二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: アヴァロンコード ( No.543 )
- 日時: 2013/03/19 12:55
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
- 時刻は昼。 
 太陽の温かな光に照らされた街は良く活気付いているが、その街にティアとファナはいなかった。
 二人はと言うと、一つのバスケットを二人で仲良く持ち、軽やかな足取りで世界の十字路を南に下り、大鮫の顎と呼ばれる崖岬に進んでいた。
 かねてからの約束—ファナの病が治るずっと前、ファナが預言書の暴走に飲み込まれる前にした約束—を実現しようとピクニックを兼ねてここまでやってきた。
 その約束は、二人でハクギンツバキを見つけると言うこと。
 それはとても美しくて小さな献身的な花なのだ。
 以前精霊四人を引き連れて真夜中に探しに来たティアは、それを見つけることが出来ず、ファナにプレゼントすることが出来なかった。
 その後大会が開かれたり国外逃亡をしたり散った精霊を探しなおしたりといろいろ忙しく、ファナの病が治るまで此花のことを忘れていたのだが、強行して実現できた。
 「今回は見つかるといいですけどね」ウルが空中に漂いながら言うのを、ティアは笑顔で頷く。
 今日はやけに機嫌が良く、何を言われようが浮かれ気味の笑顔は崩れない。
 それはファナと一緒だからでも在り、コレまで病気のせいでこうして外に共に出れなかったからでもあり、ファナお手製のお弁当があるからである。
 二人で持っているバスケットの中にはファナが作ったサンドイッチなどが詰まっており、それが楽しみなのである。
 保守
- Re: アヴァロンコード ( No.544 )
- 日時: 2013/03/19 19:44
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
- 崖道に似つかわしくない笑顔で歩いていたティアとファナは、太陽がてっぺんに来る頃ようやく足を止めた。 
 崖は直立で、そこから顔を出せばすぐ白波の砕け散るのを見ることが出来る。
 潮風は微動だにしない崖と、そこに打ち付ける大きな波との間に挟まれて上昇気流を起こしている。
 きっと帽子をしたまま覗き込めば、その帽子は飛ばされただろう。
 とにかくそんな波が無くとも海の周辺は風が巻き起こっている。
 その理由はウルによると、海面の温度は低く、逆に動きの無く、常に一定の場所を暖められる砂浜など陸地の温度は高い。
 その温度の差が原因なのだと言う。
 「ご存知のように、暖かい空気は上に。冷たい空気は下にたまる性質があります。気球などが浮き上がるのも、バルーンの中に暖かい空気が集まって、上に行こうとしているからなのです」
 ふーん?と首をかしげているほかの精霊。ティアはバルーンなどが解らずほうけている。
 そんなティアにミエリが風船みたいなものだよ、と耳打ちする。
 「冷たい海の空気が暖かい陸地の地熱により、上へ巻き上げられるために風が起こるのです」
 またもふーん・・・とつぶやくしか出来ない。
 きょとんとしているティアをおいて、その話は幕を閉じた。
 「植物はあまりないわね」
 精霊の声が聞こえないファナからすれば、ティアは空中を見てきょとんとしているだけである。
 「そうだね・・・ハクギンツバキは大きな植物に寄り添うように生えてるんだけど、そんな大きな植物もないね」
 崖のふちをなぞるように視線で追うが、人が良く歩くところ以外を少し硬い高原植物が覆っているだけだ。
 今彼女らが座っている固めの黄緑色の芝生以外は、草と言えるものもない。
 「海でも見ながらお昼にしましょうか」
 そう優しげに微笑んだファナは、バスケットのふたに手を差し込み、中からサンドイッチを取り出し始めた。
 紅茶とサンドイッチをそれぞれ両手に持ち、二人は海も眺めずおいしいピクニックを開始した。
- Re: アヴァロンコード ( No.545 )
- 日時: 2013/03/19 20:12
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
- 「そういえばさ」二人がおいしそう人サンドイッチを食べているのを見つめながら、ミエリが他の精霊に言う。 
 ん?と言った感じで精霊たちが振り返ると、ミエリは目を輝かせながら言った。
 「私たちを縛る枷をティアが解いてくれたよね?もう自由に触れたり—」
 言いながらミエリは下降して地上の高原植物を撫でた。
 その植物はミエリに撫でられて、かすかに揺れている。
 「—自分だけのために最大限の力を解き放つことも出来るようになった」
 「それがどうしたんだよ?」
 レンポが首をかしげて聞くと、ミエリは人差し指を立てた。
 「もうひとつ出来るようになったことがあるの。枷から解放されて実体化することが出来たので、食べることが出来るようになったんだよ!」
 心底うれしそうに叫んだミエリに、ウルがすばやく口を挟んだ。
 「我々の生命力はこの世界が何度滅ぼうが消えないわけで、食べ物を食べること自体不要です。食べたところでそのエネルギーは排出されること無く寿命へと続く力になるだけですし、これ以上長生きする必要ないですよ」
 現実的なことを口走ったウルに、ネアキが小声でつぶやく。
 ティアの手の中に在るサンドイッチに黄土色のきれいな目を釘付けにしながら。
 『…でも、アレ、おいしそう』
 ネアキの言葉に、三人の精霊はそろってサンドイッチを見つめた。
 自分の命を引き伸ばす物質としか見ていなかったのに、ネアキの一言でそれがおいしそうな物質に変わった。
 そもそも、食べるという行為をしたのは最初の自分達の手で壊した世界以来であり、久しぶりに何かを食べるのもいいだろうという気がしてくる。
 「まぁ、永遠に生きる身として、寿命が延びたところで害はないだろ。久しぶりに何かかじるのも悪くないんじゃないか?」
 レンポがミエリに賛成して、ウルもミエリに説き伏せられ、結局全員何か食べてみることにした。
- Re: アヴァロンコード ( No.546 )
- 日時: 2013/03/21 19:25
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
- 1 3 5 0 0ありがとうございます!! 
