二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ぬらりひょんの孫〜月下美人〜 ( No.281 )
- 日時: 2012/08/10 10:11
- 名前: このみ (ID: cSy8Cn7x)
- 参照: http://yaplog.jp/momizi89/
 「あ……」
 「久しぶりね、ぬらりひょん」
 「……お久しぶりです」
 「ふふ、そんな硬くならないで頂戴。私も輝夜も怒ってないから。あ、でも月夜は少し怒ってたわ」
 ニコニコと笑いながら話す夜瑠とは逆に、申し訳なさそうな悲しそうな微妙な表情で立ち尽くすぬらりひょん。
 その空気を壊すかのように珱姫の声が響いた。
 「妖様〜〜〜っ!」
 「!!珱姫!」
 ハァハァと息を切らしながら屋根に登ろうとしている珱姫。
 その手を掴み引っ張り上げた。
 「お怪我を……」
 「おぅ、サンキュー。でも、悪いんじゃが後にしてくれんか」
 「大丈夫よ、黙って治してもらいなさい。致命傷が無いとはいえ酷い怪我なんだから」
 「すみません。珱姫、頼む」
 「あ、はい……」
 珱姫は夜瑠の存在を気にしながらもぬらりひょんの怪我を治していった。
 《あの方が『輝夜』さん?》
 全てを治し終えたところで、夜瑠が珱姫に向かって口を開いた。
 「初めまして。私は月の都の女王で、輝夜の母の夜瑠です。貴女が珱姫さん?」
 「は、はい……」
 「可愛らしいお嬢さんね、羨ましいわ」
 夜瑠も十分綺麗なのだが、本人に自覚は無いようだ。
 《この方は『輝夜』さんじゃないんだ……》
 「あの、輝夜は……月夜は……」
 「……長い話になるわ。それに、あなたの百鬼も一緒に聞いた方がいいわ、一旦下に降りましょう」
 「はい……」
 一同は一つ目や雪麗のいる階へと降りて行った。
 京妖怪が散り散りになり、ようやっと話が出来るような空間が作られた。
 妖怪達は珱姫に怪我を治してもらい、治った者から夜瑠に挨拶をしていった。
 挨拶が終わり、全員が床に座ると、夜瑠は話し出した。
 「まず、輝夜達がかかった病気は、治っていないわ。駄目だった。もう最終段階に入っていて、どうこうできるような状態じゃなかったわ」
 その言葉で、全員の表情が強張った。
 先程までぬらりひょんが勝ったと聞いて大喜びしていたのに。
 夜瑠の話は続く。
 「さっきの金色の光。皆見たわよね?」
 珱姫はコクリと頷いた。
 他の妖怪達は首を振った。
 ぬらりひょんは押し黙っている。
 「あら、見てないの。そう……。じゃあ一回目を見た珱姫さん、説明をお願いできる?」
 「あ、はい。えっと、私が淀殿に胆を食われそうになる直前に、金色の光が月から降り注いで……。
 淀殿の身体を半分ほど焼きました。その後すぐに妖様が来てくださいましたので、私は妖様がなさったのかと気にしていなかったのですが……」
 「合ってるわ。その通りよ」
 「あの時羽衣狐の身体が焼けていたのはそのせいじゃったのか……。
 ワシはてっきり他の姫達がやったのかと」
 とそこで、一つ目にしがみついている幼い姫を見る。少女はフルフルと首を横に振った。
 「本当のことを言うわ。あれは輝夜よ」
 「輝夜がやったのか!?」
 「違うわ。輝夜なの」
 「……?」
 「あれは……あの光は、
 輝夜自身。
 王族は自分の命を力に変えることが出来る。
 その時使う量によって、代償はそれぞれ違う。
 ほんの少ししか使わないのなら、少し寿命が縮むだけで済むけれど……。
 大量に使ってしまうと、右手が代償に無くなり、左手が無くなる。
 また使えば左足、右足と徐々に身体は削れていって……。
 遂には、消滅するのよ。
 無くなるときに、胴体から切り離される部分は「花」となる。
 まぁこれは、王族の血が流れていれば、死ぬときに必ずそうなるのだけれど……。ああ、力を使わなくても、という意味よ。
 ついでに言うけれど「花」は人それぞれ違うわ。
 私は「薔薇」。月夜は「牡丹」。輝夜は……
 「月下美人」。
 その「花」は誕生花なの。
 貴方達、流石にこれは見たでしょう?
