二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- その5 ( No.17 )
- 日時: 2012/08/05 23:33
- 名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: A7lopQ1n)
 ★
 「……ーっと……い丈夫?…起きてよー!」
 目を開くと、目の前に揺れる人影。
 いや、あたしが揺れてるんだ。誰かがあたしの身体をがくがく揺すっているらしい。
 これは…どういう状況だ?なんだか頭がぼーっとする…。
 えーと、さっきまで、あたしは…、チョコの部屋にいて…ハデハデ女が訪ねてきて…いきなり…。
 「…ぉおおあああ!!?」
 状況を思い出し、思わず大声を出してがばっと起き上がる。一体あの後どうなった!?ハデハデ女は何をした!?チョコは?桃花は?
 「あっ…えっと、ギュービッド、大丈夫?」
 あたしを揺すっていた人影は、ひょいとあたしの顔を覗き込む。
 学生だった頃から見慣れてる、赤毛の三つ編みと、そばかすの可愛い顔…。
 「……森川!?」
 「うん。ギュービッド、どうしたの?なんでこんなところでお昼寝してたの?」
 森川は心配なのと、呆れてるのとが混じったような顔をして、あたしを見つめてくる。
 なんで、は後で話すとして、まずは。
 「…森川、ここ、何処だ?」
 「……ギュービッド、本当大丈夫?」
 「いや、まじでわかんないんだけど」
 辺りをキョロキョロ見回すと、どうやら森の中っぽいけど…。
 「…魔界か?」
 「ええ…まあ、そうね。魔界だけど」
 「悪いもうちょい詳しく」
 「魔界か?って言ったのはギュービッドじゃない…。えっと、火の国の森の中よ。もう少し行けば“森川瑞姫の店”があったところ」
 ふーん…。
 あれ?そういや…。
 「…何であたしは魔界に来れたんだろ」
 「え?どういうこと?」
 あたしの呟きに、森川が反応する。
 「は?知らねーの?」
 「えっと…うん」
 森川はしまった!というような顔をして、それから決まりが悪そうに眉をひそめた。
 あたし何か変な事言ったか?…まあいいや。
 「んー…、昨日から瞬間移動魔法に変な妨害が入っててさ、魔界と人間界の移動がうまくいかなくなってたんだよ」
 「…そうなの?なんで?」
 「知らん。で、悪魔情に何とか繋いでもらって、チョコ達と一緒にこっち来ようと思ってたんだよ。黒雷と桜田は人間界のモリカワにいるはずだけど」
 「そうなんだ…。私、ここ3日はずっと魔界に居たから、全然知らなかったわ」
 ふーん。
 「3日も魔界に居て、モリカワほっといていいのか」
 「モリカワは大丈夫!暗御留燃阿さんに預けてあるから」
 そうか。まあ、暗御留燃阿に預けてあるなら確かに心配はいらないな。
 「それで、ギュービッド、黒雷達は何処に飛んでくるのか知ってるの?」
 「いや…あたしらもモリカワから一緒に来るハズだったから、全然」
 悪魔情が何処に繋ぐつもりだったのかも聞いてないし。
 「じゃあ、とりあえずこっちの“森川瑞姫の店”に行ってみたら?」
 そう言いながら、森川は立ち上がった。
 あたしも釣られて立ち上がる。あ、良かった、身体は普通に動いた…。
 「“森川瑞姫の店”?だってあれもう、残骸だって片付けたんだろ?地下室だって埋められちまったんじゃないか」
 「大丈夫!ほらあっち」
 森川があたしの背後を指差した。
 振り向いて指差している方に目を凝らすと…。
 「…いや、なんも無えぞ」
 見えるのは森の木々ばかり。
 「ちょっと坂になってるから見えないだけよ!この先に“森川瑞姫の店”の跡地があるから、真っ直ぐ行って」
 はあ?
 「跡地って、そりゃそこにあるんだろうけど、行ってどうすんだよ」
 森川に背を向けたまま訊いてみる。
 返事は無い。
 「…森川、おい行ってどうするんだって」
 言いながら振り向くと、森川がいなくなっていた。
 …は!? なんで?どこ行った…?
