗い海の底で、ずっと生き続ける〟

セナは、…これからも死ぬことは無く、
海底でただただ涙するしかないのだ。


≪……落ちつけ、主。…電伝虫が鳴っておるぞ。≫
「………海軍からでしょう。……………海軍の電話等、取らないです。」
≪フッ……困った主だな。≫


セナの能力が欲しいのだ。
セナの能力を手に入れる事が出来れば、戦力等、何だって、手に入る。

—能力等、要らなかった。あのまま、死んでいたかった。海に気に入られたあの時から、私の歯車は狂ってしまった。

イルカは1人と1匹をのせて、次の島へ向かっていった。




.       (皆、私を見てくれない)

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.8 )
日時: 2012/03/11 15:05
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「ナナセ少将!海姫確認しました!」


島について早々、これだ。残念なことに此処の島は海軍がいました。という事でセナは少将から逃げています。
ナナセとかいう新人少将で、まだ23歳だとか。


「待てッ!海姫ーッッ!!!」
「待てと言われて待つ人等いるのでしょうか?馬鹿ですか。」
≪さあな。≫

「なッ!…ッまてェ……!化け物ォォ!不老不死だと!!?気持ち悪いんだよ!!それなのにこの素晴らしき海軍の元で使ってやるっつってんだから大人しくつかまれ!!!!」


セナは、ぴくり、と反応して立ち止まる。
少将はにや、と笑ってその肩をつかもうとした。


「…貴方みたいな人を少将にして…。海軍も腐ってますね。」
「!!!?」
「貴方は私の何を知っている?何も知らない癖にそんな口叩かないでください。」
「てめェッ…」
「使うですと?私が使われる身ならば貴方は何ですか偉そうに。」
「…ごちゃごちゃうるせえんだよ!捕まりやがれ!!!!」
「貴方、嫌いです。死んでください。」


セナは、覇気を発動させる。にやりと笑って指を鳴らした。
円い海水の球体が現れ、少将を包む。


「海空間……爆!!!!!」


球体は、少将とともに爆発した。
周りにいた海軍は、顔を真っ青にしてセナを見つめる。セナに返り血がつく。生温かい感触がして、セナは、はっ、と我に返った。


「……ッ…!また、…私……」
≪主。惑わされるな。早く行くぞ≫
「……ッハク……。…はい」



セナはハクと共に、町はずれの灯台へ来た。
誰もいないことを確認してハクを抱きしめた。


「……ッまただ…。」


セナは呟いた。
699年も生きているため、悪魔の実に潜む悪魔に洗脳され始めたのだ。つまり、長い期間、体内に悪魔がいる事によって、操られたり、理性が吹っ飛んだりするのだ。
セナは、それを何より嫌っていた。でも、今回は、不の感情を持ってしまったことも関係ある。



「……怖いです…ッ!私が私じゃ無くなるみたいで…!」



悪魔。
不老不死。

此の2つはセナを追い詰める原因になっているのだ。



「………ッうわああああああああッ!!!」




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.9 )
日時: 2012/03/11 15:06
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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セナの雄叫びは、町中に広がった。
息を肩でしながら、ただただ立ちすくむ。

—699歳。本当は死んでいなくてはならない存在。生きていてはいけない存在。

セナは、ゴホッゴホッ、と咳き込んだ。
手には、血が付いていた。


「……世界が、私を」


拒んでいますね。そう付け足してまた咳き込んだ。
人が100年生きるとしたら、私は599年前に死ぬべきだった人。なのに、私がずっと存在し続けるせいで、世界は私を拒み初めている。
それと共に、私の身体も、いくら不老不死といえど此処までの老化と、
悪魔が住み着いている事を拒んでいる。

雨など降っていないのに、地面が濡れた。
1つは、涙。
1つは、血。それは混ざり合い、いずれ消える。

全て変わっていくのに、
全て無くなっていくのに私は、変わらない。死なない。

私だけ、あの時のまま。


「……………願わくば、」


私は………。











***






エースは、考えていた。
セナは、色んなものをあの小さな背中に抱え込んでいるのだ。それを何とか取り除いてやりたいのに。
何も、出来なくて。エースは凄くもどかしかった。


「エース。悩み事かよい?」
「……マルコ。」
「ハハハ。あの元気は何処に置いてきたんだよい?」


エースの横に、マルコが座る。
そして、マルコはエースをぐしゃぐしゃっ、と撫でた。


「セナのことかよい?」
「!!!!」
「わかりやすいなァ。ウチの2番隊隊長さんは。」
「……なァ、どうすればいいと思う?…セナは、辛いものを1人で抱え込んでいるんだ。助けも求めずに。」

「……どうするかはお前が決める事だよい。エース。お前だって辛い思いをしたんだよい。そんなお前だからできる事があるんじゃねェのかい?お前のとりえは馬鹿みたいな笑顔だよい。笑え。お前がそんな辛気くせぇ面してたから皆心配してるぞい」

「…ああ!そうだよな!!ってゆうか馬鹿って何だ!」
「ああ。お前は馬鹿じゃねえな。お前と一緒にされちゃ馬と鹿が可哀想だ。」
「どういう意味だー!!!」


エースは笑顔を取り戻していた。




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.10 )
日時: 2012/03/11 15:08
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「なあ、オヤジ。次セナが来るのは何時だ?」
「グラララ!気になるのかセナが!」
「ち、ちがっ…、」


顔を少しばかり赤らめてエースは反論した。白ひげはグラグラと酒樽を片手に笑っている。
今いる場所は親父の部屋だ。


「そうだなァ、毎週2、3回来てくれているからなあ…。敢えて言うなら、…明後日くらいか?」
「…そうか!」


エースは顔を輝かせて身を乗り出す。我が子にも春が来たか、と白ひげは目を細めて微笑んだ。
白ひげはポケットから何かを取り出し、それをエースに投げた。エースはそれを受け取り、なんだなんだ、と手の中にある物を見る。


「…電伝虫?」
「あァ、それをやる。ちなみにセナの番号はこれだァ」
「!!!…オヤジ、有難う!!」


にぃっとエースは笑う。
白ひげは酒樽を傾け、どれだけはいってるか確かめると、ぐびぐびと一気に飲み干した。


「船長、そのへんでお酒は…」
「グラララ!何を言っているんだ!息子に春が来たというのに呑まないでいられるかァ!」
「お、オヤジ!?は、はは春って!!!?」


エースはまた顔を真っ赤に染めて部屋を逃げるように飛び出した。
背中に嬉しそうな、笑い声を聞いた。



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.11 )
日時: 2012/03/11 15:09
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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朝日が、昇り始める。きっと東の海は朝日が綺麗に見えるのだろうな、と思った。
セナは、その蒼い髪を靡かせて、遠くを見つめる。
朝日の光で、少しばかり金色を帯びたその瞳は何処か、何時もより寂しそうだった。


「ハク、起きて下さい。朝日がとても綺麗ですよ。」
≪…ん、…お早う、主。今日も起きるのが早いのだな。≫
「ええ、歳ですからね。朝起きてしまうのですよ」
≪主は不老不死だからまだ若いではないか。≫
「……中身は、老いてしまっているので。」


ハクと少し話をして、立つ。
するとハクは、朝日を見つめながら口を開いた。


≪朝日、か。あやつが好きだったな。≫
「…ええ。」


セナは一つの写真を取り出した。
そこには、幼いセナと、セナとよく似た顔をした幼い男の姿があった。


「ねえ、——セラ。」


辺りはもう、明るくなり始めていた。




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.12 )
日時: 2012/03/11 15:10
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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電伝虫が、鳴り響く。
鞄をゴソゴソと探って、電伝虫を取り出した。


「はい、セナですが。」
『セナ!!おれだ、おれ!』
「オレオレ詐欺ですか?…エースさん」
『ははっ!久しぶりだなあ!』
「昨日会いましたけどね」


電話の相手は、エース。
少し、セナの顔がゆるんだ。エースの明るい声を聞いて、安心したのだ。


「…で、何ですか?」
『え?…えっと、用はねえ!』
「…無いのに電話を?」
『そうだ!悪い、か…?』


だんだんエースの声が小さくなっているのに気づいて、セナは笑った。


「…ふふ、いいですよ。何時も私は暇ですから。」
『そ、そうか!よかった!』
「…よかった?…何故?」


「よかった」という言葉を聞いて、セナは首をかしげる。
なぜ、よかったのか。セナにはわからないのだ。


『そりゃあ、お前と話が出来て、だろ!』
「…私と…、話が、出来て…?」


セナは、俯いた。頬に、涙が流れた気がした。
でもすぐに顔をあげる。


「そうですか。私もエースさんと話が出来て、よかったです。」
『!!!、……それはよかった!じゃ、またな!』
「はい、また。」


電伝虫を鞄に入れた途端セナはその場に座り込む。複雑な、心境。
これでエースとまた仲良くなってしまった。


「…どうしよう。どうしようどうしよう…!」


記憶の断片は蘇る。
忘れたはずの、記憶が。




〝お姉ちゃん、逃げて!この牢屋から…逃げるんだ!
 おれは、大丈夫だから…!〟




そして、銃声。


「これ以上、愛しい人なんて、作りたくない…!」


あと、1年でこの世から離れる事は出来る。が、もし、離れられなかったら?生きていたら?
セナは、また愛しい人を。失ってしまうのだ。
涙こそ出ていないが、セナの顔は悲しそうに歪んでいた。



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.13 )
日時: 2012/03/11 15:11
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「海賊だァ!」


はっ、と我に返り、辺りを見回す。
面倒事には巻き込まれたくない、そう思って、ハクと共に海に飛び込もうとした。しかし、それは叶わず。


「へへへ…お前さん、海姫だろう?」
「!!…誰ですか」
「おれァ、1憶ベリーの賞金首、怪力のワスラだ!」


1憶。まだまだだな、と笑った。
舐めてもらっては困る。
セナは仮にも異例の700億ベリーの賞金首なのだから。


「離してください。」
「そりゃあできねえ相談だ。だってお前さんは…
 おれに売られる運命なんだからな!」


吐き気。
ああなんて気持ちの悪い笑顔。
ニタァ、と笑ったその顔はこの世のものとは思えない。


「汚い。触らないでください。」
「っ、何だと!!?」


男は、セナの腕をつかむ力を強くした。
離す気はさらさらないようだ。


「……離して下さい」
「ああ!?聞こえねえなあ!」
「…じゃあ声を大にして叫んであげます。……離せ、ゲス野郎!」


セナは、男の手を蹴りあげ、力がゆるくなった瞬間、男と距離を置く。
背後には、水柱。


「…海龍水柱!」


男に水柱は直撃。しかしそれだけで男がくたばる訳もなく、男は血を吐いてそこに立っていた。


「流石、だな。だが、おれはお前さんの上を行く男だああ!」


男は、近くにあった鉄の家を持ちあげ、こちらに投げる。
—怪力の、ワスラ。異名は、伊達じゃないようだ。


「…投鉄鋼!」



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.14 )
日時: 2012/03/11 15:12
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「…ちっ、……水龍銀斬!」


セナは舌打ちをして、刀である水龍を取り出す。そして銀の飛沫をあげて、鉄を切った。水が鉄を取り囲み、ワスラの横を凄い速さで通る。
ワスラはがたがたと震え、後ろを見た。そこには、鉄の残骸。ワスラは泡を吹いて倒れた。


