二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ボカロ 【短編集】 ( No.1 )
- 日時: 2012/01/17 21:02
- 名前: 麻香 (ID: hxCWRkln)
- 01 § 魔女 § 
 古い村の、小さな協会。
 幼い双子が治める、小さな協会。
 そこに、村の子供が皆集まった。
 この協会の双子は、夕刻になると子供達に昔話をしてくれるのだ。
 日が傾き、山の山頂と太陽が重なった時。子供達の前に、2人の修道士が現れた。
 それまでお喋りをしていた子供たちは、一斉に口を閉じ、興味津々で2人を見つめる。
 「さぁ、お話を始めるよ。今日は、悲しい悲しい魔女のお話にしようかな」
 少女の修道士が言った。
 魔女という言葉に、子供達の好奇心がさらに沸き立つ。
 少年の修道士が語り始める。
 「昔々、まだ魔女狩りの制度があった頃。1人の魔女がいたそうな。魔女は、ある王子に恋をしたそうな‥‥‥」
 ☆★☆★☆
 【カルナ】
 ある町に、カルナという女がいた。
 カルナは美しく、優しい心を持っていたので、町の皆から愛された。
 ある日の昼下がり。
 カルナは、川のようにサラサラした長い髪を振りながら、市場を歩いていた。
 「今日はお肉が安いわね‥‥。奮発してステーキにしちゃおうかしら」
 町一番の美人でも、考えることは他の娘と同じ。
 店先に並ぶ肉を見ながら、カルナは早くも脂ののったステーキの味を思い描いていたのだった。
 と、突然の強い突風に、カルナの帽子が宙に舞った。
 「あ」
 カルナは必死に手を伸ばすが、帽子はカルナを嘲笑うように飛んでいく。
 しかも、なかなか落ちてこない。
 (もし、手の届かない所に落ちちゃったらどうしよう‥‥‥)
 カルナはそんな心配をし始めた。あれは、何度も節約して買ったお気に入りの帽子なのだ。
 すると突然、帽子が降下し始めた。その先には、1人の男。
 「そこの方、帽子とってくださぁい!」
 カルナは男に叫ぶ。
 男がこちらを振り向くと、帽子は男の手に、まるで飼い主に忠実な猟犬のように収まった。
 「あ、ありがとうございます!!」
 カルナが駆け寄ると、男は微笑みながら帽子を差し出す。
 「あなたのでしたか。素敵な帽子ですね」
 カルナは帽子を受け取って、攻めて礼を言い、立ち去ろうとする。
 すると、男がカルナを呼びとめた。
 「すみません。お暇でしたら、今度僕とお食事でもいかがですか」
 突然の誘いに、思わずカルナは男の顔を見上げて、唖然とした。
 男はとても綺麗な顔をしていたのだ。
 カルナは真っ赤になり、うわずった声をあげる。
 「え、あ、はい」
 「明日、なんてどうでしょう」
 「はい、大丈夫です亅
 男は目を細めて笑う。優しい笑顔だった。
 カルナは口を半ば開け、呆然と男を見つめた。
 「あなたの名前は?」
 「あ、えっと、カルナです」
 「可愛らしい名前ですね。僕はガクトです」
 「あ、王子様と同じお名前なんですね」
 「はい」
 ガクトとはこの国の王子の名前で、国民の間でも人気の名前だ。カルナ自身、親戚にガクトという子がいるほど、その名前は多い。
 ガクトはカルナに手を振り、町の奥に消えていった。
 カルナは明日のことを思い、胸を踊らせた。
 その時、カルナは誰かの視線を感じた。
 強い憎しみを持った、突き刺すような視線を。
 だが、振り返ってみても、誰もいない。
 (気のせい‥‥‥?)
