二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- ヴィンテルドロップ
- 日時: 2012/08/04 20:31
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
- さあおいで。 
 昔話をしてあげる。
 だれも知らないお話だよ。
 それは冬の終わりのお話だよ。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「お母さんお話して!」
 というと、ほとんどの親はこのお話しをする。
 ヴィンテル王国の一番有名なお話にして、実話とされている不思議な話。
 このヴィンテル王国を建国した女王様のお話である。
 『冬の厳しい気候を持つヴィンテル王国。
 建国したときからどの季節もふゆでした。
 なので、冬と言う名をイリジウム女王はつけました。
 そんなある日、イリジウム女王が谷を歩いていると、
 真上で太陽と月が喧嘩した。
 それまでは月と太陽は一つで、交互に夜と昼とを照らしていました。
 けれど、このときからばらばらになりました。
 そのとき、しずくが一つイリギウム女王めがけて落ちてきました。
 うけとると、それは太陽と月の涙でした。
 片面は静かに燃える月の、もう片面は激しく燃える太陽の涙。
 女王がそれをなでると、たちまち虹色の宝石となり王国の雪は解けて
 冬は消え去りました。
 そして3つの季節が出来上がったのです。』
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- Re: ヴィンテルドロップ ( No.25 )
- 日時: 2012/08/20 14:46
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
- 「今日はジャックル兄さんと一緒じゃないんだね」 
 ブランドが、少し砕けた言い方をする。
 けれど、その内心はバレバレだ。
 ルクリスは心の中で嘲笑した。
 (まだまだだな。親しい言葉で言えば、俺が話をすると思ってるんだな?)
 「ジャックル兄さんは、またフェンシングでもしてるんだろう」
 ブランドの目が、一瞬疑いの光を放った。
 「…」
 けれどルクリスは涼しい顔で見返す。
 こういうとき、こうするのがいちばんなのだ。
 どうした?などと不用意に声をかければ、自分が不利になるのはわかりきったことだ。
 「そう、だね」
 ブランドがやっと視線をずらした。
 「ま、いいや。兄さんとこうして昼間から一緒なのって、凄く久しぶりだなあ」
 ちょろいもんだ。
 アメリアが手紙を投函してから数日たった。
 その手紙は王都を出て、さらに春のない辺境の地をも越え、山脈の奥へ届けられた。
 そこは春も、秋もない極寒の地。
 草木はすべて雪にうずもれ、針葉樹しかない。
 皆同じ風景の、さまよいのエリア。
 動物も住まない土地なので、オオカミもいない。
 そんな地に住んでいる集団があった。
 きびしい吹雪の中、レンガの館がある。
 三階建てで、横にも縦にも広い。
 さびれた教会をのっとって、彼らはそこを本拠地にしたのだ。
 「おい、今から一時間、郵便の時間だぜ」
 男の声が広いホール内に響く。
 もともとは、教会で朝のミサをする礼拝堂だったこの場所は、いまやすっかり変わっている。
 祭壇は巨大なマントルピース(暖炉)に変わり、人々が祈った椅子や細かなテーブルは、大きな一つのテーブルへと作り変えられていた。
 頭上にはきらびやかなシャンデリア。
 蜀台は当時のままで、ごちゃごちゃした長テーブルに無造作においてある。
 「投函したいヤツはいねぇか?」
 言うのは真っ赤な服に身を包む男。
 雪の中、一番目立つのは赤だ。
 黒の服が一番だと言うやつがいるが、黒の服はその対象である白を際立たせてしまうため、赤が一番良いのだ。
 なのでこの集団は皆、赤い衣を身にまとっている。
 男は無精ひげについたパンの食べかすを落とした。
 これでも綺麗好きなのだ。
 「おい、コレで全部だぜ」
 中二階の屋内ベランダから、数枚の手紙がばらばらとふってくる。
 それを慣れた手つきで受け止めると、同じく真っ赤な皮袋につめてぎゅっとひもで締めつけた。
 そして教会の分厚い戸口のそばで待機するオオカミを呼び寄せた。
 オオカミはタイリクオオカミと言う種で、寒さにも耐えられる分厚い毛皮を持っている。
 このオオカミは、赤い衣の集団が子オオカミのときから育てたもので、郵便係としてかわれている。
 「バイロン、これも頼むよ」
 無精ひげの男に、仲間が歩み寄ってくる。
 バイロンと呼ばれた無精ひげの男は、頷いて赤い袋にその手紙も一緒に入れた。
 そしてオオカミの耳をなでてやりながら、腹部と胸部についているハーネスに赤い袋を取り付けた。
 「行け!」
 そうバイロンが言うと、オオカミは今から一時間、寒さと吹雪が止んでいる間に配達をするのだ。
 勢いよく、雪の中を強靭な足で駆け出した。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.26 )
- 日時: 2012/08/20 15:09