「…気絶、しましたか。まったく最近の億越えルーキーは弱いようで。」


セナは微笑を浮かべて水龍を紙切れに戻した。
そして、その場を後にした。






***






セナは、海に出ていた。もうすぐ白ひげ海賊団に行かなくてはならない。
エースがいるから少しだけ気まずいが、そんな理由で白ひげを放っとくわけにはいかない。


≪…主、大丈夫か。少し疲れたのではないか?≫
「……ハク…。……そうですね。疲れたのかもしれません」


ずっと動かずに静かに考え込んでいたせいか、身体がだるい。
少しだけ横になった。


「あと、1年。あと1年で、全てが終わる———…」
≪……主、もう、…寝ろ。≫


瞼を、そっと閉じる。
このまま目覚めなければいいのに。



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.15 )
日時: 2012/03/11 15:14
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「———、」


遠くから、小さな小さな、声。
誰だろう、誰だろう


「おーい」


声はどんどん大きくなり、セナは遂に瞼を開けた。ゆっくりと横へ目を配る。
すると、海賊旗がみえた。骸骨と、交差した剣と、赤い3本の線が骸骨の目の所に。


「……赤髪、ですか。」


軽く溜息をついて、ハクを担ぎ赤髪の船に着地する。


「セナ!久しいな!」
「こんにちは、赤髪。」
「だっはっはっは、何時もかたいなお前は!」
「生憎誰とも慣れ合うつもりはないもので」


セナは冷たく言い放つ。すると赤髪は気を悪くするどころか豪快に笑ってセナの頭をガシガシ撫でた。


「正直な奴め!どうだ。今日は此処に泊まっていかないか?」
「すみませんが私は挨拶に来ただけなので。」
「冷たいなあ。そう言わずにさ。」


もう一度、すみません、と謝り、海に浮かぶ小船に飛び降りる。セナは海賊ではない。
むしろセナはごく普通の旅人だ。赤髪のところへ長居して海軍に海賊とみなされたら厄介である。


「さようなら。」
「次は仲間になれよ!」
「嫌です!」


セナは誰のものになる気もない。
ただの旅人のままで、いい。


「ハク、もう起きて下さいよ」


ふふっと乾いた笑みを見せて、
前を向いた。



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.16 )
日時: 2012/03/11 15:16
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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結局、白ひげ海賊団に着いたのは日が暮れた頃。そろそろエースのストライカーみたいなの作ろうかな。
人魚になって移動してもいいけど、人に見つかったら厄介だし。セナは、そう考えながら小船をモビー・ディック号にロープで括りつける。


「こんばんはー」


とびっきり大きな声で叫んで、甲板に着地した。
宴の最中なのだろうか、騒ぎ声が聴こえてくる。


「…前に来た時も宴してませんでしたっけ。」
「グラララ!まあ気にすんなセナ」
「…エドワード様。いたのですか。じゃあ、早速…」


セナが能力を使おうと腕まくりをすれば、白ひげは待てというように静止の声をあげた。


「今日はもう遅い。明日にしろォ!」
「…………でも、」
「大丈夫だァ!此処には海軍は来ねえ!」
「ああ、そうですね。そういえば」


此処は、無法海域なのだ。海軍は此処には来ないし、見向きもしない。
数多くの犯罪があり、もう抹消された海域。
海軍は何をやっているのか、それでいいのか、と肩を竦めて首を振る。まあその方がセナにとっては良いのだが。


「じゃあ、遠慮なく。宜しくお願いいたします」


セナは跪いて、お辞儀をする。
白ひげは、顔を上げろォ、と呟く。


「部屋は、…開いていないから、エースの所でいいだろう。」
「!……困りますね。私に恋愛感情を抱いている人を私と同室にするとは…。」
「グラララ!知っていたのか…そりゃあおめえタチが悪い。それも愛しい人を作りたくないから…だろう。………そろそろ、許してやればどうだ?自分を——」


その言葉はつまり、自分を許してやれよ、ということ。白ひげは目を細めて静かに笑う。


「………私は、一生私を許さない。」


セナの瞳が、一瞬寂しさを宿した。
でもすぐにセナは笑みを作る。


「…海の空間をつくってそこで寝ます。おやすみなさい。」
「………グラララ!」


セナは白ひげに背を向け、海の方へ歩み寄った。



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.17 )
日時: 2012/03/11 15:17
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「マルコぉ…其処にいるんだろォ?でてこい…」
「……オヤジ…。すまねえよい…。」
「いや、いいんだ…。」


何処からか、マルコが姿を現す。話を聞いていたのだ。白ひげは静かにセナが行った方を見つめる。
それに気付いて、マルコも同じ方へ向いた。


「…セナに、昔、何があったんだい…?」
「マルコ……珍しいなァ、人の過去を探るなんて…」
「……まあねい。気になったんだよい。」
「おれも少ししか知らねえ。あいつは簡単に心を許す奴じゃねえからなァ……。教えてくれもしねえ…」


あいつは、あの小せえ背中に、どんだけ大きいものを背負ってるんだろうなあ……と、白ひげは、消え入りそうな声で付け足す。
誰かに頼らず、独りでずっとセナは。


「悲しい女だ…」


白ひげの声は、一際大きいエース達の騒ぎ声で消された。






***






「え!?セナが来てたのか!?」

「なんだエース隊長。知らなかったのか?」
「ぎゃはははは!仕方ねえよ!隊長寝てたもんなあ!」
「つーか隊長どんだけ寝てんだよ!もう夕方だぞ!」


朝—…とは程遠い、夕方。エースは二番隊隊員と話していた。
そして話の中に出てきたのが「セナ」。今朝来てたのだが、エースが起きる数時間前に帰った。
エースは心底悔しそうな顔をしている。


「あーあ、セナが来てるって知ってたらなあ…」
「よく言うよ隊長!隊長は絶対知ってても二日酔いでなかなか起きられねえぜ!?まあ二日酔いじゃ無くても起きねえけどな!」
「うっせ!」


隊員の一人が言う。それにつられて、ほかの隊員達もそうだそうだと笑いだした。


「まあ、また近いうちに来るんだから寂しがんなって隊長!」
「はあっ!?寂しがってねえよ!」
「おれ達知ってんだぜー?隊長がセナちゃん好きだって!」
「…はああああ!?そ、そそそそそんなんじゃねえよ!」
「赤い顔で言われても説得力ねえし!どもりすぎっしょ隊長!」


エースはべえっ、と舌を出しながら反論する。
隊員はにやにやしながらエースを鹹かった。隊員とエースの騒ぎ声は料理長が飯の時間を告げるまで続いた。



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.18 )
日時: 2012/03/11 15:18
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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セナは、古の都に来ていた。サクラノと呼ばれるこの都には名前の通り桜が咲き乱れている。
皆綺麗に彩られた美しい着物を着ていた。自分も濃藍と、白銀色で彩られれた着物を何時も着ているのだが。
桜並木には黒耀石の様な髪と瞳をした人が沢山居る。


「此処は…とても綺麗で美しい所ですね…」
≪そうだな…。…む、主。ワショクと言う物があるらしいぞ。≫
「和食、ですね。噂では凄く美味しいとのことですが。食べに行きますか。折角来た事ですし。」


セナはふわり、と微笑むと、「御食事処「漣」」と書かれた店に入っていった。
中には、畳が敷いてありとても綺麗な桜も飾ってある。まさに「和」だ。
ハクは顔にこそださないが楽しそうだ。


「いらっしゃいませ、私はレイと申します。…2名様で?」
「…はい。」
「それでは、御食事なさる御部屋の方は…。」
「何でもいいです」
「当店では、桜ノ宮の間が一番人気ですわ。」
「じゃあ、それで。」


レイと名乗る女は黒い髪を左に束ね、紫苑色の着物を着ている。普通に美しいと思った。あまり着飾っていなくて、自然な美しさを持っている。
レイは、セナの手をとり、部屋へ案内する。ついた部屋には薄い桃色と、白色の桜が飾られており、人気と言われる意味もわからないでもない。




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.19 )
日時: 2012/03/11 15:19
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「…美しい、ところですね。」
「…!……そ、そうでしょう!」


 レイは、セナの言葉に対して、興奮したかのように目を輝かせ、ですよね!美しいですよね、と連呼する。
セナは、それに対して少し微笑むとレイの名を呼んだ。


「…レイさん…?」
「…あ、……す、すみません!つい……」
「いいですよ。興奮しちゃうくらい綺麗ですし…ね。でも、…活気が、ない。閑古鳥が鳴いていますね。…これ程綺麗なのに、如何してですか?」
「!……………っ」
「言いたくないなら別にいいですけど。」


目を、見据える。少しレイは怯えた顔をして、白い顔をもっと白くさせた。
レイの長い睫毛が、目に影を作る。それと同時に透明の雫。


「……此の、店は私の御母さんの店なんです…。数年前は、本当に活気が溢れていて……何時も賑わっていて…。でも…でも、あいつが…、あいつが全てを狂わせた!!」


ぽつんぽつんと言葉と共に雫は着物を伝い、堕ちて行く。
涙を流し震える体の持ち主は、嗚呼一体何を思う。


「この町に、海軍が、ある日来たんです。海軍本部少将…破壊のナガワという海軍です。…あいつは、権力を振りまき、この都の人間を奴隷にし、毎日暴力をふりました…!怖かった…!……でも、相手は少将。誰も立ち向かおうとはせずに、…ただただ……されるがままでいたんです…。しかし御母さんは…ナガワに戦いを挑んだ…。」






〝海軍…!それがあんた等の、することか!〟

〝何だァ?てめえ……。煩いんだよ…カスが…!〟

〝あたしたちに、幸せを返せ!!〟

〝何を言ってるんだ…?おれみたいな奴に使われて…幸せだろうが!
これが、お前たちの幸せなんだぜえ!!〟

〝ふざけるな!!これが幸せならば人はこんな恐怖に満ちた顔をしないんだ!あんたに怯える事も、無いんだ!〟




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.20 )
日時: 2012/03/11 15:20
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「……それで?」


少しの間黙ったレイに続きを言うように促す。
するとレイはその薄桜色の唇をゆっくりと開いた。


「御母さんはナガワの巨大な戦力には敵わなかった……。何とか生き延びたお母さんは店に戻って驚きました。……当たり前です。ナガワがこう言っていたのですから。」




〝こいつの店に行った者はァ!全員!地獄の極刑を言い渡す!!〟

〝なッ、…ナガワ!あんたっ……!あたしの店までも取るというのか…っ!〟

〝フハハハハ、おれ様に逆らったお前がいけねえんだろう!?〟

〝あんたらはどれだけのものを奪っていけば気が済む!!!〟

〝決まってるだろう…?てめえらが尽きるまでだ…〟




「御母さんは、その後ナガワに殺されました。反逆したから。此の店にお客様が来ないのも、…それが理由です。…私は…!あいつ等が憎い……!!お母さんの店を奪い…幸せを奪い…お母さんを、奪った!!」


少し感情的になったレイを抱きしめようと手をのばす。
吃驚したのかびくっと反応した。


「……………………………頑張ったね。」
「!!……ふっ、ぅう、………う、わあああああああああああん!」


声は、響き渡り、遥か彼方へと、静かに消える。
濃藍の悲しさが、襲った。



私、セナ。今日決めました。
海軍少将破壊のナガラを。


倒してやろうと思います。



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.21 )
日時: 2012/03/11 15:20
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「きみが……海軍少将…破壊のナガワですか?」
「あ?…てめえ…誰だ?見たことある顔だなあ…」
「それは光栄です。…ああ、当たり前か。きみ海軍ですからね。…はじめまして。海姫のシンフォニー・アルト・セナです。」
「!!!!…700億ベリー…!…てめえ…!何しに来た…!!」
「…ええ、ただ………きみを倒しに来ただけですけど」