 三月中に終わらない予感でいっぱいですw
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 バスケットを覗き込むと、そこにはサンドイッチの列が在る。
 小さな身体のままで覗き込んでいるので、自分の身体より少し小さいくらいのサンドイッチに少し威圧感が在る。
 四人は顔を見合わせると、頷きあった。
 舞い降りて、まずミエリがサンドイッチの1つを持ち上げた。
 白いサンドイッチはふわふわしており、強く掴むと手形にくぼむ。
 苦労して抱え込むと、そのまま四つの羽根を駆使して飛び上がろうとするが、予想以上に重い。
 ビックリして思わず悲鳴を上げた。
 「コレ重い!」
 そのままもたついていると、挟まれていたレタスとハム、スライストマトなどがはみ出てくる。
 「曲がりなりにも大精霊がこんな物もてなくてどうすんだよ」
 レンポが参戦し、空中からサンドイッチに手を伸ばす。
 そして思いっきりサンドイッチを力任せに引っ張ると、掴んでいた部分がちぎれて後方へ吹っ飛ぶ。
 「何だコレ、脆いなぁ」吹っ飛んだサンドイッチを目で追いながらつぶやくレンポにネアキが嘲笑しながらミエリの傍に降り立った。
 そしてしげしげと具がはみ出し、千切れて少しずたずたのサンドイッチを眺め、さらりと毒ずく。
 『…レンポに任せるとサンドイッチがぼろぼろになる』
 「なんだと?」
 喧嘩モード突入の二人をなだめつつミエリが困ったように腕を組んだ。
 目の前の半ばずさんな姿のサンドイッチをどう崩さずにうまく運ぶか、考えているのだ。
 と、ネアキがサンドイッチの表面を撫でてつぶやく。
 『やわらかい・・・』
 腕組みしたままネアキとレンポに挟まれて頷くミエリはだから困るのよね、とつぶやく。
 ウルはというと、そんな三人のやり取りを楽しげに地面に寝転がるようにしてみている。
 なんだかんだで一番楽しんでいる。
 と、サンドイッチを撫でる手を止めたネアキがつぶやく。
 『凍らせたらどう…?』
 天然要素が入っているミエリでさえあっけに取られ、ネアキを見つめるも、黄土色の瞳は名案と訴えてくる。
 「何言ってんだ、だったら焦がして硬くしたほうがいいじゃないか」
 今度は逆方向からレンポが言う。
 一見名案そうだが、力の調節を間違えば黒焦げもいいところだ。
 しかもしゃきしゃきする野菜の水気が奪われ、折角おいしそうなものを残飯にするのはもったいない。
 「まぁ、とにかく三人で持ち上げてみようよ!」
 考えている間も脇の二人が言い合いをしているのでミエリは二人にサンドイッチの端を持つように促した。
- Re: アヴァロンコード ( No.547 )
- 日時: 2013/03/21 22:05
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
- レンポ、ミエリ、ネアキがサンドイッチを掴むと、サンドイッチは三方位工から引っ張られて少し突っ張った形になる。 
 「せーのっ」
 掛け声と共に一気に空中に舞い上がると、妙なバランス感だがサンドイッチは見事に空中に浮いた。
 「えっ?」
 すると、ファナの驚いた声がする。
 もちろん精霊の姿を見ることが出来ないファナには、サンドイッチはひとりでに空中に浮いたことになる。
 「どういうこと・・・なの?」
 不思議そうにファナがつぶやき、サンドイッチに手を伸ばそうとする。
 どうして浮いているのか不思議な人が取る、ごく普通の反応である。
 その指が近づいてくると、精霊たちは慌てて避ける。
 今触れられれば折角持ち上げたサンドイッチは地面の上に落ちてしまう。
 「あぁ、精霊たちがもっているんだよ」
 ファナの声に気づいてティアが振り向きながら言う。
 今までおいしい紅茶を飲みながら景色を眺めていたので、精霊の行動に気づくことは無かった。
 それはファナも同じだが、彼女は精霊?と小首をかしげた。
 なぜだか触れてはいけないような気がして、手を引っ込める。
 「この本は預言書って言って、価値のあるものを取り込む本なの。それを守る役目の精霊たちが、ファナの作ってくれたサンドイッチを持ってるんだよ」
 ふぅん?と首をかしげたファナは、興味深々でサンドイッチがその後どうなるかを見守った。
 「これを、どこに、もっていくんだよ?」
