二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 魔王のでし
- 日時: 2011/07/01 17:00
- 名前: 山田 (ID: 784/wjkI)
- 僕が5歳だった頃。 
 婚約者のアリスと一緒に鬼ごっこをしていた。
 アリスが逃げて僕が鬼。
 彼女の金色の長い髪の毛を見ながら、タッチするべく追いかける。
 でも、アリスの方がこの時少しだけ足が早かったからかな?
 僕は彼女に翻弄されっぱなしだった。
 アリスとの婚約は、僕の両親とアリスの両親が仲が良かったので、僕たちが生まれてすぐに婚約を決めたらしい。
 僕の家もアリスの家も貴族同士だし特に問題もなかった。
 「あまり遠くに行っちゃ駄目よ〜」
 そんなアリスのお母さんの声がする。
 アリスのお母さんはアリスと同じ金色の髪の毛を長く伸ばしていて、綺麗だな〜なんて思ったのを今でも覚えてる。
 この時僕達はそんな声を聞こえなかったことにして、森の中へと入っていた。
 いつもこの森の中で遊んでいたし、きっとアリスのお母さんも1つため息を吐く程度で見逃していたのかもしれない。
 でもこの森に入った事が僕の運命が大きく変わる事になるなんて、小さかった僕はこの時わかるはずもなかった。
- Re: 魔王のでし ( No.3 )
- 日時: 2011/07/01 17:09
- 名前: 山田 (ID: 784/wjkI)
- 意識が朦朧としてる中で、心の中で僕は呟き続けた。 
 アリスは僕が護るんだ、アリスは僕が護るんだと。
 「くっくっく……はははは!!!
 2回目の攻撃も耐えるか少年よ!
 次で最後だ少年よ!」
 「ぐあああああ!!!」
 そう言って背中からお腹に掛けて突き刺された。
 朦朧としていた意識が一瞬だけ、痛みで現実へと引き戻されて、痛みに耐え切れなくなった身体が今度は意識を手放そうとする。
 意識は絶対失わない。
 アリスは僕が護るんだ!
 自分の好きな人ぐらい自分で護るんだ。
 手放しそうな意識を、自分にそう言い聞かせながら、必死に耐えるけど流石に限界で……
 「ケイト!!!!」
 とアリスは泣き叫ぶ声が僕の耳へと届く。
 まだ、まだ僕は意識を手放しちゃいけないんだ。
 まだアリスを、護れてないんだから。
 その言葉を聞いて、僕はまだ限界じゃないと心に言い聞かせた。
 「大丈夫…大丈夫だから笑って…アリス……」
 最後の力を振り絞りながらアリスに微笑みかける。
 少しでも彼女に安心して欲しくて……
 背中とお腹を刺されたのに口からは血の味がする。
 独特なあの温い、鉄の味がじんわりと口の中に広がってくる。
 「ぶはははは!!! 耐えたか少年よ! 約束は守ろう!
 お前に敬意を表してな……
 だがお前はこの先絶望するだろうな!
 何せお前はもう魔法を使えないのだからな」
 そう言って魔族は僕の血の着いた剣から一振りして血を払うと、剣を鞘に入れて笑いながら、森の奥へと消えていった。
 僕は朦朧とする意識の中でそれを見ていた。
 魔族の姿が見えなくなったのを確認して、僕はゆっくりと意識を手放した。
 意識を失う寸前に
 「ケイト? ケイト!!」
 とお父さんの声がした。
 そんな声に僕は、少しだけ安心しながら……
- Re: 魔王のでし ( No.4 )
- 日時: 2011/07/01 18:19
- 名前: サイラ (ID: 0LEStScZ)
- おお、面白いです-----------!何、神ですか!あなたは! 