薄桃色の唇は妖艶に弧を描く。海の様な深い蒼の瞳は相手をとらえた。
セナは一度膝をついてお辞儀をすると、すぐにすっと立ってナガワにもう一度微笑みかけた。目が笑っていなかったが。


「は、…笑わせる。此のナガワに……勝てるとでも!」
「はい。勝てますね。(どーん)」
「……!お前ごときが、此のナガワ様に敵うなんて思うなよ!」


ナガワは片手のグラスを握りつぶすと、地面を殴る。
するとそこから亀裂ができ、地面が割れた。


「破壊のナガワ……!全てを破壊する能力を持ったおれに!勝てるかな!?」
「能力者ですか。どうやら拳に力を溜めて破壊するようですね。超人系…でしょうか。」
「フハハハハハ…!!」



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.22 )
日時: 2012/03/11 15:22
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「…知っているか?おれは………最強だ。」
「へえ、そうですか。それは…………楽しみ、ですねえ」


互いに、黒い笑みを浮かべ、戦闘の準備をする。
セナは刀をナガワに向けると、一層笑みを濃くした。


「準備は、いいですか…?」
「…何の準備だ?……ふふ、ならば、おれも聞こう………準備はいいか…?」


「私に!殺される準備は!」
「おれに!殺される準備は!」


セナは地面を蹴り、襲いかかる。ナガワも同時に地面を蹴った。
ナガワは能力を使うため刀に拳を向ける。セナはそれに気づき刀を宙へ飛ばす。


「刀は…壊させませんよ?」
「ふふ……フハハハハ!怖いなあ、…お嬢さん」
「余裕でいられるのも今のうちです。…すぐに、朝日を二度と拝められない様にしてあげますから。」
「破壊鉄山!……おれは全てを破壊し……全てを、此の手に!」
「そうは、させませんけどね!……私は海姫。きみが全てを破壊するならば……私は全てを再生して見せる!癒水(ピュアウォーター)!」


セナはナガワが破壊したものを再生しつつ、落ちてきた刀を受け止める。
そして、刀に海の力を集めると、振り下ろした。それと同時に、紅。目を紅が占領する。


「ぐ、…っはあ、!……す、ごいじゃないか…。おれを、斬るとはなあ!でも、まだまだだ…!そうだろう?お嬢さん……」
「……ええ。そうですね。…まだきみは苦しまなきゃならない。…死なせてなんかやらない。きみは…………………極刑となり、地獄で苦しみながら、命尽きるのですよ…!!それがきみの償いとなる!!」
「…償い?そんなものしねえさ。…だっておれは、勝つんだからなあ」


肩に傷を追ったナガワはまた笑みを浮かべた。
嗚呼、吐き気がする。


「………世界政府直属国家機密超監獄「ディアボロス・プリズン」その名を、知っていますか…?」


世界政府直属国家機密超監獄。1億年の歴史があるそこは…インペルダウンよりも惨酷な監獄。1億年の歴史ありとも…、脱獄者侵入者一切無し!

此の監獄に向かうのは、死刑囚ではない…。無期懲役と言う名の刑を受けた囚人のみ。此処へ来た囚人は、天竜人と総帥、五老星の監視下のもと、奴隷とされるのだ。

その名を聞いたナガワはサアッと顔を青くさせる。それもそうだ。此処は本当の生き地獄…。インペルダウンとは比べ物にならないほどの、地獄なのだ。


「な、何故それを…!お前はただの、旅人で…」
「…ふふ、700年も生きていたら、自然に耳に入るものですよ…」
「………!!!!」
「政府から私はのどから手が出るほど欲しい存在……。きみなど、そんな政府の欲しい存在の私が頼めばいつでも、…監獄へほうりこめるのですよ。」



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.23 )
日時: 2012/03/11 15:25
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「……ッてんめえ……、!ふざんけんじゃねえよ…!!」
「……ふふ……あははははは…!ふざける…?ふざけてるのはきみじゃないですか。」


途端に冷たい声になったセナに、一層青い顔を見せてナガワは押し黙った。
セナは不気味に微笑んでいる。全てを、蝕む、黒。セナの心に其れを垣間見た。


「………ナガワ。……きみを監獄に届ける事を約束しましょう。」
「…!!うわあああああああ!やめてくれぇっ、やめろおおおお!」
「……無駄ですよ。きみは、罪を犯しすぎた……。そして、全ては遅すぎたんですよ。」
「う、うわああああああああああああああああああああ!!!」


ナガワは短剣を持って叫びながら襲いかかってくる。
セナはそれを見極め、さっ、と避けると刀を短剣に向かって振り上げた。


ガキィィィィィン!


刀は短剣を受け止める。


「おれは!!最強なんだあああああ!…………破壊、切断!!」


能力が発動されて、破壊の力が短剣に加わり、確実に力は強くなる。
セナはそれを冷静に見つめ、短剣を蹴りで壊した。


「……っんな馬鹿な……っこれはダイアモンドの剣!!世界で一番固い鉱物で出来た剣なのに……なぜ蹴りだけで…!」
「私は、海姫。なめて貰っちゃ、困りますね。海よ、荒れ狂う津波を巻き起こせ!!!」


セナが叫ぶと、すぐに遠くから津波が来る。
セナは他の住民や建物を水の空間(waterroom)で囲った。
いらぬ犠牲を増やさないために、標的のナガワだけ、狙う。


「…うわああああああああああああ!!!」






緋色の血は、蒼色の少女に降りかかり、やがて沁み込んでゆく。
血に濡れた少女。もうその瞳には希望など無い。




残ったのは、気絶したナガワと、ただ其れを見下ろすセナ。
その冷たい目は、少し哀しみの濃藍を帯びた。


「…………………海軍本部少将、破壊のナガワ…悪に染まるる貴様を…責任を持って監獄へ送り届けましょう。」


ハクにナガワを託して、水の空間(waterroom)を解く。ふわ、と水は海に還り、住民たちが何事かと家から出てきた。お騒がせしました、と苦笑いした後、遠くから着物姿の女が駆けて来るのが見えた。


「……っはあ、はあ………っ、セナ、さんっ……!大丈夫ですか…っ?わ、たし………セナさんが出ていった後、近所の人からセナさんがナガワと戦ってるって聞いて……っそれ、でナガワ、は…?」

「………倒したよ。」


レイは、息を切らしながらセナに問うた。
倒した、という一言を聞いた瞬間レイは崩れ落ちる。


「…………セナ、さんっ…!!!ありがとう…っ、本当にありがとう……っっ!!」


レイは涙を流していた。涙はやがて地面にしみを作る。其れを見たセナは、ふわりと笑った。


「………ふふ、ナガワが気に食わなかっただけですよ。」
「……!!………っ」
「今まで、頑張りましたね」
「……………うわああああああああああああああああああああ」


レイの声は、島中に響き渡る。
住民たちが微笑んで其れを見ていた。




Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.24 )
日時: 2012/03/11 15:27
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「も、もう行かれるんですか…?」
「え?ああ…、はい。もうログはたまりましたからね。」


記録指針を見せるセナに、レイは肩を落とす。
其れを見てセナは、ふふ、と笑った。


「………また、来ますよ。…必ず」
「っ!ほ、本当、ですか!?」
「はい。」
「じゃ、じゃあ……私と、友達になって下さいますか?」
「あれ?可笑しいな…。私達、もう友達でしょう?」
「!!!…はい!」
「…ふふ、また会いましょう。」


セナは、レイの頭をなでると、静かにイルカに飛び乗った。
レイが、何時までも後ろ姿を見ていた。




***




「次は、……夏島、シーアイランド……ですか。」


シーアイランド。とても有名な観光地。
瑞々しい南国フルーツと、綺麗な海でお馴染みだ。南国フルーツと言えば……白ひげ海賊団一番隊隊長の頭を思い出す。
笑いを堪えて、見えてきた島に心臓を弾ませた。


「アロハー!ようこそ、常夏の島、シーアイランドへ!」


上陸したら、すぐにナイスバディの女に話しかけられる。ブロンドヘアは、端正な顔立ちを引き立てている。
にこ、と笑い返して、町へとはいっていった。


どんっ、


突然、誰かとぶつかる。見れば、オレンジ色の女。これまたナイスバディだ。


「大丈夫ですか?すみません。」
「……え、ええ…、大丈夫よ……って貴方っ!」
「あ、…泥棒猫様じゃないですか。」


泥棒猫、ナミ。ああ、ぶつかったのはこの人か。


「海姫…っ」
「私は、セナですけれど」
「…じゃあ私の事もナミって呼んでくれない?」
「………ナミ、さん。」
「んー…まあいいわ、貴方も此処にいたのね。」
「はい。」


そう返すと、ナミはセナの手をとり、にっこり笑って言った。


「あ、じゃあ……私の船に来なさいよっ!この島にいる間だけ!」
「…でも、海軍…」
「大丈夫よっ!この島、海軍支部ないし」
「…………はあ、わかりましたよ」


ついに折れたセナはナミについて行った。






***





 メリー号。羊を象った船首は、微笑んでいるように見える。
大事にされているのですね、と笑った。


「あーっ!お前、……えーと……不思議な女!」
「………セナ、です。」


 ナミが連れてきたセナを見た途端、ルフィは叫び声をあげた。
しかし、名前が分からなかったらしい。セナは苦笑いした。暫く、メリーを見上げていると、ウソップが「早くこっちへ来いよ」とセナを、船へあがるように促す。
それを聞いてセナは、シャボン玉が弾けた様にハッとすると少しばかり慌てて船に乗った。


「前の戦闘見て思ったんだけどさー…お前強いんだなあ!」
「ああ、麗しきレディ。貴方の美しさには空を翔けるペガサスでも敵わない…」
「うるせえラブコック。てめえペガサス見たことあんのかよばーか」
「何だとぉ!??クソマリモ!」
「ふふ……久しいわね、…海姫さん」


 一斉にクルー達が話しかけて来る。
せめて、順番に話しかけて来て欲しいものだ。セナは、苦笑いを浮かべると、「こんにちは」と口を開いた。


「元気そうで、何より」
「苦笑いをするセナちゃんも綺麗だーッ」


サンジが、何時もの様に目をハートにさせながらセナの前に、美味しそうなコーヒーを出す。香りも良く、セナの長旅の疲れを思ってだろうか、砂糖とミルクはたっぷりで甘くしてあるのが分かる。


「有難うございます」


ふわ、とセナは微笑んでコーヒーを一口口にした。
——甘い。いやになるような、甘さではなく、上品な甘さ。


「…美味しい、です。サンジさん、有難う御座います。」
「それは良かった!」


コーヒーをごくごくと飲み干す。
もう一度お礼を言って、ロビン達の居る所へ向かった。




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.25 )
日時: 2012/03/11 15:30
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「あら、セナじゃなーい。一緒に海水浴しない?」
「ふふ、…きっと、楽しいわよ。」

「…え、でも私…」


セナは少しばかり躊躇ってしまった。
何故なら自分は、海に入れば人魚になってしまうのだから。


「………はい。しましょう。」


でも、折角誘ってくれたのだから。そう思って、水着を荷物の中から取ってくることにした。
水着は、深い蒼のビキニ。すぐに着替えて来て、海岸まで走った。


「きゃーっ!セナ可愛い!」
「似合ってるわよ。とっても」
「……有難う御座います。」


じゃ、早速泳ぎましょ!と、はしゃぐナミに、セナは微笑む。
後からルフィ達もやってきた。


「今から見る事は絶対に秘密にしてて下さい。」


セナは、そう言うと海の中にゆっくり体をつける。すると、下半身が魚になり、虹色に光り輝く鱗が出来た。
——人魚。それは、息をのむほど美しかった。蒼い髪は、水面でゆらゆらと揺らめいている。
ナミは水も滴るいい女って本当にいるんだな、と思って苦笑を浮かべる。。