 空中に浮遊しながら大いに持ちにくいサンドイッチを手に、精霊たちは苦労していた。
 少しバランスを失えば、柔らかなパンの隙間から具材が零れ落ちていってしまう。
 『とりあえず、ウルのところ』
 ネアキがつぶやくと、ミエリは首をめぐらせてウルを探した。
 その行動がいけなかったようで、バランスを失って傾いたサンドイッチは精霊たちの手から滑り落ちた。
 空中をスローモーションで落ちていくサンドイッチ。
 呆然と見ている三人の精霊の目の前でサンドイッチは突如キャッチされた。
 「!」
 サンドイッチをキャッチした黒い皮手袋をした大きな手の持ち主は、元の大きさに戻ったウル。
 等身大に戻ればサンドイッチは軽々と持ち上げられる。
 ウルは手のひらに乗ったサンドイッチを小さくちぎると、一人ひとり、小さな姿のままの精霊に手渡した。
 そして皿の上に小さくしたサンドイッチをおくと、自らも小さな姿に戻り、サンドイッチを食べることにした。
- Re: アヴァロンコード ( No.548 )
- 日時: 2013/03/21 23:02
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
- 数えることすら不可能な世界の数を越えて、今久しぶりに食べ物を食べる。 
 精霊たちはためらうそぶりも見せず、少しずつ自分の頭より大きなサンドイッチの欠片にかぶりついた。
 本当に久しぶりに食べたのに、味覚はまだ衰えてはいなかった。
 『おいしい』ネアキが感激したように目を輝かせた。
 「こんなうまい物、何世界分食べ損ねたんだろうな?」
 「もう・・・覚えていませんね。最初の内は数えていましたが、もう数えるのはやめました」
 ウルの言葉に、ミエリは首を傾げつつ言う。
 「空の星よりも多いってのは確かね。いいなー、ティアは毎日いろんなものが食べれて」
 精霊たちがファナの手作りサンドイッチを堪能している間、精霊について説明を受けていたファナは、ふわふわ浮かぶサンドイッチを見て少し笑みをこぼした。
 「ファナのサンドイッチおいしいって、四人とも言ってるよ」
 「そう?・・・ありがとう」
 精霊の声は聞こえないが、こちらの声は聞こえていると聞いたので、ファナはサンドイッチの塊に声をかけた。
 もちろん返事は聞こえないが、ティアによれば喜んでいるらしい。
 サンドイッチの欠片がすべて食べられ、もう精霊がどこにいるか分からなくなったファナは、そろそろ行きましょうかと立ち上がる。
 「片付けて、ハクギンツバキを探しましょう」
 言うと、ふいにバスケットのふたが開き、皿やらティーポットたちがひとりでに浮き上がり、収納されていく。
 一分ほどですべてきちんと片付け終わると、バスケットがふわりと舞い上がり、ファナの前でピタリと停止した。
 「まぁ、片付けてくれたのね?ありがとう、精霊さんたち!」
 ティアに言われなくとも精霊の行動だとわかったファナは笑顔でお礼を言った。
- Re: アヴァロンコード ( No.549 )
- 日時: 2013/03/22 18:58
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
- 1 3 6 0 0 ありがとうございます! 
 あと400で14000ですね!!
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 「乾いた風が吹いてくる・・・」
 ファナとティアのあたりに漂っていたミエリが風を感じてつぶやいた。
 昼食を終えて満足げに歩いているここは、大鮫の顎の下り坂。
 岩肌がインディアンの住む地区のように赤い色を帯びてきたので、そろそろ引き返さないといけない。
 「この先には、砂漠地帯のサミアドがありますからね。うっかり迷い込むと、今日中に帰れなくなります」
 そういわれても、まだハクギンツバキは見つかっていない。
 それどころか、植物は乾燥が進んでいくにつれて高原植物も消えていった。
 「高原植物ですから・・・バルガッツォ渓谷に行ってみてはどうでしょう?」
 『あっちの方が…確かに植物はあったわ』
 精霊たちの言葉に頷き、ティアはファナにバルガッツォ渓谷に行くことを提案した。
 赤い石に寄りかかっていたファナは空を見上げると、まだ明るいので頷いた。
 「それじゃあ、さっそく行こうか」
