二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第十五幕 桧皮《ひわだ》 ( No.25 )
- 日時: 2012/07/08 21:15
- 名前: 無雲 (ID: C5xI06Y8)
- 「・・・落ち着いたか?」 
 「あ、すいません・・・。」
 皆が思う存分涙を流し、再会を喜び合った。
 銀時の柔らかな声音に、千風は着流しの袖を掴んでいた手を離した。
 同じように、服の裾や銀時の腕に縋り付いていた隊士たちもその手を離す。
 全員が真っ赤に泣き腫らした目をしていて、その光景を見た銀時は思わず吹き出してしまった。
 「ハハッ、テメェ等鏡見たらどうだ?すげぇ顔。」
 確かにいい歳(といっても二十代だが)した青年+女性が目を真っ赤にしているというのは、なかなか笑いを誘う光景である。
 笑われた隊士たちは一瞬思考が追い付かないようだったが、数秒後に銀時の言葉の意味に気が付いたようで、口々に抗議の声を上げた。
 「ひどいですよ!俺は本当にうれしかったんですからね!」
 今にも頭突きをくらわせられるのではないか、という程の勢いで朝露が銀時に反論する。
 と、そんな朝露の体を押しのけて(というか突き飛ばして)、今度は聖が銀時の真正面に現れた。
 「吉田隊長に会えてうれしいのはお前だけじゃない!独り占めすんな!」
 「暴力反対!」
 突き飛ばされて壁に激突した朝露が涙目で聖を睨む。
 しかし当の本人は朝露を無視して銀時に満面の笑みを向けている。
 そんな聖の頭を撫でていた銀時は薄く浮かべていた笑顔を消し去り、代わりに苦笑した。
 「聖、すまねぇけど俺ぁもう吉田じゃねぇんだよ。」
 聖を含めた月華隊の面々が瞠目する。予想通りの反応に、銀時は苦笑を深めた。
 「俺の今の苗字は『坂田』。無理に呼べとは言わねぇが、一応心に留めといてくれ。」
 「・・・分かりました、坂田隊長。」
 銀時は神妙な顔をする聖の頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。髪を乱された聖は、急いで前髪を整えて両の目を隠す。
 「昔から思ってるけど別に目隠さなくてもよくね?」
 「よくありません。」
 少しむくれてしまった聖は前髪を押さえ、これ以上髪を乱されないように銀時から離れた。
 「髪といえば、棗は伸びたな。」
 銀時が正面に正座していた棗に目を向ける。
 攘夷戦争時代の棗の髪は短く、肩にかかるかかからないかぐらいの長さしかなかったのだ。
 「ああこれは一種の願掛けですよ。銀時様にまた会えるように。・・でも、」
 言葉を斬り、棗は傍らに置いていた自身の小太刀を手に取った。
 そして、
 「もう会えたので、伸ばす理由はありません。」
 左手で髪を掴み、右手に持った小太刀で長い髪を何のためらいもなく切り取った。
 「あああああ!なんつーもったいないことを!!」
 いつの間にやら復活した朝露が大声を上げるが、棗の表情は清々しい。
 「所詮願掛けだ。願いが成就したなら願掛けする意味がないだろう。」
 「・・・ま、それもそうか。俺たちの願いは叶ったしな。」
 そう言って銀時に抱きつく朝露。和やかな空気が部屋に流れる。その平和な雰囲気の中、千風が不意に棗に目を向けた。
 「そういえば棗。それどうするつもり?」
 千風の指さしたもの。それは彼の手に握られた髪の毛だった。
 「ここにゴミ箱は無いし、第一髪はゴミ箱に捨てるようなものじゃないんだけど?」
 棗の顔がすっと青ざめた。それに反比例して千風の顔に落ちた影が濃くなっていく。
 「もしかしてどうするのか考えてなかった・・・とか言わないわよね?」
 嵐の気配を感じ、月華の面々が避難を始める。銀時も部屋の隅へと逃れた。
 「昔から言ってるでしょう。計画性を持てと。それとも少し痛い目に合わないと分からないのかしら。」
 「や、それはできれば勘弁してほし「何か言った?」いや何も。」
 攘夷戦争時代に頻繁に見られた『千風先生のありがたい説教』だ。こうなれば彼女は気が済むまで小言を言い続ける。
 「よし、放置で。」
 「賛成です。」
 「俺も。」
 銀時の一言に異議を唱える者はいなかった。
 オリキャラ№5
 三上 棗(みかみ なつめ)
 髪色・青みのかかった黒
 目色・紫
 月華隊副隊長
 髪は右側が長く、左側が短い。
 銀時大好き人間の一人。銀時のまねをするうちに、彼をも超える甘党となった。
 基本的に真面目で、千風、聖、朝露とは同じ村出身の幼馴染。
 佐柳が女だということを知っている。
 顎の力が半端なく強い。
 得物は二本の小太刀。
 好きなものは甘いもの、嫌いなものはにぼしと怒った時の千風。