「セナ!人魚って速いんだろ!おれと競争しよう!」
「……いいですけど、ルフィさん。負けますよ?」


セナに挑戦してきたルフィに、にやり、とセナは笑う。
よーい、どん!という合図に、セナは泳ぎ始めた。
結果は一目瞭然。セナの勝ち。
当たり前だ。ルフィは浮き輪で泳いでいる。それに能力者だ。それに対してセナは人魚。結果など、見えているも同じだ。


「くっそー…やっぱ速いな!」


ルフィは、にこにこ笑ってセナの背中をばしばし叩く。
セナは苦笑いして、砂浜へ戻るため、ルフィの浮き輪をおした。






***






暫く遊んで、船に戻る。
塩水によって、若干パサついた髪を洗い流そうと、女部屋に備え付けられた、シャワーを借りる。

花の香りの、シャンプーとトリートメントを手にとってプッシュした。
——ロビンの物だろうか。
隣には、オレンジの香りのシャンプーがあるから、きっとロビンのものだと思う。


「………ん、いい香りですね…。」


何の花かは分からないけれど、上品な香りでロビンに良く似合う。
今度から、このシャンプーにしようかと、ふふっと笑って、髪を洗い流した。

身体も洗って、シャワールームを出る。何時もの着物を着ず、おそらくナミの手によって用意された桃色のワンピースを着た。


「ロビンさん、シャンプー借りました。」
「出たのね。いいのよ、別に。……そのワンピース似合ってるわ。ナミちゃんと私で用意したのよ。」
「そうなんですか。有難う御座います。…でもこのワンピース、私には可愛すぎじゃありませんか?」
「あら、そんな事無いわよ。…可愛い。」
「……!ど、どうも…」


ロビンみたいな美人から、褒められると恥ずかしいのか、セナは、若干顔を赤らめる。


「……ふふ、…そうだ、明日ナミちゃんと私と、貴方で一緒にショッピングしない?」
「ショッピング、ですか。…ええ、行きましょう。」


少し頬を緩めて、笑う。
ロビンも笑った。


「メシだーッ!」


遠くから、声が聞こえて、キッチンまで向かった。






「今日は、前菜のオードブルと海王類の肉と野菜をふんだんに使ったスープに御座います。」


サンジの料理説明を軽く聞き流して、手を合わせる。
いただきます、と呟いてスプーンを手に取った。


「ん、美味しい。」
「その笑顔素敵だァ〜〜っ」


此の海王類の肉…、そう言えば今さっきウソップさん達が釣ってましたね。
ウソップにそう言うと、ふふんと笑って武勇伝を語り始めた。


「……で、チョッパーやルフィが驚いて立ちすくむ中、おれは勇敢に海王類にこう言ったんだ「おれの名は、キャプテーン・ウソップ。命が惜しければ、おれの言うことを聞け。」そう言うと海王類はおれの前に跪いたんだ。まあおれの威厳に怯えたんだな。それで…」
「ぽで、ほびへへへへほー?(おれ、怯えてねえぞー?)」


ルフィが喋るたびに、こちらに口の中の物がかかるからやめて欲しい。
相変わらず騒がしいところだな、と思った。




(全ては、ガラスケースに入っていた私を救ったのが始まり)

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.26 )
日時: 2012/03/11 15:32
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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歯車は廻り始めた。また全てを繰り返す。壊れたラジオの様に何度も何度も。何故人は、私は、全てを繰り返す。






「海姫を、渡せ!渡してくれたら…麦わらの一味、お前たちは逃がそう。」


吐き気がする。如何して此処までコイツ等は腐っている。

昨日の楽しかった時間が嘘の様だ。緊迫した空気が、張り詰める。

—海軍。セナを狙う海軍が遂に此処まで来てしまった。また、私のせいで皆が死ぬのだろうか。
冷汗が頬を伝った。


「セナは渡さねえ!帰れお前等!」
ルフィ。
「誰があんたらに渡すもんですか!」
ナミ。
「お、おお前らなんかにせ、セナは渡さねえぞ!」
ウソップ。
「レディを引きかえに、助かるだなんてこたァ…男が腐る!」
サンジ。
「ふふ、…海姫さんは渡せないわ。」
ロビン。
「てめえら命が惜しかったら、…今すぐ去ることを勧めるぜ」
ゾロ。
「セナは、渡さねえぞ!か、帰れお前らあ!」
チョッパー。


皆が、必死に海軍に反論している。襲いかかってくる海軍を蹴散らしている。どんどん皆が傷ついて行く。

私は、弱い。だから皆を守るために、此の世界の罪無き人を救うために。強くなったのに。


「結局、私は…何も守れない。」


短い時間だったけどまだ出会って1日とちょっとしか経ってないけど。
私には十分、皆の温かさが分かる。まだ愛しい人とまではいかないけど、大事、だ。

〝あの子〟に似た船長率いるこの、一味が。


「…待って、ください」


絞り出した声は、思ったより小さくて。


「待って、ください!!!」


やっと出た叫び声に皆が、私に注目する。時が止まったように皆の手が止まる。


「………もう、いいから。私、大人しく捕まります。」
「!!お、おい!セナ!!」
「ク、ククク…。それでいいのだ。さあ来い…海姫。」


それで皆が助かるなら私は喜んでこの身を捧げましょう。
大丈夫。私は死なない。
大丈夫。私は、また皆に会いに行く。


「……また、会いましょう。」
「!!!!」


わかってくれただろうか。私の言葉の意味を。
さようなら、じゃなくて、敢えて、また、という言葉を言ったのを。




.(濃藍の悲しさは全てを呑みこんで)

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.27 )
日時: 2012/03/11 15:33
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「…はい。海姫を無事捕まえる事が出来ました。…はい。それでは」


電伝虫を置く音がする。それ以外は何も聞こえず、酷く静かだ。
錠を着けられていて、身動きが出来ない。


「海姫、やぁっと捕まってくれたなあ…。これでおれは昇格だあ!」


にやにや、と口元を歪めて笑う此の男が、気持ち悪く思える。思わず眉を歪めて、舌打ちをした。
それが男の気に障ったらしく、蹴り飛ばされる。微かに口の中に、鉄の味がした。

まだ、だ。まだ、逃げて駄目。
今逃げたら、コイツ等はルフィさん達を捕まえる。

本来なら、海楼石など、海と同じものだから別に外せるのだけど、今外して逃げれば、麦わらの一味が危険なのはわかっていたから、敢えてまだ逃げない。


「ってめえ自分の立場が分かってんのか!?」
「………………………………………」
「何とか言えよ海姫エ!!」
「…っ准将!」
「チッ、………何だ。如何した」
「あ、あの報告が…っ。…火拳のエースが、何やら不審な動きを…っ」


火拳の、エース。…エース、さん?
薄く瞼を開いて、聞き耳を立てる。


「行く町々の人に、黒ひげ……つまりは、マーシャル・D・ティーチの行方を聞いているようです!!そして、別の報告では………」
「………!!」


マーシャル、…D…ティーチ………?
確か、彼は。白ひげ海賊団の2番隊隊員。
何故、エースはティーチを追っている?……黒ひげとは何なのだろうか。


「……まさか、」


小さく呟いて、ぎゅっと目を閉じる。信じたくない。
でも、それしか考えられない。セナは海楼石を素早く解いて、近くに在った誰かの刀を取り、海軍の1人に向ける。


「……!??海姫!?貴様…ッ!」
「話せ!別の報告とは何ですか!」
「…………し、白ひげ海賊団の…4番隊隊長が、……死んだと」


ああ、全ての手掛かりはそろった。サッチは死んだ。おそらくティーチが殺した。エースがそれを追った。
おそらくそういうことだろう。刀を、置いて、へたり込んだ。


「…………っ」


何時の日か、〝あの子〟は言った。


〝きっと、何百年後に、…大きな戦いが起きるよ。大事なものを、かけての、大きな戦いが。〟


きっと、きっと。あの子が言った大きな戦いの、前兆。
パズルは着々と組みたてられている。

密かに声を噛み殺して、泣いた。



闇に対抗するには太陽は弱すぎる。




.   闇に呑みこまれる哀れな光

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.28 )
日時: 2012/03/11 15:35
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

.



「う…海姫が…ッ…逃げたあああ!」


暫く待って、ルフィ達は、もう大丈夫だな、と言うところまで進んだ。
何としてでも、エースを止めなければならない。
セナは、船から飛び降りると、海に飛び込んだ。
あれほど人魚になるのを否定してたけれど、今はそんな事言ってられない。移動手段では、遊泳速度が一番早い人魚の方が有利なのだ。

ぐん、と暗い底まで潜って、なるべく見つからないようにする。見つかっては今までの行動が台無しだ。


銀の泡(あぶく)が口の中から、ごぽ、と次々と出て来る。
どんどん冷たくなる自分の身体に構わず、ただ泳いだ。







どれくらい経っただろうか。

やっと海面に小さな乗り物が滲んで見えた。すぐに顔を乗り物の海面から出して、辺りを見回した。
此処は、確か、…トルーノ島。情報調達には便利な島。

横に在る乗り物を見ると、思った通り、ストライカーだった。


「………誰だ?」


ふいに声がして、顔を上げる。其処には、資料らしきものを持ったエースが居た。


「………っエース、さん…!」
「え、は、……セナ?何で此処に……」
「…貴方を、追ってきました。」
「…?」
「私も一緒に、連れていって。」
「…は」
「多分貴方は、ティーチさん……否、黒ひげを追うのをやめて、と言ってもやめないだろうから。……せめて私を。」


誰よりも仲間を失うことが嫌いで、誰よりも責任を持っているエース。
仲間ではないけれど、それはセナも同じ。
けれど、エースはセナを好いているから。だからこそ、きっと、断る。


「駄目だ。」


ほら、ね。知っていたよ。その答えを。
セナは、ふっと笑って浜辺へ向かう。段々、鰭は無くなり、人間の姿に戻った。


「……仲間でも無いお前を、連れていけない。…お前は、関係無いだろ?」
「…それでも、私はきみが、きみ達が、大事だから。」
「!!……っ駄目だ!」


きみは、優しいから断るって知ってる。
だけど、今だけは、私の願いを。


「………私には、大事な人が出来すぎた。
 だから、その分皆を守らなければいけない。だから。」




「………お願い。」


エースは、小さく舌打ちをすると、「…死ぬんじゃねえぞ」と呟いた。
「はい」と言ったけれど、嘘だよ。…馬鹿だね。エースさんは。


季節は巡る。もうすぐ、夏が来るよ。700年目の、夏が。




. (最後の、夏が来る。向日葵を今年も見れるだろうか)

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.29 )
日時: 2012/03/11 15:36
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

.



