二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あ
- 日時: 2014/08/08 21:13
- 名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: uT5MQLCg)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.php?mode=view&no=14541
- お知らせ 
 数年ぶりに小説復活。映像版にて、新しく始めることにしました。
 こんばんわ^^ はい、雑草並みの生命力を持つルミカですv
 また見事に消えてました;;
 ですが、何度でも蘇るので今一度応援よろしくお願い致します♪
 ゆっくりペースで書いていきます。
 読んでくれたら、コメントを残してくださると嬉しいですv
 初めましての人も、知っている人もこんにちわ!
 瑠美可です。この小説はずいぶん前から書いていましたが、思い切ってリオールから書きなおすことにしました。
 しゅごキャラと鋼の錬金術師が大好きなので、コラボさせてみました!
 あむちゃんが鋼原作沿いのお話(全部沿っているわけではなく、たまにオリジナルの話も入ります)で旅をしていきます♪
 しゅごキャラのメンバーはちょっとづつ出てくるので、期待して待っていてください!
 どっちか知らない方でも、ある程度の補足は入れますので是非読んでください。つまらない、と思ったら戻るボタンをクリックしてくださいね。
 用語辞典>>82
 キャラ紹介>>15(主要5人のみ)
 オリキャラ紹介>>16
 オリキャラbosyu>>17
 本編
 プロローグ 一章 砂漠の町で
 >>1 >>3->>8
 二章 明けない日
 >>9-
 短編
 バレンタイン>>36
 以下注意
 ①シリアス気味!しかも糖度はむっちゃ×3低いです。それでもOK?
 ②常識とマナーは守ってください。真似・荒らし・チェーンメールはお断りです。ゆっくりですがコメントを下さると嬉しい限りです^^
 ③しゅごキャラ! の中で出してほしいキャラがいたら遠慮なく言ってください。あむちゃん以外はあまり出ないので、出て欲しい子がいたらリクエストしてください♪ だいたいすぐに出ます
 OKYAKUSAMA
 いつもクリックしてくださる皆様も有り難うございます^^(書かれていない方は言ってくださいね)
 薔薇 リン様 アオイ様 カイン様 麻奈様 亜麻様
 莉子 暁様 ハート様 聞き見様 聖那様 アヤハ様
 レイ クフゥ様 柚木様 結香様 ラッピー様 みかん様 流浪様 キナコ☆様 雪兎様 夜琉様 ハル様
 りこ様 ☆マミ☆様 savr.様 エリーナ様 クイーン様 ブーピー様 アル様 海冥様 シズ様 加奈様
 お知らせ
 1今度、ポケモン小説書くことにしました。消えた腹いせってやつに近いです^^; もう衝動的に、書きたくなってきました。近い内にスレッドを立てようと思っています。
 2.祝☆合唱祭惨敗! 家でやけ食いしました^^:
 3.前のクリスマス投票は、バレンタインでやり直します。期待してくださった方は、すいません!
 それとオリキャラもゆっくり出します。
 4.ハガレンでは、エド、リザさん、ブラハが大好きです。しゅごキャラは、もちあむちゃん! ナギーも素敵ですよねv
 あ、あとイナイレなんて興味ないんだよ! エンドウ愛してるとか、吹雪愛しているなんて言わないんだよ(by満月ちゃん)。嘘です。イナイレもはまり中。
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- Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅路〜 ( No.5 )
- 日時: 2010/01/17 21:22
- 名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 9FUTKoq7)
- 「いらっしゃい」 
 店に着くなり、エプロンをした男が笑顔で出迎えてくれた。ここの地方は日差しが強いからか、肌の色があむよりも黒っぽい。
 「そこに座ってくれよ」
 男に指示された場所は中央よりの場所だった。あむはそこに腰かけ、体を伸ばしながら一気に息を吐く。
 「あ〜疲れた……」
 「お疲れ様だな。何にするかい?」
 「えっと……これ何ですか?」
 あむは、ロープで垂れているものを指して尋ねる。
 見た目は川魚に似ている。しかしそこからは手と足が生え、全身は墨のように黒い。そして身体全体の皮膚は水分が失われてしまっている。
 「お嬢ちゃん『スナイモリ』を知らんのかい。このリオールの名物だよ」
 「イ、イモリ」
 イモリのような爬虫類が大嫌いなあむは、その姿を想像をしただけで吐き気が起こってきた。そしてそのそれを払うかのようにブンブン、と首を数回大きく振った。聞かなきゃよかった、と心の中で後悔する。
 「じゃあ普通のものをください。後飲み物は水で」
 「あいよ」
 そう言うと男はカウンターの下で作業を始めた。かなり手早く食べ物を皿に乗せ、あむの目の前に置いた。変なものが出てくるかと思ったが、普通に食べられそうなものが出てきてあむはほっとした。
 「いっただきま……」
 両手を合わせいただきます、と言いかけた時だった。ドスンと物が当たる音がして、続いてガシャンと何かが割れる音。親父があー! と非難の声を上げながら、カウンターから乗り出す。客たちもどよめいている。振り返ると、ラジオがきれいに割れていた。
 その近くに青銅色の鎧が立っていて、申し訳なそうにしているから、こいつが壊したに違いない。どうやら席から立ち上げる時に上のひさしにぶつかり、落としてしまったようだ。
 「お客さん! 困るな〜だいたいそんな格好で歩いているから……」
 文句を続けようとする店の男を、少年の手がさえぎった。金髪を三つ編みにし、赤いコートをまとっている少年。小柄でその顔つきは結構生意気そうだ。金の瞳は全然反省の色を浮かべていない。
 「まあ待ってって。すぐに直すから」
 「直すって?」
 店の男が腕を組んで言う。
 その横で鎧はどこからかチョークを取り出し、壊れたラジオの周りに複雑な図形を描き始めた。やがて完成すると、一声。
 「じゃいっきま〜す!」
 その瞬間空気が震えた。稲妻に似た白い光がバチバチっと発生し、皆の視界を白に染めていく。やがて光が収まった時には、ラジオが元に戻っていた。コードを挿したままなので、なにやら声が聞こえてくる。
 「驚いた! あんた奇跡の術が使えるのかい!?」
 「う、うそ…・・・」
 あむは目の前の光景を呆然と見つめていた。何でラジオが直ったのだろう? 変な図形を描くだけで直るなんて聞いたことがない。やっぱりここは異世界なのか……と改めて痛感させられる。
