二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- その7 ( No.24 )
- 日時: 2014/06/06 10:51
- 名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: nrbjfzgl)
- ★ 
 コンコン、とログハウスのドアがノックされた。
 「はいは〜い」
 あたしの時のように、桜田がゆるーい返事をしながら、ドアを開けると、2人の人影。
 「黒雷お帰り、お疲れ様〜。桃花ちゃんも無事で良かったわぁ」
 ログハウスに入ってきたのは、いつもの着物姿の黒雷と、顔や腕に泥をくっつけた桃花だった。
 「さっきそこで合流してさ。こいt」「先輩!よかったあああ無事だったんですね!」
 黒雷の言葉を掻き消して、涙目の桃花がこっちに迫ってくる。やめろ、くっ付くな、あたしまで泥々になるじゃないか。
 「…おいこら…。まー、あれだな。一応、何だかんだで一番懐いてる先輩だからな。仕方無いな」
 黒雷が、桃花と、それを押しのけているあたしを見てニヤニヤしながら、隣のチェアに座った。
 何が仕方無いんだよ…。あれか、あたしが連絡しなかったせいで無駄足踏んだ腹いせか。
 て言うか、桃花はなんで泥々なんだよ。
 「あたし、ちょうど湿ってる所に落ちちゃったみたいで。背中なんてほら、酷いんですよ」
 桃花がくるりと背中を向ける。本当だ、確かに正面より泥々。
 「あらま、大変」
 キッチンに引っ込みかけた桜田が顔を出して、演技がかった調子で驚いてみせた。
 「可愛い服が台無しよぉ。ルキウゲ・ルキウゲ…」
 桜田が呪文を唱えると、桃花の服や顔に付いた泥が、パリパリと剥がれ落ちていく。
 桃花から離れた泥は霧散してどこかへ消えていった。
 「ありがとうございます、桜田先輩!」
 「どういたしまして〜。じゃあ、2人にもミルクティー持ってくるわねぇ」
 そう言って、桜田はそのままキッチンに引っ込んだ。
 やれやれ…。
 って、そんなことやってる場合じゃないだろ。
 「で、どうなってんだよ、黒雷」
 あたしはチェアに座ってくつろぎ始めている黒雷の隣に座った。
 「さてなー……わからん」
 「そりゃないだろ」
 「わからんもんはわからんだろ。とりあえず悪魔情がいろいろ調べに行ったけどさ」
 そうか、そういやあいつもいたんだっけ。
 あ、森川は?
 「森川もいろいろ調べに行ってる。そろそろ暗くなるからな、早く戻ってくるといいんだけど…」
 黒雷がそう言った途端、携帯の着信音が鳴り響いた。
 「おわっ」
 黒雷が着物の袂をごそごそやって、携帯を取り出した。
 「はいはい黒雷…あ、悪魔情か。で、なんかわかったか?」
 言いながら黒雷は、あたしと桃花にも聞こえるように、携帯をスピーカーモードにした。
 『わかったというか、わからないというか…魔界全体にちょこちょこ異変が見られますが、全体像が掴めませんねー』
 悪魔情の声。
 どういうことだよ…どいつもこいつも、説明がボンヤリしすぎだっつーの!
 『おや、ギュービッドさまもいらっしゃるんですかー。丁度いいですね、そこに居ない方にも伝えてくださいー』
 居ないのは森川とチョコだけだけどな。
 『細かいことはいいんですー。えーと、まず、その辺にウロウロしてる死霊にはなるべく手を出さないこと、あと、暗くなったらできるだけ外に出ないように、だそうです』
 なんだそりゃ。
 『とりあえず、森川さまにも連絡しておいたので、詳しくはそちらに聞いてくださいー。あ、すみません…ここ、携帯禁止らしいんで、これで』
 いきなりぶちっと音がして、悪魔情からの電話は切れた。
 おいおい…。
 「携帯禁止て、あいつ何処にいるんだよ」
 黒雷は呆れたというふうに、やれやれとため息をついた。
 「仕方ない、暗くなる前にチョコを捜しに行くか。放っておいたらちとヤバそうだぜ」
 そうだな。
 黒雷はケータイを袂にしまって、立ち上がった。あたしも席を立つ。
 「あたしも行きますっ」
 桃花もそう言って勢い良く立ち上がった。
 「桜田ー、箒ねーの?」
 黒雷がキッチンに向かって言うと、桜田がひょいと顔を出して、
 「そこよぉ」
 部屋の角にある灰色の布の塊を指差した。
 あたしが布を剥がすと、そこには、
 「…何もねーぞ」
 「おい」
 黒雷に軽く突っ込まれたところで、桜田が「あ」と声をあげた。
 「そういえば森川が乗って行ってるんだったわねぇ」
 おい。
 あたしら三人が心の中で突っ込んだ次の瞬間、コンコン、と再びログハウスのドアがノックされた。