 私のツボにはまりまくりですよ
- Re: 魔王のでし ( No.5 )
- 日時: 2011/08/03 11:39
- 名前: 山田 (ID: c9BCqrK0)
- 「ぶはっ!!」 
 はぁはぁ……と僕の荒い息遣いが部屋に響く。
 じっとりと汗が滲んだパジャマが身体に纏わりつく。
 久しぶりに見たあの時の夢。
 魔族に襲われたのは今からちょうど12年前の今日、5歳の時だった。
 ベットから起き上がり、すぐに部屋に備え付けられているシャワーを浴びる。
 少しでも身体に纏わりつく、嫌な汗を流したくて、すぐさま僕はシャワーのハンドルを回した。
 冷たい水が、纏わりつく変な温度を持った汗を流していってくれる。
 「冷たくて気持ちいいな」
 僕はそう呟きながら、手で身体を擦る。
 腰の辺りを、手で擦ったときに、盛り上がった少しだけ他の皮膚とは違う感触の所に指先が触れた。
 あの時の傷痕は僕の体に未だに残っている。
 右肩から左腰にかけて切られた傷痕。
 そして両肩、背骨の右近くにある刺された傷痕。
 あの時の事を僕は鮮明に覚えている。
 腰を刺された時の込み上げた血の味、そしてあの痛み……
 でもあの痛みに耐えたおかげで、僕とアリスは助かった。
 好きな人を守った勲章。
 誇りにできる傷痕。
 でも、命の代わりに魔族が殺した物があった。
 それは僕の魔力回路と源。
 魔力回路というのは、魔法を使う時にこれに魔力を通して右手や左足に魔力を移動させる。
 魔法使う特有の神経と思ってくれると分かりやすいかな?
 そんな魔力の源は腹部にある。
 3回の攻撃で殺した物、それが僕の魔力回路と源だった。
 お医者さんによると、僕の魔力回路と源は完璧に壊されていた。
 別に無くても命に別状は無い。でも……『魔法が使えなくなる』。
 そう魔族は僕の魔法という名の能力を潰したのだ。
- Re: 魔王のでし ( No.6 )
- 日時: 2011/08/03 11:40
- 名前: 山田 (ID: c9BCqrK0)
- 別に無くても良いんじゃないか?って思うかもしれないけど…… 
 僕達貴族にとって魔法が使えないと言う事は死活問題。
 魔力がない、ただそれだけで捨てられる貴族の子も居る。
 魔法を使えない貴族は『恥』とされるからだ。
 何故なら、貴族は平民よりも強くなくてはいけない。
 だからこそ、魔力が無い人は平民になめられる元になってしまう。
 貴族としての面子を護るために、魔力の無い子供は捨てられてしまう。
 だから、僕は捨てられるのをそれを聞いた時に覚悟した。
 魔力が使えなくなった僕は、この条件にぴったり当てはまるんだから……
 だけど両親は僕を捨てることは無かった。
 さらに、アリスとの婚約は流石に流されると思ってたけど……
 婚約も流されることも無かった。
 むしろアリスをよろしくお願いします、と彼女の両親にお願いされたくらいだ。
 婚約は継続された。
 僕はこれらの事が凄く嬉しくて、病院のベッドで泣いた記憶がある。
 そんな温かい愛情を家族から、好きな人の両親から、そして好きな人から感じる事ができて育った僕は、本当に幸せ者だと思う。
 だけど、他の貴族の間ではそんなに甘いはずがなかった。
 学校に入ってすぐその冷たさはやって来た。
 貴族の中で僕だけ魔法が使えない。
 教師からも同級生からも向けられる視線は冷たい視線と悪口。
 この2つは耐えることができた。
 だって僕が魔法を使えなくなったけど、アリスを助けることができた。
 僕はそうに思っていたからこそ、馬鹿にされて悔しかったけど耐えることができた。
 でも、振るわれる暴力には耐えられなくて……
 そんな僕を支えてくれていたのはアリスだった。
- Re: 魔王のでし ( No.7 )
- 日時: 2011/08/03 11:40
