二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜番外編更新中&700越え ( No.84 )
- 日時: 2012/08/25 07:53
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: z52uP7fi)
- ☆番外編☆第五話 「不法侵入者」 
 「ねえねえ、輝くん!」
 風花は、まっ先に輝に話しかけた。輝がふりかえる。
 「なあに?」
 「輝くんって、なにが好き? 風花、いろんなこと好きだよお。お歌うたうこととか、きくこととか、サッカーするとか!」
 「サッカー?」
 輝が、ぴくんっと反応した。
 「そう、サッカー! まだやったことないけど、お兄ちゃんと、ママと、パパでやるって、お約束したんだ。」
 「そっかあ。おれもね、サッカー好きなんだ。楽しいんだよ。こんど、一緒にやろうね。」
 「うんっ。」
 リリーン
 「あれ? 放送かな?」
 『年中さんは、そろそろプールがはじまるので、準備をしてください。』
 「えー。もう……。」
 「いってらっしゃい。おわったら、またお話ししよっ。」
 「うんっ。じゃあねっ。」
 風花は、輝を背にたちさった。
 風花と輝は、べつの学級になっていた。風花は年中、輝は年長。ヒメユリ組に新しくきたのは、輝とはべつの子だった。
 (輝くんやさしいし、いいひとだなあ……。)
 ☆
 「さあ、お昼寝タイムよ。」
 「わーい、お昼寝ーっ。」
 風花と輝がたっぷり話し終えた次の授業。週に一回の、お昼寝だった。
 「みんな、おやすみ。」
 「おやしゅみなしゃーい、しぇんしぇー……。」
 すでに布団にもぐりこみ、ねむりの世界におちかけていた風花は、まるで保育園児みたいに、不自由なことばで、そういった。
 目をさますと、家の廊下につったっていた。まっしょう面のとびらのむこうから、いがみあう声がきこえてくる。
 こっそりとびらをあけ見てみると、母と父がいがみあっていた。
 「だから! 両親を亡くして、さびしい思いをしている子を、ほうっておけっていうの!?」
 「ただでさえ、収入がすくねえんだ。金なくなっちまうだろ!」
 「あなたがもっとマトモに働けばいいんじゃない!」
 「おまえなんか知るものか! おれは、いっかい幼稚園にいってみるからなっ。」
 「あら、そうですか!」
 二日前に見た映像が、脳裏によみがえっているだけなのか。それとも、またこんなふうに、おなじことでいがみあっているのか。風花には、さっぱりだった。
 ただねがったのは、やめてほしいということだけだった。
 リリーン
 目をさましてすぐきこえたのは、放送案内の音だった。まだねむいまぶたをごしごしっとこすると、放送に耳をかたむけた。
 『幼稚園にいるみなさんにお知らせします。この幼稚園に、不法侵入者がでたと見られています。教室のまどガラスやとびらなどに紙をはり、室内が見えないようにしてください。くりかえします。不法侵入者がでたと見られています。教室のまどガラスや……。』
 (不法侵入者……? まさか!)
 いやな予想が、風花の脳裏をよぎった。