 「奇跡の術? これ錬金術ですよ?」
 「エルリック兄弟って言えば、結構名が通っているんだけどね」
 その瞬間客の一人が声を発した。
 「エルリック兄弟? 確か兄が国家錬金術師の」
 そして別の客がその言葉を継ぐ。
 「『鋼の錬金術師』! エドワード・エルリック!」
 その言葉を合図にしたかのように、客たちは一斉に鎧を円状に取り囲む。あむは何のことか分からず、店の男に尋ねる。
 「国家錬金術師って何ですか・・・・・・」
 「国家錬金術師は、国の試験を通った錬金術師のことさ。その試験ってのが難しくてね。全国でも200人位しかいないって聞くよ」
 でも錬金術がわからないあむは、質問をさらに続ける。
 「錬金術って」
 「錬金術は物質を理解し、分解し、再構築する科学技術さ」
 少年があむの方に歩み寄りながら言ってくれた。しかし辞書のような解説にあむはさらにこんがらがるだけであった。少年は苦笑いを浮かべる。
 「わかりずらかったか? まあ物質を変化させる術っていえばわかるか? 例えば水を錬金術を使うと氷にできるんだぜ」
 「わ、わかんないってば! これ、魔法じゃないの!?」
 すると少年はにっこりと笑い、広場の方に駆け出してしまった。それを客に囲まれていた鎧が慌てて追いかけていく。
 「兄さん! まってよ!」
 その姿を目で追いながら、あむは自分の足に何かが当たったのを感じた。目をやると、銀の時計が落ちていた。
 「あれ」
 あむはしゃがみ込み、足に当たった時計を拾い上げた。それからまじまじと見つめてみる。
 中々しゃれた懐中時計だ。銀色で日の光を浴びて、静かに輝く様子はどこか月を思わせる。
 表の蓋の部分には細かい細工が施されている。ライオンを思わせる生き物が中央に大きく浮き彫りされ、その後ろには、五亡星。そして下半分はハートの形がいくつもつながり、鎖のようになっている模様が半円にそりながら描かれている。
 「それ銀時計じゃないか……!」
 あむの左横の客が裏返った声で言った。そんな声で言われるのであむは少しびっくりした調子で返す。
 「ぎ、銀時計?」
 「ああ」
 今度はあむの右横の客が話し込んでくる。
 「国家錬金術師の証『銀時計』……まあ国家錬金術師だということを示してくれる身分証のようなものだ」
 「へぇ〜」
 改めて覗き込むが、あむにとってはただの時計だ。しかし、ん?と思う。
 「えぇぇえええええ!?」
 突如あむの黄色い声が辺りに響く。カウンターの後ろのビンが軋む。
 「こ、これあのエドワードって人の大切なものなんじゃ」
 「確かに」
 周りの客たちが一斉にどよめき始め、あむの手の中にある銀時計へと視線を向ける。あむは自分が見つめられているようで何だか恥ずかしくなった。頬が紅潮する。
 「これどうすればいいんでしょう?」
 「お嬢ちゃんが届けてあげればいいんだよ」
 客たちが笑顔で言う。
 「へ? なんであたしが届けるんですか?」
 あむが問いかけると客たちは蜘蛛の子を散らすように一斉に、四方八方へ逃げ始めた。仕事が、これから用事が等と適当な言い訳をしながら。
 「昼代タダにしてあげるからさ? な、いいだろ?」
 しまいには店の親父まで。片目をウインクさせ、茶目っ気たっぷりに言った。しかしその顔には面倒なことには関りたくないとデカデカと書かれている。
 あむはしかめっ面をすると、黙々と遅い朝食にありつき始めた。騒動のうちにすっかり冷めてしまっていたが、それはあむのお腹を確実に満たして行った。
 「いたた」
 強い日差しの中、あむは顔を擦った。
 午後になり日差しはますます強くなった。おかげで日光に攻撃された肌は赤くなり、ひりひりとして痛む。今は日陰を歩いているので幾分かましだが、照りつける日差しは容赦ない。
 「大丈夫? あむちゃん?」
 そう言うランは、早くも真っ黒だ。泥人形がそのまま動いたらこんな感じになるだろう。肌の色はすっかり日焼けしてしまい、この町の人々と変わらないくらい。だが当の本人はそのことに気づいていないらしく、平然としたままである。肌が焼ける痛みも感じないらしい。
 「ここは日陰だからね」
 あむとランが歩いているのは住宅街だ。石造りの家々が並木のように左右に広がる。ただどこからも人の気配がしない。風が通り抜ける音だけがする。
 「それにしてもエドワードさんとアルフォンスさん……こっちに本当に来たのかな?」
 店の親父に言われたとおりに来たのだが、二人の姿は見当たらない。
 「もしかしてこの先かな?」
 *
 それは突然目の前に現れた。白く大きな神殿。支える四つの柱は、天に届きそうなほど高い。まるで空を支えているかのよう。そして神殿を守るかのように、大きな杖を持った男の石造が柱にくっつくように配置されている。何だか成金趣味だと思うのは、あむが田舎ものだからだろうか。
 神殿の前は広場になっていて、そこは多くの群集で埋め尽くされていた。住宅街に人がいなかったのは、ここに来ていたからだろう。
 「この地に生ける神の子らよ。祈り信じよ、されば救われん」
 遠くから老人のしわがれた声がする。それを人々は静かに聞いている。
 「太陽神レトは汝らの足元を照らす。見よ。主はその御座から降って来られ、汝らをその諸々の罪から救う。私は太陽神の代理人にして、汝らが父」
 「あ〜もうっ」
 あむは人々を強引に押しのけながら、エルリック兄弟を探していた。弟のほうは鎧だからすぐに見つかるだろうと高をくくっていたが、中々見つからない。
 そして教主様の有難いお言葉は、かえってあむをイライラさせている。何となくだが好きになれないのだ。
 どうしてみんなここまで信じるんだろう、とあむは口に出さずに思う。
 「あむちゃん、もしかして建物の中なんじゃない?」
 「あ、そうかも」
 あむは人の輪を抜けると、神殿の中へと入る道を探す。
 すぐに『入り口はこちら』と書かれているプレートが見つかった。そして中へと足を踏み入れる。
 ——中で何が起きているのかもわからずに。
- Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅路〜 ( No.6 )
- 日時: 2010/01/17 21:25
- 名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 9FUTKoq7)
- 神殿の中はかなり涼しかった。さっき階段を下ったから、どうやら地下に来たらしい。あむは足元がスースーして思わず身震いをした。 
 普段人は通らないのか、明かりは天井につけられた裸電球だけだ。それでもきちんと整備はされているらしく、明かりが切れていている電球はない。
 「しっかし……本当にこっちでいいのかな」
 あむは立ち止まり、遠くを見ながら言った。
