二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂]拝啓、大嫌イナ神様ヘ。 |2up ( No.23 )
- 日時: 2010/08/20 23:05
- 名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: ALFqxRJN)
- ■3 ぎらぎら光る 
 彼女は何時も悲しい時は困ったように笑う。
 其れが癖になってしまった。
 癖にさせてしまったのは自分達なのかもしれない、彼等はそう思っていた。
 「お風呂入りたい。べたべたしてて気持ち悪い」
 「今は他の奴らがおるきに、待つぜよ」
 「もうちょっと髪切ろうかな、鬱陶しい」
 「おんしゃの髪は綺麗じゃき、勿体なかか」
 今日も今日とて戦である。
 皆返り血を浴びてはいるが大した怪我もない。今回はすんなりと終了し、少女は安堵の息を漏らす。
 クリーム色の艶やかな髪は血液を吸って重くなり、毛先からポタポタと零れ落ちていた。
 和服に兜を被った土佐弁の男、坂本辰馬が笑顔で彼女の肩に腕を回す。
 重いと言いつつも嫌がっていないので、彼等は其の侭でいた。
 本拠地に着いて風呂に入りたい無兎なのだが、先に帰った者が既に入っていたらしい。
 脛当てを乱暴に壁に投げつけ、苛々している事を体現する無兎。
 其の脛当ては辰馬の物なのだが、当の本人はアッハッハッと馬鹿みたいに笑うだけで何も言わない。
 其の為彼女の行動は段々とヒートアップ、手当たり次第─とはいっても全て辰馬の物─に物を壁に投げつけた。
 ガンガンと音がすれば、流石に気付く。
 ぞろぞろとお馴染みの三人が彼女と彼が居る和室に入って来た。
 眠そうに頭を掻き、真っ白な服装が真っ赤になっている銀時、呆れた表情の桂、腕を組んだ高杉。
 「煩いぞ手前ェ」
 「お風呂入りたい」
 「其れだけかよ? 何ですかお前、真逆あの日にでもなったんですかコノヤぶふぉッ!!」
 「死ね天パ」
 「しかしそうだな、髪に何時までも血が付いていては傷んでしまうな」
 「やっぱ気持ちを解ってくれるのは綺麗な髪の人間だけ。天パには解らない」
 「いちいちムカつくな」
 鼻を押さえながら立ち上がる銀時。
 仮にも女性に向かってデリカシーの欠片もない言葉を吐いたのだから当然の報いである。
 彼の鼻に容赦なく投げつけられたものはやはり辰馬の物で、兜だ。
 兜の一番硬い所を見事に銀時の鼻の頭に投げつけた。相当痛い。
 別に無兎は其の日ではないのだが、苛つく理由は確かに別にあった。
 風呂に入りたいが入れないから苛々しているのではない。
 眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せている。困っているのか怒っているのか解らない表情をしている。
 高杉は軽く首を傾げる。
 「お前、刀どうした」
 一応何時襲撃が来てもいいように、刀や短刀は皆持つようにしている。
 しかし今の彼女は薄着、サラシに着流し姿。
 胡坐をかいて頬杖という、何とも女らしさのおの字もない体制である。
 そういったものを忍ばせているようには見えない。
 彼の言葉にピクリと反応し、ぐるりと壁をずっと見ていた彼女が首を90度回転。
 「……さっすが晋助、鋭い。刀さァ、あれ。罅入った。ちゃんと手入れもしてたのに」
 「いや長年使ってるからだろ其れ」
 「鍛冶屋に出したから今小太刀しかない。だから何かあったら任せた晋助」
 「俺限定かよ」
 機嫌の悪い原因は、先程の戦闘で相手の剣を止めた時に刀に罅が入った為だった。
 彼女の刀は大切な人から貰ったから、ずっとずっと大切に使うと彼女は言っていた。
 自ら己に近いを立てたのに、其れを破ってしまった自分に腹を立てていたのだ。
 しかし刀が古くなれば脆くなるのも当然、其れ程気にする事もないのだが。
 ────大切だったのだ。
 寺子屋に居た頃から無兎は其の刀を手放さなかった。
 風呂に入る時ぐらいだ。後は文字通り肌身離さず持っていた。
 刀を四六時中持っているものだから他の塾生には気味悪がられ、彼女は孤立していった。
 しかしそんな中、銀時、桂、高杉だけは彼女に話しかけ、普通に接した。
 何時の間にか共に居る事が多くなった。
 どれだけ其の刀を大切にし、どれだけ思い入れがあるかを三人は知っている。
 勿論戦場に来てからも大事に大事にしていたので、辰馬も知っていた。
 不機嫌という言葉を其の侭具現化したような態度の無兎。
 高杉は溜息を吐くと、彼女の傍に腰を下ろした。
 銀時、桂は入口の襖に凭れかかっている。
 「……晋助」
 「んだよ」
 「あの刀、先生が自分にくれたの」
 其れは、初耳であった。目を瞠る。
 「だから絶対傷付けないつもりだった。人も、あんまり斬らないつもりだった。
 自分を護る為じゃなくて、魂護る為に持ってろって。だから、ずっと大切にするつもりだった。
 先生、こんな事に使ってるって知ったらさ」
 話している内に段々と下を向く少女。胡坐から三角座りになる。
 縮こまった彼女は、本当に小さく見えた。とても小さく見えた。
 戦場で勇ましく刀を振り回すなど想像も出来ない、只の少女に見えた。
 肩が小刻みに震える。此れは、泣く一歩手前なのだろうかと高杉は思う。どうすればいいのかと考える。
 彼女は、顔を上げた。
 「先生、無兎の事嫌いになるかな」
 笑った。眉は情けなく八の字になり、困っているようで。しかし笑っている。
 ああ、こいつは悲しいんだと彼等は解った。長年共に居るのだから、彼女の癖くらい解る。
 彼女の其の顔は泣く事と同じだ。けれど泣かない、笑う。
 無兎は女でまだ子供だ。子供は直ぐに泣く等と言われるのが嫌いで、小さい頃から泣き顔は皆見た事がなかった。
 だから其の顔は彼女の泣き顔と同じだ。
 暫く四人の動きが止まる。其の部屋だけ時間が止まってしまったような錯覚。
 「大事なら、使うな」
 「泣き顔」の彼女を、撫でる。
 高杉が彼女の頭に大きな手を置き、乱暴に撫でた。
 「ちょ、痛い痛い。使うなって、じゃあどうすりゃいい?」
 力加減が解らないのかじわじわと痛くなってきた為、声を上げる無兎。
 其れを聞きパッと手を頭から離す。
 彼女はもう「泣き顔」ではない。何時もの、不機嫌な顔。
 「鍛冶屋に治して貰ったら大事に持っとくでも飾るっとくでも好きにすりゃいい。
 罅入った位でんな事されちゃかなわねェ」
 「じゃあ、此れから何で闘うの? 素手?」
 「俺の一本やるから何か其れでいいだろ」
 「適当だな。……くれるんだったら、貰う。ありがと晋助」
 本当は戦の為に其の刀を使いたくはなかっただろう。けれど実際金など無く。
 やむを得ず其れを使うしかなかったのだ。
 こんなのは本当に魂を護るためなのだろうかと自問自答する彼女の気持ちを、何となく解った高杉。
 考えた末、自分の使っていた物を渡す事にした。少し刀身は短いのだが、慣れれば其れ程気にならない。
 礼を言った彼女の顔を見れば、花が咲いたように綺麗に笑っていた。
 (其の男、鬼兵隊総督)
 彼の不器用な優しさ。
