二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 2 尖塔 ( No.10 )
- 日時: 2012/11/18 21:50
- 名前: tawata ◆Roz37FRKJ6 (ID: t7vTPcg3)
 その日の夜。
 旅館の大広間で子供達が談話しているとき、事は起こった。
 ふと全員の会話が偶然途切れた。
 「——誰か、俺のこと呼んだか?」
 異変の予兆は、ウラノが言ったその言葉だった。
 「……誰も、何も言ってないよ」
 「……?」
 空耳じゃないの、と軽く済まされるが、ウラノはそうは思わなかった。
 耳から、というより心に直接届いたような言葉。
 何て言っているかも分からない。
 それが人語なのかすら理解できなかった。
 首を傾げるウラノの上に、一瞬で現れた白い鼠。
 「よっ」
 ロボットの中でコエムシと名乗ったそれは軽い挨拶で存在をその場の全員に主張した。
 大人が居なかったことは奇跡だろう。
 「てめーらマガジンが装填されたぜ。声受けたの、誰だ?」
 コエムシはその場でクルクルと回転しながら問う。
 誰もその「声を受ける」という事に心当たりは無かった。
 ただ一人を除いて。
 「声……? さっきのアレか?」
 ウラノが上を向いて言うと、コエムシは真下を向き目を合わせる。
 「てめーか。何で下に居んだ、気付かなかったぜ?」
 「なっ……」
 ウラノが何か言おうとするが、コエムシはそれを無視する。
 「よし、じゃ、早速ぬいぐるみのコックピットに行くぜ」
 言うが早いか、子供達の視界は暗闇に消えた。
 半円に並んでいた椅子は、全く違うものに置き換えられていた。
 十五個の椅子は子供達それぞれに見覚えのあるものだった。
 「てめーらの頭の中をちょこっと見せて貰ったぜ。どれか憶えがあるだろ?」
 子供達が自分の椅子を見つけていく。
 「これ、俺だ……」
 「私、これかな……?」
 「何だこの豪華な椅子……?」
 それは基本的に王や貴族が公の場所で座る玉座と呼ばれる椅子。
 「……」
 セントがそれに手を置いた。
 「お前、本当にどこの生まれだよ」
 「……うるせぇ」
 投げかけられた疑問に答えることなくセントは椅子に座った。
 「これ、私達の?」
 「二人で一つってか?」
 センとアイ。
 双子の兄妹である二人に用意された椅子は二人用のソファだった。
 ふかふかのクッションが据えられた高価なものだ。
 「すげぇ、浮いてるぞ」
 椅子は三十センチ程浮いているものの、固定されているように動かない。
 ウラノが座った勉強椅子が中央に移動する。
 「俺が動かすのか?」
 「あぁ、そうだ」
 「ところでこれ、危険なことは無いんですか?」
 マイヤが切り出すと、
 「……」
 コエムシは黙った。
 「そしたら止めちゃえばいいじゃん」
 そうだな、と肯定する子供達をコエムシは無表情で見つめていた。
 「ところでこのロボット、名前とかあるのか?」
 クルがコエムシに聞く。
 「そんなのねーよ」
 「だったら俺達で決めようぜ! ロボットじゃアレだしさ。何かカッコいい奴ない?」
 クルが皆に意見を聞く。
 「レイセン号!」
 「お前の名前じゃねーか」
 「サンボット!」
 「昔のロボットアニメにそんなのあったな」
 「ゲッターボロ!」
 「それもだよ」
 「黒くて硬くてデカいの。略して黒巨硬」
 「死ね」
 中々決まらないものだった。
 「じゃあ、こんなのは?」
 次に案を出したのはユズだった。
 「地球を代表する皇帝——カイザー」
 おぉ、と感嘆の声が上がる。
 「カイザー…カイザー…うん、カッコいいじゃん」
 「皇帝か……地球を代表するのに相応しい名前だね」
 「よし、決定! カイザーだ!」
 「相談はそこらへんにしときな。来るぜ」
 ロボットの名前が決まると同時、コエムシが言う。
 昨夜の戦いと同じ、旅館の前の海の景色が広がる。
 近隣の住民はそれを見てすぐに逃げ出した。
 昨夜の死人が出たという情報を聞き、危機感を感じたのだろう。
 旅館では揃って居なくなった子供達を親が探し回っていた。
 「俺が、動かす……」
 ウラノがぼそりと呟く。
 何を犠牲にしてでも、地球を守る。
 その考えは変わらなかった。
 敵がゆっくりと姿を現す。
 まず初めに天辺の尖った部分。
 そこから円状に段々と太くなっていく。
 天辺に近い場所には仮面が付き、さらにその上に円を囲むように四本の角が付いている。
 それ以外は特に目立ったものも無くただ下に行くにつれとにかく太くなっていく。
 最下まで達すると最低限の移動を可能とするような四本の足。
 三角錐の様な全貌が明らかとなると、それは地に足をつける。
 下方の水が押し出され、大きな津波が起こる。
 「あれが、敵……」
 ウラノの意思に反応し、ロボット——カイザーが動き出す。
 新たな仮面の十五本のスリットに、それぞれ光が灯った。
