二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- その10 ( No.27 )
- 日時: 2013/03/23 21:14
- 名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: A7lopQ1n)
- ★ 
 油断した。
 そう思った時には、遅かった。
 右脇腹が痛いというより、熱い。
 「…くそっ」
 足の力がぬける。
 「ギュービッドさまああぁ!!!」
 チョコの悲鳴が聞こえる。
 おいおい、声裏返ってんぞ。落ち着け、この位、屁でもないぜ。
 「…ふん」
 鎧骸骨が鼻で笑って、あたしから勢いよく槍を引き抜いた。
 傷口から、じわっと血が出てくる感覚がする。
 あたしは膝をついて、うずくまった。
 細い槍だったから、多分、失血でいきなり動けなくなることは無いだろうけど…。
 「なんだ、所詮この程度か」
 鎧骸骨が不気味に笑っている。
 ちっ、なぁにがこの程度だこのやろう。ムカつく。
 「その小娘は、持っていけ。勝手に殺すなよ」
 鎧骸骨が指示を出しているのが聞こえる。
 横目で見ると、チョコが4~5体のザコ死霊に抱え上げられて、森の中に連れて行かれているところだった。
 チョコはといえば、あたしの名前と基本魔法呪文を交互に叫んでいる。
 死霊たちが平気そうなところをみると、あっちの雑魚共も、黒魔法で強化されてるっぽいな。
 とりあえず、チョコをなんとかしないと。
 「ルキウゲ・ルキウゲ…」
 あたしは、自分のまわりに保護魔法を貼って、目を閉じた。
 ☆
 「ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレ!! ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレッ!! もうっ、なんで効かないのよっ!!」
 あたしは、あっという間に死霊達に抱え上げられて、森の中に連れて行かれた。
 真っ暗で、ほとんど何も見えない。
 あたしは呪文を唱えながら、必死に暴れる。
 それなのに、死霊達はがっしりとあたしの手足を掴んで放さない。
 どうなってるの?なんで呪文が効かないの!?
 早くギュービッドさまを助けに行かなきゃいけないのに!!
 『そいつらは上級黒魔法で強化されてる。基本魔法は効かないぜ』
 いきなり、頭の中にギュービッドの声が聞こえた。
 え、なになに? どういうこと?
 なんでギュービッドさまの声が聞こえるの!?
 『テレパシー魔法っつってな、頭の中で考えた事を相手に伝えられる魔法があんの』
 へえぇ、黒魔法ってやっぱり便利だね。
 …ってそんな事より、死霊だよ!基本魔法が効かないなら、どうすればいいの?
 『死霊を撃退する魔法ならもう一つあるんだが、上級魔法だから上手くいくかわかんないぞ。できるか?』
 え、そんな、やったことない魔法をいきなり…。
 ……ううん、出来る!絶対出来る!
 やる前に諦めるなって、ギュービッドさま、いつも言ってるもんね。
 『よしよし、その通りだぜ。やり方は、まず自分の周りに焔を思い浮かべて、手を広げる。呪文は…』
 ギュービッドさまの説明を一言も聞き漏らすまいと、あたしは必死に耳を澄ませる。実際は、声は頭の中に響いているから、耳は関係ないんだけど。
 『頑張れ。外すなよ。チョコには多分、負担が大きいぜ』
 うん。すぐ成功させて、助けに行くから。
 『いや、おまえはそいつらを片付けたら、その辺の木の棒とかを使って、モリカワ倉庫へ行け。ニードコンパス持ってるだろ。それ、モリカワ倉庫に行きたいって念じれば、連れてってくれるぜ』
 え!? さっき渡されたコンパスそんな凄いやつだったの!? ていうかモリカワ倉庫って何!? 存在が初耳なんだけど!
 いやいやそれよりギュービッドさま、すごい怪我しちゃってるし!
 『大丈夫だ。骸骨片付けたら、瞬間移動魔法で、あたしも合流するから』
 でも、でもっ!
 『あたしは平気だって。ギュービッドさまを甘く見るなよ、ギヒヒヒヒ!…とにかく、絶対戻って来るなよ!!』
 ……う、うん。わかった…!
 『じゃ、後で。モリカワ倉庫へ行く間も気を付けろよ』
 ギュービッドさまも、気をつけて。絶対、無事に帰って来てね…!!
 それっきり、ギュービッドの声は聞こえなくなった。
 よ、ようし。まずは、死霊浄化魔法を…。
 目を閉じて、あたしのまわりに燃え盛る焔をイメージする。
 両手をいっぱいに広げて、お腹に力を込めて!
 「ルキウゲ・ルキウゲ・ウァジェスターレ!!!」
 呪文を叫んで、開いた両手をぐっと握ると、腕が黒い焔に覆われた。
 わわっ、ちょっと熱い…。
 でも、成功っ!
 再び両手を開くと、あたしの全身のまわりに黒い焔がとぐろを巻いた。
 まるで黒い蛇みたいに。
 「グぎャ!? ぎアァ…!!」
 死霊達が悲鳴を上げて、あたしの身体から手を離す。
 なるほど、この呪文、エジプト神話の“ウアジェト”って炎の神様から来てるんだね。
 炎を司る巨大なコブラの姿をしていて、…ってそんなウンチク披露してるじゃないよ!
 「とりゃーー!!」
 あたしはギュービッドがやっていたみたいに、くるくる回って、まわりの死霊を灰にしていく。
 「ぐギャあアアぁ!」
 一体の死霊が悲鳴を上げて、逃げていく。
 そうは行かないよっ!
 「えいっ!」
 逃げていく死霊の背中に向けて、腕を伸ばすと、黒い焔が飛び出して、死霊はあっという間に灰になった。
 「わー…凄い…」
 力を抜いて焔を引っ込めると、何だか凄くからだがだるく感じる。
 ギュービッドが言ってたとおり、うんと魔力を使っちゃったみたい。
 でも、まだ休むわけにはいかないよ。
 ギュービッド、すっごい無理して笑ってたけど、あたしがこのまま戻ったって、きっと足でまといなだけだ。
 ここはギュービッドさまを信じて、急いでモリカワ倉庫とやらへ行かないと!
 あたしは、近くにあった丁度良さそうな木の枝を取ってまたがり、コンパスの蓋を開けて、モリカワ倉庫へ、と呟いた。
 「ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレ!」
 呪文を唱えると、木の枝がふわっと空中に舞い上がる。
 さあっ、急げ急げ!!
 あたしはうんと高度を上げて森の上空へ出ると、コンパスの針が指す方角へ身体を傾けた。
