二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Coward search ( No.165 )
- 日時: 2011/04/01 22:24
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Ph3KMvOd)
- 参照: なんか自分でもよくわからなくなってきたw
- 「お前はいつも、そうだよな」 
 再度、震える体に顔を埋める葵。そんな彼女を見た円堂は、ただぽつりと独り言を呟くかのように、話し始めた。視線を、葵から野草や花が咲き乱れる地面へと落とし、ゆっくりと目を伏せる。気付くと、小鳥のさえずりさえもが消え、何も聞こえなくなってしまった。ここにいる四人のみが、この世界から隔離されてしまったかのように。風も治まり、一瞬、時さえも止まったのではないかという錯覚を覚える。
 「俺たちが"下僕"の身分である以上、これは仕方の無いことだけどさ、お前は王女を優先し過ぎたんだよ」
 微かだが、葵の体がピクリと動いた。円堂は、そのことに気付くことなく、話を進める。
 「……葵、お前はさ、王女を殺したのは自分だって言っただろ? 確かに、意味は同じようなものだ。だけど、その法則でいったらお前は———自分自身を王女に壊されていることになる」
 驚いたように顔を上げ、すぐに腕の痛みからか表情を歪ませる葵。聞き捨てならない、と言わんばかりに円堂に非難の視線を向ける。眉間にしわを寄せ、唇をきゅっと噛み締める姿に、円堂はまた、心を痛めることになる。
 「昔のお前は、どんな時だって仲間を非難するような真似をしなかった。だけど、今はどうだ? 王女以外、全ての者が"敵"に見えることに気付いているんじゃないのか? そしてそのことに、そんな自分に、怯えているんじゃ……」
 「そんなことない!」
 すくっと立ち上がると蒼色の瞳を細ませ、円堂や他の二人を睨みつける。が、威勢がいいのは言葉だけで、すぐにふらつく葵。右肩を左手で押さえ、泣き濡れた瞳で三人を見つめる。円堂の言葉は、図星なのだろう。
 「……どんなにちっぽけな人間にも、命に換えてまで守りたい存在がいるんだ」
 ぽつりと、吐き捨てるかのように葵は語る。恐らく、彼女が言う"守りたい存在"とは、王女のことを言っているのだろう。地面から城へ視線を変え、葵はゆっくりと息を吐いた。力が抜けてしまったのか、もともと丸い肩がさらに丸みを帯びた形に変わる。
 鬼道は、そんな彼女に手を差し伸べ、語りかけた。
 「……王女から逃げよう」
 「え?」
 瞳を見開き、鬼道を眺める葵。他の二人にとってもこんな発言は予想外だったらしく、豪炎寺が慌てて、鬼道に尋ねる。
 「お前……本気なのか?」
 「ああ、そうだ。王女の傍にいては、葵は自分を取り戻せない」
 お前達は帰れ。
 巻き込むつもりはないのか、鬼道は二人をあしらうかのような眼差しを寄こした。葵はまだ、突然の提案に戸惑っている。
 円堂と豪炎寺は、互いに見合い、悪戯っぽい笑みを浮かべた。どうやら二人の間でも、答えが決まったらしい。円堂は一歩、前へ進み出ると、鬼道に手を差し出した。
 「俺たちも、行こう」
 紅い瞳を少なからず見開いた鬼道。が、言って聞くようなやつじゃないとわかっているのか、「勝手にしろ」と承諾する。
 「街へ行って必要なものを準備しよう。食料は虎丸に、剣は響木さんに頼もう。服は、雷門に譲ってもらうか」
 「なら急がねば。記憶が無い王女が頼れるのは、今は葵しかいない。もはやお前は、国の重要人物だ。そうなれば、王女は俺たちに追っ手をつけるだろうからな」
 ばたばたと走り出す三人。取り残された葵は、呆然と立ちすくしていた。どうやら、自分の意見は採用されぬらしい。三人の強引ぶりは、前々から知っていることだが、ここまで大騒ぎになるなんて。呆れ気味だが、仲間とは良いものだと改めて思った。そして「あ、」と気付く。
 「久しぶりだなぁ……あの三人を"仲間"だと信頼できるなんて」
 いきなりすぎて、腹をくくりきれていないのが現実だが、とりあえず実行しなければ前へは進めない。
 「おーい! 置いてくぞー!」
 「ま、待ってよ〜」
 二カっと笑う円堂に呼ばれ、腕の痛みも忘れた葵は駆け出した。旅が長引こうとも、豪炎寺は王宮に仕える医師である。追っ手の作戦がどんなに協力であろうと、国の頭脳と呼ばれし鬼道がいる。へこたれかけても、泣きたくなっても、自分を信じてくれる円堂がいる。最高の仲間が、ここに揃っている。
 葵は、おそらく最後となるであろう城を見つめ、小さく呟いた。
 「……さよなら、」
 その後、召使四人が消え、そのうちの一人が国の未来に関わると気付いた大臣が、王女に代わって王軍を派遣したのは、また別のお話です。
 ———Coward search———
 ( 弱虫な僕だけど、仲間と一緒なら大丈夫 )
 【end】
