二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.640 )
- 日時: 2012/10/01 19:04
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
- 「ここが精神統一の場、己の精神力を磨くためにうんぬん、ここが治療室、怪我を負った人をかんぬん、 
 そしてこちらが、だらだらだら・・・」
 こいつの説明は何故こんなに長い。
 マイレナはげんなりしながらついて行った。だが、流石は20位以内、殆ど皆熱心に話を聞いている。
 先程隣にいた娘は本当に張り切っている。聞けば彼女が今回の入団試験のトップらしい。
 「そしてこの先が上位僧たちの部屋なのだが、君たちはまだ入れない。そしてそれより先の先、この組織の
 最上階にいらっしゃるのが法王ルヴァルディスタ様。・・・では諸君、ルヴァルディスタ様の本名は?」
 一瞬、空気が揺れた。試験に出る範囲では法王の名はルヴァルディスタ・ルーウィとされているが、
 正式にはもっと長いということは大抵の人に知られている。
 ルヴァルディスタ・シュアティ・ラムス・テスカナ・ルーウィ、それが法王の本名だ。
 だが、そこまで覚える人はあまりいないらしい。分かる人、と言われ、手を上げたのは三人。
 トップの少女と五位の少年、そして不承不承ながらもマイレナ。
 少年に答えを要求した司祭は、彼の完璧な答えに満足げに頷いた。
 「では、関係はないが——[あちらの]、魔術団アーヴェイの頂点の正式な名前はわかるかい?」
 今度ばかりはこの二人も黙った。えー何それさすがにそんなの知らないよ。分かるわけないじゃない。
 そんな会話すら聞き流しながら、マイレナは必死にあくびを噛み殺していた——が、司祭にはバレバレだったらしい。
 「君、ちょっとたるんでいるのではないかね? ・・・答えてみなさい」
 でた、と、マイレナは思った。
 態度の悪い生徒に難問を押し付け、解けないのを見てほら見たことかという表情をする。優越感に浸る教師。
 ここは学校じゃない。そしてマイレナは、生徒でもない。
 「ほら——やはり答えられないだろう」
 思った通りの反応をする司祭を前に——ちょっぴり小馬鹿にしたような表情で、言って見せた。
 「・・・センディアスラ・ガウス・ファルシ・テスカナ・フィージャー。テスカナの名で分かるように
 法王[様]の血縁関係に当たり、昔から双方の相性は悪く、現在もそれは同様であり、
 互いに住民の支持を集めようとして組織の本拠地の様子もどんどん良くなり、
 今や魔法組織は入団試験を行い優秀な人材のみを集めるエリート職になった——」
 すらすらと、訊ねたこと以外のことまで言い切ってしまったマイレナに、周りは思わず唖然として時を止める。
 そんな空気を解凍するかのごとく、マイレナは同じ表情で言う——
 「これで満足ですか?」
 「姉さん、一体何やったわけ?」
 同日、後 翠玉_エメラルド_の刻を少し過ぎたあたり——
 家に帰ってきたマイレナに開口一番、ルィシアはそう言った。
 「何が? ——ただいまルィシア」
 「そのままの意味よ。——お帰り姉さん」
 テーブルの洋灯に火を灯し、出来上がった少なめの料理を並べてマイレナを見る。
 「なんかすごい噂になっていたんだけど」
 「・・・なんて?」
 「色々。凄い頭いい人が来たー、とか、司祭を唸らせた新人がいるー、とか、
 なんか魔術団と僧侶団の架け橋になるんじゃないかー、とまで言われてたんだけど・・・何やったの? 一体」
 「いや別に何も——」
 何じゃそりゃ、てか架け橋て、と反論しようとして——思い当たる。あさっての方向を見た。
 「・・・やったのね?」
 「・・・・・・・・はい」
 「な、に、を?」
 妹の厳しい目。この表情になるとはぐらかせない。下手に言い繕うとすぐさまレイピアの餌食になる。
 鍛錬用なのでもちろんさして危険ではないが、好んで痛い目に遭おうとも思わない。
 ・・・剣術に長けた妹をもつというのも考えものだ。
 「・・・単に質問に答えただけだよ、魔術団の頂点を答えろって言うから」
 「それだけじゃないでしょ」
 「・・・えーと。ついでに昔っから相性悪いことを指摘しました」
 「・・・で?」
 まだ聞くのか。
 「・・・司祭殿が凍りついた」
 「解凍させた後は」
 まだ聞くか。てか解凍させた後って。
 「・・・爆笑されてこりゃあ面白い奴が来たって言われた」
 「・・・そーゆーこと。得心いったわ」
 解放された。やれやれとマイレナは肩をおろす。
 「あぁ、あと——」まだあるのか。「ひとりじゃ『爆笑』って言わないってことはわかってるわよね?」
 「・・・分かってるよ?」だけど仮にも上位の人指して『馬鹿笑いしていた』とは言えないだろう。