 今歩いている場所は、どこかへ続く通路だ。地下だから窓などない。あるのは観光用のプレートだけ。プレートは直進しろ、と言っているからそれに従って歩いているのだ。
 「大丈夫だよ! あ、ほらほら! 扉が見えてきたよ」
 ランがあむの袖を引っ張りながら叫んだ。
 廊下の先に何かが見える。とたんさっきまでだらだらと歩いていたあむの足が、徐々に加速し、やがて走り始めた。
 何かとの距離が縮むたび、それは鉄製の扉だということがわかってきた。かなり大きく、何か大切な部屋への入り口のような気がする。
 「よっと」
 あむは扉の前に立つと、取っ手を掴んだ。そして前に押す。キィイイイと金属がこすれあう音がした。
 中は教会のような場所だった。横に長い木製のベンチが左右対象に何個も置かれ、その奥には神殿の入り口にあった石造のミニチュア版が置かれている。それを守るように左右にろうそくが点され、不思議な空間を作り出している。
 「あ!」
 中に目をやったあむは声を上げた。探していたエルリック兄弟が、一番前の席に座っていたからだ。
 しかし今は誰かと話しこんでいるようだ。あむよりも少し年上に見える女の子だ。この町の住人なのか肌は色黒。前髪はピンク色で、腰まである後ろ髪は茶色という風変わりな髪の色をしている。
 
 「あら! あなたもレト教に興味がおありですか?」
 あむに気が付いたらしく、少女があむを見ながら声をかけた。エルリック兄弟も一斉にあむを見やる。
 「へ? い、いやそういうわけじゃなくて」
 あむはしどろもどろに答える。
 しかしそんな曖昧な答え方をしたのが悪かったらしい。少女は演説口調であむにぐいぐい詰め寄る。
 「いけませんね それは神を信じ、敬い、感謝と希望に生きる。なんとすばらしい事でしょう! 信ずれば...あの小さい方の身長だって伸びますし、あなただって……」
 「おい! 誰が豆粒ドチビかぁ〜〜〜〜〜〜〜!」
 弟のアルフォンスは。いや鎧はあの時この少年を兄さんと呼んでいたから、こっちが兄のエドワードだろう——は両手を振り上げた。
 慌ててアルフォンスが押さえにかかる。
 「兄さん、悪気はないんだから」
 キーキーと猿のような声を上げながら、エドワードは鎧の腕の中で暴れる。やがて気が済んだのか、かなり乱暴に椅子に座る。
 「けっ!“死するものには復活を”本気で信じているのか!?」
 「えぇ」
 少女は自信満々気に頷いた。かなりレト教を信じきって、悪く言えば洗脳されているようだ。
 エドワードはため息をついてみせる。そしてコートに手を突っ込み、手帳を取り出した。
 皮製の表紙だが、かなり長いこと使われているらしく、表紙はボロボロだし、手帳の間からはたくさんの付箋が顔を出している。
 「水35リットル、炭素20kg、アンモニア4リットル、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g
 、硝石100g、その他もろもろ...」
 手帳を顔の前に広げながら、エドワードは難しい単語を並べていく。
 「なにそれ」
 あむは絶句する。明らかに化学の分野。でも小学生レベルでないことは確かだ。
 「大人1人分として計算した人体構成成分だ。今の科学ではここまで分かっているのに、実際に人体練成を成功した例は報告されていない。科学でもできないことを祈ったらできるのかよ!」
 (人体練成?)
 
 その言葉が妙に引っかかった。錬金術は物質を変化させる技術だというから、今の化学物質を使って人間を作ることなのだろうか。
 しかし聞くまもなく、話は進んでいく。
 「“祈り信じよ。さすれば汝が願い成就せり”です。コーネロ様の教えに間違いはありません」
 「ちなみに構成分材料な。市場に行けば子供の小遣いでも、ぜーんぶ買えちまうぞ。人間てのはお安くできてんのな」
 「人はものではありません! そんな言葉創造主への冒讀です。天罰が下りますよ!」
 怒声をあげてから少女は、あむに向き直る。表情はまだちょっと怒り気味だ。
 「あなたもそう思いません?」
 「そうかもしれませんね……」
 急に話を振られたあむは、適当に相槌を打つ。すると少女は満足げに笑った。
 「ほら。この方だってそうおっしゃっているではないですか」
 エドワードは肩をすくめて、石造を見上げる。
 「錬金術師ってのは科学者だからな。創造主とか神さまとか信じちゃいないのさ。この世の創造原理を説き明かし、真理を追い求める。神を必要としていないオレたち科学者が、ある意味神に一番近い所にいるってのは、皮肉なもんだ」
 「ご自分が神と同列とでも!? 傲慢ですね!」
 少女が再び反発する。しかしエドワードは続ける。
 「傲慢ねぇ。そういやどっかの神話にあったっけな。『“太陽に近付きすぎた英雄は蝋で固めた翼をもがれ
 地に落とされる”』……ってな」
 (イカロス……)
 確かギリシア神話と言う、大昔の神話の物語だ。
 そのギリシアにかつてイカロスという人間がいて、空を飛びたがっていた。だから蝋(ろう)で鳥の羽を固め、翼を作った。そして大空へと舞い上がる。
 彼の父は、「太陽に近づくのは、危険だからやめなさい」と忠告していたが、イカロスは調子に乗り太陽まで飛んだ。すると太陽の熱で蝋は溶け出し、イカロスは海に落ちて亡くなった。……まあこんな話だったか。
 一方。
 先ほどあむをイライラさせていたコーネロ教主は、いつものスピーチを終えた。そしてゆっくりと神殿の中へと足を進める。人々が拍手でそれを送っていった。
 そんな時、一人のレト教信者がやってきた。黒い制服を着ている彼の表情は、かなり青ざめている。コーネロに近づくと、何か耳打ちした。コーネロの細い目が、わずかに見開かれる。
 「何? 国家錬金術師が来ているだと?」
 「はい。エルリック兄弟と、日奈森 亜夢(ひなもり あむ)と申すものたちです」
 コーネロは顎に手を当てて、考え込み始めた。顔中に冷や汗が浮かび、尋常ではない状態であることが伺える。
 「まずいな」
 コーネロが口を開く。
 「鋼の錬金術師エドワード・エルリック。最年少で国家資格を取ったとは聞いていたが……なぜこの町に?」
 「鋼の錬金術師がなぜここに? まさか我々の計画が……」
 「軍の狗め。よほど鼻が良いとみえる」
 *
 「教主様はお忙しいので、なかなか時間が取れないのですが。あなた方は運がいい」
 あむたちは、男に案内され、コーネロに会うこととなった。この部屋に、もうすぐコーネロが来るらしい。
 エドワードが「改心したから」と言って、少女——ロゼにコーネロに会わせてくれ、と頼んだのであった。無論、改心したなんて嘘であろう。
 アルフォンスが兄さん演技下手すぎ、とぼやくのをあむはばっちり聞いていた。
 「悪いねぇ。なるべく長話しないようにするからさ」
 「そうですね」
 その時、男の口元に笑みが浮かんだ。穏やかな笑いではなく、上手くいった。と喜ぶようなニヤリとした不気味な笑み。そして続く言葉は。
