二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ■━…紫弓 【銀魂】 ( No.99 )
- 日時: 2010/03/22 15:03
- 名前: 帽子屋 ◆8ylehYWRbg (ID: vtamjoJM)
- 参照: ──『真実を探しただけで、お前に何の得がある?』
- ■━……参壱 
 有城は退屈そうに欠伸をした。
 医務室には泉菟と有城しか居らず、両者互いに何も喋らない。
 重苦しい空気が漂っていた。
 有城はそんなの気にも留めず、ただサラサラとカルテに必要事項を記入する。
 だが、泉菟はそんな空気に耐えられなかった。
 「……あの…えっと…、そういえば貴殿、名は何と申したかのう」
 気まずそうに泉菟は有城に問う。
 有城はちらりと泉菟を見やってから、面倒くさそうに答えた。
 「…有城だが」
 「では有城殿、その…いくつか質問したいのだが、宜しいか?」
 泉菟はそう言いながら、くるりと有城の方を向く。
 有城はハァとため息をついて、泉菟が居るベッドの横にある椅子に座った。
 「手短に頼む」
 泉菟は心の中で少し喜んだ。
 ちょっと断られるかと思っていたからである。
 そして、さっぱりとした泉菟と有城の質疑応答の時間が始まる。
 「じゃあ、まず一に、我は何故ここに?」
 「さあ…、俺の上司が命令した事なのだが、俺はあまり上司と接点が無い。考えている事も分からん」
 「えー…、では、我をさらって来たあの者は?」
 「俺の上司だ」
 「…ここはどこだ?」
 「鬼兵隊という攘夷集団の船内だ」
 わずか1分半で終った質疑応答。
 泉菟はもっと時間かかるかと思っていた為、少し拍子抜けした。
 そして、もう1つ疑問を抱く。
 「鬼兵隊と言うのは……、! 晋助が作った部隊ではないか!! 有城殿、ここは晋助の…!!」
 泉菟は慌てふためき出した。
 慌てふためく反面、泉菟は心底嬉しかった。
 会えるのだ。晋助に、我はまた会えるのだ!!
 有城は喜びを隠せない泉菟に冷やかな目を向けた。
 「何だ、上司と知り合いか? 一応言っておくが、攘夷戦争時代の知り合いなら会わない方がいい」
 その言葉に、泉菟の動きはピタリと止まる。
 そして、「え?」と拍子抜けした声をもらす。
 「有城殿、それは何故…」
 有城は、白衣のポッケから煙草を取り出し、咥え、煙草に火を付けた。
 「あの人を昔と今で比べてみれば大違いだ。俺は鬼兵隊の船医として、あの人の傍らでいろんな事を見聞きしてきた。あの人が負った心の傷も、思い出したくない昔の思い出も、皆聞いた。そんな中で、あの人は随分お変わりになられた」
 フーッと白い煙を吐く。
 泉菟は口を開けてそれを聞いていた。
 そして有城は、泉菟にとって驚くべきことを口にする。
 「今、坂田銀時を抹殺させようとしているのも高杉晋助その人だ」
 次の瞬間。
 泉菟はベッドから風の如く抜け出し、医務室の扉を突き破り、外へ出ようとした。
 が、有城がそのスピードを上回る速さで扉の前に立ち塞がる。
 「有城殿、今我は貴殿と立ち話している暇は無いのだ、通してくれぬか」
 凄みが加わったその声で、泉菟は有城に言う。
 「手当てをしてやったというのに随分と偉そうだな。無駄だ、もう稜弥様が坂田と対峙している頃だろう」
 有城は煙草をその場に落として踏み潰す。
 片手にはいつの間にか注射器とメスが多く握られていた。
 「貴様が言う稜弥様と言うのは、晋助の妹の事か」
 「ああ、お前をさらって来た奴さ」
 泉菟の口調がだんだんと怒り声に変わっていく。
 有城はニヤリと口を吊り上げる。
 「蒼風魔と言えども、恋には盲目らしいな」
 その言葉に泉菟は、置いてあった武器の扇子をガッと掴み、有城に向けてビュンと扇いだ。
 有城は扉と一緒に外へ飛ばされ、廊下の壁に叩きつけられる。
 パラパラと落ちる木屑が、その衝撃の強さを物語る。
 「すまぬのう、今の我は加減が分からぬのだ。貴様がそれ以上戯言を申したら、今度こそ殺してしまうかもしれぬ」
 泉菟の表情は怒りで満ちていた。
 そう言った後、泉菟は廊下を駆け出す。
 銀時が殺されてしまうかもしれない
 そんな不安だけが泉菟の脳内に蔓延った。
 しかしだ。
 ヒュン、と飛んできた医療器具のメスが、泉菟の頬を掠った。
 タラリと泉菟の頬を伝う赤い血液。
 泉菟は駆け出していた足を止め、ユラリと後ろを振り返る。
 廊下の奥には、有城の姿。
 「高杉様からお前を船外に出すなと言われている。それ以上足を踏み出すなら、お前の顔中コイツだらけにしてやろう」
 ニヤリと笑う有城は、手に持った医療器具を泉菟に見せ付ける。
 泉菟の堪忍袋の緒はプチンッと切れた。
 ■━━……
