二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 短編集-花闇-【雑食/オリジナルうp】 ( No.16 )
- 日時: 2014/05/04 16:06
- 名前: 帆波 (ID: QxOw9.Zd)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=8089
 「じゃあ、また明日ね!」
 あの日、そう言って去っていった君が居なくなって何週間経ってしまっただろうか。
 もしかしたらそう長くは経っていないかもしれない。数日だったか、数週間だったか。そんな時間感覚すらも惑わしてしまうのだ、君の存在は。
 「今日も、あの子は帰ってきていませんか」
 「ええ、まだ……。ごめんなさいね、毎日うちに通ってもらって、手紙まで届けてくれて。黒子くん…だったかしら?うちの子とはクラスメイトなのよね」
 「はい。あと、娘さんにはバスケ部でお世話になっています」
 「あら。貴方バスケ部の…?」
 「黒子テツヤといいます。娘さんにはいつもお世話になっていました」
 改めて名前を名乗ると、彼女の母親は目を大きく見開き驚愕の色を浮かべる。そしてゆっくりと顔を綻ばせて。
 「そうだったの…、貴方が黒子テツヤくんね。うちの子、貴方のことをよく話していたわぁ。楽しそうにね、今日のテツヤくんのパスが凄かったとか、今日は基礎練を特に頑張っていたとか、色々。ごめんなさいね、あの子テツヤくんとしか言わなかったから名字を知らなくて」
 「いえ、ご存じなくて当然ですから。…あと、これ今日の分のプリントです」
 「ありがとう。…もうすぐ、卒業なのにねぇ。まったくもう、あの子ったらどこにいってるのかしら?家出なんかする子じゃないし、きっと誰か友達の家にでも泊まっているのね」
 困った子よ、ほんと。柔らかに微笑んでみせた彼女の母親の表情にはどこか陰りがあって、見ているこちらの胸が苦しくなる。この人は信じたいのだ。事態を軽く見ることで、今にも泣き出してしまいそうな自分を抑えて、またひょっこり帰ってくるのだという希望を持ちたいのだ。
 それがどうにも痛々しくて見ていられず、思わず顔を俯かせる。
 「…ごめんなさいね、夕飯の支度があるから……」
 「いえ、ボクの方こそ引き止めてしまってすみませんでした。また明日来ます」
 「ええ、お願いね」
 最後にはにっこりと笑って家の中へと消えていった。
 ばたんと音を立てて閉められたドアに、これでまた一つ彼女と関わる術を失ってしまったことを改めて痛感する。所詮は淡い恋心だと思っていた感情が、これほど大きくふくれあがるなんて。大切なものは失ってから気付くというのは本当だったらしい。影の薄いボクを見つけてくれる彼女、どんな事もまるで自分に舞い降りた幸福かのように喜ぶその無邪気な笑顔、悩み苦しむ姿さえ可愛いと思った時にはああ末期なんだと感じた。
 きっと彼女に縋っているのは母親だけではない。ボクもまた、彼女がまたいつも通り学校にくることを心の何処かで信じている。おめでたい頭だと思う。これじゃあ黄瀬くんに何も言えないし、青峰くんにも何も説教できやしない。
 お願いだから早く帰ってきてください。ボクの心を塗りつぶす君へ。
 ((カノジョの消息))
 ————
 「——ごめんね、帰れないや」
 その日、見慣れない景色に少女は身を投じた。深い深い青に飲み込まれていくその身体。まるでベッドの上で長い眠りにつくかのように丸められた手足はなんの抵抗もなく落ちて行く。その手には一つのボトルが握られていて、次第に意識が薄れていくと共に緩んだ手から逃げ出した。
 昔の文通のようにボトルの中には一枚の手紙と、写真が入っていた。一人の少女と一人の少年が笑い合って撮られた写真、女子らしい丸い字体で綴られた手紙が見られる時は、一体いつになるのだろう。
 ごめんなさいとさえ言えなかった、家族。そして初恋の君へ。
 後書き
 またまたお題から。根緒様ありがとうございました!
 黒子くん初めて書きました。黒子くんはまあとりあえず敬語で喋らせとけばなんとかなるからいいですよね。黒子くんに限らず大抵の敬語キャラは動かすのが楽です。
 時間軸は一応中3の最後らへんで、黒子→←夢主な両片思いってやつです。
 当初の予定は夢主ちゃんどっかにトリップさせようかなって思ったんですけど成り行きで死ネタに走ってしまいました、すみませんorz