 「早く終わらせましょう」
 扉が閉められ、ガチャと施錠される音が聞こえたと思った。あむは振り向こうとする。
 と、背中に何かが押し当てられた。冷たいものだ。恐る恐る視線を向けると、白い服を着た男が、あむの背中に銃口を押し当てていた。
 横を見ると、アルフォンスとエドワードも、全く同じことをされていた。
 「やっ!」
 男の強い力があむの身体を宙に浮かせた。そして軽いものを持ち上げるかのように、あむはお姫様だっこされてしまった。
 逃げようと足をばたつかせるが、男には全然効果がないようだ。
 「ちょっ、離してよ! お姫様抱っこは初恋の人にやってもらうんだから!」
 「副教主さま? 何をなさるんですか?」
 ロゼが口をあんぐりと開けて言った。
 すると黒い服の男は、真面目な顔で言い放った。
 「ロゼ。あのあむと言う少女以外は、教主様を陥れようとする異教徒だ。悪なのだよ」
 「は?」
 自分はエドワードに銀時計を届けに来ただけで、レト教を信じる気など全くない。
 銀時計をすぐに渡したいが、この状況では……。
 「まずは……お前からだ」
 黒い服の男が持つ銃口が火を噴いた。そしてそれは間違いなく、アルフォンスの鎧の頭を撃ちぬいた。頭部は空中に舞い、やがて近くに落ちる。鎧の下部分が、ガクリ、と前に倒れる。
 「ふはははは……やった! やったぞ!」
 副教祖が、勝利に満ちた表情で笑った。あむは許せない気持ちになり、飛び掛ろうとした——時。
 「信者にひどい事させるんだなぁ……」
 鎧が起き上がった。何もないはずの鎧が動き、辺りの人間は銃を捨てて逃げ始める。どさくさであむも自分の力で、男の身体を脱出した。
 鎧は自分を撃った男にゆっくりと近づくと、思い切り殴りつけた。男は、地に叩きつけられ、そのまま動かなくなってしまった。
 「ど、どうなっているの?」
 ロゼが必死に声を振り絞って出す。それはあむにとっても同じ疑問であった。
 「どうもこうも」
 「こう言う事で」
 
 エドワードはアルフォンスに近づき、鎧を叩いて見せた。中身は空洞らしく、コツコツと言う音が中で響いていた。一体全体どうなっているのだろう。
 「これはね。『禁忌』って言うんだよ。僕も、兄さんもね」
 アルフォンスは、自分の頭を拾い、元の場所にはめながら言った。
 「エドワードさんも?」
 あむはちらりとエドワードに視線を向ける。
 彼は背が低いこと意外、普通の少年に見えるが。何か考え事をしているらしく、彼の表情は硬い。
 「ロゼ、あむ。あんたたちは真実を見る勇気があるか?」
 ロゼがごくり、と唾を飲む。
 あむは、あたし信者じゃないんですけど。と内心で呟いた。
 廊下に3人分の足音が反響する。地下から上がってきたとはいえ、相変わらず肌寒い。
 あむはエドワードたちと共に、ロゼから聞いたコーネロ教主様の部屋へと向かっているところだ。
 途中レト教信者に何度か襲われたが、その度エドワードとアルフォンスが戦ってくれた。二人はかなり強いらしい。
 「二人って強いんだね〜」
 ランが感心した。だがしゅごキャラはエドワードたちには見えないはずだ。
 しゅごキャラは、しゅごキャラを持つ人間——キャラもちでなければ見えないからだ。
 「ところで……」
 エドワードは急に立ち止まり、あむに向き直った。金の瞳が、じっとあむを見つめる。見つめられたあむは少しドキドキしてしまう。心臓の鼓動がワンテンポ位速くなった。
 (や、やだ! あたしエドワードさんに見られてる?)
 「そいつ」
 白い手袋が指し示す。——ランを。
 「さっきから気になってんだけど、そのチ……いやその赤いの、何だ?」
 「エドワードさん、ランが見えるんですか!?」
 見えると思っていなかっただけに、あむの声はかなり裏返った。
 エドワードは、アルフォンスにランが見えるか? と尋ねる。うんと言い、鎧の頭が軋んだ。
 「ほらな。……で、そのランって言うのはなんだ?」
 「えっと。しゅごキャラって言うんです」
 「「しゅごキャラ?」」
 二人とも聞いたことがない単語のようだ。揃いもそろって、お笑いコンビみたいに首をかしげた。それがおかしくてあむはクスリと笑ってしまう。
 「しゅごキャラは『なりたい自分』なんだよ!」
 笑っているあむの代わりに、ランが解説をする。
 「なりたい自分なんだ?」
 「うん。それがこーして、目で見えるようになったのがあたしたち、しゅごキャラ!」
 ランは手に赤いボンボンを持つ。どこから出したのかは謎だ。ボンボンにはところどころ、赤いハートのマークが描かれている。と、応援するようにそれを上下に揺らした。
 「よくわかんねえけど……なりたい自分なのか」
 納得しているような、していないような声でエドワードが呟く。
 あむですら初めはよくわからなかったのだから、仕方がないだろう。
 *
 「さあて」
 エドワードがコホン、と咳払いをする。
 わきあいあいとしていた雰囲気が、一気に緊張していく。
 「教主様とご対面と行きますか!」
 目の前には、こっちに来いとでも言うように開け放たれた扉が、口を開けていた。
- Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅路〜 ( No.7 )
- 日時: 2010/02/14 19:12
- 名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: mOILM.Mp)
- 誘いに乗るように足を踏み入れると、中は他に比べてかなり薄暗かった。 
 左には四角い石が等間隔で並べられ、何か文字が掘り込まれている。見ると人の名前と月日が刻まれていた。それも真新しいものばかりだ。
 そして正面には階段が設けられ、その上は小さなベランダが出来ている。
 そこに目的の男——コーネロがいる。
 コーネロはわりかし小柄で太り気味な老人である。
 頭に髪はなく、頭上には光が生み出されている。そして信者と同じ黒い制服をまとっている。
 「神聖なる我が教会へようこそ、鋼の錬金術師殿」
 恭しく(うやうやしく)お辞儀をしているが、その顔は悪意に満ちたものだ。
 さっきの信者たちのように襲ってくる気なのだろうか。
 「教義を受けにきたのかね?」
 「単刀直入に言う。ぜひとも、教えてもらいたいもんだな。せこい錬金術で、信者を騙す方法とか」
 するとコーネロの目が少し見開かれた。
 「嘘でしょう!? コーネロ様!?」
 後から入ってきたロゼがお腹から声を出して、コーネロに問いかける。
 コーネロは優しく——かりそめの笑顔でロゼに笑いかける。
 「当たり前だ。さあ、ロゼ。それに日奈森殿……こっちに来るんだ。君たちはこちら側の人間のはずだ。こんな異教徒と一緒にいてはならない」
 コーネロは二人を手招きする。
