二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: リクエスト可!戦国BASARA短編集! ( No.127 )
- 日時: 2010/05/25 17:30
- 名前: るりぃ (ID: F/ANFiDr)
- 参照: http://アフォ小説家?
- 『愛が殺せと叫ぶから』下 
 佐助の部屋は、駅前の高層マンションの一室だった。
 今まで最高二階までしか住んだことのない私には、十五階に住む彼の気分など理解できないが、こんな理由で訪れるのでなければ「すごい!」とはしゃいでしまいそうな部屋ではあった。
 人殺しというのはこんなにも儲かるのだろうか。
 そんなことをぼんやりと考えていると佐助が声を掛けてきた。
 「適当に座っててよ。コーヒーでいい?」
 「要らない。」
 リビングの中央でぶっきらぼうに放った私に苦笑いを浮かべると、佐助はネクタイを緩めながら奥の部屋に入っていった。
 結局、彼の言うとおりここまでついてきてしまった。
 幕を引くため、と言っても今度は簡単にはいかない。
 もう私は、彼を殺せる立場にないのだから。
 それに。
 それに少しだけ。
 彼を知りたいと思う自分も居た。
 何故殺せなかったか。
 何故死にたいのか。
 全ての答えを明かしてくれそうで。
 「…知っちゃいけない気もするけど。」
 誰もいないリビングに立ちっぱなしも落ち着かないので、高級そうな皮の張られたソファに腰掛けたところで奥の部屋から佐助が戻ってきた。
 さっきの黒髪黒スーツの姿からは打って変わって、いつか見た橙の髪に開襟シャツにジーンズというラフな格好をしている。
 「変装してたのね。」
 「一応立派に指名手配されてるしね。ちょっといじるだけで案外気付かれないよ。君で実証済み。」
 くすくす笑いながら、私の前のソファに腰掛けて足を組む。
 にこりと笑うその顔は、いつかの血塗れのそれとはどことなく違う気がした。
 「ずっと此処に住んでるの?」
 「君が居る街に居たくて。君が警察辞めてからも、ずっと見てたよ?」
 「立派にストーカーね。」
 「はは、手厳しいな。」
 睨んでやったのに、佐助は何だか嬉しそうだった。
 効果がないのが癪で私は彼から顔を背けた。
 「まあ、特別な事情もあって、見てたんだけど。」
 「特別な事情?」
 聞き返すのと同時に見た佐助の顔は、さっきの優しいとは違っていた。
 冷たさの映る瞳は窓の外を見ている。
 「最近、狙われてたろ。ほら、さっきの鉄骨みたいなの、初めてじゃないよね?」
 「どうせ見てたんでしょ?聞く必要ないじゃない。」
 「あれは、俺のせいなんだ。」
 「え…?」
 こちらに瞳を向けた佐助は、本当に済まなそうな顔をして少し笑った。
 その瞳は、本気で私を心配しているように見える。
 「君を好きになって。君に人生捧げようって思って。生まれてからずっと世話になってた裏組織を抜けた。もちろん、裏切るんだからそれなりのリスクはあったけど、君には代えられなかった。」
 成程、佐助はやっぱり裏社会の人間だったのだ。
 素性が知れないはずである。
 佐助は足を組み替えて、私から視線を外し、ガラスで出来たテーブルに視線を落とす。
 「刺客が来てる内は良かったんだ。俺様に敵う奴なんかいないし。でも、あいつらも馬鹿じゃない。『女を救いたいなら戻ってこい。』って言ってきてさ。」
 「それで、鉄骨?」
 「…ああ。まあ、俺様が居る限り君を死なせたりしないけどね。」
 テーブルから私に戻した瞳は、いつもの優しいものだった。
 さっきの冷たさは、もうどこにも見えない。
 佐助はゆっくり指を動かすと、腫れ物に触るようにそっと私の手に重ねる。
 「…でも、君は死にたいのかな。だったら俺と死ぬ?」
 いきなり心中を持ちかけられた私は、驚いて勢いよく佐助の手を振り払うと体ごとそっぽを向いた。
 「まさか!死にたくなんて無いわ!」
 「…じゃあ、護っていいんだ?」
 「え…。」
 振り向く前に、後ろから抱きしめられる。
 一瞬はね退けようとしたが、ぎゅっと込められた力に、気が付けば腕は力を失していた。
 「君が世界から居なくなるなんて耐えられない。だから、俺が護る。いいだろ?それで。」
 サイレンが、鳴る。
 胸の奥で、危険だと叫ぶ。
 このままでは、溺れて、もがいても、帰れなくなるって。
 私は震える声を出す。
 「どうして、ここまでするの?」
 「そんなの、決まってるでしょうが。」
 胸の奥で、危険だと叫ぶ。
 警報が。
 「君が好きだから。」
 高鳴る警鐘は、喉を割って声になる前に、貴方の唇で、塞がれた。
