二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜 ( No.321 )
- 日時: 2014/01/08 18:51
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: J69v0mbP)
- ☆番外編☆第二十一話 「幸せは」 
 「おかえりなさい、お父さん!」
 笑って出迎えると、父は風花の頭をなでた。そのごつごつした、大きな手をつかみ、ぎゅっぎゅっと引っ張る。
 「はやく来て。もうご飯、できてるよ。」
 「ほんとか? 楽しみだな。」
 父は、ははっと笑って、風花に引きずられるように歩いていく。
 母から「アメリカに行く」と告げられてから、もう一週間が経っていた。父はあの日の夜、帰ってきたし、母も父もよく笑うようになってくれている。母は、風花に中学一年生レベルの問題を解かせてくれる。父は働いて、八時前には必ず帰ってくる。
 まるで、むかしにもどったようだった。
 「お母さん、お父さんのお帰りだよ!」
 「あらあら、風花ったら。おかえりなさいませ、お殿さま。」
 風花に笑いながらも、自分もノッて、うやうやしくあたまを下げる母。
 父もノッたようだ。片手をあげて、母を見ながら。
 「うむ、くるしゅうないぞ。」
 まるで、ほんとうの殿さまのようにいった。
 「あなたってば。」
 「いや。ついつい。」
 「ぱぱ、おかえりー! にいに、あそぼ?」
 ぽーっとした顔をこくっとかたむけて、風花を誘ってくる友撫。シスコン風花は、友撫と遊びたい衝動を必死にこらえ、首を振る。
 「だ、駄目だよ。ご飯食べなきゃ。」
 「うー……そうだね。ままのおいしいおりょうり、たべたい。ゆうな、ままのおりょうり、すきだもん!」
 そういいながら、ぎゅっと母に抱きつく友撫。ふんわりほほ笑み、友撫のあたまをなでる母。
 もう、むかしにはもどれない。
 学校には、恐くていけない。友撫のおむかえもできないし、帰ってきたとき母に「おかえり」ともいってもらえない。
 でも、いまがある。
 すこし違う部分もあるけれど、もうもどれない部分もあるけれど。
 むかしみたいに幸せな、いまが、ここに存在するのだ。
 輝に会えないつらさを、思い出すひまもないくらい。
 風花を包みこんでくれていた。
 「もうすぐ、日本を発つからね。きっと、和食らしい和食を食べられるのも、そろそろ終わりだわ。」
 つくりたての肉じゃがを運ぶと、風花のとなりにすわる母。
 「わあっ、おいしそう!」
 「ほんとだな。食うのが楽しみだ。」
 「ゆうな、にくじゃがもおみそしるも、すき!」
 「知ってるわよ、友撫。よかったわね。あなたの好物だらけなのね。」
 幸せは、なかなか自分のもとには舞いこんでこない。
 それは、小学生になってから、よく分かったことだ。
 自分は幸せでも、相手が幸せじゃなかったら、それは「幸せ」と呼べないことも。
 けれどいまは、母も、父も、友撫も、そして風花も。
 全員、幸せなのだ。
 だから——いまを、この大切な一瞬一瞬を、大事にしたい。
 「じゃあ、食べましょうか。」
 家族を見渡しながら、母が声をかけた。
 「うん!」
 「そうだな。」
 「はやくたべたいー!」
 「ふふっ、友撫ったら。」
 そんな会話をしながら、家族たちは手を合わせ。
 「「「「いただきます。」」」」
 はしを手に取った。
