二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*参照1000突破!!! ( No.429 )
- 日時: 2011/11/30 17:16
- 名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)
- 第45話{目覚めの時} 
 入院患者の病棟は、何だか居心地が悪く感じる。そう思いながら神童はラティアの後をついて行く。
 その後ろには月乃、歌音、ティアラがしっかりついて来ていた。歌音が今にも走り出しそうなティアラを全力で押さえている。
 ラティア「ここね。」
 ガラ、とドアが開くと神童の視界に入って来たのは、窓の外の緑の葉。
 医者「ラティア様!」
 ティアラ「魁渡はっ…」
 落ち着きなさい。ラティアに言われてティアラは部屋の入り口で立ち止まった。医者はまだです、と言い口を閉じる。
 恐る恐る部屋に足を踏み入れた神童は、白いベッドの奥、眠っているらしい流星魁渡の顔を見た。
 酸素マスクで呼吸している魁渡は穏やかで、けれどそこに意思は感じない。ただ呼吸しているだけに見える。
 神童「…この人が、あの…」
 TVで見た姿と、大して変わりは無い。
 月乃「…っ!!」
 歌音「!杏ッ…!?」
 医者「君っ!!」
 何かが消えた気がして、神童は廊下を振り返る。
 丁度、歌音が今来た道を走って戻っていた。そして月乃が居ない事に気付く。
 神童「月乃?」
 ティアラ「何か、急に走って行っちゃったけど…」
 ラティア「ティアラ、捕まえて来てくれるかしら。病院の中を走るのはいけな(ティアラ「私は走って良いの?」
 ラティア「あれは走ってる内に入らないわ。」
 了解、と言ったティアラは、直ぐに神童の視界から消えさった。呆然とする神童に、ラティアは短く説明する。
 ラティア「走っただけよ。」
 *
 触れるな。
 近くに居てはいけない。
 『…あの人たちを大事に思うのなら、私の言う事を聞いてくれる?』
 「!!」
 「!お前…」
 視界に飛び込んで来た剣城に、思わず月乃は足を止めた。
 考え事ばかりしていて、思うように走れなかったのも理由の一つだが。
 と、月乃が座り込んだ。両腕で頭を抱えて、廊下をただ見つめる。剣城は何と声をかけたら良いのか分からず、沈黙が流れた。
 剣城「・・・お前、変な所に居るよな。」
 月乃「!」
 剣城「あの時も。」
 顔をあげた月乃は言葉の続きを求める様な視線を剣城に向けた。が、それをあっさり剣城は無視して彼女に背を向ける。
 そのまま歩きだした彼を追おうとして立ち上がった。けれど行く手は、空気の如く走って来たティアラに阻まれる。
 ティアラ「追い付いたっ!!」
 月乃「ぁ、」
 ティアラ「戻ろ、歌音とか拓人とか心配してるから!」
 そう言ってから、ティアラは月乃が俯いている事に気付いた。どうしたの、という声は出て来ない。
 彼女の小さな声を聞いてしまったから。
 月乃「…やです、嫌ですっ…」
 ティアラ「?!」
 月乃「会ってはいけない気がするんです…」
 『私の声に、従って?』
 分からない過去。
 けれど、とても大事にしていたという事だけは、分かってる。
 *
 沈んでゆく体。
 最初の内は抗っていて、けれどそれも限界がきた。もう流れに身を任せて随分経ってる。
 光も見えない程の深海。
 手を伸ばす事を忘れたように、俺の手は水すらつかめなかった。溢れるのはただの悲しみ。
 優しさに守られて。
 海へ打ち捨てられた心に、沁みていった暖かさ。だからまだ俺は、ただ生きる事しか出来なくてもしがみ付いてるんだ。
 もう、光が差し込むはずで。
 ————————何処か遠い所から聞こえる優しい歌声が、光になって深海へ差し込んだ。
 それを掴みたくて、掴みたくて、必死に手を伸ばして、……それが泡の中へ消える前に。
 その声は懐かしかった。考える事をしなかった頭の中に、ふと浮かんだ瑠璃姉の涙が俺の中で力に変わる。
 そうだ、あの時、瑠璃姉は泣いた。透明な涙を流して、諦めの中に悲しみを込めて…。俺は瑠璃姉を悲しませた。
 悲しみの反対が喜びだというのなら、俺が倒れる事の反対がまた立ってみせる事のはずだ。
 倒れて泣いたのなら、しっかりと立って見せれば笑ってくれる。俺に勇気をいっぱいくれた瑠璃姉に、また笑ってほしい。
 だから、俺は深海を飛び出すんだ!!!
 +
 月乃「…!うた、ね…」
 歌音「杏樹?」
 ふとベッドの脇から聞こえた月乃の声に反応して、歌音が彼女の元に行こうとした時だった。
 部屋に響く音が、かわる。
 医者の説明を聞く為に隣の部屋に行っていたティアラ達が、魁渡のベッドを見た瞬間、その部屋に流れる時が止まった。
 凍りついた様に。
 ティアラ「…っか、いと…?」
 しっかりと握りしめられた少女の手。
 握りしめる少年の手。
 開かないはずの瞼が、ゆっくりと開かれて。
 月乃は、自分の左手を握る少年、魁渡を凝視した。瞳には、困惑が揺れている。
 酸素マスクをした魁渡の、翡翠色の澄んだ瞳が月乃を捕えた。
 魁渡「…りねぇっ…」
 凍りつく部屋の時間。
 ただ部屋に響くのは、正常の状態を示す機械の音。