—戦いの町、ルシファー島


ルシファー島は大きな地震のせいで避け、2つの島が出来た。2つは互いに嫌っていて、何時も戦っている。
理由は、宗教の違いからだそうだ。片方は、ルフシー教、もう片方はファシー教。どちらが正しいか。
詰まらない理由だ、と唇を歪めて笑う。


「噂には聞いてましたけど、凄いですねー…」
「ああ。危険だから、気を付けろよ」
「大丈夫ですよ。伊達に賞金首やってませんし、エースさんが居るでしょう?」
「あのなー…」


エースは、帽子を深く被る。耳が赤いのが見えた。あら、と思ってまた笑う。


「じゃ、セナは食料探せ。おれは、情報を集める。」
「はい。…そう言えば、ログは?」
「ああ、…5時間だ。さっさと済まさねえと。だから—…」


ちら、と時計を見る。——朝の10時。15時に集合と言うわけだ。
わかった、と言うようにこくりと頷くと、其々の道に歩み始めた。
食料を買うお金は無いから、山に。でも、山を見て、溜息をつく。山は焼け野原になっていた。


「……食料どうしましょう」
「主。此処に居たのか」


突然後ろから声が聴こえて振り返る。——ハクだ。


「ナガワを海軍へ届けて来た。勿論、世界政府直属国家機密超監獄ディアボロス・プリズンに収容されるそうだ。」
「御苦労さまです。」
「…我が居ない間に色々在ったのだな。…まさかエース殿と行動を共にしているとは。」
「…ハク。世界が歪みはじめている。戦争の始まりを知らせる、メロディーが、もうすぐ流れる」


ハクは、…そうか、とだけ答えて私の足に顔を押しつけた。




.(きっと戦争が終わるころに、夏が来る)

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.30 )
日時: 2012/03/11 15:39
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

.



——で、食料を如何するか。


 山は燃えているのだから、勿論食料も燃えている筈。
ならば、如何するか。食料が無ければ、エースが生きていけない。エースは、大食漢だから。
だから、海に潜って食料を取ることにした。其れをハクに頼んで、私は情報収集をしようと町へ足を踏み入れる。町の中でも戦っている奴等が多いが関わっては駄目だ、と見て見ぬふりをした。


「うわあああッ!」


 悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。——男の声?
如何したのか、と思って急いで駆け付ける。其処には、男に人質にされている青年の姿が在った。整った顔立ちをしていて、なかなか格好いい。


「おうおう、黙れよ男ォ。妙な真似ししたりしたらこいつの首、飛ぶぜえ?」


何と卑怯な。セナは、舌打ちをして、覇気を放出した。
覇気は、空気に溶け込むように、静かに周りの人を気絶させる。
幸い、青年は倒れていない。——ちゃんと、コントロールできたようで。そう思って、微笑を浮かべた。


「…大丈夫ですか?」
「………!!…あんたが助けてくれたんですか?有難う。おれはクラウドです。」
「私はセナです。宜しくお願いします」


クラウドは、セナを見た瞬間顔を赤らめる。
そしてセナが短く自己紹介すると、クラウドは驚きながらも、また少し顔を赤らめて、「…あんた海姫なんですね」と呟いた。


「御礼におれの店来てください。ご飯は美味しいし、しかも情報屋だから、ウチ。何でも聞いてください」
「…情報屋、ですか…。良いでしょう、行きましょう」
「そう?じゃあ行きましょう」


クラウドは、またにっこりと笑うと、セナの前を歩きはじめる。
セナもそれに着いて行った。





「此処が、おれの店です。…ただいま帰りました、父上!」
「……御邪魔します」


クラウドが入っていったのは、とんでもないところだった。表札には、「ラスディーズ一家」と大きく書かれている。
—ラスディーズとは、世界で上位に入るほどの財閥ではないか。

店自体がとても大きく、ワノ国を思わせるかのような日本風の御屋敷だ。

そういえば、聞いたことがある。
ラスディーズ・クラウド。ラスディーズ財閥の跡取りだという。


「……おお、クラウド。そちらの御方は御客様か?」
「ええ、そうです父上。私を助けて下さったんです。それで礼をと…」
「何と!それは感謝するぞ。そなたの名は何と言う?」
「………セナです。」
「…!海姫か!…おい皆の者!こちらの方に食事を用意するのだ!」


父上、とクラウドに呼ばれた厳つい着物を着ている男は、皆に大きな声で命令をする。
クラウドは性格が変わったかのように男にぺこぺこと頭を下げている。
「おれ」、という一人称も、「私」に変わっている。


「クラウド、そなたも食事を作らぬか!」
「あっ、は、はいッ。すみませぬ!仰せのままに!」
「速く行け!……………ところで、セナ殿。……本当に有難う。クラウドを助けてくれて…。あやつはバカ息子で、弱っちいが……優しい子だろう?」
「…………ええ。」


セナは、笑う。男は、見た目より息子想いの様だ。


「ああ、そうだ。私の自己紹介が遅れてしまったな。私は、ラスディーズ・ハウバード。宜しく頼むぞ」
「…ラスディーズ様、こちらも宜しく頼みます。」

「父上ッ、御食事が出来ましたゆえ持って参りました!」
「おお、それではセナ殿!こちらへ腰をおろして下さいませ」


言われたとおり腰を下ろすと、此の、純和風の屋敷に似合わない、洋食の数々が並んでいた。


「召し上がって下さい!」
「…いただきます」


近くに在ったスープを1口食べる。お野菜が、ふわりと口の中でとろける。

—サンジくんや、サッチさんの料理と同じくらい美味しいかもしれない。


「…おいしいです」
「…!あ、りがとうございます」


クラウドさんが作ったのか。セナが、ふわりと笑みを見せると、クラウドは顔を赤らめて伏せた。
そうしてる間にも、セナはどんどん食べ進め、あっ、と言う間に食べてしまった。
——うん、美味しかった満足だ。セナは「御馳走様」と手を合わすと席を立った。


「…値段はどれくらいですか」
「……っそんな!いらないです!」
「でも、…」
「セナさんは私を助けてくれたじゃないですか…っ」
「大したことはしていません。」
「駄目です!お金はもらえませぬ!」


セナは頑固なクラウドに、「あ、そうだ」と何か閃いた様子を見せる。
そして、自らのポケットから何かを取り出した。
——ペンダントだった。シルバーアクセサリーとは言え、ちょっとしたところに、金やプラチナ、さらには宝石が散りばめられていて、価値が高いことが分かる。


「これを。…私は要らないので。…せめてもの礼です。」
「…あ、りがとうございます…」


クラウドは顔を赤らめてペンダントを手に取る。
セナはそれを見て、ふっと笑うとハウバードに向き直った。


「ああ、そういえば黒ひげを見ていませんか?」
「黒ひげ?…すまぬが見ておらぬな…。情報屋とはいえ、そういった情報は来ておらぬもので…。すまぬな」
「いえ。美味しい食事を有難う御座いました。」


セナは、店を出ていった。
クラウドの顔の赤みは、まだ引かなかった。


(おれ、一目惚れ、したみたいです。)



.

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.31 )
日時: 2012/03/11 15:40
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

.



「…で、そっちはどうです?」
「いんや、全然だ。」


エースと途中で合流して、お互いの情報を言い合う。
しかし、やはり情報など集められなかったようで、セナもエースも、ともにがっかりしたような表情を見せる。


「仕方ありませんね…。ログもたまったようですし、次の島に行きましょうか。」
「あ、ああ……そうだな」


セナは、ストライカーを止めて在る場所に行こうと足を進めようとする。しかし、その瞬間、自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がして、足を止めた。


「セナさーん!」
「……?クラウド、さん?」


クラウドが、手を振ってこちらへ走ってくる。エースは、誰だそれ、と言いたそうな顔をするが、それを無視してクラウドの方へ歩いた。


「如何したんですか?」
「…はあ、はあ…っ良かった、まだ行ってなかった…っ、セナさん、これ忘れ物です…っ」
「…?…これは…私の上着、ですか」


上着。そういえば暑くて店で脱いだんでしたっけ。そう呟いて、クラウドに頭を下げた。


「有難う御座います」にこ、
「…………!!〜〜〜っ」


微笑んで見せると、クラウドはしゃがみ込み声にならない声を発した。
どうしたものか、とセナはクラウドの顔を覗き込む。
しかしクラウドは頑なに顔を見せようとしない。


「ああ〜!もう、ずるいです!!」
「……………っえ?」
「わからないならいいです!」
「…?有難う、私、もう行きますね」
「……あ、ちょっと…ッ!もうちょっとだけ此処に、居て下さいよ!」
「………はい?」
「お願いします!」


クラウドは突然立ち上がったかと思うと、セナにそんな頼みごとをする。
セナは困った顔をして、エースをちら、と見ると、エースは不貞腐れたような顔をして、べーっ、と舌を出した。


「………、あ、…いいです、けど。」
「本当ですかっ!?有難うございます!」


クラウドは、にこにこと笑うと、あとで店に来て下さい、とセナに言って帰っていった。


「…誰だよ、あいつ。」
「はい?…あ、そういえばエースさんは知りませんでしたね。クラウドさんと言うのですよ。とても美味しい御飯を作ってくれました。…あとで一緒に行きましょう?」
「………ッ行かねえ!用事が出来たっ!またな!!」


エースは、近くの石を蹴ると、すぐに駆けていった。


「……?、行ってみましょうか…」


すれ違う気持ち。
2人は互いに背を向けて、互いに違う方に進んでいった。



(すれ違う気持ち。反対の2人はまるで唐紅と濃紺のようで)

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.32 )
日時: 2012/03/11 15:42
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「お主………クラウドと結婚してくれ」
「……はい?」


それは、世界が赤色に染まり始めた、夕刻の事。先に待っていたクラウドに、手を引かれてまた店に入った。
そして、言われた言葉がこれだ。クラウドは、顔を紅潮させて、少し熱っぽい瞳でセナを見つめる。


「……どういう、ことでしょうか」
「そのままだろう。…クラウドと結婚して欲しいのだよ、きみに」
「何故に…?」
「クラウドはお主を好いておるようだ。それに……お主なら、私も嬉しい。」


ハウバードはにやりと唇をゆがめ、セナを見据えた。



「すみませんが…」
「お主に拒否権は無いぞ。ふふ、こちらは黒ひげの情報を……しかも、とても重要な情報をつかんだのだよ。…教えて欲しくは無いか?」

「…卑怯ですね、流石はハウバード様。でも、無理です」
「ふふ、ふはははは!相も変わらずサバサバした女だ!
 ………だが、此の情報は火拳のためになるのだぞ?」
「…!……っちっ」


エースと行動していることを知られていたか…っ!流石情報界の王といわれる男、—地獄耳のハウバード…!
セナは舌打ちをして、少しハウバードと距離を取る。


「どれだけいわれようとも、私は…ッ!」
「、いいのか…?」
「!!……私は、…私は!!」


次の言葉が出てこない。重要な、情報?
それがあればエースさんは守れるのだろうか。
戦争から逃れられるのだろうか。


〝揺らいでは、駄目。〟


うん。そうだね。揺らいじゃダメだ。私は、エースを守ると決めたのだから。
それが危険な道だとしても。
遠回りだとしても。

にや、と笑う。


「私は……」








「クラウドさんと結婚はできない」
「当たり前だ、誰が結婚させるかよバーカ」



私は、エースの〝隣〟でエースを守ると決めたから。







「何求婚されてんだ馬鹿セナ」
「私は馬鹿じゃありません、エースさん。……覗き見とは趣味が悪いですね」
「なっ、…テメー気づいて…っ」


セナは、にやりと笑ってエースを見る。
気づいていた。エースが覗き見をしていることを。
クラウドは気づいてなかったようで、あんぐりと口を開けている。


「ひ、火拳!貴様、情報が欲しくないのか!?」
「いらねえよ。セナをとられるくらいならな。行くぞ、セナ。」


エースは、ハウバードの誘いをさらりと断ると、セナの手を引いて窓から逃げようとする。
するとクラウドがセナのもう片方の手を引いて、


「待って下さいよ!セナさんっ…!」
「クラウドさん……」
「わたしは……っ、いえ、おれはセナさんが好きなんです…っ!」


——叫んだ。ハウバードの前だというのに、一人称を「おれ」と言いなおすクラウド。
其れほど想いが強いことが良くわかって、セナは悲しそうな顔をする。
エースも——セナを好いてる身なためその気持ちがよくわかるのだろう——顔を顰めた。


「……私に捕われていたら、駄目。忘れて、私を。」

「………ッ!でも、でもっ…本当に、好きなんです…っどうしようもないほどに、泣きたいくらいに…っセナさんと居た時間は、短いけれどそれでも、大好きなんです…」


クラウドさんは、目に涙をためてセナを引きとめる。
セナはさらに悲しそうな顔をすると、柔くクラウドの手を握り返した。


「……私はクラウドさんを、———愛せない」
「………っっ!!?」


ごめんなさい、そう呟いてセナはクラウドの手を解いて、…エースと共に窓から逃げた。


「………っ追え!海姫と、火拳を追えぇぇぇ!」
「…父上………、」
「なんだ!?すぐに海姫はつかまえるぞ!」
「もう、いいです。」
「………何故ゆえに?」


「おれは、〝火拳のエース〟という人には、敵わない」


2人は、恋愛感情ではないけどお互いに大切な人なんだと、痛いほどわかる。(まあエースさんは恋愛感情みたいだけど)

おれはきっと2人の中に入ることはできないから




.

