二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*71話更新,企画実施中 ( No.669 )
- 日時: 2012/08/27 12:42
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
- 第73話 希望をつないで 
 雷門イレブンの動きがよくなった。霧野がキレのある動きでボールを奪うと、上がっている神童に向けてロングパスをした。
 神童は、目の前にあるゴールを見つめる。
 神童(チャンスだ……だが、俺のフォルテシモは、)
 帝国戦で、キーパーは技なしで止めてみせた。シードでも無いというのに。海王は全員がシードだ。通用するとは思えない。
 その時、桜の香りを乗せた風が、ふと通り過ぎる。
 まるで——万能坂戦の時、月乃が一緒に戦ってくれた時の様な感覚に陥る。
 神童「っ……!」
 フィフスセクターの手に彼女が落ちたとしても、きっと勝利を願ってくれているのだと。
 神童「フォルテシモ!」
 手を組んで祈っている月乃の姿が、瞼の裏に浮かんで消えた。
 「ゴールっ!! 雷門、ついに同点に追いつきましたーっ!!」
 *
 オラージュ「……何が、目的なんだ?」
 B級以下の天使達と天界周辺を見回りながらオラージュが思い出すのは、さっきの悪魔。
 天界を潰しに来た訳ではない、それは分かる。
 潰したいのなら大軍を引き連れてくるだろうし、1人で良いとしてもソフィアのみを敵に回すのは、何だか違う気がする。
 今戦っているソフィアとアルモニのコンビは、天界で1番強い。
 別にアルモニがペアで無くても良いんじゃないかとアルモニ自身以前言っていたが、2人は良く一緒に居るから、ソフィアはアルモニとコンビを組む。
 アルモニ『それにね、あたしとソフィアよりも強い天使がいるの。今は天界に居ないから、もう伝説なんだけどね。』
 いつも元気なアルモニの表情が陰ったのを、オラージュと、一緒に居たクローチェは見逃さなかった。
 オラージュ「……伝説の天使は、ルナかヴィエルジェか……」
 アルモニの尊敬する天使はフローラ・ヴィエルジェだ。確かに伝説だが、伝説として名高いのはルナという天使。
 恐らく前者の事だとは思うが。
 「オラージュ様っ、あれは何ですか?」
 B級天使の声に、ハッと我に返る。彼女の指差す方向を見てみると、ボックスがいくつか浮いていた。天使のマークがある。
 オラージュ「……僕も知らない。」
 近付いてじっくり観察してみると、清らかな聖力に纏われたはずのそれから、魔力に近いものを感じて顔をしかめる。
 もしかして、と耳を澄ますと、ボックスの中からカチコチと時を刻む音。
 頭の中で、パズルのピースがはまった。
 戸惑った様に名前を呼ぶ声に振り返らず、オラージュはソフィア達の居る場所へと飛んで行った。
 *
 バリスト「ククククッ、あと少しで天界は閉じ込められるのさ! 悪魔の結界によって!!!」
 ソフィア「! 結界……!?」
 気味悪い声でひとしきり笑った後、悪魔は去っていった。
 ソフィア「……無理して怪我を治すのはやめなさい。」
 ボロボロな体。胴体には見事5つの穴が開いていた。
 オラージュ「ソフィア、アルモニっ、ボックスから時計の音がする……悪魔は何か企んでるんだ。」
 ボックス……? それって、前あたしが見つけた奴かな。
 アルモニ「……そっか、あの悪魔は時限性のボックスが結界を張る物だって気付かれないように、ソフィアを閉じ込めて……」
 ソフィア「……アルモニ、そのボックスに気付いてたの!?」
 オラージュ「仕方ない、ソフィア。僕だって悪魔が来なかったら分からなかった。天界のマークがあったんだ。」
 違うよ、あたしが……!
 時計の音にも気付いてた、怪しいなって思ってた。だけど、オラージュと違って分からなかったのは……!