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
- 「ん?」 
 バイロンが教会内に引っ込んだすぐ後に、かりかりと戸を引っかくつめ音が聞こえた。
 「レビン、みてこいよ」
 この赤い集団で比較的年齢が若い彼は、こき使われるのになれていた。
 長テーブルから足を下ろし、ぼさぼさの茶髪をかきあげながら戸口へ向かった。
 あければ、やはりオオカミだった。
 灰色がかったオオカミで、配達係2だ。
 オオカミはレビンに赤い配達袋を取ってもらうと、手数料をねだった。
 レビンとたいして変わらない170センチという体長のオオカミは、レビンから鶏の丸焼きをもらうと、うれしそうに雪の中消えていった。
 この雪の極寒では、獲物がいないため、赤い集団が餌をやることになっている。
 「バイロンさん。依頼書らしいぜ」
 レビンがその手紙を持って歩み寄ると、教会のホールにいた連中は皆、レビンに駆け寄った。
 あて先を見ていた彼は、いっせいに駆け寄る足音にびくっと身をすくめた。
 「ヴィンテル王国からだって」
 リーダー的な存在のバイロンに、手渡される手紙。
 レビンは押しのけられて、渦の外に追いやられていた。
 けれど、バイロンは気を聞かして、声を上げて読み上げる。
 「拝啓、赤の盗賊団さま」
 『拝啓 赤の盗賊団様
 わたしはヴィンテル王国のものです。
 依頼したいことは、二つあります。
 一つは盗み、もう一つは暗殺です。
 我がヴィンテル王国の宝、惑星の涙を盗んでほしいのです。
 それは虹のようにひかり、美しい涙の形の宝石だと言われています
 王家に伝わる由緒ただしき宝だ。
 暗殺の手配は、あんたがたが無事宝石を盗んだら、連絡する』
 封筒の中には、前金としてけっこうな額が入っていた。
 しかし、赤の盗賊団たちは顔を見合わせて黙っていた。
 みな、同じことを考えているのだ。
 「あのよう」
 ひとりの、頭にバンダナを巻いた盗賊が声を上げた。
 「この依頼主、宝石を盗めって言う事しかいってねぇよなあ」
 うんうんと盗賊団全員が頷く。
 「盗んだ宝石は依頼料のうちに入るって事だよな?」
 ワンテンポあいて、うおおーと歓声が上がった。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.27 )
- 日時: 2012/08/20 15:57
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
- ヴィンテル王国からの依頼の手紙により、寂れた教会内の礼拝堂ホールは、パーティーのような盛り上がりだった。 
 屋内ベランダの中二階からその様子を見ていたレビンは、先ほどの、惑星の涙のことが気になって仕方なかった。
 虹のようにひかり、涙のようにカットされた宝石。
 どこかで聞いたことがあるような気がする。
 そう思って、赤の盗賊団の報告書のある本棚へ向かっていたのだ。
 この盗賊団は、一依頼ごとにきちんと報告書を作っている。
 若手の盗賊は、この報告書を見て学ぶのだ。
 レビンも何度もかよったものだった。
 目当ての棚を見つけると、迷わず引き出しを開ける。
 薄暗い部屋なので、教会の蜀台を持ってきていた。
 狭い部屋なので、一つに火をともせば十分だった。
 茶けた紙に、目当ての文を見つけるとレビンはそれを引き抜いて窓枠に寄りかかった。
 「かなり古いなぁ」
 それは手記のようなもので、報告書のような形式ではなかった。
 『砂漠の地方、王家発掘現場から原石を盗み出した。
 灰色の薄汚い原石だが、砂漠の民は涙と呼んであのダイヤモンドより尊んでやがった』
 「涙と呼んで…」
 シンクロした部分に、心拍数が上がる。
 レビンは先を読んだ。
 『ダイヤモンドや金よりえらい宝石なら、加工するのが今から楽しみだ。
 どんな光を放つのか今から楽しみで仕方ない。
 砂漠の民が言うには、これまでで最大級の原石だって言う。
 きっと値段が付かないくらいすばらしいものに違いない』
 (こんなすごい原石、手放すはずはないもんな…読みが外れた)
 レビンはこの原石と惑星の涙が同じだと思っていた。
 けれどどうやら違う代物らしい。
 そう感じた後、軽い気持ちと義務感で斜め読みしていった。
 しばらくは加工についての文が続いた。
 だが、彼の目が留まった。
 心臓が再びつよくはねる。
 『俺たちが苦労して手に入れた原石が盗まれた』
 (まさか…?)
 心臓が跳ねているような鼓動を繰り返す。
 あせが出てきた。
 『蒼い帽子をかぶった野郎だった。
 加工の手際が悪いだの、俺が提案したカットの図面を見てセンスが悪いだの散々文句言いやがって。
 目の前で宝石を盗んでいきやがった。
 むかつく野郎だ、見つけたらタダじゃおかねえ。
 たしか、冬とか名乗っていきやがった。
 俺たちをなめるとどういう目にあうかわからせてやるぜ。』
 そこで手記は終わっていた。
 続きを探したが、ない。
 薄暗い部屋で、レビンは自分があっているのかわからなかった。
 ただ、真剣に読み続けていたため、火が消えているのもわからなかった。
 涙、冬、手記。
 原石と、惑星の涙は同じもの?