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.33 )
日時: 2012/03/11 15:43
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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ストライカーまで、手を引かれて走る。
揺れる黒髪と、背中一面に掘られた白ひげ海賊団のマークを視界にとらえて、ただ走った。

暫くは知ってゆくうちにストライカーを停めて在る場所までたどりつき、セナはエースを見上げた。


「エースさん、…有難う御座いました」
「まったくだぜ。何求婚されてんだし」


エースさんは、形のよい唇を歪めて弧を描く。セナも頬を少しだけ緩めて、ストライカーに乗り込む。


「さあ、行きましょう。ログはとっくに溜まっているでしょう?」
「ああ。……その前に」
「………………!」


セナは、エースにふわりと抱きしめられる。
吃驚して、目を見開いた。ぎゅうっ、首に顔を埋めるエースの背中に遠慮がちに手をのばす。


「おまえが、クラウドっつー奴と何処かに行っちまうのかと思って、
 …心臓止まりそうになった」

「!………ふふ、私は何処にも行きませんよ。」


エースはさらに、ぎゅううっとセナを抱きしめた。

その行為に恋愛感情など、無い。
ただ、
ただ、


純粋に。



.

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.34 )
日時: 2012/03/11 15:44
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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眼がさめれば、辺りはまだ暗くて。
時計を見るとまだ深夜だと分り、ベッドへ戻る。


ルシファー島をでて、此の島へ来た。
宿をとり、休んでいる途中だった。


「………夢、?」


そして私は夢を見た。
とても懐かしくて、幸せで………でも、でも


突然不幸は訪れたんだ。





私の島は、蒼ノ国(アオノクニ)といわれる島だった。
海が、世界で一番果てしなく蒼く綺麗だからだ。


元、海の島。


ある男のせいで蒼ノ国は深海に沈んだ。
あの海の島と言われる廃墟は、蒼ノ国の残骸だ。



「蒼狩り」



あの時、世界一番の権力を持っていた男の命令で蒼ノ国の人々が、殺されたり、奴隷にされたのだ。

それを、今は「蒼狩り」という。
蒼狩りという事件は、歴史から抹消されたのだが。

私と——あの子も、その被害に在った。



〝きみらは殺さないであげる。…そのかわり永久にぼくに仕えて〟



幸い殺されはしなかった。だけど残された道は、奴隷しかなかった。



〝ね、きみらの名前は?〟



〝私は、…シンフォニー・アルト・セナです〟
     
            ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
〝おれは、………シンフォニー・アルト・セラ〟





—————セナの、弟。







***






——こんこん、



ドアを叩く音が、静かな闇にすうっと消えゆく。はっとして、目を覚ました。
——今のも、夢?茫然としていると、またノックする音が聞こえる。
それを耳にとらえて、泣きはらした目を裾で拭うと、ドアを開けた。


そこにいたのは、エースで。


「どうしたんですか?」
「………泣いたのか?」
「え?そんなわけ………」


—ないじゃありませんかその言葉が、唇からこぼれる事は無く。
エースがセナを抱きしめて部屋に入る。


「…エース、さん?」
「おまえが、泣いてる気がした。」


一気に世界が色付く。エースは深刻そうな顔をしていて。


「……ふふ、馬鹿ですね」


本当、あの子みたいだ。
——あの子
——私の、愛しい弟。


「私の昔話を、しましょうか。」


あの子に似た弟をもつ、エースさんに。


ただ、
聞いて欲しい。






.

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.35 )
日時: 2012/03/11 15:46
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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—700年前




奴隷にされて、2年たったある日。



奴隷としてもらう仕事はどれも過酷なものばかりで、
唯一の幸せは、弟——セラ——の顔を見れる事だけだった。


「お姉ちゃん」


私は、今19歳。
セラは、今17歳。

セラも、大きくなったと思う。
まあ、2歳しか変わらないから、あまり子供扱いなどできないけれど。


「どうしたの?何かあった?」
「其処に海が見える場所があったんだ。」


—行かない?そう尋ねるセラに、頬を緩ませて「うん」と答えた。
すると、セラは太陽の様な笑顔を見せた。そして私の手を引っ張って其処へ連れて行く。


「……此処だよ、」
「…わ、」


思わず声が出る。見えたのは、きらきらと太陽の光を反射して輝く、蒼い海があったから。


「……凄い」


蒼ノ国で最後に見たとき以来、海なんて見ていない。
ううん、見せてくれなかったんだ。


「ね、凄いでしょ。お姉ちゃん。」
「うん。…それで何でこんな場所しってるの?」
「…昨日、たまたま見つけたんだ。綺麗でしょ」


…確かに、綺麗だ。蒼ノ国と、同じくらいに。


「お姉ちゃんは、海みたいだ」
「………え?」
「海みたいに広くて、全部優しく受け止めてくれる。」


「おれは、海が好きだよ」







***






  ( pppppppp )



目覚ましが、鳴る。
3時を知らせる時計。…2時に寝たばかりなのに。
それも仕方がない。奴隷は1時間しか眠れないのだから。

カビの生えたパン1欠片と、泥に近い茶色い水を、ごくごくと流すように飲む。

その度に、吐きそうになるけど何とか抑えた。
食事を与えて貰ってるだけありがたいと思わなきゃならない。


「交代の時間だ。今働いているチームは1時間休憩してよし。
 それでは、次のチーム!働け!」

「「「はい!」」」


今、私達は大きな宮殿の建設にあたっている。
何に使うかは知らないが、とても重要なものだそうだ。


「ぼけーっとしてんじゃねえよ!働けゲス共ぉ!」


鞭の音が聞こえて目を瞑る。鞭の音が聞こえなくなると次の被害者は誰だろうかと目を開けた。


「いったいな!やめてよ髭豚!」
「何だと!この雌猫があ!」


……リルじゃないか。

彼女の名は、エクルセル・リル。
ネコネコの実、モデル〝ロシアンブルー〟を食べた、能力者。

灰色の髪に、オッドアイ——左目は青、右目はピンク——の目が特徴だ。

まだ15歳という若さ。何故か私になついている。


「うわああああん!髭豚がぼくを虐めるぅぅ!」


—ちなみに女の子なのに一人称は「ぼく」だ。

リルは私に凄い勢いで突進すると、私の胸にほほを寄せる。


「大丈夫?」
「もう、酷いよね!ぼく何もしてないのに!」
「…何もしてないのが悪いんじゃないかな…」


リルは、髭ぶ……間違えた、指揮官にべーっと舌を出すと、私にぎゅうううっとまた抱きついた。


「リル!そのへんでやめといたら?困ってるよセナ姉」
「何!あんた、そう言ってセナ姉に抱きしめて欲しいんでしょ!
 ぼく、わかってるんだよ!」


リルを注意するのは、エクルセル・ミル。
ネコネコの実、モデル〝スコティッシュ・フォールド〟を食べた能力者。

クリーム色に近い茶色の髪と、オッドアイ——左目がオレンジ、右目が青色——が特徴だ。


リルの妹で、一人称は「あたし」。


「セナ姉ごめんね。あたしのお姉ちゃんが…」
「ははっ、いいよいいよ。リル達の御蔭で幸せなのも事実だし」
「もー!それだからセナ姉は好きだよ!」
「あったり前でしょ!セナ姉だもん!ぼくもセナ姉好きだし!」


2人がいっせいに抱きついてきて笑う。
こんな日が、続けばいいのに。




.

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.36 )
日時: 2012/03/11 15:48
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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交代を知らせる鐘が響く。
—やっと眠れる、と心を弾ませた。


「食事だ。」


調理室から、のそのそと長身の男が出て来る。
冷たく重い声で、食事の時間だということを伝えて、一人一人の前に粗末な食事を置く。


「うえっ、今日は腐った野菜入りスープじゃん。気持ち悪い!ちょっと!ティス!新鮮な野菜使ってよ!こんなの食べれないよ!」


リルに怒鳴られる長身の男の名は、
—アリスタル・ティス。彼もまた、料理人としてここに来た奴隷だ。
昔はその名を知らぬ者はいないほど、有名な三つ星シェフだったが、今はその面影さえもない。


「すまないな……食料が、ないんだ。」


ティスはぼそぼそと呟くと厨房へ戻っていった。あらためて見ると、スープに腐った野菜が入っている。
そういえば最近新鮮な野菜が無い、と嘆いていたな。
スープにはコンソメなどで味付けなどされておらず、お湯の味しかしない。


「うわ、酷い味。」


隣でセラがぼそり、そう言う。私は勇気を出して躊躇いながらも一口飲んだ。


…っ


確かに、ちょっと……いやかなり酷い味だ。
こんなものなら、朝のカビが生えたパンの方がマシだ。


「…っこんなの酷すぎるよ!」


リルが叫んだ。叩きつける様にスープがはいった皿を床へ落とす。パリーーンという音に、皆振り返った。


「たった1時間の休息で23時間も働かされて・・・しかも何、この食事!」


私も驚いた様にリルを見つめる。そして、ただ頭を抱えた。

此処には、ルールがある。
一、睡眠は1時間だけ
二、23時間働く
三、食事は朝夕だけとらせる
四、他のチームと私語をしない



五、ボスが決めた以上ルールに逆らわないべし。文句は反逆とみなす
。なお、このルールは最重要事項であり、破ることは決して許されぬ
  

———破った者は、死刑かもしくは世界政府直属国家機密超監獄「ディアボロス・プリズン」に収容される———


「だめだよ、リル!ルールを知っているでしょう!?」


この前も、1人——…。私は決死の思いで止める。


「知ってるよ!それがなに?セナ姉!!」
「……!!」
「ぼくらはずっとボスっていう謎の男に怯えてきた…!皆が殺されても、見て見ぬふりしてた…!」


リルは叫ぶ。眼には涙が溜まっていた。


「それってぼくらは、逃げてたってことだよ…?」
「……!」


リルはすくっ、と立ち上がるとセナを見つめる。


「此処に自由は無いんだよセナ姉」




—nemo sine periculo vincere potest



意味は、


—誰も危険なしには勝つことはできない



(危険を負ってまで、自由が欲しい。)
(そして、危険を負わなければ自由は手に入らない)

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.37 )
日時: 2012/03/11 15:51
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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がつん、と鈍器で殴られた様な衝動に駆られる。

そうだよ。私達は逃げてきた。


「……でも、私達に何が出来たの?」
「セナ、姉?」
「私達が何かしたら、何か変わるの!?」
「…………!」
「現実は甘くない!ちっぽけな、…政府にとってはただの人間に、何が出来るのよ?」


私は、
私は。


「私はただ3人に死んで欲しく無いだけなのに!」


リルの顔が歪む。嗚呼、そんな顔をさせたくて言ったのじゃないのに。
ごめんね。きっと、私が間違っているのだろうけど。でも3人はとても大事な人だから。


「……セナ姉、」
「…っごめん!!」


すぐに立って、大部屋へと走る。数分でつくはずのその部屋が、とても遠く感じられた。


「うわああああああああ!」


3人が居たら、何も要らないの。

ただただ、叫び狂う。


可笑しいな頬に水がつたっているの。

きっと雨が降っている。
きっと、…きっと。


視界が滲んで、眠気が襲った。


「ごめん……」


次に目が覚める時は、笑って3人の顔を見れるだろうか。







***






「———!!」
「————!」


騒がしい。何時もは静かなはずなのに、と目をこじ開ける。
何度も降りて来る瞼に、少し腹を立てる。


「……ん」


目を開ける。徐々に視界も確かになってゆく。
でも目を覚まさなければよかったと、すぐ後悔した。


「あああッ!」


思わず叫び声をあげる。目の前に見たのは血だまりの中に倒れている人だ。

おずおずと、手に指をあてるけど、脈はない。


死んでる。


辺りを見回すと、赤い業火と、戦う奴隷と司令官の姿がある。茫然とその戦いを見る。
—そういえば、3人は!?