 不思議に思ったが、悩んでいても仕方ない。
 カルナは鼻歌を歌いながら、最上級のステーキを買いに、市場へと歩いて行った。
- Re: ボカロ 【短編集】 ( No.2 )
- 日時: 2012/01/17 21:55
- 名前: 麻香 (ID: hxCWRkln)
- 翌日。 
 カルナは処刑場にいた。
 木でできた大きな十字架に縄で手足をしばられ、十字架の下には大量の薪。衣服は取りあげられ、与えられた白いワンピースだけの姿だった。
 そうなってしまった理由は、カルナにも分からない。
 ガクトを待っていると、突然兵士達に捕えられ、ここに連れてこられたのだ。
 最初のうちは助けを求めて悲鳴をあげたり、自分を監視しているらしい兵士に向かって怒声を飛ばしたりしていたのだが、今は諦めてぐったりしていた。
 しばらくして、1人の娘が近づいてきた。その隣にいるのは、ガクトだ。
 ガクトの姿に、カルナは少しほっとする。
 「ガクトさん!わたしです、カルナです!!助けて————」
 「黙れっ!」
 ガクトの荒々しい声に、カルナはびくっと震える。
 ガクトは動けないカルナの前に近寄る。
 「お前、魔女だったんだな亅
 「え‥‥?」
 ガクトはカルナの髪を乱暴につかみ、小刀で根元から薙ぎ払った。
 あまりのことにカルナは痛さも忘れて、ガクトと宙に舞う自分の髪を見つめた。
 だがガクトはカルナを貝ることはなく、一緒に来た娘の方へと戻っていった。
 しかし、カルナは見た。
 ガクトは‥‥泣いていた。
 「これより、魔女カルナの処刑を始める!」
 娘が、小さな十字架を持って、高らかに叫んだ。
 魔女、とカルナは口の中で繰り返す。
 あの娘はミナという名で、この町の修道女。
 カルナより少し年下で、明るくて人望もあって、色々と有名な娘なのだ。
 「魔女カルナ、何か遺言は」
 ミナがカルナに聞く。
 魔女?遺言?カルナは訳がわからなくなった。
 「わたし魔女じゃありません!どうしてこんな‥‥」
 「捕えられた魔女は、皆そう言い訳するのよ。‥‥お前は、魅了の魔術を使い、この国の王子である方をたぶらかした。そうでしょう?」
 「王子‥‥‥?」
 ガクトが、王子。昨日はそんなこと言ってなかったのに。
 カルナがガクトを見ると、ガクトは憎々しげにカルナを睨んできた。さっき泣いていたと思ったのは気のせいだったのか。
 (まさかガクトさんは、わたしが魔女だと思ってるの‥‥?)
 やがて処刑人が、カルナの足元の薪に火を灯す。
 魔女の処刑は火あぶりと決まっているのだ。悪いものを全て焼き尽くすために。
 「人の中に潜む悪しき魔女よ。その魂を天に捧げ、悔い改めよ‥‥」
 ミナが、ぶつぶつと魔女処刑用の呪文を唱える。
 足の方から、徐々に熱くなってくるのが分かった。それから逃れようと暴れるが、手足を縛る縄は固い。
 赤く燃える火を見ているうちに、カルナの中にある感情が芽生えた。
 憎い。
 ガクトは良い人だと思っていた。
 優しい人だと思っていた。
 なのに、自分を魔女だと疑っている。殺そうとしている。
 (信じてたのに)
 カルナの頬に、熱い涙が伝う。
 憎い、悔しい、悲しい。
 (‥‥‥初恋の、人だったのに)
 突然、カルナの中で何か嫌なものが溢れた。
 まるで身体の中に潜んでいた獣が動きだしたような感覚。
 それは痛みをともなって、体全体を蝕む。
 ついに耐えられなくなり、カルナは絶叫した。
- Re: ボカロ 【短編集】 ( No.3 )
- 日時: 2012/01/18 16:55
- 名前: 雪姫 (ID: MXjP8emX)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=22040
 麻香さん!お久しぶりです。
 えっ?麻香さんもボカロが好きなんですか?!
 実は私も大好きなんです♪
 映像の方で私も駄作ながらボカロ小説を書いているので良かったら遊びに来てください^^
 あ、曲リクですが・・・
 鏡音 リンちゃんの「ココロ」はどうですか?
 もし良かったら書いて下さい。
 それではっ!
- Re: ボカロ 【短編集】 ( No.4 )
- 日時: 2012/01/18 21:06
- 名前: 麻香 (ID: hxCWRkln)
- こんにちは! 
 この前カラオケでボカロ曲なくて半泣きになりましたw
 「ココ口」は「ココ口・キセキ」と対のやつですね!
