二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ジョ−カ−の国のアリス ( No.56 )
- 日時: 2012/01/27 15:00
- 名前: 隼子 (ID: qyjkJIJL)
- 参照: http://pasusitai
- 第九話「初めてのサ−カス」 
 沢山の露店、いろんな匂い。沢山の人達が行き交う賑やかな光景。
 そう、ここはサ−カスだ。沢山の顔の見えない人達は、顔が見えなくても皆とてもワクワクしているのが私にもわかる。私だって内心ではとてもワクワクしている。
 そんな私も城の人達と一緒にサ−カスを見に来ているわけだが。
 ここのサ−カスは、私が思っていたよりもよほど大きかったことが分かった。いつもはジョ−カ−がネタばれになるからと言って近寄らせてくれないが、今は違う。ついその大きさに意味もなく口をあけてしまう。
 ぺ−タ−「どうしたんです?口を開いて・・・」
 意味もなく口をあけていた私に、ぺ−タ−が不思議そうな顔で覗き込んでくる。
 「ううん。何でもないの。・・・大きいなと思っていただけよ?気にしないで」
 ビバルディ「何じゃ、アリス。サ−カスが好きなら城に呼びつけることもできるのじゃぞ?」
 「え、いいわよ。そんなにしょっちゅう見たら飽きてしまうわ。」
 サ−カスの様な非日常の事を日常にしてしまっては飽きてしまい、詰らなくなるというものだ。
 ぺ−タ−「そうですとも!こんな雑菌だらけの所にずっと彼女を置いておくのも嫌なのに、それをわざわざ城に呼びつけるなんて冗談じゃありません!!」
 エ−ス「ははは!誰もぺ−タ−さんには聞いてないと思うな」
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 そうして、賑やかな道を歩いてテントの中に入ると、とてつもなく沢山の人達と客席の数が私の目に映った。これが現実なのかどうかも疑いたくなるくらいの数だ。
 舞台の上には、まだ準備をしている団員達の姿が数人見える。
 「あれ?ジョ−カ−は?」
 私は席に座りながらそう言った。
 初めてジョ−カ−に会った時、彼は『サ−カスの者だ』と言っていた。サ−カスの者ということは、このサ−カすの関係者だということは間違いないだろう。
 エ−ス「ジョ−カ−さんなら裏に居るんじゃないかな?ほら、下準備がサ−カスには欠かせないからさ」
 エ−スは指を指しそう言った。
 ペ−タ−「僕はそんな道化には興味はありません。僕が興味を持つのはアリス、あなただけです!!」
 そう言いながら、ぺ−タ−は私に抱きついてくる。ウサギだと思って油断した。かなり苦しいため、ぺ−タ−の背中をパシパシと叩く。
 「く・・・くるしぃ」
 ビバルディ「ホワイト、止めぬか!苦しがっておるだろう」
 ビバルディがそう言ってくれたおかげで、ぺ−タ−の腕の力が少し弱まった。
 ぺ−タ−「大丈夫ですか?!僕の愛が伝わりすぎたんですね?」
 「ゴホゴホ・・・・」
 (NO!NO!)
 実際には愛ではなく痛みが伝わっただけだ。苦しくて声が出ない。心の中で違うと訴えるが多分ぺ−タ−には届かないだろう。
 エ−ス「ははは、ぺ−タ−さんは熱いなぁ。焦げちゃいそうだぜ!」
 あんたも変わらないでしょ!と言いたいが声が出ないので言わないことにする。
 ぺ−タ−「熱いのはあなたでしょう、エ−ス君」
 二人からは見えない火花が散っている様な気がする。睨みあって動かない。そんな時・・・
 ジョ−カ−「おまえら、静かにしろ。もう始まるから大人しく座ってろ!」
 背後から聞き覚えのある声が聞こえたので振り返ると、そこにはジョ−カ−がいた。いつもの道化の服を着たジョ−カ−が。
 (あれ?・・・おかしい)
 ジョ−カ−はいつも笑ってニコニコしているものだと思っていたが、今の彼は違う。口調がいつもとまるで違うだけでこうも変わるものか。
 (別人みたい)
 そんな事を思っている間に、彼はステ−ジへと上がり帽子を脱ぎ、お辞儀をした。スポットライトが彼を照らしているが彼は特に気にした様子もなく、堂々と舞台の真中に立った。すると一斉に会場が静まり返った。
 。ジョ−カ−「レディス・アンドジェントルメン!ウェルカム・トゥ・ザ・ワンダフル・ワンダ−・ワ−ルド」
 彼の声は会場内に響き渡った。彼の声は、私の席からでも十分に聞こえる。
 ジョ−カ−「さてさて、ご覧になる前に団長から注意があります。サ−カスの最中は銃を撃つのはやめてください。それが時に我々の仕事にもなる・・・・・が、今ここではご法度です。楽しむ事に集中してください」
 (え!?ジョ−カ−って団長さんだったの?)