「お姉ちゃん!大丈夫!?」


顔をあげると、セラの姿。涙がこみ上げて来る。


「私は、大丈夫…」
「そっか!よかった。」
「それにしても、何?如何したの?」
「……お姉ちゃん、静かに聞いてね。…リルが起こした戦争だよ。戦争って言うほど立派なものではないけど…つまり、反乱。」

「はん、らん……」
「…ついに、始まるんだよ。革命が」

「…っ何で!」


リルが、反乱を。何故?何故に反乱を起こしたのだろうか。
私達では、勝てないというのに。


「リルっ…、」


気まぐれな、灰色の猫の名を呼ぶ。
返事は勿論帰ってこない。まだ力の入らない足を無理矢理に動かせてゆっくりと立ち上がる。


「お姉ちゃん、何処いくつもりだよっ…!」
「リルのところよ!リルを止めなきゃいけない・・!」


セラを睨みつけて、走ろうとする。しかしそうはいかない。
セラが私の手をつかんでいるからだ。


「離してよっ、私はリルのところに行かなきゃならないのっ!!」
「目を覚ませよ!お姉ちゃん!」
「目なんかとっくに覚ましてるわよ!速く行かなきゃならないの、離して!」

「お姉ちゃんが行って何が出来るんだよ!」
「できるわ!」
「……!?」
「私はリルを止める。リルやミルが……セラが、死ぬのは嫌だから!」


セラの瞳を見つめる。哀しみの青を帯びるその瞳は私を呑みこみそうになるくらい真剣で。


「……できないよ。」
「え……?」
「もう、戦争ははじまったんだ。…いくらお姉ちゃんでも、止められないんだよ…。」
「そんなこと……っ」
「あるんだよ、お姉ちゃん。おれだって、止めたいよ!嫌だよ!皆一緒なんだ。皆戦争なんかしたくない…」


「だけど!始まってしまったんだよ!」


セラの言葉に、へた、と崩れ落ちる。
戦争は、始まった。人が次々と死んで行くのを、茫然と見つめる。
人は、なんて脆くて弱いのだろう。なんて、愚かなのだろう。


「おれは、戦うよ。逃げてもやめても、勝ちはこないよ。お姉ちゃんは、如何する?」


セラは、近くに在った銅剣を私に差し出す。私はその剣を暫く見つめると、手を剣に添えた。


「………私も、戦うわ。」
「…そうこなくっちゃ!」


笑うセナの手に、手をあわせて。




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.38 )
日時: 2012/03/11 15:51
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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剣が交わる、音がする。乾いた金属音は、私を惑わせる。
初めこそは戸惑っていたが、もう私に降り注ぐ緋色の生温かい液体など、気にならない。
人間って残酷だな、と静かに笑った。


キン…ッ
キン………キン…


「お姉ちゃん!大丈夫!?」
「大丈夫だよ……っと」


お互いに敵を斬りながら、会話をまじわす。
剣の使い方もわかってきて、もう余裕まで生まれる。


「ミルはどうしてる!?」
「ミルなら、能力を使って脱出路を探してる!」

「じゃあ、リルは……っ!?」
「リルは戦いの最先端で、敵と戦ってるよ……っはァ!」


風を切る音が聞こえる。動くたびに、私の長くて蒼い髪が揺れる。
海の色。生まれた時から目も、髪も蒼色だったのだ。


「もうすぐ……っと、リルのとこ!」
「わかった…わ!!」


走るスピードが増す。暫く走るとリルの灰色が見えた。


「リルーッ」
「……セナ、姉!?…!危ない!」


リルの瞳が私をとらえる。
危ない、といわれて後ろを見ると、銃を私に向ける男。


「セナ姉ー———ッ!!」


その瞬間、視界が反転する。
コンクリートに頭ぶつけて、「いった…」とゆっくりと起き上がった。


「………え?」


「大丈夫?…セナ姉………がはっ!」


目を、疑った。リルの胸を、銃が貫いていた。

赤い、赤い、血が流れた。




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.39 )
日時: 2012/03/11 15:56
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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「リ、ル……?」


視界が、真っ暗になる。返り血が、私を染める。
ぐて、とリルが私に倒れて来た。


「……セ、ナ姉……無事、なの?」
「私は無事よ!そんなことより手当を…っ」
「………、ごめんね…。ぼく、…戦争、起こしちゃった…」
「そんなのいいわ!いいから、はやく、…手当を…っ」


リルは微笑みながら私に抱きつく。
血がついちゃうけど……と呟いて、リルは私の背中にぎゅうっと手を巻き付けた。


「ねえ。ぼく、セナ姉がすきだよ…」
「……っ私も好きよ………だから死なないで……」
「ぼくに、死んで欲しくないって言ったよね…?ぼく、嬉しかった」


リルの名前を、呼ぶ。
涙が流れて来る。


「泣かないで………。ぼく、死んじゃうけど……泣かないで」
「死ぬなんて言わないでよ…!!死なないでよ!お願いだから…ッ」
「…ぼくを好きでいてくれて、ありがとうね………」






「ぼくは、幸せだったんだ。本当に。」


リルが、ゆっくりと目を瞑るのが肩越しに見えた。
死なないで、と願った。けれど願いは届かずに。


「…リル?……リル、いやよ。いや、死なないでよ…」


涙が次々と零れ堕ちる。


ただ、重力に逆らわず。




「いや、いや…!いやだいやだいやだ…!
 いやああああああああああああああああああああああああああ!」





私の、せいだ。








私が、リルを、

この灰色の猫を。






————————殺した。









私が、



私が殺した。

私があの時後ろの男に気付いていたら。私がリルを停めていれば。


私が代わりに死んでいれば。



リルは、死ななかったのに。

ずっと規則正しい心臓の音をならして、
今を、未来を。生きていたはずなのに。



ごめんね。痛かったね、恐かったね。もっと生きたかったよね。まだ15歳だよね。

もっと幸せになりたかったよね。
奴隷なんかやめて、幸せに暮らす未来を描きたかったよね



「リル……ッ」



私の声は、リルと同じ色をした灰色の屋根に吸い込まれ、やがて消えて行く。


ごめんなさい、
ごめんなさい、と何度も謝るけど


一生リルは生き返る事なんて無い






私 が リ ル を 殺 し た




だって、そうでしょう?









その時突然、視界が暗くなる。くらくらと、体が揺れる。
必死に瞼を開けるけど、まだ辺りは暗い。



ずん、と暗闇が私を包んだ。















***








「———っ、」
「————〜〜」




「お姉ちゃんッ」
「セナ姉っ」


「……え」


果てしない暗闇が、すうっと避けて、シャボン玉が弾けるように眩い光が私を支配する。

—今さっきのは、夢?
—そうよ、きっと夢だわ。

目の前には、私とよく似た顔をした少年と、ふわふわとした紙を一つ括りにした猫のような少女が居た。


——セラ、と・・ミル?


まだ覚醒しきっていない頭で、ぼや〜っと考える。2人は私が起きたことに、喜んでいるようだ。


「大丈夫?お姉ちゃん…っ」
「よかったぁ〜……心配したよ?」


朧げに揺れる視界に移る2人は、心底安心した様な顔を見せる。
まるで、さっきまで私が死んでしまいそうになっていた、と言うように。


—死んでしまいそう?


—・・死ぬ?


「そうだ!リルは!?リルはどうしたの?!」


すぐに飛び起きて、あの灰色の猫の事を尋ねる。しかし2人はその言葉を聞いた途端、顔を伏せた。


「……ねえ?嘘でしょ?あれは、夢だったんでしょ!?そうにきまって……」
「お姉ちゃん。」


「…………!!」
「夢じゃ、無いよ。リルは———・・」


嘘、嫌だ。聞きたくない、と耳を塞ぐ。
セラは私をじっと見つめると、そっと耳を塞いでいる手をのけた。


「聞いて。リルは、……死んだよ。」
「嘘、でしょう。だってあれは夢で……!ねえっ、リルは何処なの?リルを見せて!」


ミルは沈んだ顔をして、「……セナ姉、こっちに来て」と私の手を引く。
その行動に、セラは反抗している。


「ミル!まだ駄目だよ!今見せたら……!」


その言葉もまるで聞こえていないようにミルはセナを誘導する。
ぎいいい・・と開けられたドアの間を覗くと、白い部屋があった。

白い布を被った人が眠っている。


ミルは、手をそっと合わせて一礼すると、白い布をそっととった。


「…………っ」


リ、ル。

青白い顔をして、眠っている。堅く閉じられた目は、二度とあきそうにない。

顔にそっと触れると、驚くほど冷たくて、手をすぐに引っ込めた。


起きて、と身体を揺らしても、リルは目を開けない。


「起きてよ」


起きて。そう願うけど、リルはついにおきる事は無かった。


知っていた。夢じゃないと、現実だと。


だけど、信じたく無くて。


「……ごめんなさい、…ごめんなさいっ」


でも、立ち止まってはいけない。
此の子が求めた自由を、私達がつかみ取りたい。


「私、行かなきゃならないの。」


リルの瞼にそっと唇を重ねる。


「ミル、ごめんなさい。私、守れなかった」


唇をそっと話して、ミルに向かい合って謝る。
ミルは、淡く微笑んで、


「いいの。セナ姉のせいじゃない…。
 あたし、セナ姉を守った姉を誇りに思うわ」


こう言った。
ミルの声は少しかすれていたけれど、何処か堅い決意をふくんでいた。




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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.40 )
日時: 2012/03/11 16:00
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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白い部屋を出ると、セラが私を待っていた。
血だらけの床に裸足で足をつく。


「……行こう、セラ」
「お姉ちゃん、渡したいものがあるんだ」
「・・・・?なに?」


セラは私に蒼い刀を差し出す。
蒼い昇り龍が描かれているそれには、ただならぬ力があることが読み取れる。


「——〝水龍〟。昔、貰ったんだ。黒いマントを被っている男の人に、戦う時が来たら、お姉ちゃんに渡せって…。」
「…綺麗、だね」
「うん。とっても綺麗。ね、お姉ちゃん受け取って」
「……うん、ありがとう。」


水龍。海を感じさせる。私の髪と同じ色をした刀を、すうっとぬく。


綺麗な、直刃。


滑らかで、それでいて切れ味もよさそう。


「行こう!」
「……うん」


私は、知らなかった。

黒いマントの男の正体を。考えていれば、分かったはずなのに。


セラは、走りながら考えていた。



(そういえば、お姉ちゃんに1つ言うの忘れてた。…まあ、いいか…)