 ヴィンテル王国、惑星の涙、依頼の手紙。
 一応、リーダーに話すことにした。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.28 )
- 日時: 2012/08/20 16:42
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
- 盗賊団に手紙を送ったことを知らせようと思ったその日すぐだった。 
 ルクリスを部屋に呼びつけたのだが、なかなかこない。
 いつも遅れてくるのだが、今日はやけに遅い。
 いらいらして、アメリアに八つ当たりをはじめた。
 アメリアはいつものようにベットに座って、爪をかんでいる。
 アメリアもイラついているのだ。
 「本当に呼びつけたんだろうな?」
 「ええ。なにしてんのかしら!」
 すると、部屋の戸が開いた。
 ノックもなしに開いたドアをにらみつける。
 するとメガネをかけた弟、ルクリスが到来した。
 慌てて走った様子はない、ただ息も切らせずにのうのうとやってきた様だった。
 「悪いね、兄さん。用があってね。おくれたよ」
 さらりと言う弟に、もう一度首を絞めてやろうかとジャックルは考えた。
 しかし、思い直して座れと促した。
 「今日、手紙を出してきた。アメリアがな」
 アメリアに視線を送ると、誇らしげに胸をそらした。
 「内容は覚えてる?」
 言われて、内容の写しを見せると、ルクリスは顔をしかめた。
 そして開口一番、こうつげた。
 「まずいよ兄さん」
 ジャックルとアメリアは不安げに顔を見合わせた。
 どこが悪かったんだろう?
 あれほど書き直したし、見直しもしたのに。
 「いつ決行すればいいとか、盗んだ宝石をどうしろとか、かいてないじゃないか。これじゃ宝石は依頼料扱いになってしまうよ。すぐに新しい手紙を書いて、送るんだ!手遅れになってしまうよ!」
 ルクリスの切羽詰った意見に、兄であるジャックルは必死で筆を走らせた。
 そしてアメリアに投函させたものの、不安はぬぐえなかった。
 赤の盗賊団の本部はかなり遠くにある。
 話によれば、ヴィンテル王国の辺境、山脈奥の極寒の地にあるという。
 宛名はヴィンテル王国のもの、と言うだけなのでそれを理由に訂正がきかないかもしれない。
 ジャックルははじめて自分の失態を認め、くやんだ。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.29 )
- 日時: 2012/08/22 00:30
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
- そのころ、赤の盗賊団達は昔話に花を咲かせているところだった。 
 したっぱのレビンが古い報告書を持ち出して長であるバイロンの元にやってきたのがきっかけだった。
 バイロンは50幾重か過ぎた年代だったが、それでもその話は口伝えで知ったものらしい。
 言うには、もう何世紀前の話かもわからない、そんな昔話だった。
 「200くらい前か?」
 誰かが言うと、バイロンはふむ、と考えるそぶりをした。
 本当は話を聞いた当初から正確な西暦を伝えられていないのだが、かなり古い話だったと聞いている。
 「3、400年前くらいだったと思うぞ」
 レビンはそんなわけない、と直感したがあたりのやからはおお〜っと声を上げた。
 そういう歴史は王家など高貴な身分だけの特権のような気がしたから、自分達もそのような機会に恵まれて感心したのだ。
 400年、いや500年の歴史と、自分が関係するなんてスゲエ!!
 そう思っているのだ。
 「本当ですか?そんなに古いなら、この報告書がもちますかねえ」
 レビンが言うが、誰も相手にしない。
 「寒さで本喰い虫も凍えてんだろ!」
 野次が飛んだ。
 「てめえには浪漫てもんがわかってねえな!」
 レビンが冷や汗を流す頃、ようやくバイロンが話し出した。
 皆水を打ったように静まり返る。
 このときだけは、教会の本当の姿である礼拝堂のそれに似ていたが、集まる者たちの真紅の服で異質なものだとわかる。
 静かな教会内、蜀台に灯された炎が蝋を溶かす音が聞こえそうなくらいだった。
 「オレがこの話を聞かされたのは—20くらいのときだ」
 バイロンの声は静かな空気をより凍らせる響きがあった。
 「知っている通り、この赤の盗賊団は長い歴史を持ってる。オレにも、はっきりとした年月はわからない」
 ベットタイムストーリーを聞くような子供のように、みなバイロンに釘付けだった。
 「何百年か前のオレ達の仲間は、砂漠の地に行った。ここから南西へずっと遠くにだ」
 極寒の局地、極北の地ヴィンテルに住む彼らは、砂漠をしらない。
 どこへ行っても雪ばかり。
 奴隷の身分であれば、一生世界は雪だけで出来ていると考えただろう。
 盗賊団は世界中から盗みを行うが、砂漠などの極西にいくことはめったにない。
 「砂漠というのは、この雪のように一面に広がっていて色はハシバミ色だ。そしてそれは冷たくはなく、溶かして飲むことはできない」
 ざわめきが広がる。
 そんなもの、あるのかよ、という驚きだ。
 「砂漠は極北とは正反対だ。こちらでは暖かさを求め凍え死ぬが極西では冷たさを求める。そして干からびるのだ」
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