二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜6000越え!? ( No.316 )
- 日時: 2014/01/08 18:44
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: J69v0mbP)
- ☆番外編☆第十七話 「ぬいぐるみ」 
 「ただい……。」
 玄関の戸を開けると、くつはひとつもなかった。
 友撫は幼稚園、母は仕事か、友撫を迎えに行っているのだ。
 (誰も……いないんだ。)
 目を伏せ、玄関の鍵をしっかりしめると、くつをぬぐ。
 そして、すぐにベランダに出られる窓まで行くと、鍵がしっかり閉まっていることを確認する。自室の窓、両親の寝室の窓、トイレの窓。風花は、すべて確認した。
 いじめられるようになってから、戸締まりだけはしっかりするようになっていた。さすがにそこまではしないと思うが、念のためだ。
 トイレから出ると、リビングに置いておいたランドセルから、今日の宿題をはじめる。
 カレンダーを見ると、べつに仕事があるとは書いていない。仕事がある日は、カレンダーに書く約束だったのに。
 「ママのばか……。」
 つぶやくと、むなしくリビングに響いた。それが、ますます風花を孤独感に追いこむ。
 鉛筆が紙の上を走る音。時計の秒針の動く音。窓を越えて聞こえる、外の音。
 すべてが、リビングに響いて、すぐに消えていく。風花は漢字を終わらせると、ランドセルにワークとノートをつっこんで、網戸を開ける。
 もうすぐ夏だ。
 それを感じさせるようなリビングだった。すべての窓を閉め切り、数十分漢字を書いていると、少しずつではあったが、暑くなっていた。
 涼しい風が入りこみ、風花の体を冷ます。
 「涼しい……。」
 言葉に出すと、ますます涼しく感じられた。
 それと、ほぼ同時だった。
 「風花、ただいま。」
 母の声が、玄関から聞こえたのは、
 はっとしてふり返ると、母が立っていた。片手を友撫とつないでいて、最近の張り詰めたような、厳し顔でないことに、風花は思わず安心してしまう。
 だが、母はいきなり切り出した。
 「家庭教師の先生に、これから教わりなさい。」
 風花はその言葉の意味が、理解できなかった。
 「え、と……?」
 「友撫が教えてくれたのよ。」
 「友撫?」
 風花が視線をうつすと、友撫はこくりとうなずき、「ちょっとまってて。」と舌足らずにいうと、パタパタと部屋に駆けていった。
 そして、なにかを持ってもどってくる。
 「これ、あなたのお友だちにやられたんでしょう? いいえ、お友だちとは呼べないわね。」
 友撫から受け取って、風花に見せつけられたのは、風花も友撫もお気に入りだった、可愛らしいウサギのぬいぐるみ。
 しかし、いまとなってはズタズタに引き裂かれ、原型をほとんどとどめていなかった。
 「そうでしょう?」
 「……なんで友撫が?」
 「友撫は、あなたがこのぬいぐるみをお気に入りだってことくらい、知ってるのよ。だから、それがひどいメにあったから、ママに見せてくれたのよ。」
 「だって、おねえちゃん、悲しいお顔してたから……。」
 友撫のセリフに、風花はがっくりとひざをついた。
 そうか。隠しておかなかった自分がばかだったんだ。ズタズタにされたのを、押し入れの奥に隠さなかったから。
 友撫をナメていたのかもしれない。
 「もうなにもいえないと思うわ。」
 「いえるわけないよ……。」
 フローリングの床に、小さなしずくが落ちる。
 「……いいわね? 家庭教師の先生にお願いして。」
 もう、どういうことかは、分かっていた。
 「…………………………………うん。」
 学校には行かせてもらえないのだ。