——〝我が名は、ジン。この世界の権力者〟……







***







蒼色の刀が、空を切り、緋の中を舞う。ぼろぼろになる身体も気にせずにただ一審に刀を振るう。
——私は、緋の中に居た。周りに屍が増えていく。心は痛むが、私は此処で立ち止まるわけにはいかなかった。


「やめてくれっ!おれには、せがれが……」


顔を青ざめて私に謝罪する奴もいた。子供がいる、と言う人もいた。


私にだって、故郷があった。帰る場所が、在った。
——蒼ノ国、が。


なのに、なのに。蒼ノ国を滅ぼしたのは、沈めたのは。


「……貴方達じゃないの。」


ザシュッと音がした。緋色が私を囲んだ。目を、静かに瞑る。


「…………運命は、残酷ね。」


また走り始める。ミルは情報収集に、セラは別の場所で出口を探している。
気づけば、もう周りには敵が居なかった。


「……ね、きみ」
「…………!?」


急に、声をかけられる。低くて、まるで鐘の様な重い声。
ばっと振り向くとそこには、黒いフードを被った少年が居た。


「誰、」
「まあ、そんなことはいいでしょう?きみさ、強いんだね。けれど……もっと強くはなりたくない?」

「…え?」

「灰色の猫を失くしてしまったから、せめて自分と瓜二つの少年を、亜麻色の猫を助けたい。そうでしょ?」
「な、んでそれを……」


そう聞いた瞬間、男の唇はにいっと弧を描く。ぞくっと寒気が走る。


「ふふ。ぼくは、知っているよ。世界のすべてを」
「!?」
「この実を、食べて御覧。皆を救えるような力が手に入る。ほら、きみの目を同じ色でしょう」


蒼い、ぐるぐる模様の入った林檎のような実を渡される。
強くなれる。守ることが出来る。恐る恐る手をつけると、ひやりとした。
ちゃぷちゃぷと音を立てる不思議な林檎を手にとる。


「食べてごらん?力が欲しいんでしょう」


フードの中で、紅い目が私をギラギラと見つめている。
時々見える濃藍の髪の毛。私の蒼より、暗くて沈んだ色。
藍色をさらに濃くした、濃藍(のうあい)。


「……ほんとう?これを食べれば、強くなれる?」
「うん。なれるさ絶対に。……信じるか信じないかはきみ次第だよ」


少年は私の頬に口付けをしてから、何処かへ消えた。





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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.41 )
日時: 2012/03/11 16:01
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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 信じられなかった。こんな奇妙な実を食べて強くなれるわけがないと思っていたし、初めてあった少年、——しかも怪しい——の言う事なんて聞けるわけがなかった。
——今までの私ならば。

だけど、何故だろうか。あの少年から不思議な力が出ていた。
オーラというのだろうか、その力は私をその気にさせたのだ。
——少年は信じれる。何故か、なぜかそう思ってしまったのだ。

 

 私は、林檎をまじまじと見つめると、歯を立てた。
そしてそのまま力を下に流して、噛み切る。
———白雪姫は、魔女から貰った毒林檎を一口かじりました。———

しゃく、とそう音がしたかと思うと、その実はまるで力が無くなったかの様に、しゅうっと萎む。
————すると、なんということでしょう。———

あまりの不味さにすぐにごくりと飲み込むと、急に蒼い光が私を覆った。
———白雪姫はその場に力が無くなったかのように、———


「なに、これ…」
———倒れたでは、ありませんか———
急に眠気が襲って、目の前が真っ暗となった。



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Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.42 )
日時: 2012/03/11 16:04
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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 少年は、フードを脱いだ。後ろで人———セナ———が倒れた音がしたのもお構いなしに、ふふっと笑う。
無造作な濃藍の髪が揺れ、血の色をした目が面白そうに細められた。


「知ってる?白雪姫は、王子様の口付けで目を覚ますんだ……」


望みの終焉は、すぐ其処に。少年は、口角をあげて頬を持ち上げる。ああ、面白い。


「ねえ……、海姫様?」


 少年は振り返る。
視線の先は、セナの手の先に転がった、蒼い実だった。
少年は、水に囲まれて姿を消した。


はやく、はやく
あの姫を此の手のうちに。



ぼくのものに、




何としてでも。






***






夢を、みた。


蒼い光が私を指すようにきらきらと光る。その中に私は居た。


「此処、何処……?」


そう呟くと、ふわりと私を水が包んだ。
少し香る潮の匂いに、海水だと分った。


何故か、とても懐かしい。この匂い……


ああ、そうだ。蒼ノ国の、海の匂い……


涙が零れてきた。
この匂いに、もっと包まれていたい。海の、懐かしいこの匂いに。




〝そうは、いかぬよ。海帝の、次期 妃よ……貴様は選ばれたのだ。海帝に〟





その声は、セナに聞こえてはいなかった。







***







〝きゃははは♪起きた?〟



少女の、笑い声。


朦朧とする意識の中、視界に黒い髪の少女を捕らえる。
黒いゴシックロリータにツインテール。
ブラウンのアイシャドーに紅い目。唇は、綺麗なローズピンク。

——お人形さんみたいだ。そう、思う。




〝次は貴方がフィーの主ね♪〟
「……!貴方は、誰……?」




少女はローズピンクの唇の端をにいっとあげた。
目も細めて、心底、楽しそう。

ぞくりと背筋に冷たいものが走ったけれど、そんなこと、どうでもいい。





〝きゃははは♪睨まないでよ♪〟
「答えなさい……!」
〝こわーい♪フィーは貴方の食べた悪魔の実に宿る悪魔よーん♪〟
「あく、まのみ……?」





それって確か、食べればたちまち能力が得られるが
そのかわりに海に嫌われるって言う……!

そんなもの、私は食べていない。






〝滑稽だねぇ♪食べたじゃんか、悪魔の実♪〟






少女は私のおなかを指差す。
——……「もっと強くはなりたくない?」

も、しかして。
あの蒼い海を連想させる実は。

膝を、つく。がくがくと、腕が震えた。
もう、遅い。わたしは実を食べてしまったのだ。






〝やぁっと思い出してくれたァ?〟
「じゃ、じゃあ私もう、泳げないの?」

〝んーん♪貴方が食べたのは海を操るウミウミの実。何千年前からある此の世で一番尊く、恐い実♪ヤミヤミの実をも凌ぐ最強の、実♪〟

「ウミウミ、……海を操れるから関係ないのか……」







さっすが!物分りがはやーい、と、少女は笑う。


少女は深い、漆黒を揺らして唇に弧を描く。
最強の実、正直恐い。そう思っても、もう遅いのだけれど。








〝だけど、ひとつだけ欠点があるの♪それは歳がとれ……〟







ドガアアアアアアンン!

少女の声を遮って、爆音。
少女は笑みを深めた。「もう、さよならの時間だ♪」
そういいながら軽やかにステップを踏む。

すると、狼が私の前に現れる。







〝それはハクって名前の神狼♪此れから貴方の使い魔になるわ♪〟


「——…貴殿が次の主であるか。名をなんと言う。」
「……!せ、セナよ!」
「そうか、主。我は貴殿の使い魔のハクである。」
「……ハク、ね……。わかったわ。」


〝きゃははは♪じゃあねぇ♪あっ、ちなみにフィーの本名は…!〟








——ラビリンス・シーナ・ラフィネ♪貴方の中に潜む悪魔♪


その刹那、辺りが光に包まれた。
意識が遠のく中、思う。そういえば、私は。




〝だけど、ひとつだけ欠点があるの♪それは歳がとれ……〟




あの言葉の続きを。






聞いていない。






(今気づいていれば)

Re:   ONEPIECE -海姫-  建て直し!! ( No.43 )
日時: 2012/03/13 12:57
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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 暗闇から、明光へ。
目を開ければ、私の周りには相変わらず屍が落ちていた。
それに驚きもせず、私は立ち上がる。
すると、ふと違和感を感じて足元を見る。そこには水となった自らの足だったもの。

ああ、これがウミウミの実。その、能力。



「……行かなきゃ」



強くなりたい。この能力で、セラ達を助けたい。
セラから渡された刀——水龍を手に取り、鞘をぬいた。
どこまでも青い、刀身。ひやりとしたそれは、まるで今の私の心。
自嘲気味に笑って、歩み始めた。








***








「お、姉ちゃんッ……!来たら駄目だ!」




建設途中である塔の最上階。
セラが叫び狂った。セラの足元には血が広がっている。
その血の持ち主は、——ミル。
ミルが荒く息をしながらセラに寄り添っている。
ぼんやりと焦点の定まらない目には光など映っていない。




「ミル、如何してこんなことに……!」

「僕だよ」




ミルの元へ駆けつけた途端、低く重い声がした。
あのときの、声。私に実を授けた男の、声。





「僕がやったんだ。本当人間は脆くてすぐ壊れちゃうからつまんないな。そう思うでしょ?セナ」
「貴方がやったの……!?貴方が、ミルを…!」
「そうだよ。何か、異議があるみたいだね。」





男はにっこり笑った。気味が悪いほどに口を歪めて。
ミルのわき腹から、大量に血があふれ出してくる。
リルは死んだ。ミルも?ミルも死んでしまうの?
恐ろしくなって、ただミルの名を呼んだ。涙が零れ落ちる。






「セ、ナ姉……泣かな…、いで」
「ミル!しゃべっちゃだめ!こんなところさっさと出てお医者さんに!」
「い、いよ、いらない。あ、たし…どうせ死ぬ、な…ら、セナ姉、が見てくれ…ると、ころで……死にたい…」
「死ぬだなんて…!ミル、駄目!死んじゃ駄目!お願いだから…」






セラが目を伏せながら蹲った。
相変わらず男はにやにや笑ってる。殴りたくなったけど今はミルが先。
涙が止め処なく零れ落ちる。ミルはそれに対して微笑んでいる。
血がドクドクと噴出すのもかまわずに、私の頬に手を添えた。




「セナ、姉……あたしの、こ…とは、も、う、いい…から。逃げ、て?」
「いやよ!私はミルのそばに…!」
「嬉しい、な。そう、いって……もら、えて。あたし、本当……幸せ。けど、ね、セナ姉に…は生き…てて、欲しい。だか、らは、やく、はやく、逃…げて?あたし、セナ姉が生……きててく、れ、たら何も、要らない。」




どうしてそんなこというの?
こぼれる涙も拭わずに、ミルを見つめた。
命のともし火が、弱くなってるのは、医者じゃない私でもわかる。





「ずっと、いえなかった……けど、あたし、セラ、の……こと、好きだった。……もう心残り、はない……よ。セナ姉、セラ。あり、がとう……ありがとう…!!」





ミルの手が、だらりと落ちた。
セラが嗚咽をあげながら泣いている。どうしてなんだろう。
どうして私は何も救えないんだろう。
けれど、にくいのは、あの男。
どうしてミルを殺した?どうしてどうしてどうして…!





「あああああああああああああ゛!!!!殺してやる…ッ!アンタなんて死ねばいいんだ……!!」





歯を食いしばれば、鉄の味がした。
馬鹿みたいに叫び続ける。死ねばいい。オマエなんか、死ねばいい。
水龍を手に取った。体に水を纏い、そのまま海水を男に打ち付ける。
男は海水に包まれてながらもクスクスと笑う。






「効かないよ?」






男はにっこり笑ってこちらを見た。
今度は水龍に海水を纏わせて、男に投げる。
すると、男はクイッと指を曲げた。
そうすると、海水を纏った水龍は———





「がはッ……」





セラを、貫いて、突き刺さった。





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