 月下美人の花を。
 すぐに消えていった温かい花を」
 今度は全員が首を縦に振った。
 屋根の上に来なかった者でも、あの大きく空いた穴から落ちてきた花は見たのだ。
 「それで……輝夜は、輝夜はどうなったんじゃ!?どこまで、無くなってしまったんじゃ!?」
 ぬらりひょんは夜瑠に掴みかかるほどの勢いで尋ねた。
 それを牛鬼や雪麗が止めながら、夜瑠の言葉を待つ。
 「輝夜は……
 貴方があの女狐に屋根の上で胆を食われそうになった時に、慌ててそれを止めて……。
 力を使い果たして、死んだわ…………。
 だからこそのあの大量の月下美人が降り注いだのよ」
 歯を食しばりながら、涙を流しながら、悔しそうにそう絞り出した声は今にも消えそうで。
 嘘ではないと、冗談ではないと言っていた。
 嘘であってほしいと、冗談であってほしいと思った。
 だけれど、言えなかった。
 それはこの戦いの事実であり真実なのだから。
 変えることは出来ない過去となってしまったのだから。
 「王族の死に様はね、とても美しいけれど……。
 自分の子供の遺体も手にすることは出来ないのよ。私達親は。
 だから「親より先に死ぬな」って……言われてるのよ」
 夜瑠は立ち上がって着物に着いた埃をパッパッと払うと、階段を上り始めた。
 「黙ってたけど、月夜が来てるの。一回でいいから会ってあげて」
 「……!!」
 「お久、しぶりです……お父、様」
 「久しぶりじゃな月夜。……随分痩せたな」
 「そ、うです、か?」
 「……ああ」
 月夜は他の月の妖におぶられていた。
 もう自分で歩く事は出来ないらしい。
 疲れ切った表情で、笑っている。
 その笑顔にどうすればいいのか分からなくなって、ぬらりひょんは黙り込んだ。
 それに月夜は眉を下げて笑うと、ちょいちょい、とぬらりひょんを手招きした。
 「……?」
 近付いた時、月夜が両手でぬらりひょんの両頬をパアン!と叩いた。
 突然の事にぬらりひょんは「!!??」を浮かべている。
 「お母様を、捨てた、罰……で、す」
 「……すまん……」
 「でも、これ、で…………他の、方を愛す、ることが、できます」
 「……月夜」
 「かなら、ず……珱姫さん、を、幸せに……してあげて、下さい」
 ふにゃり、と笑った月夜はぬらりひょんから手を離し、自分をおぶっている妖に体を預けた。
 そして……。
 月夜の右手と左手の先が、牡丹の花になり屋根の上に落ちた。
 その光景に誰もが言葉を失っている中、月夜はどんどん花となっていく。
 両腕が花となり、両足が消えそうになった時、月の妖は月夜を屋根に下ろして、泣きながら月へ帰っていった。
 月夜は自分の身体が無くなっていくのを感じながら、ぬらりひょんを見て笑った。
 そして月夜の身体は全て花となり消えていった。
 「月夜……輝夜……」
 そう呟いた時、珱姫がぬらりひょんの手を取って言った。
 「私が貴方をあの方たちの分まで幸せにします。必ず、幸せにします。
 これからも、お怪我を私に治させてください」
 「珱姫……」
 それに頷いた時、涙が流れた。
 輝夜が死んでから流す事の無くなった涙が溢れて来て、胸が苦しくなった。
 輝夜や月夜に対しての申し訳なさはある。だからこそ珱姫を幸せにしなければならないと思った。
 それが二人にとっても一番幸せな事だと信じて。
 気付けば夜瑠はいなくなっていて、月下美人や牡丹も全て金色の粉となって消えていた。
 まるで何もなかったかの様に消えていった二人。
 それでも自分の胸の奥に二人は生き続けているから。存在しているから。
 これから必ず幸せになる。
 君がいてくれたから、好きになれた。
 君が笑ってくれたから、嬉しくなった。
 君が愛してくれたから、幸せだった。
 サヨナラは言わない。
 だからせめて、ありがとうと言わせて。
 ありがとう。
 最終幕 ありがとう
 「ぬらりひょんの孫〜月下美人〜 終」
 2011/11/27 〜 2012/08/09
 あとがきは次です↓↓