 ロゼは誘われるようにふらふらとコーネロの方へと歩き出す。
 「ロゼ! 行っちゃダメだ!」
 「……ごめんなさい」
 ロゼは一瞬立ち止まり、3人のほうを見やる。
 その顔は変な笑いで引きつっていた。仕方がないのよ、と自分に言い聞かせるように言う。
 「私にはこれにすがるしかないのよ! 去年恋人を事故で亡くし、不幸のドン底にいたの。その私を救ったのは……他でもない教主様なのよ。そして、約束して下さった」
 ロゼは俯きながら、階段へと足を進める。そして嫌なことを吹き飛ばすかのように、一気に階段を上り、コーネロによりそった。
 コーネロは勝ち誇った笑みを浮かべ、石造りの壁に指をかけた。壁が紙のようにめくれる。その下にはレバーが隠されていた。
 「日奈森殿……早くこちらに来なされ」
 コーネロが手でおいでおいでをする。だが。あむは首を横に振る。
 「あんた……なんであたしのこと知ってんのか知らないけど、あたしはあんたのとこに、行く気ないから」
 「仕方がない。あなたには捕まってもらいますよ」
 ガクっとレバーが下がる音がした。
 途端、動物園で嗅ぐ様な獣の臭いがした。あむは耐えられずに鼻をつまむ。墓石がある方向で、赤い二つの斑点が光ったと思った。それは低いうなり声を上げながら、ゆっくりと近づいてくる。
 姿を現したのはライオン……のようなものだ。上はライオンなのだが、胴体から下は濃い緑色。鱗もある。ライオンにないはずの鱗が光を反射して鈍く輝く。一言で言えばワニだ。
 ライオンの上半身とワニの下半身を持つ生物——それこそ神話に出てきそうなやつだ。
 「合成獣(キメラ)を見るのは初めてかね? 動物と動物を練成した新たな存在。賢者の石はこのようなものも作れるのだよ」
 コーネロは指輪を見せびらかしながら、自慢げに話した。
 金のリングの上に楕円状に加工された血の色をした石がついている。どす黒い色で、見ていると気持ち悪くなる。
 「賢者の石」
 エドワードが獲物をしとめた狩人のように笑う。
 「探したぜ……原則などを無視して錬成が可能になる幻の石」
 パンっと両手を合わせるエドワード。そして手を離すと、そのまま地面に手をついた。
 花火のような白い火花が飛び散りながら、地面から何かが生えてくる。——槍だ。趣味が悪い装飾が施された槍。
 「練成陣なしに!? 国家錬金術師の名は伊達ではないということか!? だが!」
 キメラは速かった。前足の爪でエドワードが作り出した槍を引っかいた。槍はきれいに切断されてしまった。
 だがキメラの猛攻はまだ続く。槍を切断した後、今度はエドワードの左足を引っかいたではないか!
 「エド!?」
 黒いズボンが破け、そこから血が出るかと思いきや。血が流れるどころか、エドワードは余裕そうに言い放った。
 「なんちってね。あいにく特別製でね」
 あむはひとまずほっとした。
 エドワードは再び襲い掛かろうとするキメラを、左足で蹴り上げた。コーネロがあたふたする。
 「何をしている! 噛み殺せ!」
 キメラは受身を取ると、再びエドワードに突進する。大きな口を開け、今度はエドワードの右腕に噛み付いた。
 「あっ……」
 エドワードの腕から血が流れるさまを想像して、あむは顔を手で覆った。
 しかしランがあれっ!? と言うのに気づき、あむは恐る恐るエドワードに目を向ける。
 血は流れていない。腕ももげ落ちていない。いったい何が……?
 「どうした猫野郎。しっかり味わえよ」
 ギリギリとかむ力を強めるキメラ。だが、二つの歯が噛み合うことはない。まるで噛み砕けないようなものを噛んでいるかのようだ、と思いあむは気づいた。エドワードの右腕に重々しい輝きがあることに。
 人の腕ではない。鉱物のようなものだ。
 エドワードがキメラを蹴り飛ばす。キメラが再び宙に舞う。
 「……その腕そうか。そういうことか。こんなガキが何故、鋼などと言ういかつい称号を持つのか不思議に思っていたが」
 コーネロは舌打ちをした。エドワードが赤いコートに手をかけながら、低い声で言う。
 「よく見ろ。あむ、ロゼ。これが神様の…神さまとやらの領域を侵した咎人の姿だ!」
 赤いコートが投げ捨てられる。その下には、鍛えられた男らしい身体つき。そして血の通っていない鋼鉄の右腕があった。色からして鋼製か。
 よく見ると左足も、だ。
 「降りて来いよド三流! 格の違いってのを見せてやるぜ」
 「なに……どうなってんの」
 あむが呆然と言う。するとあむに答えるようにコーネロが声を発した。
 「二人とも。錬金術最大の禁忌、人体練成を行なったのだ。死んだ人間を、錬金術で錬成——つまり甦らせようとしたのだよ」
 「禁忌?」
 「錬金術で行ってはならぬタブー。つまり、禁じられたことだ」
 「ロゼ……こうなる覚悟があるのか!?」
 ロゼは現実から逃げ出すかのように、視線をそらす。それでも私は……とおびえる様に言っていた。
 「神の領域に踏み込んだ愚か者め! 今度こそ神の元へ送り届けてやろう!」
 指輪の赤い石が輝き、コーネロの腕が銃へと変形する。連続的に、弾丸が飛び出してくる。
 「いや、オレって神さまに嫌われてるだろうからさ。
 行っても追い返されると思うぜ……おい、あむ! 俺の後ろに下がってろ!」
 あむは言われたとおり、エドワードの背後に回る。エドワードは再び両の手を合わせ、地面に当てる。練成の光が弾け、大きな壁がせり上がってきた。
 銃弾は壁にはじき返され、辺りに散らばる。火薬の臭いがあむの鼻を突いた。
 「ちっ!」
 するとコーネロはエドワードたちにくるりと背を向けた。
 よく見ると、小さな木製の扉があるではないか! コーネロは外に出ると、扉を閉めた。
 「ラン、キャラチェンジ!」
 あむは素早くランに指示を出す。ランは了解! と敬礼をした。
 「ほっぷ・すてっぷ」
 その声であむの×マークの髪飾りが、大きな赤いハートの飾りへと変化した。
 「じゃーんぷ!」
 あむは地面を思い切り蹴り、跳びあがった。風圧でスカートが舞い上がった。
 その身体は一気にロゼがいる場所まで跳ぶ。着地すると、ロゼが顔を青ざめさせながら言った。
 「な、なんですか! どうしてそんなに……」
 下ではエドワードとアルフォンスが、口をあんぐりと開けている。
 「よっと」
 ロゼの横を通り過ぎると、あむは扉に手をかけた。
 今のは『キャラチェンジ』と言う。一言で言えば、
 しゅごキャラの力を借りてパワーアップすることだ。今はランの力を借りて、人を超えたジャンプ力を手に入れたわけだ。ただキャラチェンジの力は、しゅごキャラによって上がる能力は全く異なるそ、程度も違う。人より上手くなる人もいれば、プロ並になってしまう人もいる。全ては「願いの強さ」の違いだ。
 「あれ?」
 扉に手をかけるが全く開かない。押しても、引いても固いのだ。
 「錬金術で何かしたのかな……」