 「はいは〜い」
 キッチンから出てきた桜田が、ドアを開けた途端、駆け込んで来たのは、
 「森川!」
 「あ、ギュービッド!良かった、大丈夫だった?怪我とかしてない?」
 森川はあたしを見つけると、一直線に向かってきて、ぐいと顔を近付けてきた。
 「お、おう」
 あたしがそう返すと、森川は心底ほっとしたというような顔をして離れ、それから桜田にただいま、と言った。
 あたしは森川の顔をじっと見つめる。
 今の反応を見る限り、やっぱ昼間に会った森川は、森川じゃなかったみたいだな…。
 「どうしたのギュービッド、変な顔して」
 森川が首を傾げてこっちを見る。
 「いや、何でもない」
 「そう?」
 森川は不思議そうな顔をしたが、ふっと微笑んで、桜田の方に向きなおった。
 「で、どうだった?何か分かったの〜?」
 桜田が森川に尋ねた。
 「うん、ちょっと火の国のお城あたりに行ってきたんだけどね」
 森川はポケットから小さなメモ帳を取り出して、ぱらぱらめくった。
 「えっと、街とか、城の近くまで“役目”が無い死霊があちこち動き回ってるらしいわ。魔界警察も戸惑ってるみたい」
 死霊、ね。やっぱり、妙な気配の正体はこれか。
 黒雷も小さく頷いている。
 「でも、ただ増えてるってだけじゃなくて、なんていうか、何かを探してるっていうか…夜になると、さらに数が増えるみたいよ……あ、そうだ」
 森川はポケットから何かを取り出して、テーブルの上に置いた。
 手のひらより少し小さい、丸い化粧コンパクトみたいなやつ。
 「なんですかこれ?」
 桃花が覗き込んで尋ねる。
 「ニードコンパス。一番行きたいところとか、欲しい物の方角を教えてくれるの」
 「へえ、便利だな」
 黒雷がコンパスを手にとって、眺めている。
 「大事にしてよ、超高級品なんだから」
 「どこで手に入れたんだ、こんなもん」
 黒雷が訊くと、森川は微妙な顔をして、ため息をついた。
 「外の郵便受けに入ってたのよ…誰も気づかなかったの?」
 黒雷と桜田が顔を見合わせて、それから2人そろってあたしの方を向く。あたしも左右に軽く首を振った。
 「そう…封筒にも入ってなかったから差出人もないし、なんでかしら」
 「あたいらが使っていいんじゃね?クリスマスプレゼント的な」
 今更すぎるだろ。
 でも、ふうん…欲しいものに案内してくれる、ね…。
 よし。
 「黒雷、ちょいとそれ貸してくれ」
 「ん?あいよ」
 黒雷が差し出したコンパスを受け取ると、あたしはそれをコートのポケットに入れる。
 「何だ、どうする気だよ」
 「決まってるだろ、これでチョコ捜してくる」
 「ん?おお、なるほど。そりゃ手っ取り早くていいや」
 黒雷が納得した、というふうにぽんと手を打った。
 「え、それ使うの…?」
 森川は逆に顔をしかめる。
 なんだよ、駄目なのか?
 「うーん、駄目じゃないけど…都合良すぎる気がするっていうか…何か仕掛けがありそう、っていうか」
 ん?どういうことだ?
 「なんていうか、罠って言うのかしら?これだけ変な事が続いてるんだから、何かあるかも、って」
 知ったこっちゃないね。何かあるならあった後に考えるもんだろ。
 都合が良いものは使えるだけ使わせてもらうぜ。
 「森川、箒ねーの、箒」
 「えっと、外に立てかけてあるけど…」
 おお、サンキュー。
 あたしはログハウスの外に出て、箒を取った。
 「ちょっと…」
 森川はまだ渋い顔をしている。
 まあまあ、世の中都合良いことだってたまには起きるもんだぜ。
 あたしは箒にまたがって呪文を唱え、すこし浮いた状態で静止させる。
 「おい、ギュービッド、1人で行くのかよ」
 黒雷も外に出てきた。
 仕方ないだろ、箒は一本しか無いんだし。
 「…気をつけろよー、もう暗いし、夜は出歩くなって悪魔情も言ってたろ」
 黒雷も少し表情を曇らせている。
 大丈夫だって。それに、このコンパスがあれば、すぐにチョコを見つけて、戻って来られるさ。
 「じゃ、行ってくるぜー」
 あたしは2人に手を振ると、箒の高度を上げ、飛びはじめると同時に片手でコンパス取り出して蓋を開けた。
 必要なものは、黒鳥千代子の居場所、と心の中で念じると、ゆらゆらしていたコンパスの針は、くるりと一回転したあと、ピタリと止まった。
 これは…迷いの森の方か?
 あたしはさらに箒の高度を上げて針が指す方向を見た。
 殆ど夜になっている黒紫色の空をバックに、黒々とした森のシルエットが見えた。
 …中に入り込んで酔っ払ってないといいんだけど。
 あたしは一度深く息を吸い込み、コンパスを片手にもったまま、森の方向に向かって身体を傾けた。
