二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- その4 (1) ( No.14 )
- 日時: 2012/07/14 15:39
- 名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: A7lopQ1n)
- 「死者の匂いが近付いているよ。黒鳥さん、気をつけて…」 
 「え?」
 一瞬、鉄錆のような匂いが、ツンとあたしの鼻をついた。
 目を開けると、見慣れたベッドの模様が視界に入った。
 ありゃ?大形くん、あたしの部屋に飛んできたんだ。
 それより、死者の匂いって、何?
 …って、大形くん、いないし!どこ行ったのよ!
 あたしは部屋中をキョロキョロ見回す。
 多分まだギュービッドは帰ってきてない。ベッドは朝掃除したときの、ピシッとした姿を保っている。
 ギュービッドが帰って来てたら、多分すぐゴロンて寝っ転がるハズだし。
 うーん…。
 ギュービッドと桃花ちゃんがずっと居ないのと、大形くんがギュービッドの名前を出したこと。
 それに、5年1組の異常な静けさもきっと関係ある。
 何か起こってる。絶対。
 あたしは何をするべき?
 「……。」
 …とりあえず、何が起こっても良いように、ゴスロリに着替えておこうっと。
 そう思って、クローゼットを開けた途端、
 「おおっ!チョコぉ!帰ってたのかっ!」
 うわあ、びっくりしたぁ!
 窓がガラバーン!と勢いよく開いて、ギュービッドが飛び込んできた。
 「なんだよ、折角学校に迎えに行ってやったのに!帰ってるなら先に言えよ!」
 ギュービッドがお怒りモードで叫んでくる。
 いや、あたしケータイ持ってないし。ギュービッドさまの番号も知らないし。
 ていうか、窓をそんなに強く開けないでよ。二階に誰かいること、ママにばれちゃうよ。
 「ママさんは買い物に行ってるぞ」
 あ、そう。
 「とにかく、自分から帰って来たってことは、異変には気付いてんだろ!さっさと着替えろ!モリカワへ行くぞ!…って、桃花もいねーのかよ!」
 「異変…」
 ああ、やっぱり何かあるんだね。今度は何が起こるのやら…。
 あたしは、言われた通りゴスロリに着替え始める。
 その間も、ギュービッドはそわそわと窓の外を見たり、部屋中をぐるぐる歩き回ったり、落ち着かない。
 やめてよ、焦るとボタンが留めにくい…。
 「ねー、ギュービッドさま、今度は一体なにが起こるの?」
 あたしが我慢出来ずに尋ねると、ギュービッドは窓の外を覗いたまましっしとこちらに手を振った。
 「あとで、あとで!それより早く着替えろっての!」
 あとでって…すごく気になるじゃん。
 まあ、モリカワで訊けばいいか。
 「早くしろー」
 ギュービッドが振り返って急かしてくる。
 あーもう、うるさい!これでも急いでるんです!
 パニエを付けて、あとはヘッドドレスを…。
 「おねえちゃんッ!!!」
 「うわぁ!?」
 再び窓がガラバーン!と音を立てて開いて、今度は桃花ちゃんが飛び込んできた。
 そんなに何度も勢いよく開けたら、割れちゃうんですけど…。
 「こらぁ!桃花!」
 ギュービッドはというと、窓を背にして立っていたせいで、桃花ちゃんに背中に体当たりされて、うつ伏せにぶっ倒れている。
 「すいません先輩!でも大変なんです!おねえちゃん、大形の居場所知りませんか!?」
 大形くん?家に帰ったんじゃないの?