 あむが横で考え込んでいると、バチバチと言う音がした。
 「よし。開けるぞ」
 いつのまにか鉄の扉が作られていた。それをエドワードは、蹴破ると言う乱暴な手法で開けた。
 その途端銃やら、槍やらを持った信者が雪崩のように入ってきた。
 エドワードはにっこりと微笑むと、両手を合わせる。鋼で出来ている腕の先がとがり、剣のようになった。そして突っ込んでいく。
 あちこちで、悲鳴が上がり、続けて殴りつける音が聞こえてくる。
 「さあ。僕たちも行こうか」
 ひょいっとアルフォンスはロゼを抱きかかえ、あむについて来て。と言った。
 信者の屍(死んでません)を避けながら、あむはアルフォンスについていった。
 *
 アルフォンスにつれてこられた場所は、教会の鐘がある屋上であった。リオールの町が一望できる、とても美しい場所である。
 例によって信者共をダウンさせ、あむは鐘に近づく。鐘は少し高い、塔の上にあった。かなり小さめだが、銅製で中々立派な細工がされている。
 「よっと」
 ランとのキャラチェンジで、金がある塔へ飛び乗る。そして鐘をつっているロープをアルフォンスが練成した、ナイフでゆっくりと切っていく。
 「ねえあむちゃん。銀時計はどうするの?」
 「この騒動が終わったら、ちゃーんとエドワードさんに返すよ」
 あむは作業をしながら言った。ロープはかなり古いものらしく、力が弱いあむでも楽々と切ることができる。あっという間にロープはすべて切れた。支えを失った鐘が地面に転がる。
 持ち上げてみると、かなりずっすりと来た。持てない訳ではないが、長くは持てない。
 さっと持ち上げると、キャラチェンジをしながらアルフォンスの元に飛び降りた。
 「あむ、有難う」
 アルフォンスに鐘を渡すと、あむは伸びをした。
 「いいえ。アルフォンスさんの役に立てたなら」
 あむは恐縮する。するとアルフォンスは優しく話しかけてきた。
 「アルフォンスさん? そんな堅苦しくならないでよ。僕も兄さんも、普通に「アル」、「エド」って呼んでくれていいと思う」
 「じゃあ。よろしくね、アル」
 アルフォンスは片手を挙げる。と、ロゼがしもどもどろに話しかけてきた。
 「さっきの話、ほんとうなの?」
 「ボク達はただ……もう一度母さんの笑顔が見たかっただけなんだよ。練成の過程で僕は全身を、兄さんは左足を持っていかれた」
 「何それ」
 あむは言葉を失う。錬金術は身体を犠牲にするようなものではないはずだ。
 「リバウンドさ。錬金術は失敗すると、その術を行った人間に危害を加えるんだ。それが『リバウンド』。……錬金術が失敗して、僕と兄さんの身体を奪っていたんだ。『何が』『どこ』に持って言ったのかはわからないけどね」
 「でもそこまで犠牲を払ったのなら、お母さんは」
 アルは首を横に振る。
 「でも練成は失敗した……人の形をしていなかった」
 「そんな……」
 「だからロゼ、あむ。君たちはこっちに来ちゃいけない」
 風が強く吹き、あむの髪を引っ張っていった。
 それからアルは、逃げるときからずっと持っていた『あるもの』をようやく地面に置いた。
 『あるもの』は黒い、コードのようなものだ。直径5cm程の黒い線でかなり細い。長さこそ、かなり細いものの、長さはかなりあり、屋上の出入り口から線はさらに下に続いている。アルに言わせると、これは一階下の部屋から持ってきたものらしい。
 普段、何に使っているのか全くナゾだ。
 「あむ、ラン。下がっててくれるかな?」
 「あ、ごめん」
 興味深くコードを覗き込んでいたあむとランは、アルに注意され、数歩後ろに下がる。
 二人が完全に下がったことを確認したアルは、腰にある小さなポーチに手をかけた。白く、何かの皮で出来ているのか中々頑丈そうである。
 ポーチのふたを開くと、真っ白なチョークが隙間がないくらいぎゅうぎゅうに押し込まれていた。長さは不揃いで、短いものもあれば、長いものもある。
 「よし」
 アルはその中から使い込んでいるらしい、短めのチョークを取り出した。それで鐘とコードの周りに、スタンドで見た同じ図形を手早く描いていく。コツコツ、と言う黒板に文字を書くのと同じ音が響く。
 「これって錬金術に使うの?」
 「うん。『練成陣』と言って、力の循環と時間の循環を表す……なんて言ってもわかりずらいか。そうだね。錬金術に必要なものだよ。この陣にエネルギーを流して、初めて術が発動するんだ」
 アルは練成陣を描きながら言った。
 あむはわかったような、わからないような中途半端な感覚だ。大体のことは理解してきたつもりだが、『錬金術』は本当に難しい。
 やがて練成陣が完成し、いつもの光が飛び散る。するとそこには、鐘とコードが一体化したものが出来上がっていた。
 アルは、鐘の中が外を向くような形で持ち上げた。その体制のまま数歩歩く。コードが地面にすれる音がした。町がよく見渡せる場所に来ると、鐘の中を町に向けるような姿勢で止まった。
 なにやっているんだろう、とあむが思うと。
 ザーとテレビが映らないときに聞こえるような音が、鐘の中から流れ込んできた。下にいた町の人々が、次々と足を止めるのが見える。天から何か降ってきたような表情で、呆然と上を見つめている。
 「……、しろ!」
 今度は、途切れ途切れに誰かの声がした。聞きとりにくいが、コーネロの声であることがわかる。心なしかかなり焦っている様だ。
 「おっさん、いい加減にしろよ。お前の嘘は全部お見通しだ」
 続けてはっきりとエドの声が聞こえた。随分と余裕そうな言い方だ。コーネロとかなり違う様子。
 「エ、エド? この鐘、もしかしてラジオになってる!?」
 アルが正解、とでも言うように軽く頷く。
 「よく聞いていてね。コーネロさんが自白してくれるから」
 そこでようやくエルリック兄弟の考えが見えた。
 コーネロの悪事を、信者たちに暴露するつもりなのだ。しかし、コーネロとてバカな奴ではない。本当に成功するのか不安だ。
 「賢者の石で何しようってんだ? それがあれば陳家の教団なんていらないだろ」
 「くくく……国家錬金術師にはお見通しと言うわけだかね」
 黙って聞いていると、コーネロが追い詰められた悪者のように笑っているではないか。本当に、この二人の策に気づいてはいないらしい。
 「そうだ! 教団は私のためなら、喜んで命を捨てる信者を生み出してくれる、死を恐れぬ最強の軍団だ! 見ているがいい」
 横にいたロゼの顔から、血の色が一気に引いていく。それは町の人々も同じだ。
 放心して鞄を落とす者、泣き崩れる者、怒りに顔を染める者……実にさまざまだ。が。
 「あと数年のうちに私は、この国をテリトリーにかかるぞ。賢者の石と、錬金術と奇跡の術の見分けもつかないようなバカ信者どもを使ってな!」
 皆の心は同じ——コーネロへの怒り、悲しみ、憎しみ。それを増長させるかのように、彼は高らかに笑う。
