二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*73話更新,短編募集開始 ( No.676 )
- 日時: 2012/08/31 10:17
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
- 第74話 暗雲 
 あ……。
 橘「……雨だ。」
 空が泣いてる、そんな表現がぴったりだと思う。
 「月が見える、のに。」
 橘「女神様の力も、結界を通らないのかな。」
 真夜中。あたしとオラージュは、ビルの屋上に座って空を見上げた。ぽつりぽつりと、右手を空に向けると落ちてくる雨粒達。
 橘「……月、綺麗だね。」
 オラージュに向けて言った様な、独り言の様な。
 オラージュ「……あの槍を選んだのは、必然だったと思う。」
 ビックリしてオラージュを見ると、夜空からあたしに視線を移して。
 オラージュ「きっと、アルモニを守るために、僕に向かってアピールしてたんだ。」
 引き寄せられた、ってオラージュは言う。
 脳裏によみがえったのは、天界を嫌がったあたしを説得した、あの人の優しい表情。
 ソフィアに見せた強がりな表情。その表情を見たあの後2人は居なくなって、数日たって戻って来たのはソフィアだけだった。
 オラージュ「……アルモニ、」
 気付くと、あたしが見ていたのは雨が吸い込まれていく、ビルの屋上だった。
 橘「あれ……?」
 何で、こんなにも歪んで見えるんだろう。何で、あたしの声は掠れてるんだろう。沸き上がってくる感情に、段々支配されていく。
 体のダメージを骨折に変換した左腕が、痛い訳じゃないのに。
 橘「っ、あの人はね、」
 オラージュ「……良いよ、また後で聞く。」
 口から漏れる声は、泣いた時特有の物だったんだ。
 背中を摩ってくれるオラージュの手があの人の思い出と重なって、そう言えばあたしがあの人を尊敬するようになった日も泣いたんだっけって、思い出したら余計に涙が出るのも構わないで、あの日の思い出に浸った。
 *
 「私、ずっと待ってたんだけど。」
 泣き笑いの空も泣きやんで、今日は元気なお日様が望めます。……あたしの1日のスタートは、全然元気じゃないけど。
 橘「そうだったの!? ご、ごめんねク…未港。」
 帰宅したあたしを迎えたのは、A級天使のクローチェこと青卯未港。
 オラージュは一旦天界周辺に戻ったの。見回りの天使が取り残されてるかもしれないって。
 橘「それで、未港は何の用事?」
 未港「つかんだじょ((「美咲〜っ!!!!」
 うっ、ええ?!
 「良かったわ〜! 貴女が家出なんて初めてでしょう、そんな年齢になったのかと思って嬉しさもあったけどやっぱり心配で……」
 未港「……お母さん、肩揺すりすぎで美咲が意識飛ばしてますが。」
 「あっ、あら本当…………ってその左腕どうしたの!?」
 え〜〜〜っと、ヒヨコが3匹歩いてる地鳴りでくらくらして……。
 未港「……後で話聞きましょう。」
 そっかぁ、ニワトリ飼い始めたんだね〜〜。
 *
 天馬「美咲、大丈夫かなぁ。」
 葵「うん、昨日結局来なかったもんね、学校。」
 西園「今日の朝練にもいなかったし。」
 何だか、彼女の居ないサッカー部はさみしい気がする。
 「美咲って、あの天使?」
 天馬「! 狩屋!」
 一緒に教室まで行っていいかな。ニッコリ笑う狩屋マサキは、昨日転校してきてサッカー部に入ったクラスメイト。
 それより、
 「……天使って、何…?」
 4人「!」
 ビックリした、震えてて少し怖い声だった。恐る恐る振り返ると、弱弱しく笑う美咲さんがいた。
 ・
 ・
 天馬・西園「こっせつぅぅ!!!?」
 1時間目が始まる前のちょっとした時間、左腕を三角巾で吊るした美咲さんはいつも通り笑う。
 橘「海王戦の日、途中で帰ったでしょ。その時急いだらこけたの!」
 葵「どこで?」
 橘「駅の階段!」
 ……急がば回れって、本当だわ。
 「おっちょこちょいだね、橘さん。」
 橘「あ、狩屋マサキ君だっけ? 美咲で良いよ!」
 葵ちゃんもねっ、て言うけど。何だか、可愛いのに妙な所でお姉さんみたいだから、どうしてもさんをつけたくなっちゃう。
 狩屋「じゃあ美咲って呼ぶね。」
 橘「あたしは…ハンター君って呼ぼうかな! あだ名好きなの! ねっ、歌ちゃん!」
 歌音「いい加減やめてくれない?」
 でも、良かった!