 『ケケッ、お前自身と俺との差は、大きいんだぜ……?』
 天界が閉じ込められたら、天使は天界から出られなくなる。人間界が、悪魔の良い様になっちゃう。全部全部、
 アタシガ、ヨワイカラ。
 *
 三国「フェンス・オブ・ガイアっ!!」
 天馬のキーパー姿に影響を受けたのか、三国は新技を披露する事が出来た。敵のシュートをはじき返す、隕石の壁。
 天馬がボールを受け取って、敵陣へ走り出す。ドリブルを阻止しようと立ちはだかるのは、海王ポセイドンの浪川。
 天馬「いくぞっ! 魔神ペガサス!!」
 化身同士のぶつかり合いを制したのは、魔神。放ったシュートはゴールキーパーを押しのけ、雷門の勝ち越し点となった。
 4−3、雷門が地区予選優勝を果たす。
 *
 ビーッ、とアラームが鳴り響いた。
 それと同時に見回りにあたっていた天使3人が、焦った表情でソフィア達の前に姿を現す。
 「大変ですっ、天界を囲むようにしていたボックスが爆発してっ…」
 「壊そうと1つ試しにやってみたのですが、」
 「攻撃した場所が突然硝子みたいな物で覆われちゃったんです!」
 硝子、という単語にソフィアは顔をしかめ、アルモニは絶望的な表情になる。
 ガイア「どうやら結界を張られると外を見るのも大変になりそうなのだけれど……」
 その言葉に、オラージュは俯いた。ボックスに気付けなかったのは、聖力に纏われていたからだ。
 魔力ならすぐ感知する事が出来ただろうが、天界は聖力で満ちている。周りに聖力がいくつか発せられていたとしても分からないだろう。
 オラージュ「……このまま全員、閉じ込められるか?」
 視線がソフィアに注がれた。人間を悪魔から守る役目を担う天使の長であるソフィアが決定権を持っている。
 ソフィア「……アルモニ、そしてオラージュ。クローチェと共に人間界に下りるであろう悪魔の退治をしなさい。」
 アルモニ「!」
 ソフィア「この傷を急に治すには聖力が沢山必要になる。だから腕を骨折した事にして、ゆっくり治しなさい。……アルモニ、」
 すっかり自信を喪失し俯くアルモニを、ソフィアはそっと抱きしめる。
 ソフィア「仲間がいるの、助けてくれるフローラもいる。私も応援してる。……天界の希望を、つないで。」
 大きく開かれた桃色の瞳から、涙が溢れた。
 アルモニ「……うんっ、」
 オラージュ「アルモニ、いこう。」
 2人の天使が、閉じていく結界の隙間を通り抜けて、空を翔る(カケル)。
 *
 「……」
 少女が目を開けた。暗い暗い、部屋の中で。汗で湿った、組んでいた指をほどいてズボンをぎゅっと握りしめた。
 その時、部屋のドアが開いた。明るい廊下が照らす人物のシルエットを認識して、少女は顔をしかめる。
 「雷門と海王、勝ったのは雷門だ。」
 知っているとは思うが、と言ってさらに男は続ける。
 「悪魔は無事、天界に結界を張る事に成功した。天使長が貴様を助けに来る事はないだろう。天使長は結界を破壊しようとするだろうが、バリストが何年もかけて作り上げたんだ。無理だろう。」
 天界NO,2の悪魔か、と少女は心の中で呟く。
 「しかし、相変わらず力がある様で安心した。自分の物だったとはいえ、槍をあそこまで強く出来るとは。」
 澄ました顔で、表情1つ動かさず少女は男を睨む。
 「……私は、諦めてない。」
 沈黙から背を向けた男に、凛とした声で言い放つ。
 閉められたドアと、遠ざかっていく足音を聞いて少女は俯いた。
 「……兄様。」
 脳裏には、勝利の喜びに浸る雷門イレブンが見えた——。
 *
 「魔王を1人で倒せると思っているのか、フローラ・ヴィエルジェよ。」
 ニヤリと笑う男は、禍々しい魔力のオーラを見え隠れさせた——。