 町の人々は、皆神殿の方へと走り始めた。きっとコーネロを問いただす気なのだろう。
 「ふははははっ!」
 その時だった。エドがゲラゲラと笑い出す。嘲笑、と言う言葉がお似合いだ。
 「なにがおかしい!」
 「だからあんたは三流だっつーんだよ。これ、なーんだ?」
 いたずらっ子のような口調で、エドが言った。一瞬間が流れる。恐らくタネを明かしたのだろう……
 案の定コーネロが狂ったように叫ぶ声がした。
 「奇跡の技なんてない——みんな賢者の石の力。はい。自白ご苦労様」
 「な! 足元にマイクだと!? 貴様、そのスイッチはいつ入れた!?」
 「最初から」
 「このガ……うわぁああああ!」
 錬金術の音がしたかと思うと、コーネロが絶叫する。多分、エドが何かやらかしたに違いない。とあむは半分思っていた。
 「リバウンドだろうが! 腕の一本や、二本でぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねえ! それより、石は……な、砕けた?」
 「な、なにが起こってんの?」
 ラジオの向こうで何が行われているのか……あむには全く検討がつかない。
 「どう言う事だ? 完全な物質であるはずの賢者の石が何故壊れる……」
 エドの声はありえない、と言った感じだ。
 どうやら『賢者の石』が砕けてしまったらしい。
 「しっ知らん! 私は何も聞いていない。たたたたた助けてくれ! 私が悪かった!」
 完全に無力とかしたコーネロはもはや、ネズミ以下の存在だろう。猫に助けを求めるが、いつ狩られてもおかしくないはずだ。
 「偽物かよ……ここまで来てやっと元に戻れると思ったのに。…・・・偽物」
 かなり期待を持っていたのに、裏切られたのだろう。エドはすっかり元気をなくしてしまったようだ。なんだかかわいそうになってくる。
 「ざけんな!」
 しかし猫が元気を取り戻すのは、早かった。……そして牙をむくのも。
 パンと両手を合わせる音がし刹那、教会が小さく横に揺れ始める。
 「に、兄さん?」
 アルはさすがにもういいと思ったのか、鐘を地面に置いた。しかし電源は入っているから、音は絶えず流れてくる。
 「神の鉄槌くらっとけ!」
 ハンマーを振り下ろしたような音がし、教会のゆれはようやく収まった。
 それから、あむたちは神殿前の広場に来ていた。
 昼とは打って変わって、人はあむたち四人を除き誰も居ない。そのせいか異様に静か過ぎて、あむは寂しくなってきた。神殿は陽光に照らされ、オレンジ色になっている。神殿の像の影が、町の方向へ長く伸びていた。
 それを加速させるように、空は赤と黄色のグラデーションに彩られ、真っ赤な火の玉が砂漠の向こうへと沈んでいこうとしている。
 
 「もう夕方かぁ……」
 あむは肩をすくめてみる。今日はとても疲れたからだ。
 レト教信者に襲われそうになる、捕まりそうになる、挙句の果てには殺されそうになる——死なないことだけを考えて走っていたから、安全になると身体の力が一気に抜けてしまう。
 
 だるさから、あむは広場から神殿内へと入る階段に力なく座り込んだ。
 石で出来ているのか、ひんやりとした感覚がした。けれどその冷たさは、身体にじわじわと広がっていく。だるい気分も吹き飛びそうだ。
 
 その時、後ろの扉が開く音がした。金属製なので、黒板を爪で引っかいたような非常に嫌な音がする。あむは思わず耳を塞いだ。
 「よ! 戻ったぜ!」
 扉を開いたのは、エドだった。
 笑顔で片手を挙げ、アルに手を振っている。そして数段階段を下りると、あむの横に腰を下ろした。
 「あむ、大丈夫だったか?」
 「あ、うん……」
 エドに顔をまじまじと見られ、あむはボーっとした。頬から若干湯気が立っている。
 「あむちゃん〜? 顔赤いよ?」
 「な! 夕日のせいに決まってんじゃん!」
 ランに茶化され、あむはぷいっと横に向いた。そこでは本当に夕日が輝いている。
 だが実際はちょっとエドにドキドキしていたのだ。
 (あたしって……本当に気が多いなぁ)
 そう悩んでいると、慰めるかのように風がそよそよとあむの間を通り抜けていった。
 あむは振り返り、風が去っていく方角を見やる。そこにはレト神殿が。
 このまま風に乗って、元の世界に戻りたかった。この風がどこに続いているかはわからないけれど。
 乗れないが、代わりにあむは両手を組み、風に祈る。『あたしは無事だから……どうかみんなに伝えてください』と。
 「あむ、何お祈りしているの?」
 アルに声をかけられ、あむは顔を上げた。
 「なんだろ……この町が無事でいられますように、かな」
 適当な嘘をついた。異世界に思いを届けてくれと祈った、なんて言っても、この二人が信じてくれそうにないからだ。『
 錬金術師は科学者』——『異世界』みたいなファンタジー要素はあっさり切り捨てるに違いない。
 TVの科学者は、オカルトを否定する人も多い。エドとアルもきっとあんな感じなんだろうな、とあむは考えていた。
 「そっか……ところで兄さん、賢者の石は?」
 「だめだ。偽者だった」
 エドは肩をがっくりと落として、首を横に振った。あの放送どおり、『偽者』だったらしい。
 「やっとお前の身体を元に戻してやれると思ったのにな」
 「でも諦めないで行こう。次の町では見つかるかもしれないよ」
 うな垂れるエドを、アルは明るく励ます。かなり仲のいい兄弟で、羨ましいなぁとあむはうっとりと見つめていた。
 「あんたたち! なんてことしてくれたのよ!」
 怒声にびっくりして3人が振り向くと、ロゼが瞳に涙を溜めながら立っていた。さっきまで黙っていたのだが、一体どうしたのだろう。
 「これから、私は何にすがって生きて行けばいいのよ!? 教えてよっ! ねぇっ……」
 ロゼの瞳から油のような涙がボタボタと垂れる。その涙は、色を混ぜすぎた絵の具の様だった。色は真珠のようだけど、込められた思いが混ざりすぎている。
 「よっと」
 エドは何も答えずに立ち上がった。その表情はどこか落ち着いているようにも、悩んでいるようにも見える。
 階段を完全に下りると、アルと共にロゼの横を通り過ぎていく。
 「立って歩け、前に進め。あんたには、立派な足がついているじゃないか」
 言葉を残して。
 「……」
 ロゼの両足が崩れた。ガクン、と地に両膝をつけ焦点の定まらない瞳で、ただ空を見つめていた。涙はもう止まっていた。
 「立って歩け、前に進め」
 あむはエドの言葉を反復した。
 それが自分への言葉だと、も思ったからだ。本来はロゼへ向けられたものかもしれない。けれど、今の自分に最も必要なもの——行動することを思い出させてくれた。
 「元の世界に帰るには、行動するしかないよね。このリオールで待っていても、元の世界には帰れないし。それこそ立って歩け。前に進め、だよ」
 「あむちゃん、何となくだけど『賢者の石』があれば元の世界に戻れそうじゃない?」