 今まで気づきもしなかった。よく考えればいかにもという格好だったが、この世界の人達は変な服装の人が多いせいか深く考えるまでには至らなかったのだろう。
 舞台の上から色とりどりの紙吹雪がひらひらと舞い落ちる。
 ジョ−カ−「さあ、ショ−の始まりです。あなたの楽しめる時間となりますように・・・・・」
 そう言った彼の声はさっきまでとは全く違う、とても優しい声だった。
 (さっきまでの彼は何だったのかしら・・・)
 あれは幻覚だったのか。それとも、本当に彼だったのか。今となってはもう知る術はない。考えている間にサ−カスが始まった。
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 あれから何時間帯か続いたサ−カスが今終わった。サ−カスを見終わった私たちは、テントを出て露店の並ぶ道へと出た。
 「ふぅ・・・・・ついはしゃぎすぎちゃったわね」
 サ−カスが始まってから今までずっとはしゃいでいた。普段の私ではあり得ないはしゃぎように、今思い出すと恥ずかしくて赤面しそうだ。
 ビバルディ「おまえははしゃいでいても恥ずかしいような歳ではないだろう?・・・・・まあ、キングのような歳ではしゃいでいたら恥ずかしいと思うがな」
 キングとは、ハ−トの城に住んでいる、いつも気弱でとても優しそうなおじさんのことだ。他の役持ちに比べたら危険性は非常に少ない。そのせいもあってか、彼はいつも顔なしのような扱いを受けている。
 キング「わ、わしは、はしゃいだりなんかしていないぞ?まあ、ジョ−カ−のサ−カスは凄かったが」
 彼の言う通りだ。ジョ−カ−のサ−カスは私の世界でも引きを取らないくらい凄かった。ちゃんと最後まで楽しむことができた。
 (皆はどうかしら・・・・ってあれ?)
 気づくといつの間にか彼らがいない。さっきまでいたのにどうしていなくなったのかわからないが、私が迷子になったのかもしれない。周囲を見ても、私が知っている人はいない。居るのは顔の見えない人達だけだ。私が知っているあの人達は今どこで何をしているのか。
 (私を探している?それとも・・・・)
 見捨てられてしまったのかもしれない。
 「やあ、お嬢さん。いけないよ?サ−カスでそんな顔をしちゃ。笑わなきゃ」
 不安でどうにかなりそうな私の前に、ジョ−カ−がふらりと現れた。安心はできないが、心細さは少し薄れた。
 「ジョ−カ−・・・・」
 「どうしたの?不安そうだね」
 当たり前だ。迷子になって不安にならないわけがない。例外もあるが。
 「不安になるのが普通よ」
 「不安?・・・あ、迷子ってこと?」
 「そうよ、気づいたら皆がいなくなっていたの」
 「それならこれをどうぞ」
 ジョ−カ−はそう言いながら、子供が喜びそうな大きいハ−トの形の風船を私に渡した。その風船は真中から色が白と黒に分かれている。
 「ジョ−カ−、私は子供じゃないんだけど?」
 「うん、知っているよ。君は立派なレディだ。でも、これはそういう意味じゃないよ。役に立つアイテムだよ」
 宙に浮く風船は、浮いているだけなので、役に立つような物だとは思えない。
 「・・・・・・?」
 (何だか今日のジョ−カ−おかしいわ)
 「?どうしたの、そんなにじろじろ見て。俺の顔に何か付いてる?」
 彼はいつも通りに振舞っている。変わったところなんて見られない。
 「そうじゃないの。ただ今日は腹話術しないのねと思っていただけ」
 「あ、うん。ジョ−カ−今はいないんだ。アリス、呼んでいるよ。」
 「え?」
 (何処?)
 「アリス」
 確かに、耳を澄ますと聞こえた。私は人ごみの中へと入っていく。すると今度は、ハッキリと聞こえた。この声は・・・・・
 「ぺ−タ−!」
 人混みを通り抜けた先にぺ−タ−が立っていた。
 「心配掛けてごめんなさい」
 「あなたが無事でよかったです!ジョ−カ−に会ったのでしょう?大丈夫でしたか?」
 「ええ風船をもらっただけよ?何もされていないわ」
 「そうですか。じゃあ帰りましょう。皆待ってます」
 ぺ−タ−が私の手を引く。顔の見えない人達を見つめながら私がよく知る人たちの住む場所へ帰った。