 「あたしも先輩を追いかけて、大形を迎えに行ったんです!でも、5-1の教室にはいないし、家にもいないし。てっきり先輩がおねえちゃんと一緒に連れて帰ったのかと思ったんですけど…ここにも居ないみたいですし」
 部屋を見回しながら桃花ちゃんが言う。
 「あたしは連れて帰ってきてないぞ。てか、チョコは自分から帰ってきてたし」
 ギュービッドが背中をさすりながら立ち上がった。
 「そうなんですか!その時大形は教室にはいましたか!?」
 いやいや、居たけどさ…。
 「あたし、大形くんにここに連れて来られたんだよ。いきなり瞬間移動魔法使われて…」
 大形くんも家に帰ったんだと思ったんだけど、違うみたいだね。
 大形くんが行方不明…なんかまた大変なことになってきたよ。
 異変って、これのこと?ぬいぐるみの力が弱まってきてるとか。
 あたしの言葉を聞いて、ギュービッドと桃花ちゃんが固まった。
 ついでに桃花ちゃんの顔がみるみる青ざめていく。
 「…んだとおいおいまじかよっ」
 ギュービッドが頭を抱える。
 あれ?ギュービッドが慌ててたのって、これのことじゃないの?
 「はぁ…また協会のお叱りを受けるのは嫌です…」
 桃花ちゃんがなにか呟きながらがっくり膝をついてうずくまった。えっと、桃花ちゃん大丈夫?
 「ああぁのトラブルメーカー!!騒ぎに便乗して脱走とはいい度胸してんじゃねーか!!」
 ギュービッドがブチ切れた。…どうでもいいけど、大形くん、多分ギュービッドにはトラブルメーカーとか言われたくないと思うよ。
 あたしが頭のなかでこっそりそんな事を考えていると、ギュービッドの怒りの矛先はあたしの方を向いた。
 こっちを指さして怒鳴ってくる。
 「つーかチョコ!なんで大形止めないんだよっ!瞬間移動魔法なんか使ったら、いくらなんでもおかしいって思うだろ、普通!…あれか、またなんか変な嘘つかれて利用されたんだろっ!」
 いやいやいやいや。だっていろいろいきなりで何がなんだか…。
 「ちょっとまってよ、なんか置いてきぼりなんだけど。あたし、まだ、大形くんがどっか行っちゃった事しか知らないんだよ」
 そんな状態で何を言われてもイマイチついて行けないよ。
 「…あー、そうだっけか…しゃーない、とりあえずモリカワへ行って、黒雷達に合流しないと…」
 ギュービッドは決まりが悪そうな顔でそう言って、窓の外を覗きこんだ。
 あたしはまだ突っ伏している桃花ちゃんを起こしにいく。
 「桃花ちゃん…えっと…大形くんのこと、止められなくて」
 「大丈夫です、おねえちゃんのせいじゃありません」
 桃花ちゃんはそう言って、ばっ、と上半身を起こした。
 「大形…今度こそ許しません!見つけたら、ダイナマイトだけじゃ甘いです!」
 ピンクの目に炎が宿ってる。うん、その方が桃花ちゃんらしくていいけど、勢い余ってダイナマイトを直にぶつけちゃ駄目だよ。
 「おー、桃花、復活したか。じゃ、急いでチョコのパパさんとママさん用の黒魔法を仕掛けてこい。また何日か人間界に帰れなくなるかもしれないからな」
 ギュービッドがニヤニヤしながら桃花ちゃんに言う。
 って、ええーー!!あたし聞いてないよそんなこと!
 「ふん、もう無断外泊は慣れっこだろ、ギヒヒヒヒ」
 無断外泊とか言わないでください。好きでやってるんじゃないです。
 「まあまあ、おねえちゃん。ちゃんとばれないようにして来ますんで、安心してください」
 桃花ちゃん、さっきの顔色はどこへやら。基本、あたしの周りの黒魔女達はポジティブな人ばっかりです。
 「では、ちゃちゃっとおねえちゃんの替え玉を」
 「あ、ちょっと待った、桃花」
 窓の外を覗きながらギュービッドがストップをかけた。
 「チョコ、外見てみろ。ハデハデ女が来てるぞ」
 え?メグ?なんで?
 あたしが大形くんに飛ばされたのは、二時間目の後だよ。まだ学校は終わってないはず。
 あ。
 「まさか、瞬間移動するとこ見られちゃったとか…」
 それで、あたしの事を探しにきたのかも。あたしが家にいるとも限らないのに。
 「それなら、記憶を消すのに都合がいいぜ。わざわざ消されに来てくれるとは、あいつもなかなか気がきくな」
 そういうわけでもないと思うけどね…。