 ただ、小説にするのは難しそうですね‥‥うう〜ん‥‥‥
- Re: ボカロ 【短編集】 ( No.5 )
- 日時: 2012/01/19 21:12
- 名前: 麻香 (ID: hxCWRkln)
- 【ミナ】 
 ミナはこの国の王子がずっと好きだった。
 綺麗な顔、優しい目。ずっと憧れていた。
 王子のそばにいたい。そう思う反面、親のあとを継いで修道女になった。
 ある日、王子がお忍びで町に降りてきているという噂が流れてきた。
 あの時ほど嬉かった時はない。自分の願いを、神様が叶えてくれたのだと思った。
 王子に会える。淡い期待を抱きながら、ミナは町を捜し歩いた。
 そして、ついに見つけたのだ。
 噂通りの長くて綺麗な髪に、優しい顔。
 ミナは王子のところへ走りかけて、止まった。その顔からスッと表情が消える。
 「え‥‥‥?」
 ミナは咄嗟に近くの壁の後ろに隠れた。
 息がどんどん激しくなってきて、慌てて深呼吸する。
 見間違い、見間違い、と自分に言い聞かせてから、王子の方を見てみた。
 見間違いではなかった。
 王子は女と話していたのだ。楽しげに、親しげに。
 どうやら食事の約束をしているらしかった。
 あの女は、美人で有名な町娘、カルナだ。
 カルナは王子とどういう関係なのだろう。
 それを知らないことが、苦しくて、怖かった。
 カルナと王子は話終えたのか、手を振って別れた。
 だが、ミナはカルナをずっと睨み続けた。
 (許せない。王子のことは、あたしが一番思っているのに。どうして王子の隣にいるのが、あたしじゃなくてカルナなの‥‥?)
 やりきれない思いで、ミナはその場を後にした。
 ☆★☆★☆
 その夜、協会の祭壇の前で、ミナは神に祈り続けた。
 「どうかあの女に、罰をお与えください‥‥‥」
 その言葉を繰り返す。
 小さな十字架を捧げ持つ自分の手が震えるほど、何時間も、一心不乱に。
 祈るうちに、ミナは、静かに泣いていた。
 そして、夜明け前に、ついにそれは聞こえた。
 ミナ自身も初めての、不思議な声。これが、神の声。
 ————罰は、自分の手で与えなさい。
 そう聞こえたのだ。
 それを聞いたミナは、それから必死に、カルナに罰を与える為の作戦を練った。カルナと王子が会う時間に、間に合うように。
 そして、準備も全て終わらせた。
 「この方法で‥‥‥あの女を‥‥‥」
 薄暗闇の中、ミナはにやりと笑った。
 あの時聞こえた神の声が、自分の中の悪がささやいた声だったことは、最後まで気づかなかった————
 ☆★☆★☆
 そしてミナは、カルナの元へ向かっている王子を見つけ、話しかけた。
 「王子様。貴方がお会いになろうとしているカルナという女は、魔女です」
 そう切り出すと、予想通り王子は驚愕した。
 このまま、上手くこの話を王子に信じさせなければ。
 「証拠は‥‥あるのか」
 王子はこう返してきた。意外と冷静だ。
 「あたくしの所に、数人の男がやってきました。男達は口を揃えて、カルナという美しい魔女に騙された、と言いました。ここに、協会の証明書があります」
 男がやってきたなど、もちろん嘘だ。
 協会の証明書というのは、カルナを魔女と認め、処刑する許可を与えるという内容だが、これも偽造。
 全ては、カルナに魔女という罪を着せ、この世から消すため。
 この国で魔女は忌み嫌われ、存在自体が罪となる。
 それとは対照的に、神に仕える修道士は、王族の次に地位が高いと言われている。
 その立場の差を利用したのだ。
 「僕は、あの娘に‥‥魔女に騙されたのか‥‥‥?」
 案の定、王子は困惑した表情で聞いてきた。
 やはり修道女という地位が、この話の信憑性を高くしたようだ。
 「えぇ」
 「‥‥‥分かった。すぐに魔女カルナの処刑の準備を始めよう」
 王子の声が既に怒気を含んでいることに気づき、ミナは心の中で微笑んだ。
 上手く、いったのだ。
- Re: ボカロ 【短編集】 ( No.6 )
- 日時: 2012/04/21 17:46
