二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ▽ 鬼爪 【戦国BASARA3】 ( No.16 )
- 日時: 2011/01/06 22:48
- 名前: 蓮羽 ◆8ylehYWRbg (ID: vtamjoJM)
- 参照: 冬休み\(^o^)/オワル
 ▽ 伍
 そのままずるずると強引に引きずられるようにして、稜弥は城の庭に連れて来られた。
 途中道行く人に不審な目を向けられ、いたたまれなくなったのは稜弥だけである。
 頭の中が混沌としてきた稜弥に対して、真田幸村はやる気満々だった。
 城の庭、稜弥と向かい合うようにして立ち、熱く槍を振りかざす幸村。
 それを不思議そうにぽかんと見つめ、ワケが分からない状態でその場に立ち尽くす稜弥。
 「うおおおお稜弥殿おおおお!! いざ尋常に勝負ぅ!!」
 『待ってェェェ!! まずは事情を説明してェェェ!!』
 幸村が身構えたところで、稜弥は焦りながら幸村に呼びかける。
 『真田さん待って!! いろいろと落ち着こう!! 何で急にお手合わせ!? 俺ちょっと意味が分からないんだけど!!』
 「おお、これは失礼致した!! 先に一本取れた方が勝ちで御座る!!」
 『そういう意味じゃねェ!! もう駄目だ完全にやる気になってるもの!!』
 やっと(やめたいという)思いが伝わったかとちょっとだけ期待したのに、と稜弥はガックリと肩を落とす。
 駄目だ、人の話を聞かないんだ真田さん。これ以上言っても無駄だ。
 大きなため息を吐いて、稜弥は着物の裾から鬼爪を取り出す。
 両手にカチャカチャと装着している際に、やたら幸村からの視線が自分の手元辺りに注がれていることに気づいた。
 『……どうかした?』
 「あ、いや、申し訳無い!!」
 『いや謝らなくてもいいけどさ』
 幸村の眼は輝いていた。
 そういえば大広間で会ったときも、こんな目してたなと稜弥は思い返す。
 初対面で手を取られ、「貴方が豊臣の番犬か」と嬉しそうに聞かれた。
 お前が番犬か、という聞き方は少し失礼だよな、と心の中で苦笑する。
 同じ犬でも、野良犬よりは格上だと稜弥は信じている。まぁ自分は狗だしね。
 「稜弥殿の戦場でのはたらきのことは、甲斐にも届いておりもうした。稜弥殿が単身で敵陣に攻め入り、ものの上刻(1時間)ほどで制圧して帰還したというのは甲斐では有名な話で御座る!」
 『俺有名人!?』
 その話は本当のことで、甲斐だけでなく各地方で有名な事を稜弥は知らない。
 まぁ単身で攻め入った理由は稜弥が攻め入る刻限を間違っただけなのだが。
 「いかにも! 某、そんな稜弥殿にいつかお手合わせ願いたいと心待ちにしていたので御座る!」
 幸村はそう言うと二槍をヒュンヒュンと回した。
 「今がその時!! 稜弥殿!! お相手願いますぞ!!」
 楽しみだった、と言われてしまっては、もう断るわけにもいかなくなった。
 稜弥はまだ渋々だったが、もう腹を括り、スッと戦闘体制に入った。
 ▽
 互角だった。それ以上でもそれ以下でもなく、勝負は互角だったのだ。
 幸村の槍の方がリーチがあるのだが、相手が身体能力抜群の稜弥であるために避けられてしまう。
 また、幸村の休まることの無い責めの手に、稜弥が防御しか出来なくなるのだ。
 それどころか、勝負が始まった時から今まで、稜弥は反撃して来ないのだった。
 「稜弥殿!! 遠慮なされるな!」
 幸村はそう叫ぶが、稜弥は一向に攻めてこなかった。
 その時、幸村は見えた。
 稜弥が作った、一瞬の隙を。
 「もらったァ!!!」
 そう叫んで、幸村はそこを一突きする。
 勝った。それこそ本当に一瞬だが、幸村にそう思わせた。
 しかし、勝負はまだ終らなかった。
 当たっていなかった。またも防御されたのだ。
 「なッ……!?」
 驚きで目を丸くする幸村。
 槍の矛先は鬼爪の刃先に挟まれていた。それも抜けなくなるほどの、尋常ではない力で。
 そして稜弥は突いてきた。
 大きな大きな、稜弥が作った幸村の隙を。
 幸村は思わず尻餅をついてしまう。
 ヒュンと鬼爪が空を切って、幸村の目のすぐ先に突き出された。
 少しでも頭が揺れれば、目に刺さってしまうほどの距離に。
 つーっと、冷や汗が幸村の頬を伝う。
 稜弥の真剣な眼差しが、幸村の心に痛感させた。
 自分が、「負けた」ということを。
 『……はーい、俺の勝ち』
 稜弥はそう言うと幸村の目先から鬼爪を下ろした。
 『もう疲れた!! お前さ、俺が休む暇も無く攻めてくるんだもん!! あーもうこれ明日筋肉痛だな!!』
 今までの張り詰めた空気が一瞬で破られ、いつもの日常に戻る。
 幸村は呆気に取られた様子で、稜弥を見つめた。
 これが……豊臣の番犬の力……。
 改めて思い知ったその凄さに、幸村は感服した様子だった。
 すると。
 『ほら、大丈夫? 立てる?』
 稜弥がスッと手を差し伸べてきた。
 あの時に、自分が無理に取った手。
 まだ番犬の本当の凄さを知らずに、軽々しく取った手。
 自分は、なんて軽薄な行為を。
 「申し訳ござらん稜弥殿ォォォ!!」
 幸村はその場に手をついて、そう叫びだす。
 『えッ!?』
 「稜弥殿の力がこれほどとはッ……某、慢心しておりましたァッ!! この負けこそッ、己が慢心しており尚且つ油断していたという証拠!!」
 『ちょっ、ちょっ、真田さん!!』
 「御見逸れ致したァァ、稜弥殿ォォォ!!」
 『分かった、分かったから顔を上げて!! あれこれなんか前にもあったような気がする!!』
 前にもあったようなデジャヴュ感に、稜弥は頭を抱えた。
 『……あのさ、真田さん』
 「某などに敬称など無用ッ!!」
 『じゃあ幸村、あのさ、負けることは恥じゃないんだよ? 寧ろ喜ばしいことなんだよ?』
 うおおおと震える幸村の肩に、稜弥はしゃがんでポンと手を置いた。
 『俺の父上が言ってたんだけどさ、負けていちいち悔しく思ってるとどんどん負けるんだって。自分の心に』
 その稜弥の言葉で、幸村はある人物を思い出した。
 自分が崇拝し、今は病の床に伏す人物。
 あの方も、同じような事を言っていた。
 「…………ま」
 『ん?』
 ある人物を思い出した途端、幸村はバッとその場に立ち上がる。
 今度はバランスを崩した稜弥が、地面に尻餅をついた。
 そして、幸村は大空に向けて叫ぶのである。
 「おぉぉぉやかたさぶぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
 『え!? 何!? 今度は何よ!?』
 稜弥もう面倒くさくなり、止めることもしなかった。
 幸村はこの後、また幸村の手合わせに4度付き合うこととなる。
 ▽ つづく
 オチてないきがする( ´・ω・)