 あむはそうか! とでも言うように指を鳴らした。
 「確かに! エドも『原則などを無視して錬成が可能になる幻の石』って言ってたじゃん。なんかよくわからないけど、すごそうじゃない!?」
 今のところ元に戻れそうな手がかりは『賢者の石』だけだ。あむはとにかく戻りたい一心で、早く行動に移そうとする。
 「よし。じゃあ、次の町に行こうか」
 と言ってあむは、思い出した。とても大切なことを忘れていた。あむの顔は見る見るうちに青ざめていき、左に走ったら、今度は右に走る……と言う謎の行動を繰り返し始める。
 「エドに銀時計返すの忘れてたあ! ど、どどどどど、どうしよう!?」
 慌ててエドが去った方向を見やるが、もう影も形も見えない。見えるのは、町と、ますますオレンジが濃くなった町。夕日が半分だけ顔を出している風景だけ。
 「あ、あむちゃん落ち着いて! きっとまたすぐに
 会えるから!」
 「会えるっていつよ〜〜!」
 あむは腹の底から声を張り上げた。
 ますますオレンジ色が濃くなった空に、その声は吸収されていった。
 *
 同時刻。神殿前とは真逆の方向に、人々が殺到していた。我先に、と押し合い少しでも前に進もうとしている。
 そこは教主の部屋に最も近い関係者用の出入り口だ。かなり狭い扉の前に、5人ほどの信者が立ち、必死に民衆を押さえ込んだり、なだめたりしている。
 しかしそれは銃などの武器があるからで、武器がなければあっという間に入られてしまうだろう。
 「ちっ! エルリック兄弟め・・・・・・」
 扉の向こうで、コーネロは悔しそうに舌打ちをした。
 たった一人の子供ごときに、秘密を暴かれてしまったのだ。悔しくてたまらない。
 「久しぶりに来て見たら。この騒ぎは何かしら?」
 さっきまで人がいなかった通路の階段の上に、二人の人間が立っていた。
 
 一人はまだ若そうな女。真っ赤な血の様な瞳が不気味に輝き、ゆるくウェーブした漆黒の髪を背中まで伸ばしている。
 胸を少しだけだすという危ないルックスの真っ黒なドレスを身にまとい、両方の手にはやはり黒い皮製の手袋をしている。
 
 もう一人は5歳から6歳ほどに見える非常に幼い少女。だが、その肌の色は死人のように青ざめている。瞳も生きることを拒むようなものの目つき。髪の色は白く、耳にかかる程度。そして日本で死人が切るような、何もない無地の着物を羽織っている。
 胸には茶色で、赤い瞳を持つうさぎのぬいぐるみがしっかりと抱かれている。
 「くっ……お前たちが「賢者の石があれば天下を取れる」と言ったのではないか!」
 「条件があったはずよ。もうじきここに来る少女を捕らえるって」
 「そ、それは」
 コーネロは急にだんまりしてしまう。
 その様子を見て、女は鼻でふふんと笑った。
 「あなたはもう用済みなのよ。ちょっと混乱を起こすだけでよかったのに、簡単に終わっちゃうなんてがっかりだわ」
 「……」
 少女は、仏頂面でコーネロを見つめる。
 その瞳は感情がない、ロボットのような冷たい瞳だった。
 「どいつもこいつも、わしをバカにしよって……!」
 コーネロが片手を挙げ、拳を作る。
 そのまま女と少女に殴りかかろうとする。
 「まったく……人間は愚かね。フィ、ちょっとこらしめてあげなさい」
 「……」
 少女は何も言わず、頷かず。コーネロの前に立ち塞がった。
 コーネロはそのまま『フィ』と呼ばれた少女を殴ろうとする。
 「しっぱいしたばつ」
 フィは短く、あっさりと言い放った。全く感情が感じられない、冷たい言葉だった。
 そして胸に抱いていたうさぎのぬいぐるみを、コーネロに向かって突き出す。
 途端、うさぎの双眸がカッと赤く、短く光った。それとほぼ同時に、コーネロの動きは止まった。時間が止まったかのようだった。そして前にうつ伏せの状態で倒れる。
 女はコーネロに歩み寄る。コツコツ、と部屋内に靴音が反響した。
 コーネロの顔を持ち上げると、彼は白目を向いたままだった。女は満足そうに笑うと、コーネロを元の体制に戻した。
 「コーネロは死んだわ。フィ、よくやったわね。お父様がまた褒めてくれるわよ」
 「……」
 フィは何も言わず、ただコーネロをじーっと見つめていた。
 「今回はちょっと失敗だったけど……そういえば、『ルク』の村はどうなっているのかしら。向こうもそろそろ見に行かないと行けないわね」
 「ラスト、あむがいってくれる」
 そこで初めてフィは再び口を開く。
 『ラスト』と呼ばれた女は、ああと納得したような声を出した。
 「そうね。『ルク』はリオールから近い。あんたがお気に入りのあむって子の実力、試させてもらうわよ」
 ラストは静かに言った。
 彼女の胸には、ヘビが自分の尾を噛んでいる模様で、中にごぼう星がある痣が不気味に存在していた。
 〜一章完〜
- Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅路〜 ( No.8 )
- 日時: 2010/02/09 13:24
- 名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: XHLJtWbQ)
- リオール編おまけ 
 (小説で4コマをやろうと言う無謀な企画。キャラ崩壊万歳)
 銀時計
 ①あむ「うわぁ! 銀時計エドに届けてない!」
 ②ラン「あ! いいこと思いついた。売っちゃえばいいんだよ。旅資金も稼げるし、いいことづくしじゃない?」
 あむ「あ、そうかも!」
 ③売ったら……
 ④二人とも監獄行き。旅が出来なくなりました。
 終わって
 あむ「ちょ。最悪! こんなの書くなぁ!」
 次章予告(例によってひぐらし風)
 初めはこんな恐ろしいものだと思わなかった。元の世界に戻れるから……そう願って求めたものは。
 ——実は悪魔の所有物だった。それを知ったとき少女は……果たして何を思うのか?
 第二章 明けない日
 この世界は私の住む世界とは違っていた
- Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅路〜 ( No.9 )
- 日時: 2010/01/17 21:32
- 名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 9FUTKoq7)
- 二章〜明けない日〜 
 あなたがしていることは正しいの?
 ・・・・・・それが例え望まれないことだとしても?
 あなたがしていることは美しいの?
 ・・・・・・それが多くの人を苦しめることだとしても?
 あなたが考えていることは
 ・・・・・・常識にとらわれたことでしかないのに
 今回から冒頭に詩を追加です。
 ひぐらしっぽいのは、それが好きだからです^^
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