- 名前: 山田 (ID: c9BCqrK0)
- 「私のせいでごめんね……」 
 最初そんな冷たい視線の中に居る僕に涙ながらに繰り返し言っていたアリス。
 私を庇ったから僕が魔法が使えなくなったと、凄い責任を感じて泣いていた。
 僕はそんな彼女に微笑んでこう言うことしかできなかった。
 「大丈夫だよ? だから気にしないで?」
 「でも……」
 そこまで言って、アリスは何かを飲み込むように俯きながら、いつも頷いていた。
 俯くときに揺れる金色の長い髪がいつも綺麗だなと思いながら……
 学校に入学して11年。
 ずっとアリスは僕の傍で僕を支えてくれていた。
 「私はあなたの婚約者だから」
 と笑顔で言うアリス。
 きっと本当は他の人に色々と言われているだろう。
 僕が聞いたことがあるのだけでも
 「何であんな落ちこぼれの婚約者なんだ?」
 「物好きだな……」
 とか言われているのを聞いたことがある。
 魔法が使えない。
 この世界の貴族にとっては『恥』だから仕方が無い。
 でもアリスはそんな事を言われても僕の傍に居てくれた。
 僕が学校に入学してすぐ言った事がある。
 「婚約者だからってそんなに傍に居ることはないよ」
 貴族の結婚や婚約と言うのは体裁を気にした物ばかりで、親から強制された物ばかり。
 アリスは親から強制的に僕の婚約者にさせられたと思っていたから僕はそう言うと、彼女は首を横に振り真っ直ぐな視線を僕に向けてこう返事を返してくれた。
 「私はあなたの事が好きだからあなたを支えるの」
 それから徐々に表情に変化が無くなっていき、少し心配になった事もあったけど……
 ずっと傍に居てくれている。
 その日から僕達の間に流れる空気が少し明るくなった。
 後からアリスの両親に聞いた話だけど、あの事件の前からずっと僕のことを好きでいてくれていたみたいだ。
 その話を聞いて僕は、真っ赤になったのを今でも覚えている。
 両想いで結婚できる貴族は少ないだけに、僕達は幸せ者だ。
 そんな事を考えながら、僕の肌を心地よく叩くように出ているシャワーの水を止めるためにゆっくりとハンドルを閉めなおした。
 近くにあった白いふわふわのバスタオルを手に取り、身体の水滴を綺麗にふき取って腰にバスタオルを巻きつけると、制服に着替えるために僕はゆっくりと部屋へと戻る。
 部屋の隅にある僕の服がたくさん入っているクローゼットの両開き扉をあけるとそこには、ハンガーにかかった、ぴしりと折り目のついた制服が吊り下げられている。
 「ガウスさん……いつも凄いな」
 僕の制服を綺麗にアイロンがけしてくれている専属執事のガウスさんに感謝の言葉を呟きながら、ゆっくりと僕は白いワイシャツに腕を通した。
 紺色のマントに、白いワイシャツ、そしてズボンは黒いズボン。
 ワイシャツの上には何を羽織っても問題はないけど、今日は暑くも寒くも無いから、この格好で行こうと思う。
 「今年を入れて後2年か…」
 僕はふと思ったことをそのまま口にした。
 後2年で学校を卒業。
 それまでにどうしても、果たしたい目標がある。
 それは、模擬戦で1勝すること。
 普通の貴族達からしたら、どうってことない目標。
 本当に小さな目標だけど……僕からしたら大きな目標。
 魔力回路を壊された僕は、どうしても身体能力面で負けてしまう。
 何故なら普通は魔力回路に魔力を通し身体能力を上げる。
 それが出来るか、出来ないかでは圧倒的な差がついてしまう。
 それでも勝てるように、剣術の訓練は怠らなかった。
 万に1つでも勝てる確率を上げるために、僕は毎日剣を振っている。
 皆には、無駄な努力だとか負け犬の悪足掻きだって言われてるけど気にしない。
 きっと、この努力が実る日が来るって僕は信じてるから……
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