 辺りを見回しても、森川の姿は見えない。
 瞬間移動魔法の呪文は聞こえなかったのに…。
 「…訳わからんことが多すぎるだろ」
 チョコと桃花の居場所は分からないし、ハデハデ女の正体も謎だし、森川も何処かへ消えちゃったし。
 心配して慌てようにも、何をどうすればいいのか分からないから、慌てようが無い。
 「どうすりゃいいんだ…?」
 …まあ、立ち止まっててもしょうがないよな。
 ため息をついて、あたしはとりあえず“森川瑞姫の店”跡地に向けて走りだした。
 *
 「…何処ですかここはーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
 目を覚ましたあたしは、辺りをキョロキョロ見回して、開口一番そう叫びました。
 叫んだ後に我に返って、深呼吸して落ち着きます。パニックは良くありません。周りが見えなくなります。
 あたしが居るのは、どうやら森の中のようです。魔界植物がちらほら見受けられるので、多分魔界のどこか。
 近くにおねえちゃんと先輩は見えません。
 「…どうしましょう」
 なにか行動しようにも、何が起こったのか全く判らないので、動きようがありません。
 おねえちゃんの友達らしい少女、またはそれに化けた魔法使いは一体何をしたのでしょう。
 黒魔女初段のあたしでも、複数人の黒魔女を、触れずに魔界へ強制送還する魔法なんて聞いたことがありません。
 しかもあのとき、浮遊感の他にも、何か気持ち悪い違和感を感じました。これはきっと、今回の大騒ぎにも関係あるはずです。
 どうにか先輩やおねえちゃんと合流して、何が起きているのか調べなくては!
 「……ーい」
 …ん?
 何か声が聞こえたような…。
 「…えて……かー…」
 な、ななな、誰ですか!?
 こ、答えろ!さもないと…。
 「…うわわわゎ!やめて!落ち着いてください!こんなところで危険物を投げちゃダメですよ〜!」
 草むらから何かが飛び出して、ダイナマイトを取り出したあたしの周りをぐるぐる飛び回ります。
 まんまるい赤ちゃんみたいな可愛い顔。ちっちゃいけど、悪魔みたいな真っ黒ずくめの…。
 「“悪魔みたい”じゃなくて、悪魔です!おいら、悪魔情っての。悪魔が苗字で、情が名前ね。そこんとこ、よろしく!」
 悪魔情はあたしの目の前で飛び回るのをやめて、ニコっと笑う。
 …はぁ。で、どうしてここに?
 「そんなの、探しに来たに決まってるじゃないですか!」
 探しに来た?
 「そうですよ〜!モリカワで皆さんを待ってたら、チョコさんちの方角から凄く大きな魔力を感じて、急いで向かってみたら、誰も居ないし魔力の残り香がなんか凄く嫌な感じだし黒雷さまも嫌な予感が、あ、黒雷さまも一緒に来てたんですけど」
 「ちょっと、もう少しわかりやすく…」
 そう言っても大して変わらず、早口大声で聴き取りにくい説明をまとめると。
 ・黒雷先輩、桜田先輩、暗御留燃阿先輩、森川先輩と一緒に、モリカワであたし達を待っていると、おねえちゃんの家の方角から大きな魔力を感じた。
 ・悪魔情と黒雷先輩はおねえちゃんの家まで様子を見に来た。
 ・おねえちゃんの部屋には誰も居なかったが、魔法が使われた痕跡はあった。
 ・残り香が消えないうちにと、急いでモリカワに戻り、暗御留燃亜先輩以外全員で魔界へ移動した。
 「ちなみに、暗御留燃亜さまは店番&人間界の見張りとしてお残りになりました」
 やっと落ち着いたのか、補足説明をする悪魔情。
 「でも、あたしの事、よくあっさりと見つけられましたよね」
 「あぁそれは、ちゃーんと跡が残っていたんです。大きな魔力を使用する魔法は、それだけ痕跡も深く残るんです。それを辿るための魔アイテムを森川さまが持ってたんですよ〜」
 悪魔情は、虫眼鏡のような物を取り出して、あたしの目の前で振ってみせました。
 「じゃあ、おねえちゃんや、ギュービッド先輩の居場所も判るんですね?」
 「お二方の片方は大丈夫です、同じように跡を見つけたので、黒雷さまが向かいました」
 でも、と悪魔情は表情を曇らせます。
 …まさか、もう片方に何か?
 「はい、二つしか跡は見つかりませんでした。チョコさまとギュービッドさま、どちらが見つかっていないのかは分かりませんが…」
