二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*参照4000突破! ( No.594 )
- 日時: 2012/05/26 10:22
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
- 第64話 おきてがみ 
 『……モニ、大丈夫?』
 『も、もちろんですっ!!まだまだこれ位っ…』
 『…それじゃあ練習しようか。ヘブンズエンジェル、私も習得してほしいから。』
 『はいっ、フローラ様!』
 「…なっ、橘っ!」
 くらり、くらりと揺れる感覚。
 あ、そう言えばあたしって橘美咲って名前だったんだっけ……って、
 あたし呼ばれてるじゃん。
 まぶたを開いて意識を戻すと、鼻をつく軽やかな香り。
 何だったっけ、この香り…まだフル回転させる事の出来ない頭で考えて、遠くに眠っていた記憶を引き寄せた。
 …フローラ様の好きだった紅茶。
 橘「…霧野先輩?」
 霧野「お前、何時間寝れば気が済むんだよ…」
 呆れた表情で言われた。む、寝起きの人に…って、あたしそんなに寝てたの?
 体を起こすと、広い部屋のソファーに横になってたんだって気付いた。
 あ、そう言えばヘブンズエンジェル打って、その反動で寝ちゃって、それでそれで……ここってどこ。
 霧野先輩がこんな広い部屋で暮らしてるなんて聞いた事無いし、優雅に紅茶飲むなんてあり得ないし…あれ、失礼?
 霧野「橘起きたぞ、神童。」
 神童「!」
 橘「あ、成程…」
 ここはキャプテンの家だったんだ、なっと…何でそんな場所に居るの、あたし。
 神童「おはよう、橘。」
 橘「お、おはようございます…?」
 ソファーに座るあたしに、キャプテンは紅茶を勧めてくれた。少し口に入れてみると、ふわっと広がるこの紅茶特有の風味。
 …少し落ち着いた、けど。
 霧野「じゃあ、橘が紅茶飲み終わったら出るか。」
 神童「そんなに急いで飲むものじゃないけどな…;;」
 橘「どうしてあたしここに…」
 霧野「…橘、お前せめて音無先生には自分の家教えとけよ?」
 い、え…?
 立ち上がって見下ろされると、霧野先輩怖…くない、うん、仕方ないな後輩よみたいな視線は怖くない。
 だってあたしの家、仮の家でそこのおばさん記憶操作してあたしを娘だと認識させてるから…気まずいというか。
 一方的にそう思ってるだけかもしれないけど…
 神童「まあ、橘はまだ入って来たばかりだから仕方ないと思うぞ?」
 霧野「今回は俺が怪我したついでに神童に送ってもらえるけど、次は…」
 橘「!そう言えば霧野先輩怪我はっ!!!」
 霧野「!?」
 そうだよ、霧野先輩怪我…!!
 大丈夫大丈夫、って先輩は言うけど…。
 「にゃー、にゃー(あんじゅー、」
 神童「あ、ルナ…」
 ドアの隙間から入って来た猫。この子が、つきのんがルナって名前つけた猫…
 ルナは霧野先輩の足元にやって来て、足首に頭をすりすりとすりつけた。可愛いな、和む…♪
 霧野「っつ!!!」
 橘「重体じゃないですか!!!」
 バランスを崩して怪我した方に体重が乗ったみたい。ビックリしてルナが逃げちゃったよ…。
 「にゃー…(いないよー…)」
 悲しそうに鳴くルナは、キャプテンに抱えられて少しだけ元気になった気がする。あたしは空になったティーカップを置いた。
 橘「あたしはもう出れま…」
 霧野「ー、ドロータイム…」
 大丈夫なのかな、先輩…;;
 神童「…なら橘、ちょっと来てくれないか。」
 橘「?はい…」
 何だろ?
 **
 今まで素性の知れない私を置いてくださった皆様は、とても優しい方たちなのだと思います。
 なので記憶がどこにあるのか分かった今、もう皆様へご迷惑をおかけするわけにはいきません。
 私を探さないで下さい。
 皆様の幸せをお祈りいたします。それでは。
 P.S.兄様に、今までご迷惑をおかけしましたとお伝え下さい。
 **
 しばらく橘はその手紙を見つめて、真剣な表情で顔を上げた。
 橘「つきのんは…どこに行ったんですか?」
 神童「本人の意向で、神童家の者には知らされていない。…恐らく、知っているのはフィフスセクターの者だけだろう。」
 聖帝に勧められた、という話を橘にすれば、彼女は思案顔で何も話さなくなった。
 今、メイドが見つけた置手紙を俺の部屋から出て橘に見せている。
 メイドはその手紙を見つけた直後、慌てて月乃の部屋を見に行ったらしい。元々物などほとんど置かれていなかったその部屋に、全く異常は無かった様だ。つまり月乃は、着の身着のまま出て行ったという事になる。
 そして数分前、財閥にお金が送られてきた。詳しい事を知りたくて両親へ電話してみたが、それは月乃にかけた金額だったらしい。
 何のメッセージも無いところから推察できるのは、それがフィフスセクターから送られてきたのではないか、という事。
 もし記憶が戻り元の家から送られてきたのなら、メッセージがあるだろう。つまり。
 ——フィフスセクターは、彼女をもう神童財閥と何の関係もない人間にしたかったのだ。
 **
 俺の足の痛みが治まると、神童の執事が車を出してくれた。橘も神童もさっきより何だか暗い表情に思える。
 月乃の事を話していたんだろう。
 俺は橘が寝ている間に聞いたけど…月乃と仲の良かった橘ですら、何も情報を持ってなかったのか。
 神童「…月乃と昔サッカーをした、という話は本当なのか。」
 橘「!……ごめんなさい、あれ嘘なんです。そう言えば…雷門の皆さんはきっと、」
 神童「ああ、橘が月乃と仲が良いのは皆知ってたからな。それに結果として活躍してくれた。」
 だから責めもしない、と神童が言えばバツが悪そうな顔で橘は頭を下げた。
 霧野「…でも、希望はある。」
 神童「え…」
 霧野「相手はフィフスセクター、つまり俺達が革命を成功させれば良い。違うか?」
 神童は表情を変えない。分かっていても、まだ不安があるらしかった。
 橘「……大丈夫っ!」
 霧野・神童「?!」
 橘「つきのんが敵側にいったのは、ある意味チャンスです!敵側に味方がいるってことじゃないですか!」
 …確かに。
 橘「そんなに落ち込んでたら、天馬君に負けちゃいますよキャプテン!」
 神童「…そうだな。」
 あいつの根拠のないやる気にいつまでも背中を押されてるようじゃ、2年として顔も立たないしな。
 だからこそ、次の日訪れた帝国学園で明かされた“組織”の存在は、すごく嬉しい物だった。
 ***
 橘「!ソフィアっ!!」
 突然切断された通信。
 誰もいない、見た目的に古い1戸建ての家に響く橘の声。神童達に送ってもらい、1人で居たとき強制的に通信が来たのだ。
 ただ、ソフィアは苦しそうな声でアルモニ、と呼んだだけだった。
 橘「…どういう事?」
 彼女の中で、ソフィアは現在天界に居る中で最も強い天使だ。その彼女がボロボロになった姿など想像した事が無かったが…
 聞こえた声からは、その姿が容易に想像できた。
 決心して家を出、何度も何度も通信をかけようと試みつつ目を閉じる。
 アルモニ「……何も…起こってないで!」
 無意味だと理解していても、祈らずには居られなかった。
 天使は、遥か彼方の空へ羽ばたく。
