二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第十三幕 桃《もも》 ( No.23 )
- 日時: 2012/07/08 21:12
- 名前: 無雲 (ID: C5xI06Y8)
- 「神楽ちゃん、朝だよ起きて。」 
 春のうららかな日差しが降り注ぐ中、新八は神楽の寝ている部屋の戸を開けた。
 開かれた襖の向こうに見える布団のふくらみに近づき、声をかけるも全く反応がない。
 試しに軽く揺する。
 ・・・・反応なし。
 「かーぐらちゃーん。」
 ・・・・反応なし。
 流石の新八もここまで反応がないと、ムカッとくるわけで。
 大きく息を吸い込み、両手をメガホン代わりにして口元に当てた。
 「かアアァぐウウウゥ「うるっさいネエエェ!!」ぶげらッ!」
 布団の中に居た神楽の腕から放たれた拳が、新八の顔面に直撃した。
 寝起きで意識のはっきりしていない神楽は、そのまま新八に足払いをかけてタコ殴りにする。
 「ちょ、神楽ちゃん!イタッ!僕サンドバッグじゃないから!人間だからあああぁ!!」
 「朝から賑やかねぇ。」
 志村家の台所で暗黒物質を生産しながら、妙は和やかな台詞を口にした。
 ***
 数十分後、ぼろぼろになった新八と、妙に清々しい表情の神楽が居間にやってきた。
 妙は弟の異変には全く触れずに、神楽に向かっておはようと声をかける。
 「おはようアル姉御!今日はすっきり目が覚めたネ!」
 「あらそうなの、いい夢でも見たの?」
 「違いますから!朝一で僕をタコ殴りにしただけですから!」
 「あらそうなの。よかったわね。」
 「よくねえエエェェ!!」
 新八のハイテンションツッコミを華麗に無視し、妙はいつもの微笑を神楽に向ける。
 そして笑顔のまま、朝食を作ったことを伝えると何故か二人は一瞬にして青ざめ、昨日の夕飯の残り(新八作)がいいと口をそろえた。
 「せっかく作ったのに。まあ残り物ももったいないし、そうしましょうか。」
 少なくとも暗黒物質の餌食とならずにすむらしい。
 新八と神楽は安堵の表情を浮かべた。
 ***
 食卓に新八と妙が向かい合って座り、神楽は妙の横に腰を下ろした。
 「いただきまーす!!」
 元気に手を合わせ、神楽は箸を手に取るとすさまじい勢いで朝食に襲い掛かった。
 あっという間に皿の中の料理が消滅する。ここまでの早業だといっそ超能力の括りに入れてもいいのではないだろうか。
 「クスクス、神楽ちゃん、そんなに急がなくてもご飯は逃げたりしないわよ?」
 「だめアル!はやく食べて万事屋に行って、銀ちゃんを待ってるネ!」
 そう言われてみれば神楽の食べるペースがいつもより早い。
 「朝帰りするような悪い子にはこの神楽様がお仕置きするネ。」
 ニヤリと笑う神楽に、しばしあっけにとられていた新八も意地の悪い笑顔を浮かべる。
 「そうだね、待ち伏せして酔っ払った銀さんを袋叩きにしよう。」
 ———二人はまだ知らない。
 彼らの慕う万事屋の主人が、もう二人のもとに戻ってくることが無いということを。
 そして時代は、無情にも進んで行く。
 無理矢理シリアスにした感が否めない……。