- 名前: 麻香 (ID: mo8lSifC)
- 「これより、魔女カルナの処刑を始める!」 
 ミナは高らかに叫んだ。
 その瞬間、カルナの顔に恐怖と困惑の表情が浮かんだ。
 いい気味だ、と思った。
 (あたしから王子を奪ったあなたが悪いのよ、カルナ。あなたは天国から、あたしたちの恋を応援してね)
 ここでカルナは魔女として死に、王子の危機を救った自分と王子は結ばれる。
 ミナは気づかれないように、そっと笑った。
 可笑しくて可笑しくて、仕方なかったのだ。物事が、全て自分の思い通りにいっていることに。
 「人の中に潜む悪しき魔女よ。その魂を天に捧げ、悔い改めよ‥‥」
 何度も練習し、自然に口からすらすら出てくる呪文。
 この言葉を唱え、何人もの魔女の疑惑がかかった女たちを処刑した。
 まさか、魔女ではない人間に使うことになるとは。
 カルナの足元から、徐々に炎が登ってくる。
 辺りの者達が、これから起こる残酷な処刑を想像し、ごくりと喉を鳴らした。
 その時、突然カルナが叫び声をあげた。
 「うあああああぁぁああぁあああああぁっっ!!!!」
 それは、死を恐れる者の悲鳴というより、獣の咆哮。
 それと同時に、辺りは太陽が消えたように暗くなった。
 不吉な予感に、皆の背筋が震える。
 カルナの背中の辺りが大きく盛り上がり、何かがワンピースを突き破って出てきた。
 カルナの背中から生えてきたのは、カラスのように漆黒の、だがそれの何十倍もある大きな翼。
 華奢な女の体に不似合な大きな翼に、ミナは恐怖の声をあげる。
 「カルナは‥‥‥本物の、魔女‥‥‥!?」
 翼が大きくはばたく。
 1度目でカルナを縛っていた縄がほどけ、2度目でふわりと浮いたカルナは、自分が縛られていた大きな十字架の上に降り立った。
 短くなった髪の間から、血走った目が真っ直ぐにミナを捕える。
 カルナは大きくはばたき、ミナの方へ突進した。
 殺される。ミナは直感した。
 「いやあぁっ!」
 だがカルナはミナの頭上ギリギリを掠めて飛んだ。
 その時の強い風圧で、ミナはぎゅっと目を閉じてうずくまる。
 次にミナがおそるおそる顔を上げた時、大空のどこにも、黒い翼の魔女はいなかった————
 ☆★☆★☆
 「すぐに国の騎士団が、魔女カルナの捜索をしました。ですが、見つかりませんでした」
 「しばらくして、国中でカルナの行方が噂されたそうな。死んだ、と言う者もいた。異国で幸せに暮らしている、と言う者もいた。だが、真相は誰にも分からなかった。魔女カルナは歴史から永遠に姿を消してしまったのだ‥‥‥」
 修道士の話に聞き入っていた子供達は、一斉にほぅっと息をつき、興奮して隣の者とおしゃべりを始める。
 だが修道士の、帰りなさい、の一言で、また一斉に自分の家へ走って帰って行った。
 最後の1人が見えなくなるまで手を振っていた2人の修道士の背中に、声をかける者がいた。
 「あら、またわたしの昔話?恥ずかしいんだからやめてよ、もぉ」
 そう言って膨れっ面をする女は、20歳くらいだろうか。
 流れるような美しい髪に、よく光る大きな目。
 一言でいうなら、絶世の美女、だ。
 「だって、カルナの話は子供たちに人気だから」
 少年の修道士が、にこにこと微笑みながら女に言った。
 カルナと呼ばれたこの女。そう、先ほどの話にでてきたカルナ本人である。
 「でも、何百年も前の話よ?初恋の王子様もとっくに死んじゃったし」
 魔女は非常に長生きすると言われる。
 カルナも例外ではなく、数百年前からある美しさを、そのまま保っていた。
 「じゃ、カルナおばーちゃんじゃん」
 「それは禁句」
 少女の修道士がカルナを茶化し、カルナは容姿からは不似合な、低くて恐ろしげな声を出す。
 その2人のやりとりを聞いていた少年の修道士は、プッと吹き出す。
 それにつられて、カルナと少女の修道士も笑った。
 日の落ちた、静かで小さな協会に、3人の笑い声が響いていた————。
 —END—