 骨折しちゃったけど、美咲さ…美咲はいつも通りだし、皆もいつも通り!
 狩屋君とも仲良くなれそう……。この時は、本当にそう思ってたの。
 *
 秋空チャレンジャーズとの試合、そして翌日の今日と美咲はなかなかサッカー部に来ない。
 早く狩屋のプレーを見てほしいなぁ! だって、上手なんだもん!
 でも、霧野先輩は狩屋をシードじゃないかって疑ってたみたいだ。俺はそうだとは思わないけど……。
 仲悪くなってほしくないな、狩屋は優しい、良い人だと思うんだ。
 放課後の練習が始まる前に、部室に集まってミーティングがあった。通り雨だからかな。
 狩屋「最近、通り雨とか多いね。」
 天馬「うん、梅雨じゃないのに…」
 俺と狩屋が話しながらサッカー棟に入ると、監督が早く来い、と手招きしていた。あれっ、もしかして俺達が最後!?
 「ラスト2人到着か。」
 ——誰、だろう。
 音無先生の隣に立っているその人は、何だか水鳥先輩に似た雰囲気の人。高い位置で結ばれた薄い紫色の髪が目を引く。
 誰かに似てるような。
 円堂「この人は俺達の後輩で雷門中OGの、」
 「鈴音だ。今日は雷門中サッカー部の皆に報告しなければならない用があって来た。」
 凛とした声で緊張に包まれる。な、何だろう…? 雷門中の先輩が、一体……。
 鈴音「南沢篤志が、転校した。」
 全員「!!」
 狩屋「? 天馬君、その人って…天馬君?」
 そんな、南沢先輩が転校してたなんて……。
 三国「やっぱりそうだったか。」
 鈴音「3年の皆は何となく分かってたかもしれないけどな。」
 車田「鈴音さんが今日来てるのを見て、確信しましたよ。」
 3年の先輩方と鈴音さん、知り合いなのかな。
 天馬「あの、鈴音さんは南沢先輩とどういう……?」
 鈴音「俺自身嫌だけど。」
 俺…? 無関心そうだった狩屋も、鈴音さんの方に視線を向けた。
 鈴音「南沢篤志は、俺の弟だ。」
 *
 橘「姫夜っ、ソフィアには会えた!?」
 病院の木陰で、橘は姫夜もといオラージュと話をしていた。
 姫夜「何とか、美咲の望んだ答えは聞いてきた。」
 橘「本当!?」
 姫夜「ああ、サッカー部にマネージャーとしてなら参加して良い、って。」
 ありがとありがとっ、と嬉しさのあまり姫夜の手を取ってぶんぶん振った。痛い、と呟くとハッとして橘は手を離した。
 橘「ごっ、ごめん! それじゃあ後で家に来てね、今日は会議だよ!」
 彼女がサッカー部に行けなかったのは、単に怪我のみが原因ではない。天界が結界に覆われ応援を呼べない状況でサッカーをし、聖力を発揮させ悪魔にばれてしまってはまずいからだ。
 オラージュは声が聞き取り辛いが結界を介してソフィアと話し合い、橘のマネージャーでのサッカー部参加を認めてもらった。
 サッカー部をこっそり悪魔から守れる、という橘の言い分が効いたらしい。
 姫夜「……サッカー、か。」
 やった事はないのに、懐かしい響き。戸惑いながらも目を閉じて、木の幹に体を預けた。
 輝姫(見覚え、ある…?)
 10年に1人の天才サッカープレーヤーの見舞いに来た少女が、見ているとも知らずに。
